著者
一色 信彦
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.153-158, 2003-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
22

One-hour discussion after the lecture was focussed on rather basic voice problems, a little apart from the clinical problems the author emphasized. They include 3 main topics.1. The function of the vocal muscleAccording to recent reports, replacement of the vocal muscle with fat tissue, which was performed for spasmodic dysphonia, demonstrated that a fairly good voice could be obtained. Taking into account the clinical facts together with numerous experimental findings, the discussion tended to be settled at “the vocal muscle may not be essential for phonation but it is probably so for the control of voicing”.2. Model for phonationVarious models for phonation were discussed, including the Schoenhaerl, Hirano, Ishizaka, and Titze. The Hirano's “body and cover” model is essentially the same as the Schoenhaerl's concept emphasizing the mobility of the mucosa, the author thought. Since it is impossible to define the “body” discretely, whether it means the vocal muscle only or not, it may be misleading sometimes. In Titze's model, the figures for the body in terms of mass, location, and stiffness, is very difficult to assign on the anatomical basis. The only possible means to judge whether the model and hypothetical figures are correct or not would be to examine whether the model output curve matches well with the real vocal output under various physiological conditions.3. DiplophoniaThis terminology is sometimes confusing. The voice of vocal fold paralysis is often referred to as diplophonia. But it should be realized that the two different musical tones are not being produced. It is a kind of irregular tone, or hoarseness. The two vocal folds with different tension do not produce twopitched tone. One vibrating vocal fold perse cannot be a source of sound in a practical sense. Possibility of producing a sound such as confusing with glottal sound in the articulatory organ was discussed.
著者
佐藤 裕 森 浩一 小泉 敏三 皆川 泰代 田中 章浩 小澤 恵美
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.181-186, 2004-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
24
被引用文献数
3 2

吃音者の聴覚言語処理における大脳左右機能の分化異常について, 多チャネル近赤外分光法を用いて測定した.音刺激には音韻もしくは抑揚の異なる対立を用い, 左右それぞれの聴覚野付近にて得られた総ヘモグロビン量の反応ピーク値を基に側化指数を算出し左右差を検討した.その結果, 吃音者群では音韻・抑揚対比セッション間で側化指数に有意差がなく, 言語処理の半球優位性が見られないことが確認された.また, 個人内の検定では, 健常右利き成人の85%で音韻処理が左優位と判定できるのに対し, 右利き成人吃音者の80%は左優位を示さず, 逆に右優位となる被験者も存在した.これらのことから, 吃音と言語処理の大脳半球優位性の異常との関連が示唆され, この手法により吃音者の聴覚性言語処理の機能異常を個人ごとに捉えられることが判明した.
著者
狐塚 順子 宇野 彰 北 義子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.131-137, 2003-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

モヤモヤ病術後の脳梗塞により左大脳後部に病巣を認め, 新造語, 錯語を呈した小児失語の1症例について, 呼称における誤反応の継時的変化を検討した.SLTAの呼称においても, 訓練時使用したすずき絵カードの呼称においても, 発症から時間が経つにつれ, 誤反応における新造語と語性錯語, 字性錯語の占める割合が減少した.これらの経過から, 本症例では意味処理過程も音韻処理過程も改善したのではないかと推察された.また小児失語症では新造語や錯語の報告は少なく, 新造語は発症のごく初期に限られ, その特有な経過は頭部外傷に関係するとされているが, 本症例では脳梗塞が原因で, 発症約1年後でも呼称において新造語が出現したことから, 成人失語症例と同様, 脳血管障害であっても新造語は生じ, かつ慢性期においても残存する可能性が考えられた.流暢性失語症である本症例の病巣は左大脳後部病変であったことから, 成人例での損傷部位と流暢性に関する対応関係が, 小児失語症例においても認められるのではないかと思われた.
著者
今富 摂子 荒井 隆行 加藤 正子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.304-314, 2003-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
26
被引用文献数
1 2

