著者
亀坂 安紀子 吉田 恵子 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.183-186, 2010 (Released:2011-06-27)
参考文献数
2
被引用文献数
2

本稿の目的は,結婚や出産といったライフステージの変化が人々の幸福度や充実度に及ぼす影響について,日本と米国のデータを使用したパネルデータ分析によって明らかにすることである.分析の結果,日本と米国のデータで共通して,配偶者の存在は個人の幸福度や充実度に非常に大きな影響を与えており,かつそのような傾向は男女の別にかかわらず観測されることが示される.また,日本と米国のデータで共通して,健康状態も人々の幸福度や充実度に大きな影響を与えており,求職中の人や喫煙者は,幸福度や充実度が低いことも示される.しかし,子供の存在に関する推定では,日本の結果と米国の結果に大きな違いが生じている.日本人の場合,子供がいないと幸福度や充実度が低いという結果が得られたが,米国の結果からは,必ずしもそのような事実は観測されない.労働参加に関しても,日米で若干異なる結果が得られている.
著者
佐々木 周作 明坂 弥香 黒川 博文 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.100-105, 2015 (Released:2016-05-07)
参考文献数
24

社会的地位の上昇は長寿や健康を促進するだろうか.両者の相関関係はよく知られているが,前者から後者への因果効果を検証することは難しい.本研究では,日本で最も権威ある文学賞として知られる芥川賞と直木賞のデータを使用して,因果効果の有無・方向性・程度を分析した.具体的には,受賞者と非受賞候補者の同質性が高いと考え,受賞による社会的地位の上昇が余命にどのような影響を及ぼすかを検証した.純文学の新人賞である芥川賞では,初回候補時点から30年を経過するまでの受賞者の死亡確率は,候補者よりも67.5%程低い.予測値から算出した受賞者の平均余命は,候補者よりも3.3年程長い.一方,大衆小説作品の賞で中堅作家を主な対象とする直木賞では受賞者の死亡確率は35.4%程高く,平均余命も3.3年程短い.これらの結果は,受賞には平均余命の延命効果と短縮効果の両方が存在すること,社会経済的基盤の不安定な時には延命効果が相対的に大きいが,安定後には短縮効果の方が大きくなるという可能性を示唆している.
著者
高橋 義明
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.95-98, 2017 (Released:2017-06-01)
参考文献数
15

高齢化等とともに日本の国民医療費は増加を続けている(2013年40兆円).うち薬剤費が医療費の22%を占めており,政府は医療費節減の柱としてジェネリック医薬品(GE)のシェアをなるべく早い時期に80%以上とする目標を掲げた.目標達成のために品質等に関する信頼性向上,情報提供の充実などを進めるが,目標は達成できるのであろうか.本研究では全国25~44歳の男女に対して行った経済実験(n=4,589)から,処方箋のデフォルトを新薬またはGEにした場合のそれぞれのGEの選択率を算出した.また,情報提供の方策として差額通知があるが,差額を通知した場合に選択率に有意な差が生まれるかを検証した.その結果,処方箋のデフォルトをGEとした場合(GEの原則化)は政府目標を達成できることが明らかになった.GEの原則化には予算措置等の追加費用がほとんどかからず,2兆円前後の削減効果が見込まれ,費用対効果も大きい.一方,差額通知は差額が大きい場合にはGEシェア引き上げ効果があるが,GEの原則化をしない場合には政府目標に届かないことが予想された.今後は一人当たり医療費が多い高齢者を対象とした研究などが必要である.
著者
大竹 文雄 坂田 桐子 松尾 佑太
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.71-93, 2020-11-25 (Released:2020-11-25)
参考文献数
18

本論文では,豪雨災害時に早期避難を促すナッジメッセージの効果検証を行った.広島県民を対象にしたアンケート調査をもとに,仮想的に災害が発生した状況で,行動経済学的なメッセージが住民の避難意思に対して与える影響について分析する.また,メッセージの効果の異質性に関しても分析を行った.さらに,8ヶ月後に行った追跡調査によって,長期的な意識や行動変容についても検証した.その結果,社会規範と避難行動の外部性を損失表現あるいは利得表現で伝えるメッセージが直後の避難意思形成に効果的であることを明らかにした.一方,追跡調査の結果によれば,避難行動の外部性を利得表現で示したメッセージが長期的な避難意識や避難準備行動につながっていた.
著者
保原 伸弘
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.141-144, 2009 (Released:2011-12-03)
参考文献数
8

