著者
岡松 佑樹 井上 勝博 川上 覚 河口 知允 内山 明彦 笹栗 毅和
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.373-378, 2016-10-20 (Released:2016-11-11)
参考文献数
15

背景.軟骨肉腫は大腿骨や骨盤から発生することが多く,肺より発生する軟骨肉腫は極めて稀であり,国内では自験例を含めて18例が報告されているのみである.症例.53歳男性.高血圧症,脂質異常症で近医通院中であった.初診1か月前より咳嗽を認め,かかりつけ医を受診した.胸部X線写真で右下肺野に腫瘤影を指摘されたため当科紹介受診となり,精査目的に入院となった.胸部CTで右中下葉にまたがる腫瘤を認め,気管支鏡検査では確定診断には至らなかった.MRI,FDG-PET検査により悪性腫瘍が疑われたため,右中下葉切除術を施行した.切除標本の病理組織所見では,硝子軟骨様の多量の基質中に大小不同の異型性を有する軟骨細胞様の腫瘍細胞が増生しており,軟骨肉腫の病理診断となった.全身検索の結果,他臓器からの肺転移は否定的であり原発性肺軟骨肉腫と考えられた.術後経過は良好で,現在も再発や他臓器の原発巣の出現なく経過している.結語.今回我々は肺原発と考えられる軟骨肉腫の1例を経験した.治療の第1選択は手術による完全切除とされ,完全切除された場合の予後は比較的良好であるが,再発例も多く自験例も慎重な経過観察が必要である.
著者
家城 隆次 工藤 翔二 岡村 樹 平山 雅清 植竹 健司 木村 仁 加勢田 静 池田 高明 深山 正久 小池 盛雄
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-6, 1991-02-20 (Released:2011-08-10)
参考文献数
10

過去13年間の肺癌における組織型の比率の変遷について検討を行った. 対象は1976年~1988年の13年間に当院で病理組織学的に診断の確定した肺癌患者, 955名 (男711名, 女224名) で, 腺癌患者が45%, 扁平上皮癌患者が33%であった. 肺癌患者は増加しており, その組織型においては, 扁平上皮癌比率の減少と腺癌比率の増加がみられ, その傾向は特に1981年以降, 扁平上皮癌と腺癌の比率逆転という事態になった. この変遷は, 性別や年齢構成の変化によるものではなかった. 1983年までの日本TNM肺癌委貝会の患者登録からみても全国的に腺癌の比率が増加していることが推察される. 従来, 扁平上皮癌が腺癌より多いと言われていたが, 近年では, 腺癌の方が多くなっている可能性が示唆された.
著者
谷田部 恭
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.986-990, 2015-10-20 (Released:2016-01-06)

遺伝子テストによる分子標的薬のための患者選択が日常的に行われるようになっている.その結果を正しく評価するためには分子病理学的な基礎を理解するとともに,それぞれで用いられる手技の長短所を正しく理解する必要がある.腫瘍を形作るがん関連遺伝子変化には,がん遺伝子,がん抑制遺伝子の2種類が存在する.現在,標的となる遺伝子変異のほとんどはがん遺伝子であり,それらの変化は遺伝子変異,遺伝子増幅,遺伝子再構成,タンパク過剰発現に大別される.本稿ではそれぞれの遺伝子変化について概説し,その検出方法・検体について説明を加えた.
著者
橋本 鉄平 井上 政昭 名部 裕介 吉田 順一
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.95-100, 2023-04-20 (Released:2023-04-27)
参考文献数
15

背景.免疫チェックポイント阻害薬は非小細胞肺癌において病変ごとに異なる治療効果を示すことが知られている.症例.66歳,男性,両側上葉肺扁平上皮癌(同時性多発肺癌).心呼吸機能低下のため両腫瘍に対する根治手術は困難であり,免疫複合療法(CBDCA+nab-PTX+pembrolizumab)を選択.4コース投与後に両側腫瘍は縮小.Pembrolizumab単剤による維持療法23コース後のCTで左上葉肺癌は消失,肺門リンパ節と一塊となった右上葉肺癌原発巣は縮小を維持していたが,#4Rリンパ節のみが腫大.PET-CTでは同リンパ節と右肺門部病巣にFDG集積を認めた.経過から縦隔リンパ節転移と判断した.右肺門部に腫瘍の残存はあるが,縮小維持されていたため,病勢コントロール目的と遺伝子検査目的に縦隔リンパ節切除術を施行した.術後は維持療法を継続し初回治療から1年11ヶ月(術後4ヶ月)経過した現在無増悪生存中.結論.非小細胞肺癌に対するPD-1阻害薬治療において,個々の病変ごとに不均一な増悪パターンを示す場合は,増悪病変を外科的切除することで病勢をコントロールできる可能性がある.
著者
岡田 春太郎 郷田 康文 太田 紗千子 髙橋 守 渋谷 信介 寺田 泰二
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.50-53, 2021-02-20 (Released:2021-02-26)
参考文献数
8

