著者
顔 菊馨 小幡 績 太宰 北斗
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.12, pp.S57-S60, 2019

<p>本稿では「株式分割バブル」を対象に,バブルがなぜ膨らむのか,その構造を明らかにしようと試みた.分析の結果,新株供給に制限が課せられる当時の制度上の歪みが切っ掛けとなって投資家が値上がり期待を膨らませ,市場の機運が高いときほど投資家が"宝くじ"を追うようにバブルに参加することが示唆された.本稿は,バブルの特定自体が困難だという実証研究上の課題に自然実験的イベントを用いて対処しており,より直接,バブルを検証したものと期待される.</p>
著者
小幡 績 太宰 北斗
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.5, pp.216-219, 2012

競馬市場において,「本命&ndash;大穴バイアス」という有名な現象がある.これは的中確率の低い大穴馬への過剰な人気を指すもので,微小確率の過大評価傾向としてプロスペクト理論から説明できる.本論文では網羅的なデータを用いて,これまでの研究よりも直接的に大穴バイアスを検証した.また,微小確率に対する経済主体の実際の行動を捉えた大規模なデータである点から,競馬を対象とした研究に限らず,意義があると考えられる.
著者
和泉 潔 松井 藤五郎
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.43-46, 2011 (Released:2012-03-29)
参考文献数
11

金融市場は世の中の経済活動の活発さを反映しているはずである.だからもし,みんなが持っている平均的な景況感を早く正確に知ることができたら,株価が予測できるはずだ.Web上の大量のテキスト情報から現在人々が経済状況に対して抱いている気分を抽出することが出来るかもしれない.専門家でないごく普通の人たちが,経済と直接は関係ないような事柄について書いたものから,金融の専門家が発信する市場に関わる様々なニュースや経済レポートまで,web上には常に大量のテキスト情報が溢れている.機械学習を用いたテキストマイニング手法によって,テキスト情報と市場変動の関係性を発見し市場分析に応用する最新研究事例を紹介する.
著者
水門 善之 内山 朋規
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.12, no.Special_issue, pp.S49-S52, 2019 (Released:2020-03-17)
参考文献数
5

本研究では,金融市場で取引されるインフレーションスワップ(以下,インフレスワップ)のレートに注目することで,市場参加者の“インフレ期待(インフレ予想,Inflation Expectations)”の計測を行った.日本では,2019年10月に消費税率の8%から10%への引き上げが予定されていることから,現在(2019年7月),金融市場で織り込まれているインフレ期待には,消費増税の影響が反映されている.この点を踏まえ,本研究では,増税の織り込みの影響を除去することで,インフレ期待部分の抽出を行った.加えて,インフレ期待の形成過程を考察するため,市場のインフレ期待と連動性の高いQUICK短観のインフレ期待(見通し)の,調査データを用いて期待の頻度分布の検証を行った.結果,平均値として定義される人々の期待インフレ率の変化を主導していたのは,インフレ期待の分布において,相対的に高いインフレ期待を抱いていた層であることが確認された.
著者
末廣 徹 武田 浩一 神津 多可思 竹村 敏彦
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.13, pp.S5-S7, 2020

<p>本論文では,心理学的概念である個人のグリット(やり抜く力)をWebアンケート調査によって調査し,個人のグリットの高さと金融行動の関係を分析した.その結果,グリットが高い(やり抜く力が強くて忍耐力がある)ほど,(1)収入が多く,(2)金融資産の保有額も多いことが分かった.また,(3)目的を持って貯蓄をしている(セルフコミットメントを行っている)個人にとってグリットは一段と効果を発揮する(金融資産の蓄積を促す)ことを示した.グリットは後天的に誰もが獲得可能な「やり抜く力」とされ,ビジネスやスポーツにおける個人のパフォーマンスの高さと関係があることから注目されている.日本では老後の金融資産が不足している個人が多数存在することが社会問題となっており,後天的に獲得可能なグリットが金融資産の蓄積を促すという本稿の結論は金融教育や政策運営に資するものである.</p>
著者
石部 真人 角田 康夫 坂巻 敏史
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.230-234, 2010 (Released:2011-06-27)
参考文献数
8

ボラティリティの高い銘柄は相対的に低リターンであるというボラティリティ効果の原因を探るために,下方リスクの性質を調べた.下方リスク測定の基準として,平均,ゼロ,相対の3つを調べた結果,この中でプロスペクト理論の損失回避概念と最も整合的なゼロが基準として適していることが分かった.上方リスクの性質も調べた結果,将来リターンとの関係は下方リスクではトレードオフ,上方リスクでは逆トレードオフとなることが確かめられた.結局,リターンリバーサル効果は下方および上方リスクの複合効果として説明可能である.また,これら3つのリスク相互の影響関係を調べると,下方リスクと上方リスクはそれぞれ固有の効果を持つが,ボラティリティはこの2つのリスクの反映に過ぎないという可能性が高まった.
著者
廣瀬 喜貴 後藤 晶
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.13, no.Special_issue, pp.S19-21, 2020 (Released:2021-03-24)
参考文献数
9

