著者
成瀬 悟策
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
教育・社会心理学研究 (ISSN:0387852X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.135-148, 1967-03-31 (Released:2010-03-15)
参考文献数
11

脳性麻痺に基本的な行動特徴としてみられる過度緊張を解消, 軽減させるものとして, 弛緩行動というものを考え, それをもたらすための有効な方法としての催眠による弛緩効果を, 筋電図その他の指標によって確かめるとともに, 充分な弛緩は, 催眠に限らず, 覚醒のままでも, 体系的に弛緩を進めれば, それが可能であることを明らかにした。しかも, 一時的な弛緩だけでなく, それを持続させ, あるいは, 任意に弛緩できるようにするためには, 弛緩行動の学習がなされねばならず, それには弛緩感覚の獲得と, 自己弛緩の学習が必要なこと, および, そのための手続きの幾つかを資料とともに述べた。また, こうした弛緩に伴なって明らかになった問題として, 脳性麻痺と呼ばれる運動的disabilityに二種類が区別され, ことにprimary disabilityの判定が機能訓練には大切なこと, およびsecondary disabilityの最も特徴的なものとして定型化成が挙げられ, この定型のblockingが弛緩行動のためにも, その後の機能訓練にも重要なことが述べられた。
著者
和田 実
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.49-59, 1991-07-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
25
被引用文献数
8 3

本研究の目的は, 対人的有能性の下位概念としてのノンバーバルスキルおよびソーシャルスキルを測る尺度を作成することである。データは大学生 (男子68名, 女子174名) から収集された。因子分析の結果, ノンバーバルスキルについては二つの因子-非表出性および統制, 感受性-, ソーシャルスキルについては三つの因子-関係維持, 関係開始, 自己主張-が抽出された。そして, 既成の類似した尺度 (ACT, SM) およびいくつかの社会的変数 (きょうだい数, 親友数, 孤独感およびその変化, 恋人の有無など) との関連から, この尺度が妥当であることが確かめられた。なお, 具体的には以下の結果が見いだされている。: (1) ノンバーバル感受性, ソーシャルスキルの関係維持は男性よりも女性の方が優れている。(2) ソーシャルスキルの関係維持に優れない者ほど, 孤独を感じている。(3) 恋人がいる者の方がいない者よりも, ノンバーバル感受性を除いたすべてのスキルで優れる。(4) 全体でみれば, 孤独感が減少した者の方がソーシャルスキルの関係維持, 自己主張に優れる。今後は, 特にノンバーバルスキル尺度の項目内容のさらなる検討が必要であろう。
著者
Ryosuke Yokoi Kazuya Nakayachi
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.46-50, 2019 (Released:2019-08-23)
参考文献数
11
被引用文献数
3 7

This study examined the determinants of trust in artificial intelligence (AI) in the area of asset management. Many studies of risk perception have found that value similarity determines trust in risk managers. Some studies have demonstrated that value similarity also influences trust in AI. AI is currently employed in a diverse range of domains, including asset management. However, little is known about the factors that influence trust in asset management-related AI. We developed an investment game and examined whether shared investing strategy with an AI advisor increased the participants’ trust in the AI. In this study, questionnaire data were analyzed (n=101), and it was revealed that shared investing strategy had no significant effect on the participants’ trust in AI. In addition, it had no effect on behavioral trust. Perceived ability had significantly positive effects on both subjective and behavioral trust. This paper also discusses the empirical implications of the findings.
著者
Haruka Shimizu Kazuaki Abe Ken’ichiro Nakashima
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.119-123, 2020 (Released:2020-03-10)
参考文献数
13

