著者
田中 聡
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,高齢者を対象として仮想環境内で行う運動療法装置(VRスポーツ)を使用し,身体機能と認知面に及ぼす相乗効果について検討した.健常大学生を対象に安全性と効果的な映像コンテンツの検証を行ったのち,介護老人保健施設利用者を対象にレクリエーションとして3ヶ月間VRスポーツを行った.その結果,VRスポーツ群は下肢筋量(体重比)が平均1.1%と僅かに増加し,HDS-Rにおいては開始時18.3点から終了時20.7点と改善傾向を示したが,対照群と有意差は認めなかった.今後の課題として,高齢者では明瞭な視覚目標の設定と簡単なルール作りが重要と考え,新たな視覚映像を開発していくことが必要である.
著者
加藤 一生
出版者
県立広島大学
雑誌
広島県立保健福祉大学誌人間と科学 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.9-20, 2004-03

広島原爆に遠距離で被爆した花嵐岩中に自然発生した長寿命核種^<36>Cl (半減期3×10^5年) の量の正確な推定を行う上で必要となる情報を得るために, カリウム (K), ウラニウム (U) ならびにトリウム (Th) 含有率を天然放射性同位元素からのガンマ線測定を行い定量した。非被爆花嵐岩中のU, ThならびにKも定量し, それらが広島周辺の岩盤ごとにどのように変わるか調べた。定量結果から, たとえば愛媛県の伊予大島からの伊予石におけるKの含有率は広島市に近い倉橋島の議院石の含有率に比べて低い, などいくつかの興味深い事柄が分かった。議院石採石場の山頂近くにあった大きな岩盤の様々な深さから採取した17個の測定結果から, UとTh含有率が岩盤のある小さな部分で極めて高いことが分かった。その最大値はUの6.5ppm, そしてThの55ppmである。このことから, UとThの含有率は議院石採石場の中の位置によってかなり変化することが推察された。
著者
永吉 美香 吉川 ひろみ 高木 雅之 古山 千佳子 西村 玲子 山西 葉子 西村 玲子
出版者
県立広島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

非行等の問題行動があり、児童自立支援施設で生活している子ども達の、社会交流技能について評価を行った。その結果、施設で生活している子ども達の社会交流技能の全体的なレベルには大きく2つの山があり、1つめは「平均より低いが社会生活に明らかな影響を及ぼすほどの低さではないレベル」に、もう1つは「社会生活に明らかな影響を及ぼすレベル」にあった。また入所児の多くが「対人関係」を自分の問題として報告していた。このことは未熟な社会交流技能であることが非行と関連している可能性を示唆しており、より年少期間での社会経験の格差解消や、早期介入を行うことで、将来の非行行動を回避できる可能性が考えられる。
著者
小川 吉昭 Ogawa Yoshiaki オガワ ヨシアキ
出版者
県立広島大学
雑誌
県立広島大学人間文化学部紀要 (ISSN:21865590)
巻号頁・発行日
no.8, pp.103-114, 2013-03