本研究は,地方公共団体が開示している会計情報は幸福と結びついているのか,を検証するために,各都道府県が開示している財務書類から会計指標を計算し,アンケート調査で得られた幸福度との関連を分析した.本研究の結果は,以下の3点である.第1に,多くの資産形成がなされている都道府県の住民ほど幸福度が高い.第2に,現世代の負担が将来世代の負担よりも相対的に高い都道府県の住民ほど幸福度が低い.第3に,住民一人当たり負債額が大きい持続可能性が低い都道府県の住民ほど幸福度が低い.これらの結果は,これまで伝統的に分析されてきた財政指標のみでは得られなかった結果である.これまで会計情報は財務情報の補足資料として位置づけられてきたが,2017年度から新たに全面適用となった地方公会計基準にもとづいた会計指標は主観的な幸福度と関連しており,会計情報の有用性を示した点が本研究の貢献である.
著者
木成 勇介 黒川 博文 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.10, no.Special_issue, pp.S9-S11, 2017 (Released:2018-04-12)
参考文献数
4

本研究は,個人の成績にのみ依存して報酬が決定する歩合制と他の被験者の成績にも依存して報酬が決定するトーナメント制のどちらを好むかに関する経済実験中の被験者に,間接的に各被験者の相対的な成績に関する情報を伝達することで感情を惹起させ,感情が意思決定及び意思決定の個々の要因に与える影響について考察する.分析の結果,情報を与えられたグループはそうでないグループと比較して,怒りや嫉妬などで表現される負の感情が自身の予想順位に関する分散を低く見積もらせることがわかった.しかし,総じて,情報を与えられたグループにのみ感情が強く作用するという結果は得られず,両グループともに喜びや興奮で表現される正の感情が歩合制よりもトーナメント制での報酬を選択する確率を高めることを発見した.これは,正の感情が期待利得を高く評価させる,楽観性バイアスを発生させる,リスク許容度を高めることから生じている.
著者
寺地 一浩 近 勝彦
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.85-89, 2011 (Released:2012-03-29)
参考文献数
4

消費者行動に影響を与えるポイントについて,フレーミング効果を実証的に分析する.同じ記述表現において,ポイントに対する経験が高い消費者層は,ポイントに対する経験が低い消費者層に比べて,高い反応を検証した.フレーミング効果は,ポイントに対する経験の属性に依存して,消費者行動に影響を与えることを実証した
著者
黒川 博文 奥平 寛子 木成 勇介 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, no.Special_issue, pp.S1-S4, 2018 (Released:2019-04-10)
参考文献数
10

アイデンティティが競争選好に与える影響に男女差があるかどうかを検証する実験を行った.最小条件集団パラダイムによって被験者のアイデンティティを形成した.2人一組のペアをランダムに割り当て,ペアのアイデンティティが同じグループ(内集団)と異なるグループ(外集団)を作った.歩合制の下で実労働タスクを行い,その後,競争環境であるトーナメント制の下で実労働タスクを行った.その次のラウンドでは,歩合制かトーナメント制の報酬体系を選択した後に実労働タスクに取り組んだ.男性の場合,競争相手が外集団のときの方が競争を好むことが明らかとなった.女性の場合は,競争相手が内集団であろうと外集団であろうと競争を好まないことがわかった.男性が外集団との競争を好むようになったのは,外集団との競争でパフォーマンスが上昇し,さらに,自信過剰になったことが原因だと考えられる.
著者
石部 真人 角田 康夫 坂巻 敏史
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.88-92, 2009 (Released:2011-12-03)
参考文献数
8

先進国株式市場を対象に最小分散ポートフォリオを構築し,その実現リスクが期待通りに低いこと,および時価加重ポートフォリオとの比較検証を通して,最小分散ポートフォリオが時価加重ポートフォリオよりも優れた効率性を示すことを実証する.さらに日本株のリスク分位ポートフォリオを構築し,リスクとリターンのトレードオフが成立していないことを示す.
著者
高橋 義明
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, no.Special_issue, pp.S13-S18, 2018 (Released:2019-04-10)
参考文献数
10

幸福度は政策当局者にも利用されるようになり,世界幸福報告書の公表など国際比較も盛んになっている.世界幸福報告書では各国の幸福度を6つの要素で説明しているが,幸福度平均値の差はむしろ残差で生じている.残差が文化差を示すのかを検証するため,現在の幸福の投影元として「理想(イデア)の幸福度」(11件法)による測定を試みた.日本での5つの調査結果からは不幸せをプラスに評価し,高い割合で「中位の幸福度」を理想とする傾向があった.幸福度(現在)と理想の幸福度の得点差を考慮して幸福度(現在)を調整し,欧州各国の幸福度(現在)に関する頻度分布を利用してクラスター分析を行うと,日本はいずれの調査でもデンマークなど幸福度平均値が高い国と同じクラスターに分類された.以上から,今回提案された幸福度の測定方法を用いると,「アジアの人々の幸福度が低い」との悲観的な結論はえられず,むしろ北欧や中南米の人々の幸福度と差がないと解釈できることが示された.
著者
佐伯 政男 前野 隆司
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.3, pp.146-152, 2010

