著者
荒井 弘毅
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.61-64, 2008 (Released:2011-12-03)
参考文献数
11

近年,民事訴訟における,仮の地位を定める仮処分の申し立てが頻発している.この仮処分に関しては,本案の上訴率と比べ,不服申立て率も取消率も低い.本稿は,この要因につき訴訟遂行にかかる費用の点から当事者は本案を求めることが多くないことを示し,上級審での勝訴の確率を考慮した上での訴訟当事者の意思決定の性質の点から検討した.
著者
後藤 晶
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, no.Special_issue, pp.S35-S38, 2018 (Released:2019-04-19)
参考文献数
15

人間は常にいつ生じるかわからない「変動」に直面しながら生きている.本研究においては突然起こる外生的な変動を「カタストロフ」と定義する.本研究においてはそれらの変動が利他行動に与える影響を検討する.そのために,パートナーマッチング繰り返し公共財ゲームと独裁者ゲームを組み合わせた新たなゲームである「公共財カタストロフ独裁者ゲーム」を考案し,クラウドソーシングを用いた大規模オンライン実験による実験的な検証を行った.その結果,①分配率は損失者が分配者,もしくは受益者であると大きくなること,②損失者による分配額に比べて,非損失者による分配額の方が大きいこと,③損失者に対する分配の頻度が多い,また非損失者による分配の頻度が多いことなどが明らかとなった.これらの結果は災害等の事象が生じた際の協力行動は利他的動機に支えられている可能性を示唆している.今後の課題として,外集団に対する行動傾向の解明,およびクラウドソーシングを用いた実験の妥当性の検討があげられる.
著者
岩崎 雄也
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.12, no.Special_issue, pp.S22-S24, 2019 (Released:2020-03-17)
参考文献数
6

本論文は「最低賃金を引き上げることで企業の生産性が向上する」という見解について,日本を対象に実証分析を行った結果を報告するものである.なお,対象業種は小売業および宿泊・飲食サービス業,対象期間は2003年から2017年とし,分析にあたっては企業別のパネルデータを使用した.結果として,日本では最低賃金の引き上げによって企業の労働生産性が向上する一方で,雇用は減少し,さらに付加価値額や労働時間には有意な影響はないことがわかった.これはすなわち,最低賃金を引き上げることで企業の労働生産性は向上するものの,それは雇用に対する負の影響によってもたらされた結果である可能性を示唆している.
著者
久米 功一 小林 庸平 及川 景太 曽根 哲郎
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.93-96, 2013 (Released:2014-08-12)
参考文献数
8

本稿では,仮想的な質問で得られた,法人税の増税や減税に対する企業行動の違いについて,リスクシェアリング,調整・取引コスト,法規制,赤字企業,非流動資産比率に着目して探索的に分析した.その結果,企業と従業員はリスクをシェアしており,売上高が大きく,流動資産が低く,赤字であり,労働法制を配慮している企業ほど,法人税の増減に対する対応に非対称性があることがわかった.
著者
石部 真人 角田 康夫 坂巻 敏史
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.256-259, 2012 (Released:2013-06-12)
参考文献数
11

日本株式市場において,個別銘柄は1~6月は上昇し7~12月は下落という明瞭な季節性を示す.この季節性とボラティリティとの関係を調べた結果,上昇期は高リスク・高リターン,下落期は高リスク・低リターンという関係が見られた.この原因として,投資家が年前半はリスク追求的になり,年後半はリスク回避的になるという様にリスク選好が季節変化している可能性が考えられる.ボラティリティの高い銘柄は相対的に低リターンというボラティリティ効果は上昇期よりも下落期の影響が大きいため発生している.投資家のリスク選好が季節変化している理由は,効果が半年間持続していることを考慮すると,冬至から夏至,夏至から冬至に至る日の長さの変化による説明に説得力があると思われる.
著者
俊野 雅司
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.14, no.Special_issue, pp.S5-S8, 2021 (Released:2022-03-18)
参考文献数
13