背景.原発性腹膜癌は卵巣癌,卵管癌とともにミュラー管由来腺癌と総称される疾患である.今回,両側の横隔膜上の脂肪組織内に転移が認められた原発性腹膜癌症例を経験したので報告する.症例.78歳女性.皮膚筋炎と診断され,間質性肺炎の評価のためのCTで横隔膜前縁の脂肪組織内に右側34 mm,左側49 mm大の腫瘤と,下大静脈や腸骨動脈周囲に多数の腫瘤が認められ,悪性リンパ腫が疑われた.生検目的で胸腔鏡下に右側の脂肪内の腫瘍を摘出し,病理検査で漿液性癌が認められた.婦人科臓器由来の腫瘍転移が疑われ,婦人科で腹腔鏡下両側付属器摘出と腸間膜腫瘍摘出が施行され,両側付属器には腫瘍は認められなかったが,腸間膜上の腫瘍は横隔膜上脂肪組織内のものと同じ組織像であり,原発性腹膜癌と診断した.卵巣癌は横隔膜直下の腹膜から横隔膜を浸潤して胸腔へのリンパ節へ転移する経路が報告されているが,本症例も同じ転移経路で横隔膜上のリンパ節に転移したと考えられた.結論.原発巣が明らかでない横隔膜上の腫瘍性病変が認められる症例は,炎症性疾患や悪性リンパ腫の他,原発性腹膜癌などの悪性腫瘍のリンパ節転移についても検討する必要がある.
著者
友田 義崇 春田 泰宏 目井 孝典 宮崎 佑介 餘家 浩樹
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.870-875, 2013 (Released:2014-02-28)
参考文献数
15
被引用文献数
4 4

背景.皮膚筋炎に悪性腫瘍が合併することが知られているが,肺癌が先行して皮膚筋炎を発症する例は稀である.症例.60歳.男性.2006年肺腺扁平上皮癌に対して左上葉切除術施行,pT2aN1M0 Stage IIAと診断された.2008年に縦隔リンパ節転移による再発を認め,化学放射線療法が行われた.2011年頚部に皮疹が出現,CKの異常高値を指摘されて紹介入院となった.手背にGottron徴候,四肢の筋力低下を認め,皮膚筋炎と診断した.肺癌の再発による縦隔リンパ節の腫大を認め,腫瘍随伴症候群を疑い肺癌に対する放射線照射による治療を行ったが,進行性の筋力低下を認めた.皮膚筋炎に対してbetamethasone,cyclophosphamideを併用,EGFR遺伝子変異を認めたため肺癌に対してgefitinibを投与し,筋力の改善を認めた.しかし8カ月後多発肺転移を認めるとともに皮膚筋炎の再燃を認めbetamethasone投与,化学療法を開始した.肺癌の再発とともにCK上昇,筋炎の悪化を認めたことより,腫瘍随伴症候群と診断した.結論.腫瘍随伴症候群としての皮膚筋炎が肺癌の診断後に発症する例は稀であり,報告する.
著者
福岡 和也 塩崎 道明 古西 満 濱田 薫 長 澄人 成田 亘啓
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.271-277, 1992-04-20 (Released:2011-08-10)
参考文献数
6