Shimizu, Nakashima, and Morinaga (2016) reported that tendencies consistent with defensive pessimism (DP) are positively associated with considerate and respectful behavioral intentions toward strangers. However, two limitations hinder the generalizability of their findings: (1) their participants were exclusively female students of a women’s junior college, and (2) the cognitive strategy scale used in their study did not take all four types of cognitive strategy; i.e., DP, strategic optimism (SO), realistic pessimism (RP), and unjustified optimism (UO), into consideration. We replicated Shimizu et al. (2016) with adult respondents and used a different scale to enhance the generalizability of the results. Japanese adults (N=337) participated in an online survey. Path analysis of their responses indicated that a relationship exists between DP and behavioral intentions, which was consistent with the findings reported by Shimizu et al. (2016). The study also produced exploratory evidence that individuals that exhibit UO show less considerate and respectful behavioral intentions in interpersonal contexts than those who display SO or RP.
著者
Sumin Lee Ken’ichiro Nakashima
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.107-113, 2020 (Released:2020-03-10)
参考文献数
24
被引用文献数
4

The present study sought to examine the effects of the shift-and-persist strategy on the psychological outcomes of individuals with a low socioeconomic status (low-SES). Although previous research has shown that this type of strategy has beneficial effects on the physiological responses and health of individuals with low-SES, its effects on psychological outcomes have not been thoroughly studied. The present study investigated the relationship between shift-and-persist tendencies, childhood SES, and depressive tendencies using two samples. We performed multiple regression analysis of the obtained data. The results of study 1 (N=99 female undergraduates) showed that an individual’s tendency towards depression was negatively related to their persisting tendency, but not their shifting tendency. This relationship was replicated in study 2 (N=662 working adults). Although the results do not correspond with previous research, our finding that persisting is connected to psychological outcomes, such as depressive tendencies, is important.
著者
中村 国則
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.12-22, 2002-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
25

従来の社会的認知モデルは, 主に社会的対象の性質に注目し, 処理過程を記述している。しかしこれまで, 同じ対象に対する評定であっても客観的な数値に基づいて行うか (客観的評定), 主観的な印象に基づいて行うか (印象評定) によって評定結果が相違することが知られている。従来の社会的認知モデルでは, この相違を説明できない。本研究の目的は, 両評定の相違の背後に存在する処理過程を検討することである。本研究は, 代替帰結効果 (Windschitl and Wells, 1998) に基づいて, 両処理過程の相違を関連する事象間の比較プロセスの相違と解釈し, 2つの実験を行った。実験1では, 関連する比較事象が存在しない状況で, 実験2では, 関連する比較事象が存在する状況で, 被験者は架空の国における疫病対策プログラムの効果を評価することを, 両評定で求められた。その結果, 実験2において両評定の相違が確認された。以上の結果から, 客観的評定と印象評定との相違を確認し, 両評定の相違が比較プロセスの影響にあることを示した。また, 社会的認知に対する幾つかの示唆を論じた。
著者
斉藤 耕二
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.121-127, 1978-02-15 (Released:2010-11-26)
参考文献数
9
被引用文献数
4 4

視覚的媒体を利用して, 対象者についての刺激情報を示した際のパーソナリティ判断における規定要因を明らかにするために, 被験者の性, メガネ, 呈示, 対象者の性を要因として25尺度 (特性) について評定されたパーソナリティ判断について分散分析を行なった。その結果メガネをかけることによってかけていない場合より知能が高く判断されることが, これまでこうした事実が明らかにされている諸国と文化的背景を異にするわが国でも見出された。メガネをかけた場合に知能が高く判断されるのは, 対象者についての情報が不十分な条件下に限定されるというArgyleの理論を, メガネ要因と呈示要因の交互作用として検討した結果, 支持する事実を見出すことができなかった。またメガネをかけることの効果が, 知能のみでなく他の多くのパーソナリティ特性におよぶであろうという予想は, メガネ要因が半数を越す多くの尺度で有意であったことによって支持されている。このことよりメガネをかけている, いないによって知能をふくめて数多くの特性についての判断が異なってくることが明らかになった。メガネをかけることのパーソナリティ判断への効果が, かける人の性によって異なるのではないかという予想と一致する有意な効果は, 25尺度中わずか1尺度で見出されただけにすぎず, 実験的条件のもとでのパーソナリティ判断では, メガネ要因と対象者の性要因の交互作用は大きな効果をもつものではなさそうである。
著者
Keita Suzuki Tomoya Yoshino Yukiko Muramoto
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.50-55, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
11