開鼻声の聴覚判定における嗄声の影響を調べるため, 音源フィルタ理論に基づいて健常音声, 顕著な開鼻声, 軽度粗槌性嗄声, 重度粗槌性嗄声から, 4種類のフィルタ (顕著な開鼻声, 健常音声それぞれの/a/, /i/) と6種類の音源 (健常音源, 軽度粗慥性音源, 重度粗慥性音源それぞれの/a/, /i/) を組み合わせ, 24種類の音声刺激を合成し, 言語聴覚士を対象に, 5段階尺度で開鼻声の聴覚判定実験を行った.健常フィルタ, 顕著な開鼻声フィルタの両方で, 音源の種類によって開鼻声の判定値が変化した.特に重度粗槌性音源では, 顕著な開鼻声フィルタにおいて開鼻声の聴覚判定値が著しく低下した.軽度粗槌性音源では, フィルタの種類や聴取者によって, 結果にぼらつきが認められた.嗄声が開鼻声の聴覚判定値を変化させる要因として, 嗄声の音響特性によるスペクトルの変化が考えられるが, 詳細については今後検討が必要であると思われる.
著者
中島 悦子 塩田 純一 河村 満
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.209-216, 1999-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
14
被引用文献数
1

左被殻出血で失語と右片麻痺を呈した多言語併用例を報告した (55歳, 右利き, 男性) .本例は, 言語の習得時期, 習得環境, 言語体系が異なり, 琉球方言―日本語標準語スペイン語併用者と考えられた.血腫除去術後, 習得したすべての言語で重度の運動性失語が認められた.言語間の重症度は, 従来の言語の習得・使用状況説に加えて脳の損傷部位や失語の病型が関与すると考えられた.本例の発話の回復は, 言語治療に用いかつ学校で学んだ標準語で良好であり, 妻が使用した母国語の琉球方言や親しんだスペイン語は不良であった.本例は, 琉球方言とスペイン語を聴覚的に習得したのに対し, 標準語は聴覚とともに日本語の文字として視覚的にも習得している.すなわち本例の言語間の回復の相違は, 従来の言語の習得条件, 使用状況, 心理的要因説に加えて, 脳の損傷部位や失語の病型, 習得方法が影響を及ぼし, さらに言語治療の有無でも回復に差が生じたと考えられた.
著者
白坂 康俊
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.331-335, 2002-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
1
被引用文献数
1 1

運動障害性構音障害の機能回復において, 最も重要な要因の一つは, 発現機序の正確な特定である.しかし, これまでのような, 聴覚印象的な評価と各発声発語器官の粗大運動レベルの機能評価を結びつける方法では十分に特定できるとはいいがたく, また具体的な訓練プログラムも立てにくかった.今回, 日本語の各音素を実現するために必要な構音動作的要素を抽出し, この要素ごとに運動機能低下を評価する, いわば調音音声学的評価方法を提唱した.同時に, この評価方法で, 構音動作的レベルと各発声発語器官の粗大運動レベルの運動機能低下の関連性を評価できることも示した.さらに, 構音動作的要素の問題点に対し, 運動障害性構音障害のタイプ別の特徴に配慮した訓練アプローチ, いわば運動学的アプローチを適用することの重要性を提言した.
著者
伊澤 幸洋 小嶋 知幸 加藤 正弘
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.217-226, 1999-07-20
参考文献数
10

