著者
竹村 剛一
出版者
横浜市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ホインの微分方程式とは、確定特異点が4点となる2階のフックス型微分方程式の標準形である。ホインの微分方程式やこれの拡張とみなせる微分方程式に対して、可積分系の考え方を用いて解のモノドロミーの様相を研究した。とくに、ミドルコンボルーションと呼ばれる微分方程式系の変換を用いることでホインの微分方程式においてこれまで知られていなかった解を発見し、そのモノドロミーを調べた。また、第六パンルベ方程式の初期値空間とホインの微分方程式との関係を鮮明にした。
著者
吉岡 直人 阪口 秀
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

物理的な砂山崩しの実験(実際に砂を用いて砂山を形成する実験)において、砂山の崩れ方に「自己組織化臨界現象」的な振舞いと、これと対照的な「固有地震」的な振舞いが発現することが知られている。これまでの研究から、この2つの典型的な振舞いは、砂山を形成する砂の粒径と、砂山を支える円盤の直径との比のみによって決定されることが判明している。しかしながら、これらをもたらす物理的な原因は未解決である。これを解明することが、本研究の目的である。この両者における砂山内部の応力鎖の構造の違いが、この2つの振舞いの原因ではないかと推察されるので、光弾性実験および離散要素法によるシミュレーションによって問題の解決を図った。すなわち、砂の粒径と砂山の大きさをさまざまに変えて、砂山内部の応力鎖の構造を、光弾性実験と離散要素法によるシミュレーションによって実際に"見た"ところ、小さな砂山はナダレによって砂山全体が影響を受け、内部はいつまでも固まらないのに対し、大きい砂山はナダレによって応力鎖の構造はかなり深い部分まで影響を受けるが、全く影響をうけない固化した部分が深部に形成されていることが分かった。このことから、ナダレの大きさを規定する要因が何らかの不均一性であると考えると、小さい砂山では表面の凹凸が不均一性の主たる要因であり、小さいナダレが頻発するのに対し、砂山が大きくなると、表面付近と深部の強度の差が不均一性の主要因となり、大きなナダレが周期的に発生するのではないかと考えられた。
著者
澤田 元 尾野 道男
出版者
横浜市立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究の特徴である、臓器を皮下に移植することにより、生体内で再生現象を起こさせた場合の変化について調べ、いくつかの重要な知見を得た。本年度に新たにわかったことを以下に記す。(1)気管の上皮細胞は移動に際し、重層扁平化(扁平上皮化生)したが、電子顕微鏡レベルでの観察では、移動先端の細胞は上層の扁平な細胞層と、下層の立方状の細胞層が区別できた。最上層の細胞の上面には徴絨毛が見られるなど、細胞極性は一部維持されていた。細胞間隙は開いており、そこに多数のヒダを出して隣の細胞と結合している。接触面にはデスモソームが見られる。移動先端では不規則な形と大きさのBleb状の構造が見られ、移動にとって重要な役割をしていることが推察された。この構造は中に差相棒ない小器官をほとんど持たずアクチンの断面と思われる点状構造のみが見られた。(2)気管は皮下に空間を作り、上皮の断端が宙に浮くように移植しても上皮間に薄い膜が張って、その内側に上皮が移動、再生した。この膜は上皮が移動した先端部を境にして、フィブリンが主体の中心部分と各種コラーゲンが主体の周辺部に区別される。そこで人為的にコラーゲン膜やフィブリン膜を作成して、この膜上で気管の上皮再生を促したところ、コラーゲン膜では良好な再生が見られたが、フィブリン膜には細胞は接着できなかった。なお、細胞接着タンパクのフィブロネクチンは細胞外マトリックス全体に幅広く分布していた。
著者
眞鍋 勝司 佐藤 雅彦
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