Although it is well known that implicit theories (beliefs regarding the malleability of human attributes) affect one’s motivation, less is known about how these effects manifest themselves in certain educational environments. This study investigated how implicit theories moderate the effects of selection systems, which are prevalent in educational settings, on individual effort. The results indicated that when entity theorists (people who think ability is fixed) who performed relatively well received negative feedback and were not selected, they exerted less effort compared with incremental theorists (people who think ability is malleable). The negative effects of selection systems on motivation might be amplified among entity theorists when they are faced with an undefeatable rival.
著者
上野 徳美
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.195-201, 1994-11-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
15

本研究は, 被影響性の性差, すなわち説得の受容や抵抗を規定する受け手の男女差の問題を説得の圧力 (自由への脅威) の強さとの関連において検証することを目的とした。とりわけ, 説得の圧力の大小によって性差の生じ方に違いが認められるか否か, また, 性差が見られる場合, そこにどのような心理的メカニズムが働くかを中心に検討した。実験は, 2 (説得メッセージの圧力: 大, 小) ×2 (受け手の性別: 男, 女) の要因計画に基づいて実施され, 説得メッセージの提示直後に, メッセージに対する反応が多面的に測定された。実験の結果, 説得に対する認知反応 (好意的思考) に関して受け手の性の主効果が見られ, 女性は説得に肯定的な反応を示したのに対して, 男性は否定的な反応を示した。話題に関する意見においては十分に有意ではなかったが, 性の主効果の傾向が認められた。また, 認知反応 (好意的思考と反論の両者) や送り手の評価に関して, 圧力の大きさと受け手の性との交互作用効果があり, 話題に関する意見についても類似の傾向が見られた。すなわち, 説得の圧力が小さい時には性差が認められないのに対して, 圧力が大きい時には女性被験者では説得を受容する反応が見られ, 男性被験者では説得への抵抗が生じた。これらの結果は, 説得による同意への圧力が大きい場合に被影響性の男女差が明瞭になりやすいことを示したものであり, 受け手の性の効果は説得の圧力の強さと相互作用することを強く示唆している。さらに, メッセージ接触中に生じる受け手の認知反応 (好意的, 非好意的思考) や送り手に対する評価が, 被影響性の性差を生み出す媒介過程として関与していることが示唆された。
著者
原田 耕太郎
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-11, 2002-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
9

報酬分配場面において, 分配者は, 多くの場合, 公正な報酬分配を行うよう動機づけられていると考えてよいであろう。本研究の目的は, 分配者による報酬分配の公正認知が低い場合に公正認知が高い場合と比べて, 言語メッセージの量が多くなり, なかでも, 被分配者にとって心理的報酬となるような内容の言語メッセージが多くなるという予測を検討することである。本研究では, 分配者による報酬分配の公正認知を, 被分配者の業績, 能力, 努力の量的相違と, 分配者-被分配者の交換関係継続の有無によって, 操作した。大学生122名が実験に参加した。実験の結果, 被分配者間に能力差がある条件の方が, 能力差が無い条件と比べて, 分配者による報酬分配の公正認知が低かった。また, これらの条件間で, メッセージの量に差はみられなかったが, 前者よりも後者の条件で, 被分配者にとって心理的報酬となるような内容の言語メッセージが多く観察された。さらに, このような言語メッセージの使用と公正認知との関連性が示唆された。しかし, 言語メッセージ使用による公正さの向上の程度は, 有意傾向であった。
著者
Miki Ozeki Giovanni A. Travaglino
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2105, (Released:2022-04-13)
参考文献数
20
被引用文献数
1

Group-norm succession motivation refers to motivations for passing down group norms to the younger generation. The current study compared the effects of group identity and individualism/collectivism on group-norm succession motivation between Japan and the UK. Eighty-four university students from Japan and 132 university students from the UK were included in the analysis. The results showed that group identity positively influenced group-norm succession motivation in both Japan and the UK. Group-norm succession motivation seems to be promoted by the following two routes: responsibility for the younger generation and hoping they experience happiness and showing superiority over the younger generation.
著者
岡本 真一郎
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.47-56, 1986-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
20
被引用文献数
5 3

