著者
中堀 豊
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

最近,ヒトのY染色体の解析が進むにつれY染色体上にも様々な遺伝子が存在することが分かってきた。特に,生殖細胞の分化,男性機能に関する遺伝子に注目が集まっている。我々は,ヒトY染色体の構造を研究してきたものであるが,Y染色体の構造異常と症状の検討から,無精子症遺伝子を長腕真性クロマチン部のもっとも遠位端に,また成長を規定する遺伝子を長腕の近位部にマップした。これらの遺伝子をクローン化し,その働きを知ることが本研究の目的である。Y染色体上には精子形成に関与するいくつかの遺伝子があると考えられている。外国の研究者がYRRM遺伝子,SMCY遺伝子,DAZ(deletion in azoospermia)遺伝子などを精子形成に関与している候補として発表した。現在までのところ我々の研究でも,他の研究室でもこれら候補遺伝子の点突然変異による無精子症は認められていない。したがって、これらとは別のより重要な遺伝子が存在すると考えている。Y染色体長腕欠失の父子例(父親が妊性があるのに息子は無精子)に注目し,欠失近位側の切断点を含む領域のYACからコスミドコンティーグを作成し、父子間の欠失の差を見つけだすことを目指した。しかし,この過程で我々が解析している長腕の領域には,短腕に相同な部分があり通常の解析では区別できない場合があることが分かった。今まで単一コピーのDNAとして解析していたものが、実は複数ある前提で解析を進めることにし,切断点を含むと考えられるYACyOX21から図のようなコスミドコンティグを作る一方,コンティグに含まれるコスミドの局在のチェックのためにFiber FISH法の導入を試みた。その結果,コスミドの全てが短腕に相同領域をもつこと,また長腕の比較的狭い範囲に同様の配列が4コピー以上あることが分かった。
著者
酒井 麻衣
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

伊豆諸島御蔵島のミナミハンドウイルカは、胸ビレで相手をこする社会行動(ラビング)を、左ヒレで行う傾向がある。この現象が、イルカに共通して現れる行動形式なのか、後天的に獲得された行動が伝播した個体群特有の行動形式(文化)であるのかを明らかにする。そのために、ラビングの左右性の発達・個体群間比較・種間比較を行う。本年度は、御蔵島に約40日間滞在しミナミハンドウイルカの水中行動のビデオデータを収集した。また、能登島に定住する本種8個体に対し予備調査を行い、水中観察可能であることを確認した。篠原正典氏より本種の小笠原個体群の水中ビデオデータを借用し、ラビングの左右性を解析中である。鳥羽水族館のイロワケイルカ4個体(オトナオス1、ワカオス1、オトナメス2)を対象に、ラビングのビデオ撮影及び目視観察を行った。その結果、オトナオスは154例のうち97%、ワカオスは74例中81%で左ヒレを使用することがわかった。オトナメスは12例中42%、11例中82%で左ヒレを使用した。今後、メスのデータを増やす予定である。Kathleen Dudzinski氏より、野外の生簀に蓄養されているハンドウイルカ27個体の水中ビデオデータを借用し、ラビングの左右性を分析した。その結果、左ヒレを使用した例は735例中54%で大きな偏りはなかった。23個体の使用ヒレの偏りを検定したところ、1個体のみ有意に左ヒレを多く使用していたが、有意に右ヒレを多く使用する個体はいなかった。Kathleen Dudzinski氏より、バハマの野生マダライルカの水中ビデオデータを借用し、ラビングの左右性を分析した。その結果、左ヒレを使用した例は499例中53%で大きな偏りはなかった。18個体において使用ヒレの偏りを検定したところ、2個体のみ有意に左ヒレを多く使用していたが、有意に右ヒレを多く使用する個体はいなかった。今年度の解析で、使用ヒレの左右性は、種によって違いがあることが示唆された。
著者
小野 亮
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は、マウスの皮下に作成した癌腫瘍にプラズマを照射したときに、どのような経路でマウスの癌に対する免疫が活性化しているかを調べるため、プラズマ照射した癌腫瘍の病理解析を行った。マウスの皮下に皮膚癌メラノーマB16F10細胞を注射して腫瘍を作成し、そこにナノ秒パルスストリーマ放電を照射した。その後に腫瘍を切除し、細胞染色とフローサイトメトリーを用いて解析を行った。その結果、プラズマを照射した腫瘍には、免疫の活性化を表すキラーT細胞の発現を示すCD8と呼ばれる細胞表面マーカーが多く観測された。これは、プラズマ照射によって免疫が活性化したことを表す一つの証拠となる。フローサイトメトリーを用いた病理解析は今年度開始したばかりであるが、この手法を導入したことで、プラズマ照射による抗腫瘍効果のメカニズムを解明するための手段を獲得することができた。本年度は、メラノーマ以外の種類の癌に対するプラズマの効果の有無を調べる実験も開始した。具体的には、マウスの大腸癌細胞CT26をマウスに皮下注射して、先のメラノーマと同様にナノ秒ストリーマ放電を照射する実験を行った。本年度は、CT26の腫瘍の成長度合いやプラズマ照射後の影響をおおまかに見る予備実験を行ったため、来年度から本格的な実験を開始する予定である。動物実験以外に細胞実験も行った。プラズマのどの活性種が細胞に影響するかを調べるため、我々が開発した真空紫外光法とよばれる手法で所望の活性種を生成し、これを培養した癌細胞に照射した。その結果、H2O2の培養細胞に対する効果を定量的に測定することができた。プラズマの活性種をレーザー計測する実験も行った。プラズマ医療に用いられるストリーマ放電とヘリウムプラズマジェットに対して、プラズマ医療で重要と考えられているOHラジカルの密度をレーザー誘起蛍光法で測定した。
著者
星野 太
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