症例は72歳, 女性.Hugh-Jones III度の労作時呼吸困難を主訴として入院.胸部X線写真にて右胸水貯留を認め, 胸膜生検から癌性胸膜炎 (腺癌) と診断.MMC, OK-432による胸膜癒着術を施行したが, 被包化胸水の遺残と肺の癌性リンパ管症を併発した.その後, 胸腔内カテーテル挿入部に皮下浸潤による腫瘤を触知するとともに右体幹を中心としたびまん性の皮下腫脹と右腋窩リンパ節腫脹が出現, 胸, 腹部CTでは右体幹の皮下組織に広範囲に及ぶ網目状の高吸収域を認めた.これらの所見からびまん性皮下浸潤を疑い, CBDCA, VP-16による全身化学療法を施行するも奏効せず, 呼吸不全に陥り死亡.剖検の病理組織所見から, 本症例にみられたびまん性皮下腫脹の原因は右肺下葉原発の低分化型腺癌の胸膜, 胸壁から皮下組織への直接浸潤と皮膚の癌性リンパ管症によるものと考えられた.
著者
髙山 浩一 田中 理美
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.180-187, 2022-06-20 (Released:2022-06-29)
参考文献数
30

がん悪液質は体重減少,食欲不振,倦怠感を主たる徴候とし,がん患者の生命予後やQOLを悪化させる.悪液質の発症には生体反応として産生される炎症性サイトカインや腫瘍細胞が産生するさまざまな因子が関与しており,エネルギー代謝の異常と骨格筋の分解をもたらす.Fearonらは体重減少の程度による簡便な診断基準を提唱し,より早期からの介入をすすめているが,がん悪液質の認知度はまだ低く今後も啓発活動が必要である.2021年,本邦ではがん悪液質を適応とするグレリン様作動薬,アナモレリンが世界に先駆けて承認され,現在日常臨床で用いられている.しかし,薬物治療だけでは不十分であり,栄養療法や運動療法を組み合わせた多職種による包括的治療が必要と考えられる.また,GDF-15抗体などの新たな薬剤開発も進行しており,がん悪液質治療のさらなる進歩が期待される.
著者
小林 紘 磯部 和順 鏑木 教平 吉澤 孝浩 佐野 剛 杉野 圭史 坂本 晋 高井 雄二郎 栃木 直文 本間 栄
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.190-195, 2017-06-20 (Released:2017-07-04)
参考文献数
17

目的.Epidermal growth factor receptor-tyrosine kinase inhibitor(EGFR-TKI)治療に制酸剤併用が与える影響を明らかにする.方法.2008年8月から2014年12月にGefitinib/Erlotinibで加療されたEGFR遺伝子変異陽性肺腺癌98例を対象とし,制酸剤併用群と非併用群へのEGFR-TKIの臨床効果を後方視的に検討した.結果.Gefitinib群の制酸剤併用は25/56例(44.6%)で,Erlotinib群は33/42例(78.6%)であり,Gefitinib群/Erlotinib群の奏効率,病勢制御率,無増悪生存期間は制酸剤併用の有無で有意差は認めず,Erlotinib群のGrade 3以上の肝障害は,制酸剤併用群が有意に少なかった(3% vs. 22%,p = 0.023).結論.制酸剤併用はEGFR-TKIの治療効果や毒性に大きな影響を与えないことが示唆された.
著者
佐川 元保 桜田 晃 芦澤 和人 前田 寿美子 中山 富雄 負門 克典 玄馬 顕一 小林 健 鳥居 陽子 竹中 大祐 丸山 雄一郎 三友 英紀 室田 真希子 梁川 雅弘 澁谷 潔 祖父江 友孝 原田 眞雄 三浦 弘之
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.351-354, 2022-10-20 (Released:2022-10-28)

日本肺癌学会肺がん検診委員会は,2022年に「肺がん検診ガイドライン」の改訂を行った.本稿では改訂に至った経過とその概要について解説する.「現行検診」に対する「推奨」は2010年ガイドラインから変化はなかった.全国的な精度管理の徹底や,国全体の死亡率減少効果への寄与度や感度・特異度の測定などに関する評価が必要である.「重喫煙者に対する低線量CT検診」は,欧米において肺癌死亡率減少効果のエビデンスが得られたが,過剰診断,偽陽性,放射線被ばくなどの不利益は無視できない.安易な導入を行って混乱する事態を避けるためには,まずは適切な「実装研究」を行うことにより,日本の社会にどのように導入することが望ましいのかを検討することが重要である.一方,「非/軽喫煙者に対する低線量CT検診」は,現在のところ有効性のエビデンスは十分でないため,それを集積することが第一に重要である.
著者
佐藤 崇 猶木 克彦
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.286-291, 2022-08-20 (Released:2022-08-31)
参考文献数
41