7日目の黄化エンドウ芽生えから抽出し、ほぼ純粋になるまで精製したフィトクロムA分子を原子間力顕微鏡によって観察した。生の溶液試料をマイカ板に載せ窒素パージによって軽い乾燥状態にしたフィトクロムを観察した結果、像が時間的に変化するので余りはっきりした像は得られなかった。これはAFMのプローブの位置検出に用いている赤色レーザーが試料のフィトクロムの光変換をもたらす結果と考え、軽く固定した分子を観察することにした。Pfr状態で0.1%グルタルアルデヒドにより固定した試料は碁石のような円盤が2個つながった全体として上から見れば雪だるま、あるいは殻つきピーナッツのような像を与えた。像の大きさプローブの大きさが10nmと仮定して計算すると約250kDaになり、フィトクロム・ダイマーの分子量と一致するし、水力学的に測定した値とも矛盾しない。一方Prの状態で固定した試料は碁石状の円盤が2つ重なった、全体として1つの厚い球に近い楕円体の像を与えた。PfrにフィトクロムのN末端から354番目からのDAVLという配列に結合することが分かっている抗エンドウフィトクロムA単クローン性抗体Mep-1をつけてAFM観察した。雪だるま像に1個の抗体が付いた像は観察されたが2個同時に付いたものは観察されなかった。これは抗原に1個の抗体が付いた状態ではもう1個は立体的に結合できなくなっているものと推定される。IgGでなくMep-1のFab'断片を用いた場合も同様に1個しか付かなかった。以上より、フィトクロムAはPrでは薄いほぼ円盤型のものが2個重なった形を形成し、Pfrになるとその円盤が開き、雪だるま型になる。雪だるまを構成する個々の円盤はフィトクロムの単量体に対応するのではなく、2つの円の付け根付近にエピトープ部分が2つ存在する可能性が大きいと解釈している。
著者
水木 信久 河越 龍方 大野 重昭 目黒 明 竹内 正樹 REMMERS Elaine F.
出版者
横浜市立大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

ベーチェット病を対象としたゲノム解析により、HLAクラスI分子に提示前のペプチドのトリミングに関与するERAP1(endoplasmic reticulum aminopeptidase 1)が、ベーチェット病の発症リスクに対して、ベーチェット病の強力な遺伝要因であるHLA-B*51と遺伝子間相互作用を示すことを見出した。サルコイドーシスを対象としたゲノム解析では、日本人のサルコイドーシス患者と相関を示すHLA-DRB1アリルおよびHLA-DQB1アリルを明らかにしたとともに、HLA-DRB1およびHLA-DQB1の近傍に位置するBTNL2遺伝子と疾患の相関性も明らかにした。
著者
大野 茂男 平井 秀一 鈴木 厚 秋本 和憲 山下 暁朗 廣瀬 智威 中谷 雅明 佐々木 和教
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

上皮細胞を初めとする様々な細胞の極性制御の要として働いている普遍的な細胞極性シグナル経路、PAR-aPKC 系の新規構成員として ASPP2 を発見し、細胞極性の制御と細胞死の制御の間の関係を示唆した。PAR-aPKC 系の新たな制御機構として、aPKC 結合タンパク質 KIBRA が aPKCのキナーゼ活性を基質と競合的に抑制し Lgl とは異なる機構で aPKC を通じたアピカル膜ドメイン形成のプロセスを特異的に抑制することを見いだした。
著者
遠藤 正之
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