昨年度に引き続き、今年度も近代における「崇高」概念を広く検討し、まずはエドマンド・バークに関する研究の成果を論文として公表した。従来の先行研究には欠けていた偽ロンギノスとバークの崇高論のつながりを指摘した同論文は、美学会の欧文誌である国際版『美学(Aesthetics)』に掲載された。また、近代における偽ロンギノスの再評価を踏まえつつ、『崇高論』というテクストの構造を論じた口頭発表を1度(英語)、20世紀後半のフランスにおけるリオタールの「崇高」を主題とする口頭発表を1度(英語)行なった。以上の国際会議における発表および国外の研究者との議論を通じて、本研究は当初の研究計画に即して大きく進展したと言える。さらに特筆すべき成果としては、フランスのパリ国際哲学コレージュにおいて、近代の崇高概念をめぐる発表を行なったことが挙げられる(仏語)。コレージュのプログラムの一環として行われた同発表では、18世紀から20世紀にかけての崇高論の展開を「理性」と「非理1生」という近代の主要な問題系のもとに位置づけることができた。これは、近代における崇高論の展開を「モダニティ」という錯綜した概念との連関のもとに論じることを目的とした本研究において、大きな成果であったと言える。以上の成果とともに、今年度はフランスの哲学者ジャン=リュック・ナンシーをめぐるワークショップでの発表(日本語)、書籍『人文学と制度』への執筆および翻訳、さらに同書をめぐるワークショップでの発表(日本語)を行なった。以上の成果は、先に挙げた本研究課題の主要実績とも緊密に連動し、今後のさらなる研究へと発展していくことが予想される。
著者
二木 宏明 松沢 哲郎 久保田 競 岡部 洋一 岩田 誠 安西 祐一郎
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

本研究では人間における言語機能の神経心理学研究とチンパンジ-における数の概念の研究を足がかりとして、思考や言語の基礎をニュ-ロンレベルで解明する手掛かりをつかむべく、サルの前頭前野のニュ-ロンにおける高次の情報処理の特徴を調べる。一方、思考と言語の脳内メカニズムのモデル化の研究においては、脳のような並列階層的システムが論理的推論をどのような形で行っているかという脳内表現の計算機構を説明できるモデルを提案することを目的としている。岩田は、H_2 ^<15>O PETを用いて漢字、仮名黙読時の脳血流を測定した。仮名単語の読字は漢字単語の読字より広汎に局所脳血流を増加させ、両側の角回も賦活されていることが明らかになった。松沢はチンパンジ-の数の概念の研究をおこなった。アラビア数字1から9までの命名を形成し、反応時間の分析をしたところ、ヒトと同様の二重の計数過程が示唆された。久保田は、アカゲザルで学習が進行するのに伴って、手掛かり刺激の色の違いに特異的に応答するニュ-ロンの数が増えることを明らかにした。二木は、ヒトのカ-ド分類と類似の課題を遂行中のサルの前頭前野のニュ-ロン活動を記録し、注目すべき次元の違いに依存して、ニュ-ロン活動の応答が異なることを明らかにした。岡部は、概念がどの様に運動ニュ-ロンにパタ-ン化されていくかについて2関節の指の運動のシミュレ-ションを行った。その結果、極めて自然な関節運動の得られることを確認した。以上のごとく、初年度にもかかわらず着実に成果がありつつある。
著者
岡部 洋一 円福 敬二 吉田 啓二 高田 進 藤巻 朗 田中 三郎 松田 瑞史 藤井 龍彦
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