状況的要因が依頼の言語的スタイルの変動に及ぼす影響を検討するため, 男子大学生を被験者として, 2つの研究が行われた. 研究1では, 被験者 (73名) は同性・同学年の親しい相手, 疎遠な相手に対する, 依頼表現を筆答した. 疎遠な相手に対しては親しい相手に比べて, 6場面中4場面で依頼型が減少, 意向打診型が増加して, 依頼スタイルは間接化することが明らかになった. 研究2では親しい相手に対する依頼に限って, 依頼内容 (場面) によるスタイルの変動が検討された. 2組の恩恵場面群と1組の修復場面群でそれぞれ, 依頼を履行する際の相手のコストが変数として導入された. 被験者 (43名) は依頼を口頭で答えた. 予想された恩恵場面群だけでなく修復場面群でも, 依頼のコストが増すと依頼型が減少し, 意向打診型が増加した. 以上の結果の考察のほか, 他のスタイルの分布や, 慣用句, 依頼の長さについても分析・考察が行われた.
著者
川西 千弘
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.122-128, 2001-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
19

対人認知における顔の影響について検討した。93名の女子学生が実験に参加した。彼女たちには, 刺激人物の行動情報と顔写真 (半分の被験者には知的な顔写真が, その他には非知的な顔写真) が提示され, その人物の印象と知的行動可能性について評定することが求められた。その結果, 以下のことが明らかになった。(1) 前述のいずれの評定においても, 知的な顔と非知的な顔では差が大きく, 知的な顔をした刺激人物の方がより知性が高く, 賢明な行動をしやすいと判断された。(2) 顔のみから推測される知的さについて実験的に統制すると, 上記の差は消失したが, 顔のみから推測される好意度について実験的に操作しても, その差を相殺することはできなかった。つまり, われわれは魅力的な顔の人物だからといってより知性が高いと認知するのではなく, 少なくともその他の対人情報が曖昧であったり, 判断性に乏しかったりする場合は, 顔から直接的に他者の知性を読みとり, それを用いて印象を形成することが明らかになった。
著者
井上 和子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.127-134, 1985-02-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
18
被引用文献数
2 1

本研究は, Equity理論を恋愛関係にあてはめ, 認知されるinequityの程度による心理的変数の相異をみると同時にEquityモデルの妥当性を検討することを目的とする。特にequity回復の行動的方法の検証を試みる。対象者は現実に恋愛関係にある男女学生各50名計100名。質問紙により, equity-inequityの認知, 情緒的反応, 自分のInputsを高める行動傾向, 相手がInqutsを高めることへの期待, 結婚の意図, 交際期間が測定された。認知されたinequityの5段階による傾向分析の結果, (1) 認知されたinequityの程度が大きいほど恋人たちの感じる心理的緊張も大きく, (2) その認知されたinequityの程度に応じて, 恋人たちは, inequityを低減もしくは解消させる行動に動機づけられるというEquity理論をおおむね支持するものであった。すなわち, 情緒的反応は, 認知されるinequityが大きくなると, 利得過剰であっても利得不足同様否定的となった。また, 行動傾向に関しては, 認知されるinequityが小さい場合には, 利得過剰の人は自分のInputsを高めることで, 利得不足の人は相手のInputsを高めることでequityの回復をはかろうとしたが, 認知されるinequityの程度が大きくなると, 行動はむしろ関係の破棄の方向に動機づけられることがわかった。本研究の結果と仮説との若干のずれに関して, 「分配公正」と「利得最大」の両原理の合成による検討が部みられた。
著者
安達 智子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.45-51, 2001-12-25 (Released:2010-08-24)
参考文献数
26
被引用文献数
5 4