新規株式公開(IPO)に関しては,アンダープライシングとアンダーパフォーマンスという2種類のアノマリーの存在が指摘されている.わが国のIPO市場に関しても数多くの先行研究が行われており,わが国特有のブックビルディング(BB)方式の仕組みや引受会社の仮条件の設定方法に原因があるのではないかという指摘が見られる.本稿では,2022年4月から東京証券取引所において大幅な市場改革が行われることに先立ち,先行研究のサーベイを行うとともに,1992年以降わが国でIPOを実施した2,950銘柄を対象にIPO前後の価格形成に関する追検証を試みた.その結果,公開価格の決定方法がBB方式へ変更されて以降,新興企業向け市場を中心に初値収益率の大幅な上昇傾向が再確認できた.ところが,BB方式への変更後は,本則市場への上場銘柄では中長期的にオーバーパフォーマンスが発生しているなど,わが国特有の価格形成が見られる.
著者
山本 竜市 平田 英明
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.51-53, 2011 (Released:2012-03-29)
参考文献数
9

本研究では第一に,日本の投資家が期待を形成する際,ファンダメンタル戦略・トレンドフォロイング戦略を用いていることを示す.第二に,それら戦略を時間を通じて使い分けているという意味で「戦略の切り替え」を行なっていることを実証する.第三に,この「戦略の切替え」が実証的に見て日本の株価のファンダメンタル価格からの乖離を説明する上で重要であることを示す.本研究ではデータをバイサイドとセルサイドに分けて両者の「戦略の切替え」を検証し,戦略の切替の株価への影響の大きさを分析し,その影響の度合は投資家の属性により異なることを示す.
著者
髙橋 秀徳
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.88-95, 2019-01-22 (Released:2019-01-19)
参考文献数
36

本稿は新規株式公開(IPO)の価格形成に関する理論及び実証研究のレビューを行う.IPOパズルについては長い研究の歴史があるが,絶えず新たな研究が発表されている.近年の研究では,テクノロジーの発展に伴い新しい種類のデータや分析手法を利用することで,IPOパズルの解明が進んでいる.本稿では,この分野で特に行動ファイナンスが果たした役割に焦点を当て,IPO研究の過去と未来を俯瞰する.
著者
加藤 大貴 佐々木 周作 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.15, no.Special_issue, pp.S22-S25, 2022 (Released:2023-03-20)
参考文献数
6

本研究は,日本の風しん追加定期接種において2019年度から実施されたクーポン券送付施策の効果を,地方自治体の行政データと全国規模のオンライン調査データを用いて検証する.追加定期接種は,日本が風しんに対する集団免疫を獲得するために,抗体保有率の低い40~57歳の男性を対象に実施されるものである.クーポン券は自治体を通じて段階的に送付され,初年度の2019年度には,40~46歳の男性に限定して送付された.47~57歳の男性がこの年度中にクーポン券を受け取るには,居住地域の自治体に自分から申請する必要があった.分析では,年齢によって2019年度にクーポン券が自動的に送付されるかどうかが決まることを利用した回帰不連続デザインで,クーポン券の送付の効果を推定した.その結果,クーポン券の送付は,申請の取引費用の抑制と追加定期接種の認知度の向上を通じて,抗体検査の受検率とワクチン接種率を高めることが明らかになった.
著者
田村 輝之 江口 尚孝
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.97-100, 2011 (Released:2012-03-29)
参考文献数
9

本稿では,日本の労働市場におけるオイルショック以前,オイルショック期,バブル期,就職氷河期における職務満足度に対する特有の効果(コーホート効果)が存在しているか否かについて統計的に検証を行う.学卒時点における労働市場の需給状況が,その後の賃金や離職に長期的な影響を及ぼすことは,「世代効果」として多くの研究の蓄積が行われている.本稿では,これらの先行研究を踏まえた上で,初職の参入時期が調査時点における職務満足度にどのような影響を及ぼすかについて検討する.
著者
佐々木 周作 河村 悠太 渡邉 文隆 岡田 彩
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.14, no.Special_issue, pp.S9-S12, 2021 (Released:2022-03-18)
参考文献数
5