今回の金融危機にも見られるように,マクロ経済学は社会心理によっても影響を受ける.ヒット曲も経済や社会の状況を意識してリリースされる以上,その性質は経済や社会の状況をよく反映されると考える.本稿では,経済社会の状況を反映した大衆消費文化の代表として,日本の昭和期および平成期に流行ったヒット曲の性質(調性,テンポ)とその年の経済状況に有意な関係があることを示す.
著者
佐々木 周作 石原 卓典 木戸 大道 北川 透 依田 高典
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.12, no.Special_issue, pp.S14-S17, 2019 (Released:2020-03-17)
参考文献数
8

本研究では,日本全国に居住する20–69歳の男女個人8,520名を対象にオンライン実験を行い,その中で2つの寄付先活動(植林活動・被災者支援活動)を設定して,マッチング寄付・社会比較・両者の組合せの介入がそれぞれの活動に対する寄付額選択にどのような影響を及ぼすかを明らかにした.分析から,以下の結果が得られた.まず,平均介入効果は寄付先活動によって大きく異なることが分かった.具体的には,マッチング寄付単体の介入は植林活動では平均的に寄付額を上昇させる正の効果を持つが,被災者支援活動では同様の効果を持たなかった.さらに,機械学習の手法を使用して回答者ごとの介入効果を推定して,介入効果の分布の特徴と寄付先活動による分布の違いを明らかにするとともに,同一個人内で寄付先活動毎の介入効果を比較することにより,寄付先活動の違いによらず同様の介入効果を持つケースと,寄付先活動の違いによって異なる介入効果を持つケースの両方が存在することを明らかにした.
著者
久米 功一 鶴 光太郎 佐野 晋平 安井 健悟
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.54-74, 2018-11-29 (Released:2018-11-29)
参考文献数
29

本稿では,経済産業研究所が実施したアンケート調査の結果を用いて,増税の是非と社会保障の縮小・拡大という選択に対して,信頼や公共心などの個人の意識がどのような影響を与えるかを分析した.特に,増税せずに社会保障の拡大を求める人々の特徴をみると,税負担と社会保障増減の整合性を取るような財政中立的選択を支持する人々に比べ,政府・他人への信頼や公共心が低い一方,政府への依存が強く,市場経済に懐疑的であった.また,教育水準,時間当たりの所得,相対所得が低かった.これらの結果は,将来に向けて財政・社会保障の持続可能性を確保していく上で,政府・他人に対する信頼や公共心を醸成していくことが重要であることを示唆している.
著者
川越 敏司
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.1-16, 2023-08-01 (Released:2023-08-01)
参考文献数
34

本研究では,リスク選好・時間選好・社会的選好が互いに独立であるという属性間の独立性を検証する実験を行い,リスク選好と時間選好,リスク選好と社会的選好が関連した設問において属性間の独立性が成り立たないことを見出した.その上で,こうした選択の傾向性を説明するために,リスク選好・時間選好・社会的選好・認知能力が相互依存したモデルに対する構造推計を実施し,実験結果を説明可能であることを示した.
著者
佐藤 賀一
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.22-49, 2017 (Released:2017-11-29)
参考文献数
49

2銘柄の株価の過去の価格変動を分析して利益を求める運用戦略にペアトレードという手法がある.本稿ではElliott et al. (2005) が示した確率的スプレッド方式のペアトレードを発展させ,「移動平均乖離率」というテクニカル指標を使用したペアトレードを提案する.具体的には,25日移動平均乖離率の差をAR(1)モデルに当てはめ,TOPIX Core30構成銘柄を対象に平均回帰スピードの速い株価の組み合わせを抽出してペアトレードを組む方法を用いる.実証分析の結果,上述のテクニカル分析に基づくペアトレードは分析対象期間である2002年1月から2016年6月まで,Gatev et al. (2006) が示した方法によるペアトレードや配当込TOPIX Core30指数を上回る優れた収益率を示すことができた.この結果は取引コスト等も考慮した結果であるため,ウィーク・フォームの市場効率性に対する1つの反例と考えられる.
著者
佐々木 周作 平井 啓 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.132-135, 2017 (Released:2017-06-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1