大学生230名を対象として, 就業動機尺度の概念的妥当性について検討を試みた。測定変数は (1) 就業動機, (2) 達成動機, (3) 勢力動機, (4) 親和動機, (5) 自己効力感, (6) 仕事活動に対する自己効力感である。就業動機と達成動機, 勢力動機, 親和動機間の相関係数を男女別に算出したところ, 男女ともに達成動機の下位尺度である個人的達成欲求, 社会的達成欲求と就業動機の間に関係性がみとめられた。一方, 勢力動機, 親和動機との関係からは, 就業動機下位尺度の特性に男女による質的差異が示された。就業動機を従属変数, 自己効力感, 仕事活動に対する自己効力感を独立変数とする階層的重回帰分析を行ったところ, いずれの回帰式においても自己効力感の影響を統制した後に, 仕事活動に対する自己効力感が独自の説明力を有していた。また, 特定の仕事活動に対する効力感が当該の就業動機に有意な回帰をみせており, 就業動機の下位側面の特性が明確化された。
著者
加藤 司
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.147-154, 2002-04-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
33
被引用文献数
2 4

本研究の目的は社会的相互作用を考慮に入れたコーピングモデルを提唱し, その妥当性を検証することである。本研究によって提唱されたコーピングモデルでは, コーピングが直接的に精神的健康に影響を与える過程と, コーピングが対人関係を媒介として, 個人の精神的健康に影響を与える2つの過程を仮定している。本研究では後者の過程を検証するために2つの研究がなされた。研究1では129名の大学生を対象に, 対人ストレスコーピングが他者に快-不快感を抱かせることを実証した。研究2では299名の大学生を対象に, 対人ストレスコーピング→ソーシャルサポート→孤独感といった因果関係を検証した。2つの研究結果から, 他者に好感を抱かせるコーピングは他者からのソーシャルサポートを増加させ, 孤独感を低減させるが, 一方, 他者に不快感を抱かせるコーピングは他者からのソーシャルサポートを減少させ, 孤独感を増加させることが明らかになった。そして, 本研究で提唱されたモデルの妥当性が実証された。
著者
潮村 公弘
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-13, 1995-07-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
22
被引用文献数
1

本研究の目的は, カテゴリー化を引き起こす刺激手掛かりが, 対人記憶と印象評定に及ぼす効果について検証することであった。Taylorら (1978) によって開発されたパラダイムに基づいて2つの実験が行なわれた。実験1では, 被験者にグループ・ディスカッションを提示するさいに, テープレコーダーとスライドを用いて, 被験者に話し手の声と顔写真が示された状況で行なわれた。そこでは, 話し手の性別と, 発言内容の性度とが 独立に操作されていた。実験2では, 話し手の声や顔写真の情報を被験者には与えず, 話し手の性別に関して性別ラベルのみを提示することで, 性別手掛かりが低減させられた。結果は, 対人記憶での効果は2つの実験を通じて変化しなかったことに対して, 印象評定での効果は2つの実験で明瞭に異なり, 実験2では話し手に 対する印象評定は, 発言内容の性度によって規定されていた。結果は, 2つの課題の独立性, 話し手の性別によって引き起こされるaccentuation (強調化) 効果の普遍性, 自動的処理とコントロール処理といった事項と関連づけて考察された。
著者
戸塚 唯氏 早川 昌範 深田 博己
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.26-36, 2001-12-25 (Released:2010-06-04)
参考文献数
16

防護動機理論 (protection motivation theory: PMT) とはRogers (1983) によって提唱された脅威アピールの説得効果を説明するための理論である。本研究の目的はPMTに基づいて, 環境ホルモン (擬似エストロゲン物質) の対処行動意図を促進, あるいは抑制する要因を検討することであった。独立変数は, 脅威 (高・低), 反応効果性 (高・低), 反応コスト (高・低), 性 (男性・女性) であり, 400人の被験者 (男性200人, 女性200人) を16条件のうちの1つに割り当てた。その後被験者に説得メッセージを呈示し, さらに質問紙に回答させた。分散分析の結果, 脅威と効果性, 性の主効果が見いだされ, 脅威や効果性が大きいほど, また男性よりも女性の方が, 環境ホルモン対処行動意図が大きいことが明らかとなった。次に実験的検討を補うために, PMT認知要因 (深刻さ, 生起確率, 効果性, コスト, 自己効力, 内的報酬), 性, 恐怖感情を順に説明変数に投入する階層的重回帰分析を行った。その結果, コストを除いたPMT要因と性, および恐怖感情が環境ホルモン対処行動意図に影響を与えていることが明らかとなった。
著者
藤島 喜嗣
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.62-74, 1999-06-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
30
被引用文献数
1