個人寄付の促進施策は,寄付金控除やマッチング寄付などの金銭的インセンティブを用いる施策から,過去の寄付者や有名企業・著名人の寄付情報といった提供情報の内容や表現を工夫する施策まで多岐に渡る.行動経済学研究を含む学術研究によって施策の有効性が実験で確認されているものも多いが,非営利組織の実務で活用されるかどうかは資金調達業務を担当するファンドレイザーが施策を効果的と評価しているかどうかに依存すると考えられる.本研究では,282名の現役ファンドレイザーにアンケート調査を独自実施して,12種類の施策の,寄付を促進する効果と寄付者満足度を高める効果に対する主観的評価を測定した.ファンドレイザーの回答傾向を相対化する目的で,497名の寄付者にも同様の調査を実施した.結果として,いくつかの施策に対する評価が二者間で大きく異なることが分かった.例えば,ファンドレイザーは「間接経費無し・振込み手数料の負担無し」の施策を12種類の施策の中で相対的に寄付を促進せず,寄付者満足度を高めないと評価したのに対して,寄付者は,寄付を促進し寄付者満足度も高めると真逆の評価をしていた.
著者
山口 勝業
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.12, no.Special_issue, pp.S1-S4, 2019 (Released:2020-03-17)
参考文献数
11

「日本人の金融リテラシーは米国人よりも低い」という通説があるが,じつは金融リテラシー調査の質問票の文面や回答者のバイアスによって米国のスコアが日本よりも高めに出ている疑いがある.これらの点を考慮すれば,金融リテラシーの客観的知識では日本人と米国人の違いはほとんどなく,主観的知識では米国人の自信過剰バイアスがスコアを高めていると思われる.
著者
平井 啓 佐々木 周作 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.10, no.Special_issue, pp.S20-S25, 2017 (Released:2018-04-12)
参考文献数
11

本研究では,乳がん検診の受診行動と乳がん罹患や乳がん治療に関するヘルス・リテラシーとの関連性について検討を行った.40歳台・50歳台の女性を対象として,横断的デザインによるオンライン・アンケート調査を実施し,1,628名を対象とした解析を行った結果,乳がん検診の受診経験および計画意図と,乳がんの罹患リスク認知の高さ,乳がん検診と乳がん治療の効果に関する利得の認識の高さ,乳がん治療に対する知識の豊富さ,すなわちヘルス・リテラシーの高さが関連することが明らかになった.この結果は,乳がん検診の受診により,実際よりもかなり大きめの罹患リスクの認識を形成し,それが検診受診の目標意図を形成すると解釈することが可能である.一方,乳がん罹患のリスク認知を大きく高めることが受診意図の形成に貢献する可能性も考えられる.これらの因果関係の識別には,ランダム化比較試験等を採用した介入研究による検証が今後必要である.
著者
水野 篤 平井 啓 佐々木 周作 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.12, no.Special_issue, pp.S32-S40, 2019 (Released:2020-03-17)
参考文献数
16

日本における乳がん検診受診率は欧米諸国の受診率(60–80%)と比較し低い水準にあり,受診率向上に向けた取り組みが重要と考えられる.本研究では,行動経済学的観点から利得フレーム・損失フレームに基づく受診推奨メッセージが与える影響に関して検討する.乳がん検診の主対象である40・50歳代の女性のうち,自治体検診・主婦検診の乳がん検診の対象者と想定できる者1,047名に対し,インターネット上で検診受診意図に利得フレームと損失フレームが与える影響をランダム化比較試験にて評価した.利得フレームと損失フレームでの実行意図,受診意図を認めた対象者は,それぞれ234 (45.0%) vs 250 (47.4%), 450 (86.5%) vs 477 (90.5%) であり,実行意図は有意ではなかったが,受診意図に対しては有意に損失フレームが影響を与えた.乳がんの検診受診においては危険回避度のみではなく,同定確率および治癒率を含めたモデルでより説明が可能であることを実験的環境で示し,本データでも再現性を確認した.
著者
内田 由紀子
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.162-164, 2012 (Released:2013-05-29)
参考文献数
11
被引用文献数
2

本論文では指標作成などを通じて幸福についての国際的議論を醸成する上で,「文化的幸福」を捉えることが重要であることを指摘する.その上で,1) 幸福度指標についての心理学的知見を延べ,2) 日本にはバランス志向的幸福観が存在することを呈示し,3) 持続可能な社会に向けて日本における幸福感が果たしうる役割と国際的な幸福研究に向けての提言を行う.
著者
河合 伸
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, no.Special_issue, pp.S19-S21, 2018 (Released:2019-04-10)
参考文献数
8