In "Dilemmas" Gilbert Ryle formulates the fatalist argument as 'whatever is was to be, so it can not be helped'. He trys to search out the fallacy of the argument from antecendent truth to the ineviatability of what happens. Ryle contrasts the fatalist conclusion with a posterior truth, that is, for everything that happens it is true for ever afterwards that it happened, and finds the reason why the latter does not worry us, but the former does. According to Ryle, when we think a predecessor makes its successor necessary, we unwittingly assimilate the necessitation to 'causal necessitation'. Moreover the truth of 'a might-have- been prophecy' is not 'an antecedent truth', but 'a posterior truth', as the adjectives as 'deceased', 'lamented' and 'extinct' can be applied to people or mastodons only after they have ceased to exist. In point of fact, we have not the Book of Destiny which has been written up in full from the beginning of time, but a chronicle which is waiting to be filled with facts that happened.
著者
島谷 康司
出版者
県立広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は,視覚性持続処理課題を用いた注意機能を評価するシステムを検証することであった。年中から年長児を対象に注意機能,運動機能,身体運動反応速度(視覚的注意を含む運動機能)の3課題を測定し,運動経験の有無によって視覚的注意機能の反応速度と身体運動反応速度の関係について検証した。対象は4~5歳の年中児19名,5~6歳の年長児22名とした。実験方法は,「もぐらーず」を使用して座位で上肢を利用してボタンを押す視覚的注意課題,立位で下肢を利用してボタンを押す身体運動反応速度の測定を行った。運動課題の測定には文部科学省の体力・運動能力調査に基づいて「反復横とび」,「立ち幅跳び」,「連続飛越し」,集中力には「静止立位時の重心動揺」の測定を行った。先の報告で,年長児童の粗大運動能力と注意機能の間には相関関係を示した(H23年度)。運動能力の上位群と下位群の比較では有意差は認められなかった。さらに運動能力の最も高い児の視覚性持続処理課題が低く,またその逆も認められたことから,低年齢層における座位時の視覚性持続処理課題の検査は適応的ではない。しかし,静止立位時の重心動揺と視覚性持続処理課題には関係性が認められ,年中児にとっては立位姿勢制御に注意を必要とした。また,年中児2名の発達障害疑いの児に粗大運動能力課題,視覚性持続処理課題,身体重心動揺検査を行い,同年代の児と比較した結果,低値を示した。上記のことから,年長児の場合は粗大運動能力と視覚性持続処理課題とを総合的に判断すること,年中児の場合は視覚性持続処理課題と粗大運動能力,さらに静止立位時の重心動揺を加えた総合的な評価が必要であることが確認できた。
著者
増田 泰三
出版者
県立広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

1.カキ生産の副産物であるカキ殻を石灰質肥料資材として用いると、葉菜類の生育や根の伸長促進が認められた。そこで、根の伸長領域を二つに分けた根箱を用い、一方を炭酸カルシウム(炭カル)で、他方をカキ殻で、pH5.79の土壌を中和し、中央にホウレンソウまたはコマツナの耐暑性品種を播種して栽培を行った。地上部生育はカキ殻施用で増大し、根はカキ殻側に多く伸長して炭カル側への分布はわずかであった。カキ殻には植物の必須栄養素が多種含まれ、特に微量必須栄養素のホウ素(B)が多く含まれている。栽培後土壌のBはカキ殻側で多く、植物体B吸収はカキ殻施用で増加した。そこで、炭カル側にカキ殻と等量のB添加を行ったところ、生育はさらに促進され、炭カル+B側にもカキ殻側と同等の根の分布が認められた。カキ殻のB栄養で根の伸長が促進され、他の必須栄養素吸収も増加し、生育が促進されたと考えられた。この効果は、ホウレンソウにおいて顕著であった。2.B栄養に対する高い生長利用効率を持つ葉菜類の応答反応機構について、反応性が顕著なホウレンソウを用い、生育培地へのBの添加や欠如を行って、現在、分析を進めている。今後は、根の伸長促進や停止での形態的な変化の特徴についても様々なレベルで調査し、タンパク質の発現や消失との関連を詳細に検討して行く。3.カキ殻等の数種石灰質資材を生育培地として、1/10,000aポットでホウレンソウを栽培した。カキ殻100%培地では、発芽も生育も良好で、土壌を各石灰質資材で中和して栽培した対照区とほぼ同等に生育し、根の伸長も良好であった。他の貝殻や石灰等の資材では、アルカリ過剰によると考えられる障害で発芽や生育は不良であった。石灰質資材の中で、なぜカキ殻だけが植物の生育が可能なのかは、現段階では不明である。今後、カキ殻に含まれるカルシウム等の成分の存在形態や溶出についての解明を行う。
著者
朴 唯新
出版者
県立広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

