著者
奥田 秀宇
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.11-20, 1993-07-20 (Released:2010-06-04)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

本研究は, 態度の類似性と対人魅力の関係が, 態度の重要性によって影響を受けるかという点に関して検討した。従来の研究によれば, 重要態度と非重要態度の類似度が異なる場合にのみ重要性の効果が生じ, それ以外の場合には態度の重要性は類似性と魅力の関係に影響を及ぼさないことが知られている。その理由として, 仮想類似性が対人魅力を媒介することが考えられる。男女大学生148名 (実験1) および女子看護学生68名 (実験2) は, 重要態度および非重要態度の類似・非類似な他者に対する対人魅力と仮想類似性について回答した。その結果, 対人魅力は重要類似条件において最も高く, 非重要類似条件において最も低かった。重要態度のみの条件と非重要態度のみの条件では対人魅力に差はなかった。同様の結果は, 仮想類似性についても得られた。しかし, 仮想類似性が対人魅力を媒介するという仮説は支持されなかった。
著者
益田 圭
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.68-78, 1996-06-30 (Released:2010-08-24)
参考文献数
12

本稿は, 被差別部落に関する問題をめぐって, 人々がどのような常識的知識を用い, 実践的推論をおこなっているかについて検討するものである。そのために, ある被差別部落の周辺の教職員と主婦を対象に面接調査を実施した。この調査から, この地域で語られる同和政策に対する不満の表出という現象を記述し, この地域の人々の実践的推論と常識的知識について考察をおこなった。その結果, この地域の被差別部落周辺住民の同和政策に対する不満の表出に関して, 次の三点が明らかになった。第一に, この地域で被差別部落周辺住民からの不満の対象となるのは, 非常に日常生活に密着し住民自身の利害関係に深く関わっている事柄であること。第二に, 同和行政に対して強い不満を示すのは, 被差別部落近隣地域の経済的に苦しい立場にある人々であり, こうした不満の表明の背後には, 被差別部落や部落問題から回避しようとする, より一般的な価値観が存在すること。第三に, 同和政策に対する不満に用いられている実践的推論に, 一般的で抽象的な「公平」という価値観が動員されており, さらに, 「人の助けを借りない」という価値観が, 被差別部落の環境改善などの同和政策に対する実践的推論に動員されることで, 被差別部落を差別・排除する作用を持つことである。
著者
秋山 学 竹村 和久
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.58-68, 1994-07-20 (Released:2010-06-04)
参考文献数
31
被引用文献数
1 2

This paper investigated the effects of negative affect by odors and involvement with the choice task on the decision-making process. Sixty-two male undergraduates were asked to select one of ten tape recorders, either for actual use of the tape recorder (high involvement condition) or for fictitious use (low involvement condition). The results showed that, in high involvement with the task, people in whom negative affect had been induced tended to search information more slowly and redundantly, and to feel the choice more difficult than did subjects in a neutral affect condition and in low involvement condition. These results were interpreted in terms of a resource allocation model (Ellis & Ashbrook, 1988).
著者
村本 由紀子 山口 勧
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.65-75, 1997-06-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
25
被引用文献数
24 26

本研究は, 日本人の帰属における自己卑下・集団奉仕傾向の共存を実証することを目的に行われた。検証された仮説は以下の通り。(1) 集団の中の個人は, 自らの遂行については自己卑下的帰属を行い, 内集団の遂行については集団奉仕的帰属を行う傾向が見られる; (2) 仮説 (1) の傾向は内集団の他者に好印象を与えるための自己呈示戦術と考えられるため, 内集団成員の前で公に帰属を表明するときに, より顕著に現われる。成功状況を扱った実験1・失敗状況を扱った実験2の結果, いずれも, 仮説 (1) の通り, 帰属における自己卑下と集団奉仕傾向が実証された。この傾向は集団内の他者の自尊心への配慮の表れであると同時に, 集団を単位とした間接的な自己高揚の方策として捉えることができる。また, 仮説 (2) については2つの実験の結果は一貫していなかったが, いずれの結果も, 集団奉仕的帰属が, 単なる内集団他者への自己呈示戦術ではなく, より内面化された傾向であることを示唆するものであった。
著者
今井 芳昭
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.163-173, 1987-02-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
23
被引用文献数
1 5