幸福度を継続的に自己管理するための手法として,カレンダー&middot;マーキング法を開発した.カレンダー&middot;マーキング法は,一日の終わりにその一日を振り返り,主観的な評定を行う手法である.すなわち,評定の結果,その日がよい日であったら「◯」,悪い日であったら「&times;」,どちらでもない日であったら「△」をカレンダーの日付欄に記録する.心理学部の学部生を対象に,10週間,手法の実施を行った.実施後に測定したThe Satisfaction with life Scale (SWLS)では,手法の実施群と対照群のSWLSに統計的に有意差は見られなかった.SWLSと各被験者の各記号の総数との相関係数は,◯,△,&times;,それぞれ,0.506,-0.439,-0.237であった.分析の結果,よい日にも悪い日にも△を付ける傾向が見られた.◯を増やし△と&times;を減らすことによって幸福度を向上させうることが示唆された.また,被験者間,被験者内で各記号の報告には変動性が見られたことから,本手法で得られた結果は,主観的幸福度の測定手法として利用されうることを示した.
著者
布施 匡章
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.114-117, 2015 (Released:2016-05-07)

本研究では,内閣府が実施した,神戸,名古屋,仙台の3都市アンケートデータを用いて,地域コミュニティの代理変数としてのソーシャル・キャピタルが,防災活動における自助・共助意識に与える影響について分析した.地域別,あるいは震災経験別による分析の結果,自助の防災意識は,ソーシャル・キャピタルだけでなく,年齢,学歴,年収等によって高まることが示唆されたが,共助の防災意識は,ソーシャル・キャピタルのみが影響し,特にネットワーク,互酬性の規範と呼ばれる地域行事や地域活動が影響する可能性があるとされた.また,震災を経験した住民は経験していない住民よりも,共助意識とソーシャル・キャピタルを高める活動との相関が高いことが分かった.地域行事や地域活動への参加を促す政策が,自助のみならず共助による防災につながると考える.
著者
川越 敏司
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.12, pp.15-25, 2019

<p>実験経済学においては被験者の選好統制を行うために報酬を支払うが,これまで使用されてきた様々な報酬支払法のどれにも問題があり,これらの問題を回避するには1回限りの実験を行う必要があることを提案する.</p>
著者
石部 真人 角田 康夫 坂巻 敏史
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.5, pp.256-259, 2012

日本株式市場において,個別銘柄は1~6月は上昇し7~12月は下落という明瞭な季節性を示す.この季節性とボラティリティとの関係を調べた結果,上昇期は高リスク・高リターン,下落期は高リスク・低リターンという関係が見られた.この原因として,投資家が年前半はリスク追求的になり,年後半はリスク回避的になるという様にリスク選好が季節変化している可能性が考えられる.ボラティリティの高い銘柄は相対的に低リターンというボラティリティ効果は上昇期よりも下落期の影響が大きいため発生している.投資家のリスク選好が季節変化している理由は,効果が半年間持続していることを考慮すると,冬至から夏至,夏至から冬至に至る日の長さの変化による説明に説得力があると思われる.
著者
高阪 勇毅 Mardyla Grzegorz 竹中 慎二 筒井 義郎
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.5, pp.189-192, 2012

本論文は,気質効果の存在とその原因を経済実験によって調べた.本論文の特徴は次の3つである.第1に,現実の株式市場に似た取引環境を構築し,経済実験の環境下で現実の取引行動に近いデータを取得し,分析したことである.第2に,被験者の参照価格をアンケート調査から特定し,気質効果の存在を単独で検証していることである.第3に,損失局面と利得局面における各危険回避度を計測し,プロスペクト理論における損失回避が気質効果の原因の一つであることを検証したことである.
著者
山根 智沙子 山根 承子 筒井 義郎
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.2, pp.145-148, 2009

本稿は,大阪大学21世紀COEが実施したアンケート調査を用いて,所得と幸福度による地域間格差を分析した.まず,幸福度の格差は所得の格差より小さいことを見出した.次に,個人属性に由来する部分を調整した場合,県別での幸福度の差はほとんど解消することを見出した.また時系列でみると,所得格差は拡大したが,幸福度の格差は拡大していないことを示した.
著者
筒井 義郎
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.12, pp.1-14, 2019

<p>本稿は,結婚が幸福度に及ぼす影響に関連する研究をサーベイし,以下のような結果を報告する.結婚している人はしていない人より幸福である.結婚と幸福の因果関係については,両方向の関係が確認されている.一般に幸福感にはベースラインがあり,結婚というライフイベントについても,いったん上がった幸福感は速やかに下がっていくことが確認されている.しかし,順応が完全であるかどうかについては論争があり,決着していない.なぜ人は結婚するのか,どのようなカップルが結婚し幸せになるのかについて,Becker (1973) は家庭内生産というモデルを提示して,家庭内分業が効率的であり,それでも多くの特質については似たもの夫婦が効率的であることを示した.後者は選択配偶仮説として,心理学や社会学の分野で精力的に研究されており,価値観や性格が似たものが結婚し,幸福であるという結果を報告している.</p>