仮名の読み書きは良好である一方, 漢字に失読失書症状を呈した失語例に対して, 漢字一文字の音読みの改善を目的に2種類の訓練法を適用し, 訓練効果の比較検討を行った.1つは当該漢字を含む熟語をキーワードとして対連合学習する訓練 (以下, キーワード法訓練) , もう1つは漢字一文字と読み仮名との対応を直接再学習する訓練 (以下, 非キーワード法訓練) である.2つの実験を構成し, 自然治癒の要因を統制した上で, 2種の訓練効果を比較した.実験1は5日間のキーワード法訓練, 実験2は5日間の非キーワード法訓練とそれに続く5日間のキーワード法訓練からなるA-Bデザインである.結果, キーワード法訓練では統計的に有意な効果が得られ, 訓練終了後もその効果が持続することが確認された.一方, 非キーワード法訓練では効果が得られなかった.キーワード法による音読は, 文字を直接音韻に変換する情報処理過程が障害された際, 文字から意味を経由して音韻にいたるルートによって文字から音韻情報を引き出す手法である.これまで仮名一文字の書字や音読の訓練手法として報告されてきたキーワード法が, 本症例では漢字の音読みにも利用可能であることが確認された.また, 本症例の症状から, 同じ形態から音韻への変換でも仮名と漢字では処理過程が異なり, 障害の程度に乖離がありうることが示唆された.
著者
山鳥 重
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.262-266, 1996-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

主として口頭言語の生成機構について, 鳥瞰的見取図を提示した.おおまかに考えて, 言語生成には環シルビウス溝言語領域, 環・環シルビウス溝言語領域, 右半球言語領域の3つの領域が重要である.環・環シルビウス溝言語領域の活動には補足運動野, 視床も加わる.環シルビウス溝言語領域は音声系列の生成, 環・環シルビウス溝言語領域は音声系列への言語的意味の充填, 右半球言語領域は意味ある音声系列への社会的意味の充填に働く.三者共同して生きた言語が生成する.
著者
酒井 奈緒美 森 浩一 小澤 恵美 餅田 亜希子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 = The Japan Journal of Logopedics and Phoniatrics (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.16-24, 2006-01-20
被引用文献数
1 2

吃音者がメトロノームに合わせて発話すると, 流暢に話せることが知られている.その現象を利用し, 多くの訓練のなかでメトロノームが利用されてきた.しかしその効果は日常生活へと般化しづらいものであった.そこでわれわれは国内で初めてプログラム式耳掛型メトロノームを開発し, 日常生活場面において成人吃音者へ適用した.耳掛け型メトロノームは, 毎分6~200の間でテンポを設定でき, ユーザーによる微調整も可能である.また音量は20~90dBSPLの間の任意の2点を設定でき, ユーザーが装用中に切り替え可能である.1症例に対し約3ヵ月半, 発話が困難な電話場面において適用したところ, 電話場面と訓練室場面において吃症状の減少が認められた.本症例は発話が困難な電話場面を避ける傾向にあったが, 耳掛け型メトロノームの導入により, 積極的に電話ができるようになった.また自己評価の結果から, 症例自身は吃頻度以外の面での改善を高く評価していることも認められた.
著者
鈴木 重忠 能登谷 晶子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.257-263, 1993
被引用文献数
6 5

主として重度聴覚障害児の言語指導法の確立のために, 私どもが20余年前から開発してきた金沢方式 (従来の聴覚-口話法に加えて, 文字や手指言語をも早期から指導する) に関する研究結果を総括し, 金沢方式を支持する先人の見解や最近の文献を紹介した.その結果, 次の原則を得た.1) 手指や文字言語も健聴幼児が音声言語を発達し始める時期とほぼ同時期から発達させることが可能.2) 音声・文字・手指言語モダリティ間の機能移行が可能であり, かつ多様の移行ルートを持つ.したがって, 3) 早期から親子間のコミュニケーションを成立させ, 音声言語の発達を促進するためには, 文字や手指言語を早期から活用することが必要.4) 個々の聴覚障害幼児と発達の特性を考慮した言語指導法の選択が重要.また, 聴覚障害幼児の言語指導と人工内耳や聴能の鑑別との関連および聴覚障害幼児の選別システムなどについての将来展望を述べた.
著者
石毛 美代子 村野 恵美 熊田 政信 新美 成二
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.172-177, 2003-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