日常の対人関係において, 一般的レベルでの被影響の認知および影響者に対する満足度が, 6種類の社会的勢力 (参照・専門・魅力・正当・賞・罰) とどのように関連しているかを検討した。大学生229人 (31人の会社員・公務員・自由業, 19人の主婦を含む) に, ふだん頻繁に接触している人の中から自分にとって最も影響力のある人 (影響者I), 2番目に影響力のある人 (影響者II) を選択させ, 社会的勢力・被影響の認知・満足度に関連する31項目 (7件法) に, それぞれの人について評定させた。各尺度の信頼性を因子分析・α係数で検討した後, 林の数量化I類・重回帰分析でデータ解析を行った。主要な結果は次の通りである。1. 被影響の認知と関連する社会的勢力は, 全体的に見ると, 参照勢力・罰勢力および正当勢力 (影響者I) ・専門勢力 (影響者II) であった。2. 影響者に対する満足度と関連する社会的勢力は, 主に魅力勢力であった。3. 1・2で述べた点について, 重回帰分析を用いて影響者ごと (父・母・夫・友人・職場の上司・クラブの先輩・クラブの同輩) に結果を出したが, 影響者I・影響者IIを通じて一貫した傾向をもつ影響者間の差異は見出されなかった。4. 影響者の種類を水準として社会的勢力ごとに一要因の分散分析を行ったところ, 参照勢力は影響者間に有意差のないことが見出された。また, 被影響の認知が相対的に大きいのは, 父・母・夫であり, 満足度が大きいのは, 友人・クラブの同輩であった。
著者
宮本 正一 小川 暢也 三隅 二不二
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.99-104, 1973-12-30 (Released:2010-11-26)
参考文献数
16

本研究は回避反応の習得と消去におよぼす社会的条件刺激の有効性を実証するために行なわれた. 社会的条件刺激はグリッド越しのとなりの部屋で他のラットに電気ショックを与えることにより作り出された, 恐怖反応である. 従来の手続きによるBuzzer群と比較した結果, 次のことが明らかになった.1. 習得基準までの試行数, その間の回避反応数の2測度には2群間の差がみられず, 反応潜時だけはSocial群がBuzzer群より短い傾向が認められた.2. 消去に関しては, 基準までの試行数, CR数, 反応潜時の3測度でいずれにも2群間に顕著な差が認められ, Social群の消去抵抗がBuzzer群より著しく大きかった.これらの結果は代理経験と社会的刺激のもつ複雑性の2つの観点から考察された.
著者
林 文俊
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-9, 1982
被引用文献数
4

本研究は, 人が他者のパーソナリティを認知する際の対人認知構造における個人差を, 認知者の自己概念および欲求と関連づけて分析したものである。<BR>被験者は大学生男女299名。対人認知構造の個人差を測定するために, 各被験者は8名の役割人物を20組の性格特性尺度上で評定することを求められた。また, 自己概念については長島ら (1966) のSelf-Differential Scaleが, 各人がもつ欲求体系についてはKG-SIV (Gordon・菊池, 1975) と土井・辻岡 (1979) に準じた検査が, それぞれ実施された。<BR>主な結果は, 次の2点である。<BR>1) INDSCALモデル (Carrll & Chang, 1970) による分析を通して得られた対人認知構造の個人差測度は, 7週間を隔てた再検査結果の分析でも, かなり高い安定性を示した。<BR>2) 他者認知に際して人がある次元を重視する程度は, その個人の自己概念や欲求体系とある程度の関連性をもつことが明らかになった。また, このような関連性のパターンには, 顕著な性差が認められた。
著者
山浦 一保
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.16-27, 2000-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
19
被引用文献数
3 2