近年,小細胞肺がんの分子サブタイプがASCL1,NEUROD1,POU2F3,YAP1といった細胞系統転写因子によって規定されることが報告されている.また,これら神経内分泌細胞系統因子の検討と併行して,MYCファミリー転写因子MYC,MYCL,MYCNの小細胞肺がんにおける役割も探索され,それぞれが単なるがん遺伝子ではなく神経内分泌分化のサブタイプを規定する転写プログラムをコントロールしていることが示唆されている.小細胞肺がんと同じく神経内分泌がんに分類される肺大細胞神経内分泌がんにおいては,小細胞肺がん同様に神経内分泌細胞系統因子の役割が予測されるものの,この組織型は遺伝学的にも分子病理学的にもより不均一であり,その意義に関してはさらなる研究が望まれる.肺神経内分泌がんにおける分子サブタイプ分類のトランスレーショナルな意義も検討され,免疫療法を含む薬剤への感受性の違いやサブタイプに関連した腫瘍の分化状態の多様性・可塑性が報告されている.本稿では,最近の肺神経内分泌がんの分子サブタイプ分類に関し,研究が進んできた経緯から今後の展望までを概説する.
著者
上紙 航 坂元 太朗 黒田 揮志夫 福岡 順也
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.81-89, 2020-04-20 (Released:2020-05-08)
参考文献数
20
被引用文献数
1

近年,ホールスライドイメージ(WSI)と呼ばれる技術が確立し,モニター上で病理診断を行うことが可能になった.これにより,デジタルパソロジーの応用は今までの病理医の不足した施設のための遠隔診断にとどまらず,日常診断やコンサルテーションなどへと活用が広がっている.こうして病理組織標本のデジタル画像データが蓄積されることで,急速に人工知能(AI)による画像解析の基盤が整いつつある.現時点では未だ研究レベルではあるものの,腫瘍のリンパ節転移を認識するものや腫瘍細胞割合を計測するもの,あるいは腫瘍の遺伝子変異を予測するものなど,様々なAIが開発されている.今後も加速度的な発展が望まれる一方で,病理標本のデジタル化は期待されたようには拡散せず,多くの施設において診療にAIを活用できる環境は揃っていないのが現状である.また,AI開発の面からも,必要な教師データを作成することの困難さや,AIの判断根拠が不明瞭な状態で臨床応用することへのリスクなど,複数の問題が顕在化している.今後こういった課題解決が必要ではあるが,近い将来にAIがもたらす情報は病理診断にとって必要不可欠なものになるとの予想は変わらず,次世代の病理医にはAIをうまく活用するスキルが求められると予想される.
著者
松本 泰祐 田島 洋 江口 辰哉 平田 正信
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.163-169, 1980-06-30 (Released:2011-08-10)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

腺癌の予後は実測腫瘍径の大小によらず, その腫瘍の集束性変化の強さによって考えられるべきであるとする訂正腫瘍径の概念は腺癌の予後がTNM分類と相関しないという問題点にある程度解答を与えたと考える.しかし, 腺癌全般にこの概念が適合するかは問題である: そこで腺癌を亜型に分類し ((1). bronchioloalveolar type,(2). bronchial surfacetype,(3). bronchial gland type,(4). mixed type,(5). undetermined type) 臨床病理学的に (1) (2) (3) を主に検討した. (1) は発育, 進展の一方において集束性変化を来たす. (2) (3) は圧排性進展が主体であるという結果を得た.訂正腫瘍径の概念はbronchioloalveolartypeとその類縁のmixed typeには妥当と考えられるが (2) (3) の把握には不充分であると思われる.
著者
中野 孝司 藤岡 洋 前田 重一郎 山口 桂 岩橋 徳明 田村 伸介 波田 寿一 東野 一彌
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.327-332, 1990-06-20 (Released:2011-08-10)
参考文献数
16