音声治療により良好な効果を得た外転型痙攣性発声障害 (外転型SD) の24歳, 女性症例を報告した.本症例では間欠的な無声化などの音声症状が (会話中) ピッチの上昇に伴って出現し, 話声位を下げると軽減した.音声治療で話声位を下げ症状の軽減を図った.G3 (196Hz) とB3 (約247Hz) の2つの目標話声位を設定し, 単語, 短文, および文章での発話練習を行い, さらに, 会話を中心とした使いこなし (carry over) 練習を加えた.治療後の結果は満足すべきものであり, サウンドスペクトログラムの結果も臨床的な印象を裏づけるものであった.6名によるモーラ法での音声評価の結果, 何らかの音声症状があると評価されたモーラ数の平均値は, 治療前は82.5であったが, 治療後は14.5 (54単語, 全176モーラ中) に減少した.話声位を下げることにより音声症状の軽減が得られたことから, 本症例の音声症状には輪状甲状筋の異常が関与している可能性が示唆された.
著者
新美 成二
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.242-247, 1999-07-20 (Released:2010-06-22)

声帯に病変があると, 声質が劣化することは衆目の認めるところである.そこで病的音声の生成の機構を知るためには声帯振動を子細に観察しなければならない.観察方法は数多くあるが, 中でもストロボスコピーは, その簡便さ, 安全さ, さらに経済性から臨床ではよく用いられる.しかし原理的に不規則な声帯振動の観察には適していないために, その臨床応用には自ずから限界がある.最近, 電子工学および計算機を用いた情報処理技術が進歩し比較的手軽に声帯振動を高速撮影をすることが可能になってきた.今回の報告ではこのような方法を用いることによって声帯振動と声の質との関係, さらに聴覚印象の異なる音声の生成機構について解説を行った.
著者
村尾 忠廣
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.255-259, 2000-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
7

1960年代以降, 音痴に関するおびただしい数の研究論文が発表されてきているが, 日本では90年代に入ってカラオケとの関係で急速に関心が寄せられるようになった.しかし, 欧米におけるこれまでの科学的な先行研究が踏まえられていない.本報告では, まず, 音痴の概念, 現状, 原因, 治療法の4点について先行研究を外観し, その上で, コンピュータを使った視覚フィードバックによる診断と治療法 (SINGAD, VSG) について述べる.
著者
高野 佐代子 本多 清志
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.174-178, 2005-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
11
被引用文献数
5 4

磁気共鳴画像法 (MRI) は体内の3次元可視化に優れており, 発話器官の機能解析の研究にも使用されている.しかし音源の生成にかかわる喉頭はサイズが小さいため, 十分な画像分解能やS/N比が得られない.また呼吸運動に伴い動きによるアーチファクトが生じやすいという問題がある.これらの問題を解決するために, 小型アンテナを用いた高感度喉頭用コイルを試作し, アーチファクトを防ぐために発声同期撮像法を考案した.以上の喉頭撮像法を用いて, 男性被験者1名が普通の声 (120Hz) と高い声 (180Hz) で母音/i/を繰り返し発声したときの喉頭画像を記録した.得られた画像精度は喉頭軟骨の計測に十分であり, この画像より輪状甲状関節の運動を計測した.本実験の被験者では, 両者の声の高さにおいて輪状甲状関節には約5度の回転と約1mmの滑走が認められた.
著者
五島 史行 矢部 はる奈
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.273-276, 2008-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
5
被引用文献数
2 1