本研究は, リーダーの課題関連行動, あるいは社会情緒的行動が出現する背景に, 部下の行動やリーダーの管理目標がどのように関与しているのかを明らかにするため, リーダー行動の変容・形成過程を吟味した。研究1では, 部下の不満対処行動に対するリーダーの認知と, リーダー自身のリーダーシップPM行動 (三隅, 1978) との関連について検討した。看護組織を対象に調査を行った結果, 自分の部下が不満を感じても「服従」していると認知しがちなリーダーの方が, 自分の部下は「服従していない」と認知しがちなリーダーよりも, 自己評価によるM得点が高かった。研究2で用いた要因計画は, 2 (作業者のP行動・M行動) ×2 (リーダーの課題指向の管理目標・関係指向の管理目標) であった。被験者は, 男子大学生38名で, それぞれ4人集団のリーダー役に任命された。主な結果は, 次の通りである。(1) 課題指向的リーダーは, メンバーどうしの連帯感が強いM的行動をとる作業者よりも, 高い生産性をあげP的行動をとる作業者に対して, 配慮的行動を多く用いるようになった。(2) 課題指向的リーダーは, 関係指向的リーダーよりも強制的な指示を増加させ, とりわけ, M的行動をとる作業者に対して, 攻撃的な言動を多用するようになった。(3) 関係指向的リーダーの場合, P的行動をとる作業者よりもM的行動をとる作業者に対して, 課題に関連する情報を提供しなくなり, 頻繁に雑談を行った。(4) 関係指向的リーダーは, P的行動をとる作業者に対して配慮的な行動を増加させ, 同時に, 方向づけの増加と情報提供の減少という課題関連行動の変容が認められた。以上の結果から, リーダーのPM型は, 課題指向的リーダーが, 生産性の高い作業者を統率する状況で形成されやすいことが示唆された。
著者
渡部 幹 寺井 滋 林 直保子 山岸 俊男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.183-196, 1996
被引用文献数
2 20

最小条件集団における内集団バイアスの説明のために提出されたKarpら (1993) の「コントロール幻想」仮説を囚人のジレンマに適用すると, 囚人のジレンマでの協力率が, プレイヤーの持つ相手の行動に対するコントロール感の強さにより影響されることが予測される。本論文では, 人々の持つコントロール感の強さを囚人のジレンマでの行動決定の順序により統制した2つの実験を行った。まず第1実験では以下の3つの仮説が検討された。仮説1: 囚人のジレンマで, 相手が既に協力・非協力の決定を終えている状態で決定するプレイヤーの行動は, 先に決定するプレイヤーの行動により異なる。最初のプレイヤーが協力を選択した場合の2番目のプレイヤーの協力率は, 最初のプレイヤーが非協力を選択した場合の2番目のプレイヤーの協力率よりも高い。仮説2: 先に行動決定を行うプレイヤーの協力率は, 同時に決定を行う通常の囚人のジレンマにおける協力率よりも高い。仮説3: 2番目に決定するプレイヤーの協力率は, 相手の決定が自分の決定の前に知らされない場合でも, 同時に決定を行うプレイヤーの協力率よりも低い。以上3つの仮説は第1実験の結果により支持された。3つの仮説のうち最も重要である仮説3は, 追実験である第2実験の結果により再度支持された。
著者
今川 民雄
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-6, 1985

本研究は, 好ましい他者の価値態度を認知する際, 仮定された類似性が実際の類似性よりも大きいという仮説を, 3種類の指標に基づいて検討すると同時に, 3種の指標間の関連についても検討した。<BR>被験者は大学生の男女50名づつ計100名である。価値態度はGordon &菊池 (1974) の個人的価値尺度 (KG-SPV) を用いた。実験は集団で行なわれ, 被験者は2部のKG-SPVテスト用紙に, 自己の価値態度と, 同じ大学内で最っとも好ましい同性の友人の価値態度についての推測を, 別々に記入した。<BR>結果は, (1) 個人内の相関係数に基づく指標, (2) 個人内の価値態度別の, 評定間の差の絶対値に基づく指標, (3) 価値態度別の全体の相関係数に基づく指標の3種の指標によって分析された。結果は次の通りである。<BR>1) 仮定された類似性が実際の類似性よりも大きいという仮説は, 3つの指標のいずれにおいても支持された。<BR>2) 3種の指標間の関連を検討したところ, 差の絶対値に基づく指標と全体の相関係数に基づく指標との間には密接な関連が見られた。しかし, 個人内の相関係数に基づく指標は, 他の2つの指標とは関連がみられなかった。
著者
平井 美佳
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.103-113, 2000
被引用文献数
17