悪性胸膜中皮腫と肺癌胸水貯留例との鑑別にCEAが役立つか否か検討した. 悪性胸膜中皮腫 (11例) の胸水CEAは低値であり, 結核性胸膜炎 (18例) 及び他の良性疾患 (21例) のそれとに差はなかった. 又, 肺癌各組織型 (腺癌34例, 小細胞癌18例, 扁平上皮癌8例, 大細胞癌5例) 及び転移性悪性胸膜腫瘍 (13例) のそれは中皮腫よりも有意に高値を示していた. 胸水CEAのcut-off valueを5.0ng/mlとすると腺癌でのpositive rateは82.4%, 小細胞癌28.6%, 扁平上皮癌62.5%, 大細胞癌83.3%, 転移性胸膜腫瘍43.8%であったのに比べ, 中皮腫は全例ともにcut-off level以下であった. 又, 悪性胸膜中皮腫の腫瘍組織CEA染色は全例陰性であり, 血清CEAは病期が進行しても全例ともに正常値内にあった. 以上の結果より, 本疾患のCEAは胸水及び血清ともに上昇しないと考えられ, この点が肺癌胸水貯留例, 殊に問題となる肺腺癌との鑑別に役立つと考えられる.
著者
髙橋 康二 中島 香織 佐々木 智章 山品 将祥 高林 江里子 大崎 能伸 北田 正博
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.278-285, 2017-08-20 (Released:2017-09-08)
参考文献数
23

目的.根治切除術を施行した非小細胞性肺癌N2群の予後をより正確に予想するため,各肺葉のリンパ経路図を作成し,N2群の層別化を行った.方法.肺のリンパ経路をlevel 1:肺実質からN1まで,level 2:N1からN2まで,level 3:N2間,の3 levelに分類した.585例の肺ヒストプラズマ症初感染群のCT所見を観察し,各肺葉のリンパ経路図を作成した.結果.Skip転移は肺葉により特異的で好発部位が決まり,右上葉は右下傍気管リンパ節(#4R),左上葉は大動脈下リンパ節(#5),両側下葉では肺靱帯リンパ節(#9),傍食道リンパ節(#8)であった.右中葉ではskip N2転移はまれであった.縦隔リンパ節転移の好発部位は,右上葉は右下傍気管リンパ節(#4R),右中葉と下葉が気管分岐リンパ節(#7),左上葉が大動脈下リンパ節(#5),左下葉が肺靱帯リンパ節(#9L)であった.結論.リンパ節転移に関与したリンパ経路のレベルにより,非小細胞性肺癌N2群を,minimal,early,advanced N2の3群に層別化した.
著者
荒井 他嘉司 塩原 順四郎 塩沢 正俊 岩井 和郎
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.7-13, 1976-03-10 (Released:2010-10-22)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

肺野型肺癌切除例44例について陰影増大速度を計測し, 検討した. 肺野型肺癌のほぼ全例を2cm以内で発見するのに必要な検診間隔は6ヵ月であり, それを3cm以内にとれば, 必要な間隔は8ヵ月であると結論された. また, 定期検診発見時の大きさを33例について測定し, 組織型別に検討したところ, 定期検診で発見しうる陰影の最小限界は組織型によって異り, 末分化癌, 類表皮癌および腺房・腺管型腺癌では0.6cmであるが, 乳頭型および肺胞上皮型腺癌では1.0cmないし1.5cmと考えられた.
著者
豊國 伸哉
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.362-367, 2009
被引用文献数
4

<b>目的</b>.アスベストの発がん機構を解明する.<b>方法</b>.アスベスト(UICC: クリソタイル,クロシドライト,アモサイト)の物理化学的な性質を再検討する一方,培養細胞や実験動物個体にアスベストの投与を行い,生物学的性質を詳細に評価した.<b>結果</b>.ラジカル発生の触媒能はアモサイト>クロシドライト>>>クリソタイルであり,それは種々のキレート剤の存在で修飾を受けた.貪食細胞以外に,中皮細胞や腺癌細胞もアスベスト繊維を取り込み,核内にいたることを観察した.supercoiled plasmid DNAを使用して,各アスベストの2本鎖DNA切断能を検討した.鉄含量の高いアモサイトとクロシドライトで2本鎖切断を認め,繰り返し配列部位やG: C塩基間で切断しやすいことが判明した.ラット腹腔内に各アスベスト繊維を投与すると,全アスベスト投与グループで,中皮細胞で酸化ストレス増加を認めるとともに特に脾臓において鉄沈着を認めた.<b>結論</b>.クリソタイル腹腔内投与も中皮腫を発生する事実と考えあわせると,アスベスト発がんにはアスベストに含まれる鉄のみならず,他の機序で発生する過剰鉄も重要な役割を演じていることが示唆され,中皮腫発生の予防標的として期待される.<br>
著者
二宮 貴一朗 大熊 裕介 海老 規之 青景 圭樹 大矢 由子 阪本 智宏 上月 稔幸 野崎 要 白井 克幸 野中 哲生 里内 美弥子 石川 仁 堀田 勝幸 滝口 裕一
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.95-99, 2021-04-20 (Released:2021-04-30)
参考文献数
19