近年、情報家電産業を中心として企業経営をビジネス・エコシステムという観点が広がっている。その理由として情報家電産業のような技術革新が頻繁に起きる業界では、中核企業が自社内で技術開発・生産するのでなく、協力企業と連携しながら、部品などの開発・生産を外注に任せた方が合理的であるからである。しかし、中核企業は協力企業と緊密に部品間の調整や摺り合わせを行うために、協力企業との信頼に基づく協力関係を構築する必要がある。本研究では近年、イノベーション論で注目されているビジネスエコシステムの概念を取り入れ、情報家電企業と協力企業の資本・取引ネットワークを明らかにし、その特徴と歴史的変遷を比較検討した。
著者
佐々木 宣介
出版者
県立広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究はコンピュータプログラムによる自動プレイにより大量のゲームのデータを採取するという手法で、将棋の変種、特に「中将棋」と呼ばれる変種のように大きな盤でプレイされる変種において、各種ルールがゲームの性質にどのような影響を与えているか評価を行うものである。平成22年度は、昨年度に引き続き機械学習および自動プレイに関する改善を目指してきた。また、それらの結果を利用し、中将棋の特殊ルールについて考慮した計算機実験を行っている。特に、中将棋における特徴的なルールである、獅子という駒に関する特殊ルール群に着目をし、それらのルールの有無によって、自動プレイによるゲームのデータがどのように異なってくるか自動プレイによる計算機実験を行い、評価を進めている。前述の機械学習等の計算機実験の改善と並行して実施していたこともあり、これらの計算機実験は完全には終了しておらず、現在も実験は継続中であるが、現時点までに得られたデータについての評価を進めている。さらに、将棋類の変種間の類似度評価を行うための数値的な評価尺度について検討を行っている。計算機実験によって得られたゲームのデータについて、ゲームの長さ、合法手の数などといった各要素を個別に比較する他に、いくつかの要素を組み合わせた指標化を行うことを目指している。いくつかの指標化について検討を行い、その指標を用いた変種間の質的類似度の比較を行っている。これらの実験・評価結果については、今後学会等への発表を行っていく予定である。
著者
赤岡 功 武石 彰 李 在鎬 姜 判国 陳 韻如 井村 直恵 光田 稔 平野 実 Akaika Isao Takeishi Akira Lee Jaeho Kang Pankuk Chen Yun-ju Imura Naoe Mitsuda Minoru Hirano Minoru アカオカ イサオ タケイシ アキラ LEE Jaeho KANG Pankuk CHEN Yun-ju イムラ ナオエ ミツダ ミノル ヒラノ ミノル
出版者
県立広島大学
雑誌
県立広島大学経営情報学部論集 (ISSN:18827985)
巻号頁・発行日
no.2, pp.207-225, 2010-02

本稿は,平成21年3月7日に県立広島大学に於いて開催された文部科学省科学研究費補助金による企業経営シンポジウム「今,企業経営を考える-グローパルマーケットでいかに生き残るか-」の内容を纏めたものである。シンポジウムは,基調講演(「自動車産業における企業の境界」京都大学武石彰), 3つの研究報告(「韓国の自動車部品調達と日本からの示唆」京都橘大学 李在鏑, 「韓国ハイニックス半導体の再生」 県立広島大学 姜判国,「台湾 AcerWistron社の再生を通じた競争優位の再構築」 九州国際大学 陳韻如・京都産業大学 井村直恵) および,パネルディスカッションで構成された。本稿では,これらのシンポジウムの内容の中で、Ⅰ基調講演とⅡパネルディスカッションの内容について記載する。
著者
安武 繁 蔵本 美代子 松浦 幸重 森岡 久美子 平井 ひとみ 武田 由美子 桐山 美紀子
出版者
県立広島大学
雑誌
人間と科学 : 県立広島大学保健福祉学部誌 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.83-90, 2006-03

近年,10代の性感染症や人工妊娠中絶の増加が思春期保健の緊急課題となっている。そこで,学校保健と地域保健が連携した「生と性の健康教育」推進システムを構築した。まず,学校を対象として「生と性の健康教育」に関する実態調査を行い,関係機関から成る検討委員会を開催した。次に,保健所管内3地域で年齢段階に応じた「生と性の健康教育」のモデル事業を実施した。尾道地域では,保育所で保育士による健康教育と保護者との座談会を行った。三原・世羅地域では,小学校で養護教諭による健康教育や,高等学校で大学生のピアエデュケーションの手法による健康教育を行った。このようなモデル事業の成果をもとに,効果的な健康教育を推進するためのマニュアルを作成し,関係機関に配布した。「生と性の健康教育」を推進するためには,学校保健と地域保健が連携し,ライフサイクルの発達段階に応じた教育内容を工夫することが重要であり,さらに関係機関が協働し,健康教育の企画・実施・評価機能を持つことが必要である。
著者
大島 一洋
出版者
県立広島大学
雑誌
広島県立保健福祉大学誌人間と科学 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-7, 2002-03