本研究は, いわゆる日本人論における「日本人らしさ」についてのステレオタイプを, 当の日本人はどのように捉えているのかを検討したものである。すなわち, 「日本人らしさ」のステレオタイプを「一般の日本人」については認めるにしても, 個々人に注目した場合には, それほどにはあてはまらないとするのではないかという仮説を検討した。まず, 代表的な日本人論の記述から2, 000項目を抽出し, これをもとに3ヵテゴリー45項目からなる「日本人らしさの尺度」を作成した。この尺度を用い, 大学生の男女226名に「一般の日本人」と「自分自身」の2評定対象についての評定を求めた。その結果, 「日本人らしさ」についての肯定度は「自分自身」についてよりも「一般の日本人」についてより高いという有意差が認められた。さらに, カテゴリー別には, 集団主義的傾向を記述したカテゴリーにおいて, 最も顕著な差が見出された。この結果に基づいて, 「一般の日本人」のレベルと個人のレベルの評定が異なる理由について考察した。
著者
MINORU WADA
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
THE JAPANESE JOURNAL OF EXPERIMENTAL SOCIAL PSYCHOLOGY (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.193-201, 1998-12-20 (Released:2010-06-04)
参考文献数
23
被引用文献数
1 3

本研究は, 大学生がストレスにどのように対処しているのか, また男女で対処法に違いがあるのかを調べた。さらに, ソーシャルサポートはストレス低減に有用かどうかも調べられた。被験者は大学3年生285 (男性114, 女性171) 人であった。自分の将来のこと, 勉強のこと, 友人・仲間のこと, 自分のこと, 余暇, 異性のこと, 教師・授業について, 両親・家族とのこと, の8つのストレッサーが用いられた。対処法は, 積極的解決の試み, 積極的回避, 忍耐, 支援要請, 消極的回避の5つであった。男性よりも女性の方がストレスとサポートが多かった。対処法で一番多いのが, 男女とも消極的回避であった。忍耐は低より高ストレス者, 消極的回避は高より低ストレス者がより多く選択した。低サポート者より中サポート者, 中サポート者よりも高サポート者の方が孤独でなかった。しかし, サポートは疾病徴候には何の効果も示さなかった。すなわち, ソーシャルサポートはストレスに対して限られた効果しか持たないのである。
著者
上田 敏見 谷口 勝英
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.75-80, 1980

本研究は, 社会的望ましさと誘引との関係を明らかにすること, 自己評価の高低がこの関係にどのようにかかわっているかを確かめることを目的として行われた.<BR>116人の被験者が, 課題遂行能力において, すぐれた人, 類似した人, 劣った人の3人の刺激人物を, 課題遂行のパートナーとして, 遊び友達として, リーダーとして, どの程度好ましいかを評定した.<BR>主な結果は, 次の通りであった.<BR>(1) 作業のパートナー, 遊び友達としては, すぐれた人より, 類似した人の方が好まれる.<BR>(2) リーダーとしては, すぐれた人が, 類似した人より好まれる.<BR>(3) 作業のパートナーでは, 自己評価の高い者の方が低い者より刺激人物をより好ましく感じる.<BR>このうち, (1), (2) については, 場面の特性と社会的望ましさの側面が合致して, 社会的望ましさが本人に直接的に利益を与える時のみに報酬となることを示すものとして解釈された. また, (3) については, 自己評価の高い者の劣等感のなさや, 自己の能力への肯定的是認によるものとして解釈された.
著者
柿本 敏克 細野 文雄
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.149-159, 2010