難聴を一定期間放置すると語音明瞭度が低下することは長期間の難聴に伴う聴取能の剥離として知られている.高齢者の補聴器装用者の問題は語音明瞭度の低下によるものが多い.近年, 言語聴覚士の積極的介入を軸とした補聴器フィッティング, 装用訓練を導入し補聴器装用訓練が奏功する可能性が報告された.言語聴覚士を積極的に活用できる医療施設等は限定されるため, より簡便な聴能回復リハビリテーション法が必要である.今回われわれは, 自宅での音読トレーニングなどを指導することによって裸耳の語音明瞭度の改善を認めた症例を経験したので報告する.症例は77歳女性.2005年7月に感音難聴を主訴に初診.両側高度感音難聴を認めた.語音明瞭度は右30%, 左20%であった.書籍“脳を鍛える大人の音読ドリル―名作音読・漢字書き取り60日”を用いたトレーニング, 新聞の音読をすることを指示した.6ヵ月後右耳の語音明瞭度は60%まで改善した.
著者
白坂 康俊
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.248-252, 2007-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
4

AACを適応する場合, コミュニケーションを維持するための言語力ならびに精神機能の評価と, 機器を操作する身体機能の評価を行う.評価の結果, 言語処理過程のうちどの過程の障害かが判断できるので, それにそって適応を決定する.適応にあたっては, 実際の装用状態での継続的な評価が重要であり, 実用的に使用している状態まで確認することが大切である.また, AACの限界は, 使用する側の障害の重症度から生じる限界と, 機器そのものがもつ限界がある.こうした限界を十分知りながら適応を考えることにより, 初めて障害をもつ方のQOLに貢献することができる.その一方で, 適応の限界を広げていくための努力も強く求められている.
著者
小川 真 吉田 操 渡邉 建 喜井 正士 杉山 視夫 佐々木 良二 渡邊 雄介
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.292-297, 2003-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
13
被引用文献数
3 2

muscle tension dysphonia (以下MTD) は, 発声時に, 喉頭の筋肉の過剰な緊張が原因で喉頭内腔が押し潰されることによる発声の異常のことを意味しており, 喉頭の内視鏡検査では, 仮声帯の過内転, 披裂部の喉頭蓋基部への前後方向への圧迫の所見を示す.また, 音声訓練による治療が奏功しやすいといわれている.しかしながら, 音声訓練が実際に喉頭所見を改善するか否かということについては不明であった.われわれは, 経鼻ファイバースコープ検査より, 持続母音発声時の喉頭内3部位の圧迫の程度から算定する「MTDスコア」を開発し, MTD症例に対する音声訓練の治療効果を明らかにするために, 治療経過を通じてのMTDスコアの変化について検討した.対象症例は, 男性25例, 女性6例であり, 年齢分布では60代後半にピークを認めた.問診による発症に先行するエピソードの解答は多様であった.音声訓練による治療の経過において, 全31例中24例で, 音声訓練の回数を経るにつれて, 経時的に過緊張発声障害スコアの減少が認められた.そのなかの21例においては, スコア0となり, 同時に嗄声の消失が認められた.3例においては, 数度の増悪の後, 最終的にスコア0となった.残りの4例は不変または増悪した.結果として, MTDに対して, 音声訓練による治療が有効であることが強く示唆された.
著者
内藤 泰
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.264-271, 2001-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
38
被引用文献数
2 1

聴皮質の一次聴覚野と聴覚連合野には細胞構築だけでなく, 発達期における髄鞘化においても明らかな差がある.ポジトロン断層法 (PET) で人工内耳を介した語音聴取中の言語習得前失聴者の脳賦活を観察すると, 一次聴覚野はある程度活動するが聴覚連合野の賦活は乏しく, 一次聴覚野の機能は先天的に規定される要素が強く, 聴覚連合野の発達は後天的な言語音聴取に強く依存していることが示唆された.また, 言語習得前失聴の小児でも人工内耳を使い続けることで聴覚連合野に語音認知の神経回路が発達し得るが, その発達は視覚言語の発達と競合する可能性がある.一方, 臨界期をすぎると語音認知の神経回路は長期間, 強固に保持されるが, 加えて, 人工内耳で符号化された語音の認知に際しては, 側頭葉の聴覚連合野だけでなく, ブローカ野や補足運動野の活動も亢進することが明らかになった.