国立情報学研究所で電子化
著者
都留 民子 高林 秀明
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

就労・家族生活における変動(events)に向き合う主たる姿勢・行動は、「自己防衛」「個別的奮闘」あるいは「個別的抵抗」であり、状況・問題の「社会化」がまれなことが、住民たちの言説において明らかになった。個人的対応こそが、スパイラルに貧困(化)をすすめ(健康悪化を含む)、そこでは家族はしばしば重い「拘束」「負担」となり、貧困の防波堤にはなっていない。他方、安定的な、かつポジティブなアイデンティティの形成は、労働ではなく、包括的な社会制度(失業対策事業・生活保護など)によって可能となっている。
著者
津森 登志子
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

メラノコルチン4受容体(MC4R)がキイロールを果たすとされる中枢レプチン・メラノコルチン情報伝達系は、摂食行動やエネルギー消費のみならず、血糖値やインスリンの恒常性にも重要な役割を担っている。MC4Rプロモーターの支配下に緑色蛍光蛋白を発現する遺伝子導入マウスを用いて、研究代表者らは迷走神経背側運動核 (DMV) が多数のMC4R発現ニューロンを含むこと、またこれらのニューロンの中に胃や十二指腸の壁内神経節あるいは膵内神経節のニューロンにシナプス形成するものを見いだした。これらのことから、MC4R発現 DMV ニューロンからの投射線維は胃腸や膵臓の機能調節に密接に関与することが示唆された。
著者
本多 留美 綿森 淑子
出版者
県立広島大学
雑誌
人間と科学 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.83-99, 2007-03
被引用文献数
1

人口の高齢化や介護保険サービス分野での雇用の増加によって、言語聴覚士(ST)が認知症の人とかかわる機会は増えている。そこで現任のST129名に調査票を送付し73名から回答を得て、認知症の人へのかかわりの頻度や内容などの実態、および今後のあり方についての意見を集約した。かかわりの頻度については、認知症をともなう例は言語聴覚療法の対象者にも多く、STが認知症の人とのかかわる頻度は高かった。内容については、「摂食・嚥下面の評価」が業務量・重要性の両者において最も高かった。今後のSTのかかわり方として、認知症にともなうコミュニケーションや生活上の障害にもかかわるのがよいという意見が多かった。STが認知症の人に広い範囲で適切にかかわるためには、認知症について学べる機会を増やし、障害特性に合った評価や介入の方法を開発するとともに、自らの役割についてST自身が自覚し、開拓する姿勢も重要と考えた。原著国立情報学研究所で電子化
著者
黒田 寿美恵 佐藤 禮子
出版者
県立広島大学
雑誌
人間と科学 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.89-100, 2008-03

本研究の目的は,終末期がん患者が選択する生き方とその本質を明らかにし,生き方を選択する終末期がん患者に対する看護のあり方を検討することである。病名・病状を知っており症状コントロールの良好な終末期がん患者6名を対象に,参加観察法と面接法によりデータ収集を行い,質的帰納的に分析を行った。分析の結果,得られた終末期がん患者の選択する生き方の本質は,1)生命の維持と病状の安定を求める,2)迫りくる死に身を委ねる,3)自己を重視する,4)自らの力を信じる,5)他者を気遣う,6)心理的安寧を求める,の6つに集約された。生き方を選択する終末期がん患者への看護のあり方として,1)病状を正しく認識できるように助ける,2)死と向き合い人生を回顧する患者に寄り添う,3)生きる希望を支える,4)患者の自分らしさを尊重する,5)患者が必要とする医療を提供することが重要である。症例報告国立情報学研究所で電子化
著者
山本 映子 北川 早苗
出版者
県立広島大学
雑誌
人間と科学 : 県立広島大学保健福祉学部誌 (ISSN:13463217)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.111-123, 2007-03