状況の現実感尺度(柿本,2004)の妥当性を,仮想世界ゲーム(広瀬,1997)を用いて構成された集団間状況において検討した。研究1では従来型の仮想世界ゲームを用いた実験が行われ,研究2では今回新たに開発されたその電子試作版を用いた実験が実施された。研究1では参加者がゲームのルールを学習しその状況を想像しただけのシナリオ条件と,実際のゲームに携わったゲーム実施条件の間で,状況の現実感尺度の各下位尺度得点と全体尺度得点を比較した。予想通り,ゲーム実施条件でシナリオ条件でよりも状況の現実感尺度の諸得点が大きいという傾向がみられた。研究2では電子試作版のゲーム場面と,研究1の従来型のゲーム場面からの結果を比較した。電子試作版では,その特徴を反映して参加者の現実感が従来型よりも小さかった。下位尺度の得点パターンとともに,全体としてこの尺度が状況の現実感を比較的良好に捉えていると解釈できた。いくつかの研究方法上および理論上の問題が議論された。<br>
著者
吉武 久美子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.163-169, 1988

This experiment was conducted to assess the recall scores of own and others' responses between conformers and non-conformers or between specialists and non-specialists. Fifty-six female college students (27 were music majors and 29 were not) were given a classical music task for 9 trials in which 6 trials were critical. After the task they were asked to write all of ownand others' responses during the task. Nonconformers recalled own and others' responses much more than conformers. And specialists recalled them much more than non-specialists. These results were discussed from the view point of tension reduction theory.
著者
田崎 敏昭
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.69-77, 1974
被引用文献数
1

本研究は斉一者, 同調者, 非同調者, 反同調者に対する反応を知覚レベルで把えようとする試みである.<BR>31名の大学生の被験者は, 斉一的, 同調的, 非同調的役割をするサクラのパートナーのいずれか2人と共に幾何図形の面積判断を行うという課題が与えられた. さらに, 面積判断の前後に距離知覚装置上で, パートナーの写真を知覚対象として距離定位させることが求められた.<BR>得られた結果は次のとおりである.<BR>(1) 被験者は, 面積判断後, 一致者の写真も不一致者の写真も, 装置上における定位位置を負の感情方向 (自己にとって, 不快な対象を定位させる方向) に変化させたが, その変化量に差はなかった.<BR>(2) 被験者は, 面積判断後, 斉一者の写真を正の感情方向 (自己にとって快な対象を定位させる方向) に変化させたが, 非同調者, 反同調者の写真は負の感情方向に変化させた.<BR>(3) パートナーが2人共同調者である場合, 被験者は面積判断後, 彼らの写真を負の感情方向へ変化させたが, 1人が同調者1人が斉一者である場合の同調者の写真は正の感情方向へ変化させた.<BR>このような結果は, 斉一者に対し被験者は正の感情負荷を行ない, 非同調者, 反同調者に対しては負の感情負荷を行なったためと解釈される.
著者
川西 千弘
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-10, 2011

本研究の目的は,好ましい顔と好ましくない顔の認知的表象における構造的特性の相違を探ることであった。92名の女子大学生が実験に参加し,4人の刺激人物(好ましい顔の刺激人物2名と好ましくない顔の刺激人物2名)について,各々15個の行動(好ましい行動5個,好ましくない行動5個及び中立的な行動5個)をする可能性を評定した。その結果,好ましい顔の人物がポジティブ行動をする可能性のほうが,好ましくない顔の人物がネガティブ行動をする可能性より高いというポジティビティ・バイアスが確認された。また,多次元尺度法の分析から,好ましい顔におけるポジティブ行動情報間のほうが好ましくない顔におけるネガティブ情報間より緊密に体制化されていることが示された。<br>
著者
大坊 郁夫
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.11-26, 1982
被引用文献数
3 2