1 制吐薬オンダンセトロンとメトクトプラミドのモルモット乳頭筋活動電位に及ぼす影響近年心筋活動電位第三相を形成する遅延整流カリウム電流の抑制がリエントリー型の不整脈に対して抗不整脈作用を発揮するのであるが、逆にその作用により致死的不整脈が誘発されることが明らかとなり注目されている。5-HT3受容体遮断薬であるオンダンセトロンとドパミン受容体遮断薬であるメトクトプラミドはいずれも術後の制吐剤として使用されるが、オンダンセトロンはイヌの心室筋細胞で遅延整流カリウム電流を抑制することが示されている。そこでモルモット乳頭筋の活動電位に対する両薬物の作用を検討した。その結果オンダンセトロン3uMおよび10uMは刺激頻度0.2,0.5,1.0,2.0Hzのいずれにおいても90%再分極における活動電位持続時間APD90を、濃度依存性に延長した。一方メトクトプラミド3uM、10uMは同様の刺激頻度において、APD50,APD90に対し明らかな延長作用は示さなかった。2 炭酸水素ナトリウムのモルモット乳頭筋活動電位に及ぼす影響心肺蘇生時にはしばしば大量の炭酸水素ナトリウムが、代謝性アシドーシスの補正のために投与されるが、本科学研究費に基づく研究で、炭酸水素ナトリウムがモルモット乳頭筋のAPDの延長と静止膜電位の過分極を生じることが明らかになった。種々の薬物を用いた検討から、APDの延長にはナトリウムイオンの増加が、過分極には炭酸水素イオンの増加が関与していることが明らかになってきている。3 冠動脈血流量に対する二酸化炭素分圧の影響冠動脈攣縮等による心筋虚血も麻酔中の致死的不整脈を誘発しうる。本研究ではモルモットLangendorff心を用いて、定圧潅流を行い冠潅流量を測定した。潅流液中の二酸化炭素分圧を40mmHgから80mmHgに上昇させると、血管内皮依存性に一酸化窒素の作用を介して潅流量が増加した。一方二酸化炭素分圧を20mmHgに低下させると、潅流量は約10%減少したが、一酸化窒素合成酵素阻害薬を前処置しておくと、その減少は増強された。
著者
岡 眞人
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

今日のオランダでは退職は健康維持や家庭生活に良い影響を及ぼすと考える人が多数を占めており「早期退職文化」が深く根付いている。60歳前後の退職・引退が社会常識化し、早期退職制度の廃止には強い抵抗がある。オランダ政府は高齢者の就業意欲を高めるため、生涯学習・訓練による就業能力の維持・開発という総合的・長期的戦略に基づく政策を推進している。高齢者雇用問題を高齢期だけの問題とみなさず、生涯にわたる労働生活の視点から捉え、全年齢層との関係で捉えるところにオランダの政策的特徴がある。イギリスではオランダとは対照的に、サッチャー政権の新自由主義路線の下で早期引退制度は導入されなかった。しかし労働不能給付制度が事実上早期引退への抜け道として機能し、高齢者雇用率の長期的低下傾向が続いた。ブレア労働党政権は雇用保障を国民福祉の基本に据え、EU諸国と歩調をそろえて高齢者雇用促進に取り組んだ。その中核は「ニューディール50プラス」である。この施策は就業不能給付受給層の多い50歳以上にきめ細かな就労支援を提供して自立を促すことを狙いとし、一定の効果を上げたと評価されている。さらに年齢差別禁止に関する法律が2006年に制定されたことも大きな一歩と思われるが、その効果について評価するのは時期尚早である。オランダとイギリスに共通する政策的特徴は、年齢差別、性差別、障害者差別、人種差別などを個別的に捉えるのではなく、包括的に人権問題として位置づけ、各分野の取り組みを関連付けて相乗効果を引き出す戦略にある。非正規社員と呼ばれる不安定雇用の渦の中に多くの高齢労働者が巻き込まれている日本の実態を見ると、英蘭両国の包括的アプローチから学ぶべき点は少なくないといえよう。
著者
中西 新太郎
出版者
横浜市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