遠隔転移を有する非小細胞肺癌の標準治療は薬物療法であり,局所治療の追加による生存延長効果は明確に示されていない.一方で,転移病変が限られていた場合(Oligometastatic disease)において,局所治療を行ったことにより長期予後が得られた症例が存在する.近年,Oligometastatic diseaseに対して局所治療の追加の意義を評価したランダム化比較試験が複数報告された.これらは,診断時から原発および限られた転移病変を有し,すべてに対して局所治療が可能な症例(Synchronous oligometastatic disease)を対象としており,いずれの試験でも有望な結果が示されている.有効な薬物療法(分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬など)の台頭や放射線治療技術の進歩により肺癌治療は多様化しており,局所治療の目的も変化しつつある.Oligometastatic diseaseに対する局所治療は,その侵襲性によるデメリットや薬物療法の中断に伴うリスクを考慮する必要があるが,新たな治療戦略の1つとなる可能性がある.
著者
土屋 奈々絵 宮城 一也 藤田 次郎 熱海 恵理子 青山 肇 安富 由衣子 草田 武朗 村山 貞之
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.979-984, 2021

<p><b>背景.</b>腸型肺腺癌は稀な腺癌の亜型であり,臨床的には大腸癌肺転移との鑑別が問題となる.<b>症例.</b>60歳代男性.前立腺癌の経過観察中に胸部異常影を指摘,肺癌を疑われて紹介された.胸部CTでは左上葉支を閉塞し多発小石灰化巣を有する腫瘤を認め,末梢側は閉塞性無気肺を呈した.FDG-PETでは肺病変にSUV<sub>max</sub> 12.7の集積があり,左鎖骨上窩・縦隔リンパ節への集積亢進を認めた.経気管支肺生検を行い,病理組織で高円柱状上皮からなる異型腺管が,単純腺管や癒合腺管の形態で増殖する像を認めた.免疫染色ではCK7(-),CK20(一部+),TTF-1(-),CDX2(+),Napsin A(-)で,形態と合わせて腸型肺腺癌と大腸癌肺転移との鑑別が必要となった.下部消化管内視鏡検査にて大腸に病変を認めず,cT2bN3M0,cStage IIIBの腸型肺腺癌として化学放射線療法を行い,病変は縮小した.<b>結論.</b>石灰化を伴った腸型肺腺癌の1例を経験した.腸型肺腺癌のCT所見は浸潤性肺腺癌や大腸癌肺転移の画像所見と共通しており,画像のみでこれらを鑑別することは困難である.</p>
著者
雑賀 公美子
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.261-265, 2015-08-20 (Released:2015-09-24)
参考文献数
5
被引用文献数
1 3

がん罹患の年次推移は地域がん登録の精度のよい地域(宮城,山形,福井,長崎)において1985年から2007年,死亡は人口動態統計において1958年から2012年まで報告されている.粗罹患率(人口10万対)・粗死亡率は男女ともに年々増加傾向であるが,これは主に高齢化の影響であり,年齢分布の変化の影響を除いた年齢調整率でみると,男性罹患に1990年代後半以降増減はなく,死亡は減少している.女性では,罹患は緩やかな増加傾向が続いているが,死亡は,1980年代後半以降増減はみられない.肺がん罹患・死亡の動向を2029年まで将来予測した結果によると,高齢者の増加により,男女ともに罹患数も死亡数も増加が続くが,年齢調整罹患・死亡率は2015年あたりを境に増加は止まると予測されている.