1.超伝導回路岡部は、BSFQ回路方式に基づくAND、OR、XOR、NOTの各論理ゲートの動作マージンを±30%にまで拡大することに成功した。また、超伝導体と半導体のハイブリッドコンピュータ実現を見据え、インターフェイスデバイスを試作した。高田は、ユニバーサルNANDゲートおよびNORゲートの設計を行い、シミュレーションにより高速動作と低消費電力性を確認した。藤巻は、界面改質型高温超伝導体ジョセフソン接合の試作を行い、臨界電流値のばらつきはピンホールに起因するという結論を得た。2.SQUID応用円福は、高温超伝導SQUIDにより磁気微粒子からの微弱磁界が高精度に測定できることを利用して免疫反応検出システムを開発し、従来の機器よりも10倍〜100倍の感度で検出が可能であることを示した。田中は、高温超伝導SQUID顕微鏡の試作を行い、室温の磁束ガイド針を用いた場合でも100μmよりも高い分解能が得られることを示した。松田は、高温超伝導SQUIDグラジオメータを作製し、フラックスダム構造を用いることにより環境磁場雑音影響を大幅に軽減できることを示した。藤井は、生体磁場測定のための医療用磁気センサにおいて、環境磁場測定用SQUIDを付加することにより磁気シールドを用いずに微小磁場を測定することに成功した。3.高周波応用吉田は、高温超伝導薄膜上でアンテナとフィルタを一体化することにより、特性の向上が図れることをシミュレーションで示した。
著者
岡部 洋一 柴田 克成 北川 学
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

本研究では、ネットワークの振動現象における振動振幅および周波数情報の、モデレ-ショニズムによる学習、および、時間スケールとして、より微視的なパルス時系列の時間相関情報の学習について研究を行っている。モデレ-ショニズムとは、生体は適当なレベルの入出力信号を好みそのレベルに近い入出力信号を築くように学習するとしたフィードバック学習の一種であるが、さらに環境の変動を積極的に利用する方向に改良した、振幅に対するモデレ-ショニズムを提案した。この信号振幅モデレ-ショニズムを用いて、自己結合などのフィードバック結合を有するニューロンを含むネットワークに関してフィードバック結合の効果を検討し、さらに自励発振しうる回路に外界から信号が注入された場合の挙動について、シミュレーション解析を行った。結果として、自励発振が可能なネットワーク構成を示し、そのネットワークに対して外界からの信号を注入した場合、微小入力時にはネットワーク自身の自励周波数で発振し、信号強度を増加するにしたがって、外部周波数に引き込まれることを示した。さらに外部周波数に引き込まれたネットワークは、外部入力を遮断した後にも、外部入力周波数で発振することを示した。より短期の時間スケールにおけるパルス時系列に対する、時間相関学習について提案を行った。ニューラルネットワークにおいてパルス列伝送を考えた場合、複数のパルス列の自己あるいは相互相関関数によって、情報を表現することが可能である。これらのパルス列の時間相関に表現された情報をネットワークに記憶させるために、最急降下学習およびトポロジカル・マッピング学習を行った。結果として、2系列に対する相関について最急降下学習によって、さらに3系列以上の相関についてトポロジカル・マッピングによって学習が可能であることを示した。
著者
岡部 洋一 中山 明芳 北川 学
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