本研究は,理由が判明しないまま不登校を繰り返す小学生の心の理解に,児童に関わる重要な非専門家も加わるコミュニティ援助の具体手段の中で宿題コラージュ法・かばん登校がもたらした効果を検討し,不登校支援に示唆を得ることを目的とした。小学校1年次より,毎年不登校を繰り返し,4年生の夏休み明けから不登校となった男児のコラージュ作品を分析し,「コラージュ法による攻撃性の発見」で得られた特徴が全て含まれていることが判明した。しかし,攻撃性の他に,対人恐怖,自我同一性の問題などが男児の不登校という現象の深奥に秘められていることも示唆された。コミュニティ援助という臨床心理学的対応の結果として,不登校は一応の解決に至った。コミュニテイィ援助にコラージュ制作という専門技法を用いることが,不登校児童への対応の1つの可能性として,活かしていくことが考えられる。
著者
佐野 尚美
出版者
県立広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、ラットを用いて、栄養状態が肝臓におけるアルブミンの代謝動態に与える影響を検討した。低蛋白質食群のアルブミン値は高蛋白質食群、標準蛋白質食群より低値を示したが、肝臓での合成量は低蛋白食群が最も多かった。高蛋白質食群と標準蛋白質食群のアルブミン値はほぼ同レベルであったが、それらの代謝動態は異なっていた。栄養状態を正確に把握するためには、ある一点の値を評価するだけでなく、代謝動態を動的に評価することが重要であると考えられた。
著者
田中 聡
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究はバーチャルリアリティ(VR)技術を利用し仮想環境内で運動療法を行い,健康心理学的にその影響を検討することである。VR運動療法とは,テニスや卓球,スノーボード,空手(瓦割り)時の各動作を利用し,スクリーンに映し出される仮想のスポーツ場面に対して身体運動を行うものである。対象は健常大学生30名(平均年齢22歳)と高齢者10名(平均年齢81歳)とした。大学生群は「VR卓球を用いたラケットスイングを行う上肢運動」と「単調な肩関節の反復運動」(両運動の関節運動方向と可動域は近似)時のPOMS(profile of mood states)及びストレスの定量評価として唾液アミラーゼ活性値測定と心拍数変動(R-R間隔)を計測した。高齢者群はVRスポーツを3ケ月間(1ケ月平均12回施行)行い,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),抑うつ、不安評価としてHADS(Hospital anxiety and depression scale),気分評価としてPOMSを測定し,加えて身体機能として筋力,立位バランス,重心動揺,歩行能力を計測した。その結果,大学生群では唾液アミラーゼ活性値は両運動とも有意な変化を示さなかった。R-R間隔変動では,反復運動時交感神経系の活動が有意となり心理的ストレスを与えている可能性が示唆されたが,VR卓球では自律神経活動の大きな変化は示さなかった。POMSではVR卓球を行った場合に正の気分が高く,負の気分が低い傾向を示し,VR環境下での運動はストレス発生を抑制できる可能性が示唆された。高齢者を対象にした16週間のVR運動療法の影響は,身体機能には大きな変化は認めなかったが,抑うつ感や不安感は平均点が改善しHDS-Rスコアは有意に改善した。VRを用いた運動療法はアミューズメント性を有し,かつ不安感や抑うつ感,軽度の認知症の改善に働きかける可能性が示唆された。
著者
高島 裕臣
出版者
県立広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

語彙情報処理の母語話者-学習者連続性を検証するため日本人学習者の英語語彙判定・音読実験を行い,結果を母語話者と比較した。語彙判定・音読潜時ともに母語話者と学習者との間で有意な相関があり,さらには,語彙判定・音読潜時への寄与が有意な変数の多くが母語話者-学習者間で重なることを見出した。学習者の語彙判定が音読よりも早く母語話者と逆であることなど相違の例も見出したが,総じて,英語語彙情報処理の母語話者-学習者連続性を支持する結果が得られた。