本稿は,ゲーム理論の代表的ゲームである「囚人のジレンマ」について,人間の「利他性」を導入することにより,「非協力」かつ「有限回」のゲームであっても囚人のジレンマ状態が解消されるケースがあることを示すことを主眼としている.囚人のジレンマ状態となる主な条件は,(i)非協力ゲームであること,(ii)自分の利得のみに関心があること,(iii)有限回のゲームであることである.このなかで,(i)および(ii)の条件が成立していても,(iii)の条件が成立していない場合,すなわち,無限回繰り返しゲームによって,囚人のジレンマが解消されることが知られているが,ここでは,(i)と(iii)の条件が成立していても,(ii)の条件を緩和し,自身の行動が自分の利得のみならず,他人の利得に及ぼす影響にも関心がある場合,その関心がある程度高ければ,囚人のジレンマは解消され,「聖人の調和」が達成されることを示す.
著者
保原 伸弘
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.3, pp.262-265, 2010

前々回,前回発表した,ヒット曲性質と経済状況の関係に続いて,同じコンテンツ産業に関する分析として,今回は映画のジャンルに注目する.それにより,少なくとも日本に関する限り,ある特定のジャンルと経済状況とが有意な相関があることが確認できた.現実肯定型のアクションとシリアスはDIと正の相関,現実逃避型のSFと恋愛はDIと負の相関であった.さらに今年は単なる事象の記述にとどまらず,企業行動への応用も議論する.すなわち,この相関に則って映画会社が行動した場合,その年の営業成績も好調だし,その法則に則って行動しない場合,その年の営業成績も不調になる.とりわけ,米国からの買い取りの場合,この法則に則って,封切するタイミングが重要となる.以上を論じた後,前々回と前回得られたヒット曲のデータも合わせて,それらを社会心理のあらわれと考えた場合,実際のマクロ経済にどう影響を与えているかまで考察する.
著者
山根 智沙子 山根 承子 筒井 義郎
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-26, 2008 (Released:2011-12-03)
参考文献数
31
被引用文献数
5

本稿は,地域間格差を測るには,所得よりも住民の幸福度を用いるべきであると主張し,大阪大学21世紀COEが2003年度∼2006年度に実施したアンケート調査を用いて,所得と幸福度による地域間格差を分析した.まず,県の平均値の多重比較,ジニ係数,県ダミー変数への回帰という3つの方法によって,幸福度の格差は所得の格差より小さいことを見出した.次に,回帰分析によって,性別,年齢をはじめとする個人属性,並びに所得のうち個人属性に由来する部分を調整した場合,県別での幸福度の差はほとんど解消することを見出した.2003年∼2006年に,所得の全国平均値は増大する一方,所得格差は拡大したこと,幸福度の全国平均値は低下したが,幸福度の格差は拡大していないことを示した.
著者
青山 肇紀 青山 道信
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.12, pp.190-214, 2019

<p>人々の消費行動における異時点間の選択は普遍的な課題である.双曲線型割引関数を持つ個人が事前の意図より過剰消費し,コミットメントより自己資産の流動性を制約する自己統制の問題は家計資産の選択に決定的に重要である.本稿は大阪大学が実施した「暮らしの好みと満足度に関するアンケート」のパネルデータを用いて2009年から2012年までの4年間に日本,米国,中国,印度の4カ国を対象に,家計の割引構造,消費と所得・資産の限界消費性向を統計学的に実証分析したものである.双曲線型割引関数を持つ家計は,その比率が日本で21%,米国で14%と顕著に違い,過剰消費のアノマリーが中国で確認されず日米印で確認された.消費と所得との連動性が米国(非線形)と印度(線形)で確認されたが,日本では連動性が弱く,負債との連動が確認された.米印における固定資産の限界消費性向が有意に正で,金融市場におけるイノベーションが過剰な流動性を供給しコミットメント効果を希薄化する中で家計の自己統制の変化,及び限界消費性向のシステマティックな上昇の可能性が示唆された.</p>