研究実施期間の5ケ月間、a東京オリンピックのナショナルな統合に関する検討、b植民地朝鮮におけるスポーツを通した統制・同和動向の検証、c朝鮮人の運動会、体育・スポーツイベントを通した抵抗ナショナリズムの検討を行ってきた。課題aに関しては、高度成長期のただ中で開催された東京オリンピックが、国民統合の強力な装置であったことを検証し、戦後日本のナショナルな民国統合にとってオリンピックという国際的スポーツイベントがきわめて重要な役割を果たしていたことを、当時の資料検討にもとづいてあきらかにすることができた。課題b,cに関しては、朝鮮総督府学務局などの史料にもとづき、同化政策が謳われていたにもかかわらず、現実には植民地朝鮮における体育政策が兵式体操を中心とし、日本人と朝鮮人との競技が禁止されていたこと、「教練」が抵抗の温床になるとして行われなかったことなど、植民地統制の一環としての性格を帯びていたことを確認した。また、そうした統制政策に抵抗して植民地下においても民族主義体育の運動が継続していたこともあわせてあきらかになった。戦前と戦後のスポーツ・ナショナリズムには言うまでもなく性格の相違が看取されるが、スポーツ史にそくした検証をつうじ、スポーツイベントを手段とする国民統合の継承・連続と断絶という両様の位相をあきらかにする展望が開けてくる。上記の研究をつうじて、日本における近現代スポーツ・ナショナリズムのそうした位相を解明する有益な手がかりをえることができた。
著者
丸山 宏
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1990年代末から、わが国でも外資系を始めとする投資ファンドの活動が活発になった。投資ファンドの経済活動がもたらした影響を検証することは、今後の投資ファンドに対する規制のあり方や企業再生・M&Aに関する政策をめぐる議論のために欠かせない。本研究では、投資ファンド主導の会社更生の事例が増加しているという事実に着目し、投資ファンドが会社更生事件の弁済率に与えた影響を計量的に分析した。不況産業に属している破綻企業の企業買収案件では、同じ(不況)産業内企業(インサイダー)の資金制約のため、その産業外の資金制約の緩い企業(アウトサイダー)が最終買収者になる確率が高くなることが考えられる。投資ファンドが主として不況産業に属する更生会社の再建のスポンサーになることによって、不況産業の弁済率が相対的に上昇し、好況産業と不況産業との弁済率の差が緩和される可能性がある。この仮説を「ディープポケット仮説」と名づけ、他の代替的な仮説と、現実説明力を比較した。1990年から2004年の期間に手続きが開始された会社更生事件を対象とし、投資ファンドの活動がない前半(1990年-1998年)と、投資ファンドがスポンサーとなった会社更生事件が見られるようになった後半(1999年-2004年)の債権弁済率(要弁済額/確定債権総額)の関数を推計した。前半では更生会社が不況産業に属していたことを表すダミー変数が統計的に有意な負の値であったが、後半では有意性は認められなかった。こうした分析結果は、ディープポケット仮説と整合的である。単に投資ファンド主導であるから弁済率が上昇するということではなく、スポンサーが見つかりにくく、弁済率も抑制的な傾向のあった不況産業で投資ファンドがスポンサーとなり、好況産業との弁済率の差を緩和している可能性を検出したことが重要である。このように不況産業での更生案件において、一定の役割を果たしつつあるのであれば、投資ファンド主導の企業倒産処理の増加は、企業倒産処理の効率化にとって望ましいことと考えられる。
著者
丸山 宏
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

会社更生法を適用された経営破綻企業の手続終結後の業績を実証的に検討した。とくに、会社更生手続適用前に株式を上場しており、会社更生手続終結後、再び株式上場を行った企業(株式再上場更生会社)に焦点を当て、株価データを利用した分析を行った。研究開始後、世界的な経済不況の影響から株式市場が低迷し、株式公開市場不振もあり、更生会社の再上場の事例は、実質的には5件にとどまった。そのため、特定の時期におけるクロスセクションの分析は断念し、個々の更生事例について、会社更生手続き期間を間に挟んだ前後の期間を対象とする時系列分析を中心とした分析を行った。1990年から2008年までの期間に会社更生手続きが開始された全企業289社について官報からデータを収集し、データベースを作成したが、最終的には、それらのうち、手続き開始前に株式を上場していた企業46社を基本的な分析対象とした。その中に、再上場会社5社も含まれている。分析から得られた主要な結果は、以下のとおりである。(1)再上場更生会社のベータ値(株式市場全体の変動に対する反応係数)は、更生前に比べ、更生後は低下傾向にある。(2)再上場更生会社の再上場後の経営成績は、属する業界の平均を上回る。再上場するか、売却するか、そのまま保持するかは、株式市場の状況や更生のスポンサーがファンドであるか否か、等の要因が影響する。上場後更生会社サンプル数、株価データ数を増加し、統計的検討の精度を向上させるため、研究期間を計画よりも1年以上延長した。
著者
山川 正 田中 俊一
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