酸化物高温超伝導体は、従来の超伝導体と比較し使用温度が高く、また,ギャップエネルギーが10倍程度高いため、それに比例した高速性が期待されている。また、バンドギャップが大きいため、半導体との整合性にも期待がかけられている。本研究はこうした高温超伝導体エレクトロニクス応用の基本技術となるトンネル形ジョセフソン素子を集積回路技術により作成することを目的としている。電子デバイスのような、微細あるいは薄い構造を取り扱うには、薄膜の平坦性、および作成温度の低温化が達成される必要がある。このため、この両方を改善するためにacおよびrfスパッタ法を改良した。具体的には導入酸素の紫外線による活性化、試料とターゲットの位置関係の最適化、および各電極にバイアスをかけることである。この結果、最高プロセス温度500度程度で薄膜を作成できるようになった。また、下部電極となるYBCOのみならず、上部電極のYBCOについても十分な特性の薄膜を作成できるようになった。トンネル型ジョセフソン素子を完成するためには、数nmのごく薄い均質な絶縁膜を作成することが必要である。このため、MgOを中心としていくつかの材料を検討した。まず、我々の従来の研究成果であるYBCO/Au/絶縁体/Nbの構造のものを検討し、下部電極をBSCCOとしても、ジョセフソン特性が観測できることを、直流特性、高周波特性、磁界依存性の三つの方法で確認した。その後、上下とも高温超導体であるジョセフソン素子の検討を開始した。その結果、高温超伝導体上に絶縁体を付けると、多くの場合、島状構造をとり、均質な膜がえにくいことが判明した。この他にも多くの素子構造を検討している。現在のところ、進行状況は、当初予定よりもかなり早いが、一方で研究をもっと原理的な方向に展開する必要があることも感じつつある。
著者
岡部 洋一 北川 学
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

生物が行っている動的で解析が困難な運動を、学習によってロボットに獲得させることを目的として1)鉄棒の大車輪運動、2)1脚によるホッピング運動、3)2足歩行運動、4)多関節で蛇行運動を行うロボットを作製して、学習制御の研究を行った。1)では二重振子の構造にし、振子間の関節に取り付けたDCモータがトルクを与え、振子の各関節に角度センサを取付けた構造のロボットで角度センサの情報を基にし、DCモータに与えるトルクを変化させる簡単なルールベースを構築し、大車輪運動の制御を試みた結果連続的な大車輪運動を実現出来た。2)の1脚ホッピングロボットは、上下、前後の方向に自由度が与えられた系で、本体に取付けられた脚が前後に振れる事によって移動する構造にした。脚の付根にDCモータを取り付け、これが脚を振る動力となる。センサによって脚の振れ角、高さ、移動距離の情報が得られるようにし、1)と同様に、センサによって得られる情報を基にして、DCモータに与えるトルクを変化させる簡単なルールベースを構築し、ホッピング運動の制御を試みた結果安定したホッピング動作を実現する事が出来た。3)の2足歩行ロボットは股関節と膝をサーボモータによって動かして前進する構造にし、制御システムについても生体をモデルとしてニューラルネットワークを用いたものを取り入れるため、リカント型のニューラルネットワークにおける発振と位相のずれを用い、両脚の股関節と膝の部分に取り付けたサボモータの角度を制御して2足歩行を試みた。その結果、安定した歩行運動を実現出来た。4)は3)の制御系を発展させ、ニューラルネットワークにおける発振と位相のずれを用いた運動の学習を試みた。学習させた運動は、各関節にサーボモータを配置した4関節のロボットによる蛇行運動で、目標となる速度、モータの消費電力を設定して学習させた結果、目標とする蛇行運動の獲得を実現出来た。
著者
根岸 理子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

海外の人々が「日本演劇」を目にする機会がほとんどなかった20世紀初頭、20年近くにわたって西欧で活躍し、彫刻家オーギュスト・ロダンに注目され、その唯一の日本人モデルともなった女優「マダム花子」の一座の実態に関する調査をおこなった。海外における現地調査により、劇評や舞台写真等の新資料を得、これまでその実態がはっきりしていなかった1907年と1909年のアメリカ公演の模様を紹介することができたのは、学界への大きな貢献であった。マダム花子一座が本拠地としていた英国においても調査を進め、「海外巡業劇団の演劇におけるジャポニズムへの関与」という新たな研究テーマを得ることができた。
著者
局 博一 林 良博 菅野 茂
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