本研究は,行動経済学におけるリスク選好が日本人女性の乳がん検診の受診行動に及ぼす影響を検証する.乳がん検診の主対象である40歳台・50歳台の女性のうち,自治体検診・主婦検診の乳がん検診の対象者と想定できる者602名に対し,インターネット・アンケート調査を実施した.その中に,プロスペクト理論に基づいた仮想的実験質問を設定し,回答者の,利得局面と損失局面それぞれでのリスク回避度を抽出した.分析結果から,利得局面でリスク回避的に意思決定する人ほど乳がん検診を受診する確率が低いこと,また,損失局面でリスク愛好的に意思決定する人もまた受診する確率が低いことが分かった.さらに,追加分析によって,乳がんに関わる選択の結果を利得局面で認識する人と損失局面で認識する人の両方が存在する可能性を示した.
著者
林 良平
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.122-131, 2017 (Released:2017-06-01)
参考文献数
17

本稿では「設定1分ですぐに始められる経済実験」をコンセプトに開発されているオンライン経済実験教材(XEE.JP)について,設計方針とシステムの特長,インターフェースの特長を述べた後,実装済み実験を紹介する.本システムを用いることで教育目的実験が手軽で確実に実施できるようになる.また,本システムの特長を活かした研究目的実験への応用可能性も指摘する.
著者
佐々木 周作 黒川 博文 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.12, no.Special_issue, pp.S18-S21, 2019 (Released:2020-03-17)
参考文献数
8

本研究では,「寄付金控除」による還付施策と「マッチング寄付」による上乗せ施策が寄付行動に与える影響を,経済実験を使って比較した.インターネット調査会社の回答モニターから,性別と年代(20歳から69歳まで)の割合が均等になるように抽出して,金銭的報酬で動機づける経済実験を行った(N=2,300).分析の結果,たとえ優遇率が同じであっても,寄付するときの自己負担額を還付によって下げる寄付金控除に比べて,第三者の上乗せによって下げるマッチング寄付の方が高額の寄付を誘発する効果が大きいことが分かった.具体的に,50%の寄付金控除の群に割り当てられると,実際の寄付支出額が統制群に比べて約126円下落したのに対して,100%のマッチング寄付の群(優遇率は50%控除と実質的に同じ)に割り当てられると,逆に実際の寄付支出額が約56円上昇した.この結果は,海外の一連の先行研究で観察された結果と一致している.日本でも,マッチング寄付が寄付行動を促進する効果が相対的に大きい可能性が示唆された.
著者
川西 諭 田村 輝之 功刀 祐之
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.152-156, 2012 (Released:2013-05-29)
参考文献数
2

2011年と2012年の2月に行った個人投資家を対象とするインターネットアンケート調査から,個人投資家の投資スタイルによる投資行動とパフォーマンスの違いを多面的に分析した.その結果,(1) 明確な投資スタイルを持つ投資家は大きく2つのグループ(「長期パッシブ分散派」と「短期アクティブ集中派」)に分かれること,(2) 2つのグループを比較すると,長期パッシブ分散派の方が相対的に,投資家間で運用パフォーマンスの差が小さく,投資満足度,幸福感が高く,ストレスや不安が少なく,資産の形成に成功していることが確かめられた.
著者
岡 千紘
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.105-114, 2019-04-23 (Released:2019-04-19)
参考文献数
17

本論文では,離散選択実験を用いて野菜売り場での「生産者の顔写真の掲示」が消費者の購買意欲を増すことができるのか分析を行った.分析結果によれば,生産者の顔写真が掲示された野菜を購入する傾向があるのは,①主に男性,②野菜を買いに行く頻度が月に1.2回~週に1回程度の人,③野菜売り場に掲示されている顔写真が生産者本人だと信じている人,④トレーサビリティ・システムについての知識がない人であった.直売所で購入する傾向がある人は,①ほとんどの世代の男性,②40代の女性,③週に1回~3回程度野菜を買いに行く人,④野菜売り場に掲示されている顔写真が生産者本人だと信じている人,⑤トレーサビリティ・システムについて知識があるが利用したことはない人であった.これらの結果から,①男性向けのマーケティングを行う,②直売所,③トレーサビリティ・システムが充実するまでの補完と充実してからの代替といった条件のもとで生産者の顔写真の掲示は消費者の購買意欲を増すことができる.