酸化LDLは血管平滑筋に対する分化、増殖、遊走促進作用を有し、動脈硬化の成因として非常に重要であるが、その機序は不明であった。そこで、酸化LDL刺激により発現する遺伝子をDNAチップを用いて網羅的に解析し、helix-loop-helix Id3(Id3)の発現亢進、サイクリン依存性キナーゼ抑制因子(CDKインヒビター)であるp21WAF/Cip1とp27Kip1発現の低下が認められた。酸化LDLによるId3発現亢進はId3promotor/luciferaseのchimera plasmidを用いた解析およびActinomycinDを用いた実験から、転写の亢進及びmRNAの安定化によるものであることが明らかとなった。更に、Id3発現亢進はp38MAPKの阻害剤SB203580およびp38MAPKのdominant negative mutant用いた検討により、p38MAPKを介していることが示唆された。次に、Id3 dominant negative mutantを強制発現させたところ、p21WAF/Cip1とp27Kip1発現の低下傾向が認められたが、その効果は部分的であり、他の機序が示唆された。以上のように酸化LDLは血管平滑筋増殖作用は細胞周期関連蛋白であるhelix-loop-helix Id3が関与していることが明らかとなった。しかし、まだ不明な点も多く残されており今後の検討が必要である。
著者
片平 正人
出版者
横浜市立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

Musashiタンパク質のタンデムな2つのRNA結合ドメインと標的RNAの複合体に関して、構造解析を行った。まずRNAとの結合状態にあるMusashiの2つのドメインの構造を、NOE等に基づいて決定できた。次に2つのドメインの相対配向を、残余双極子結合に基づいてイ決定した。さらに長さを変えた様々なRNAを利用する事でMusashiとRNAの間の分子間NOEの同定に成功し、それに基づいた複合体の構造決定を進行させた。常磁性緩和効果による惣ングレンジの構造情報の取得も試みた。テロメア配列のDNA/RNA結合タンパク質hnRNPA1のタンデムな2つの核酸結合ドメインが、テロメアDNA及びテロメレースRNAとどのような様式で相互作用するのかを明らかにした。これにより同タンパク質によるテロメレースのテロメアDNAへのリクルート機構に関する構造学的な基盤が得られた。またRNAi法を用いてhnRNPA1タンパク質及びhnRNPDタンパク質をノックダウンした細胞におけるテロメア長を測定する事で、両タンパク質の機能に直接迫った。ヒトのテロメアDNAが生理的なイオン条件下(カリウムイオンに富んだイオン条件下)において形成する特異な4重鎖構造の決定に成功した。これまで考えられていたものとは異なる新規構造が見出され、分子内の構造体でありながら、3本の鎖が平行に配置され、残り1本のみが反平行に配置されていた。
著者
横田 俊平 森 雅亮 相原 雄幸
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

乳幼児に発生するインフルエンザ脳症は症状の経過が急速で予後は不良であるが、病態メカニズムは不明な点が多い。しかし最近の報告から脳内の炎症性サイトカインの異常増多が原因と推察されている。今回ラットの髄液中にリポポリサッカライド(LPS)を投与し、中枢神経内に高サイトカイン状態を誘導し、それが中枢神経および全身に及ぼす影響を検討した。LPS髄注により髄液中のTNFαをはじめとする炎症性サイトカインは上昇し、LPS大量投与群のみ血清中の炎症性サイトカインも上昇した。脳組織内にサイトカインmRNAが認められ、免疫染色にてNFkB陽性細胞が認められることよりサイトカイン産生細胞はmicrogliaと推察された。組織学的検討では神経細胞、glia細胞のapoptosisが証明され、またLPS髄注により血液中のFITC-DEXTRANの脳組織内への漏出が認められ脳血管関門の破綻が組織学的に証明された。さらに脳組織内でcytochrome cの細胞質内への流出が認められ細胞障害がTNFαによるapoptosisであることが示唆された。以上のことよりLPSによるmicrogliaの活性化により中枢神経内の高サイトカイン状態が誘導され、過剰な炎症性サイトカインは神経細胞のapoptosisにより中枢神経機能不全をきたし、同時にastrocyteの障害により脳血管関門は破綻し、全身性に高サイトカイン血症をきたすことが実験的に証明された。