本研究課題では,モルモットおよびラットを実験材料にして,それぞれの動物の鼻粘膜および喉頭粘膜に対する機械的刺激および化学的刺激によって誘発される呼吸反射の様式と,末梢求心性経路における感覚受容機構を明らかにした。結果は以下の通り要約される。(1)モルモットおよびラットの鼻粘膜,とくに鼻前庭を含む鼻腔前方域に機械的触刺激と圧刺激を加えると,いずれの動物からもくしゃみ反射が誘発された.1回の刺激で2〜3回連続する反射が現れることが多かった。三叉神経篩骨神経中にこれらの刺激に対して応答する受容器が見い出され,それらの応答様式を明らかにした。(2)モルモットの喉頭部に機械的触刺激を与えると明瞭な咳反射が誘発された。上喉頭神経中に存在するirritant受容器がこの刺激に対して鋭敏に応答した。さらに反回喉頭神経の中にも咳反射に関与する受容器の存在が確認された。カプサイシン溶液を用いて喉頭粘膜のCーfiberを選択的に刺激したところ,咳反射は現れず,無呼吸反射のみが強く出現した。このことから咳反射にはCーfiberよりもirritant受容器が関与することがわかった。(3)ラットの喉頭部に機械的刺激を与えると燕下反射が常に出現した。同様の結果は上喉頭神経の電気的刺激でも得られた.ラットの上喉頭神経求心性活動を記録したところ,呼吸性活動を示すdrive受容器(58%)や喉頭内の圧変動に応じるpressure受容器(28%)は数多く見い出されたが,irritant受容器(11%)は少なかった.これらの成績から,鼻粘膜刺激によるくしゃみ反射に関しては,両動物とも類似した発生機構を有すると考えられるが,喉頭粘膜からの咳反射に関しては,感受性の差,受容器構成の差,さらには中枢におけるパタ-ンジェネレ-ションに関して明瞭な動物種差が存在するものと考えられた.
著者
多田隈 理一郎 (駄本 理一郎)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度の研究では、前年度の研究において人型7自由度スレーブアームの1自由度のみをPD制御して、残りの6自由度をインピーダンス制御するという方式であったスレーブアームの制御アルゴリズムを改良し、全ての自由度を等しくPD制御ベースでインピーダンス制御するという方式に切換え、複数の制御方式が干渉しあうということの無い、極めて安定したスレーブアームの動作を可能とした。また、5本指を持つマスタ・スレーブハンドをそれぞれマスタアーム、スレーブアームの先端に取り付け、ハンドも含めたバイラテラル・インピーダンス制御を実現した。スレーブハンドは、親指に3自由度、他の指に各1自由度を持ち、指の間隔を広げるための1自由度を含めた合計8自由度をもつ多自由度ハンドであり、既存のヒューマノイドロボットには不可能な繊細な作業やジェスチャが可能なものになっている。これを制御するマスタハンドも、同じく8自由度を持ち、外骨格型の機構により普段は指に触れることなく追従し、スレーブハンドの指が対象物に接触した場合のみ、操作者の指に触れてスレーブハンドの指先端に働く外力をフィードバックするという方式になっている。この新しい機構と制御方式により、同じく外骨格型のマスタアームと整合性の取れたマスタシステムが構成出来た。このような右腕のマスタ・スレーブシステムと左右対称は左腕のマスタ・スレーブシステムも現在作製中で、両腕を用いた複雑な作業も可能とするテレイグジスタンスロボットシステムを構築している。さらに、東京工業大学の広瀬・米田研究室との共同で開発している、ロボットの移動機構としての段差対応型の全方向移動車については、それが段差を乗り越えるときの手順である動作シーケンスの最適化を研究し、前年度に比べてより滑らかに、素早く段差を乗り越えることが可能になり、それを上半身型のロボットと結合して制御する移動作業の初期実験を行った。
著者
矢原 徹一
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

有性生殖は生物界に広くみられる性質だが、その進化的意義はよくわかっていない。さまざまな理論が検討された結果,今日では病原体と対抗進化するうえでの利点が最も有力視されている。本研究はこの仮説を検証することを主要な目的として行なわれた。ヒヨドリバナには有性型と無性型があり,有性型は2倍体,無性型は倍数体である。両者の適応度を比較する場合,倍数性のレベルのちがいについても考慮する必要がある。本研究ではヒヨドリバナ有性型・無性型の適応度成分を野外集団および実験集団を用いて比較した。実験集団を用いた研究から,無性型は巾広い光・栄養条件の下で有性型よりも大きな純生産速度を持つことが示された。この事実は倍数性のレベルの高さが無性型の適応度を高めていることを示唆する。野外集団では無性型は有性型に比べ約8倍の種子を生産していることが明らかになった。この大きな差は純生産速度のちがい、および無性型の開花成熟サイズが有性型よりも大きいというちがいに由来すると考えられる。これらの結果は,有性型・無性型の進化には倍数性であることの利点・欠点が大きな役割を果していることを示唆する。一方、有性型はジェミニウィルスに対する感染率が平均4%であったのに対し、無性型は平均27%の個体が感染・発病していた。感染・発病した個体では種子稔性が有意に低下しており、病原体が無性型の適応度を下げる要因として作用していることが確認された。本研究は無性型が有性型に比べ病原体の攻撃をうけやすいことを野外集団で示した植物でははじめての研究例である。