本研究は, 自己肯定化を公的な形式で行うことによって, 低自尊心の人でも自己肯定化の効果が現れるかどうかを, 課題成績の原因帰属過程において検討した。他者の前で自分のポジティブな側面を供述することで, 低自尊心の人は, 自己にポジティブな側面があることを確信し, 自己肯定化が可能になると考えられる。そして, このような公的な自己肯定化は, 課題の失敗をより自己卑下的に原因帰属させる効果を持つと予測される。実験は, 成績フィードバック (成功・失敗) ×自尊心 (高・低) ×自己肯定化 (あり・なし) の被験者間デザインで行われた。主な結果は次の通りである。(1) 被験者は一般的に自分の成績を自己卑下的に帰属する傾向にあった。(2) 低自尊心の人は, 公的な自己肯定化の機会を与えられると, 与えられない場合と比べて, 失敗の原因をより自己卑下的に原因帰属する傾向にあった。高自尊心の人ではこのような違いは認められなかった。本研究の結果は, 低自尊心の人は, 公的に自己肯定化をすることで, はじめて自己完全性への脅威に間接的に対処することができるようになることを示唆した。
著者
矢守 克也 杉万 俊夫
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1-14, 1990-07-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

本研究は, 横断歩道を横断する人々が形成する群集流の巨視的行動パターンについて検討したものである。まず, 第1研究において, 横断歩道上に観察される巨視的行動パターンを計量する指標を開発した。次いで, 第2研究において, 現実の横断歩道を模した実験的状況を構成し, 巨視的行動パターンの形成過程を検討した。群集状況においては, 群集内の個々人は必ずしも群集全体の動向を考慮して行動しているのではなく, 通常, 自らの近傍に関する情報処理と近傍の他者との相互作用を行なうのみである。しかし, 群集全体に視点を移すと, そこには一つの巨視的行動パターンが次第に形成される。すなわち, 群集内の微視的相互作用によって生じた巨視的行動パターンの「核 (core) 」が, 漸次波及して, 群集全体の巨視的行動パターンを形成する, というメカニズムの存在が示唆されるのである。一方, 確立した巨視的行動パターンは, 翻って, 群集内の個人の微視的な情報処理や相互作用を制約するに至る。第1研究では, 巨視的行動パターンの主要な特性を, 個人の行動を制約することととらえ, その程度によって, 巨視的行動パターンの形成度を計量しようと試みた。具体的には, 横断歩道において反対方向に進行する2つの群集が形成する巨視的行動パターン (数本の人流の帯が形成され, ほとんどの人がその帯上を歩行するというパターン) を観察した。巨視的行動パターンの指標として, 群集流の「分化の程度 (逆に言えば, 個々人が歩行し得る人流の帯がどの程度限定されているか) 」を表す「エントロピー指標」, および, 「流量の程度」を表す「流量指標」を導入した。その結果, 歩行者がある一定数以上の場合, これらの指標は, 横断歩道上に形成された巨視的行動パターンについての視察結果を適切に反映することが確認された。第2研究では, 実験室に, メッシュ状に分割した横断歩道を構成し, 被験者が一斉に進行方向を意思決定し, 一斉に動く, という実験方法を導入することによって, 群集内の個々人の行動を時系列的に追跡し, 群集内の微視的行動・微視的相互作用と巨視的行動パターンとの関係を検討した。その結果, 特定の微視的相互作用の偶然的な生起による巨視的行動パターンの「核」形成という「偶然」の過程と, いったん「核」が生じた後, 個々人がその方向性に追従し, 確立した (ないし, 確立しつつある) 巨視的行動パターンに巻き込まれるという「必然」の過程が並存することが見いだされた。