本研究の目的は, 対面的な2人会話事態における発言と視線の時系列的な活動性の構造を, 話者の不安水準と対構成条件との関連で検討しようとするものである。<BR>あらかじめ, TaylorのMASによって高・中・低の3種類の不安者群を規定して短大・大学1年の女子学生各不安者群20名計60名を被験者とした。対面場面において・2人の組み合わせ計6通りを構成し, 会話実験を行った。被験者は互いに未知の者同士であり, 1回24分間の会話を日を変え, 各回異なる中程度の興味の話題で2回行った。本報告では, そのうち初回の記録を分析対象とした。<BR>言語活動性の指標としては, 時系列的に0次の4種類の状態 (同時沈黙, 同時発言, 2名各々の単独発言) を基本として, 各対の総発言時間, 発言総頻度や同時沈黙後の単独発言, さらに, 発言交代に関する2次の状態を用いた。視線活動性の指標としては, 4種類の0次状態 (相互視回避, 相互視, 2名各々の一方視) の他に, 相互視回避後の一方視をとりあげた。いずれも, 頻度, 度数平均時間, 総時間を測度として6分間毎の値を算出した。合計50指標を分析のために用いた。これらの指標値に主因子分析, Varimax回転法を適用し, その因子負荷量, 因子得点を算出した。<BR>因子分析の結果によると, 言語活動性と視線活動性とは因子的には独立の構造を各々示している。抽出された因子は, 言語活動性, 視線活動性各々についての共同的な活動性, 個体単独の活動性, 会話相手単独の活動性であり, さらに発言中断生起性, 個体単独, 相手単独の沈黙後発言の因子, 相手の発言持続-発言中断の強さの因子であった。なお, 言語活動性の因子次元は, 非対面会話事態での因子次元と類似している。<BR>話者間の不安水準差の有無 (不安落差群, 一致群) ごとに因子的特徴を比較すると, 共同的な活動性については, 発言面では, 不安落差群>不安一致群, 視線活動面では, 不安一致群>不安落差群の大小関係が認められた。個々の活動性については, 言語活動性では, 不安一致群>不安落差群, 視線活動性では, これと逆転した関係があり, 二重の相補的関係が認められた。<BR>発言と視線の動きとは独立のチャンネルを形成しているが, 相互作用者間の関係によって, 顕著な有機的関係を示すものであることが知られた。また, 不安落差群, 一致群間の判別的特徴を示す因子のなかでは, 個体発言, 中断の生起性因子, 共同的な言語活動性因子の有効性が視線活動牲よりも大きいことが知られた。<BR>両話者の個体単独の活動性を示す指標間の関係を比較すると, 一回あたりの単独発言時間は, 正の相関関係を示すものの, 発言の総時間については, 2名の間に負の相関関係があり, 会話全体としての一定の水準を保つ相補的な関係がみられる。また, 両者の視線活動性について, および言語活動牲と視線活動性との間にも話者間で弱いが相互依存的な関係が認められる。しかし, その関係は, 不安落差の有無という話者の対構成条件によって異なる。<BR>これらのことから, 単純な加算的見方ではないコミュニケーションの多次元的な研究の必要性, コミュニケーションにおける相互作用者間の関係の重要性が指摘できる。
著者
橋口 捷久
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.123-131, 1974

本研究は, リスキー・シフト現象を解明することを目的とした. すなわち, 集団内の意思決定者の数を変えることによって, その意思決定看が自分も含めて他の集団成員に対して感じる責任の程度を操作して, 集団討議状況に存在すると仮定されている責任の拡散のメカニズムを探索しようとしたものである. 課題は簡単な確率選択をする賭けである. 被験者は女子商業高校1年生 (15~16才) の130名, である. 本研究結果を要約すれば, つぎのとおりである.<BR>1. 集団内の意思決定者数が多くなるにしたがって, 換言すれば, 意思決定者が自分も含めて他の集団成員に対して感じる責任が小さくなるにしたがって, その決定内容はよりリスキーとなった.<BR>2. 集団内の意思決定者が唯一人の場合, その意思決定者は集団状況以前の個人決定よりも, コーシヤスな決定を行なった.<BR>以上の結果は, 集団討議状況には責任の拡散のメカニズムが存在し, リスキー・シフト現象はそのメカニズムによっておこることを示唆している.
著者
縄田 健悟
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.52-74, 2013

本論文の目的は,集団の視点を軸に,社会心理学における集団間紛争研究の概観と展望を議論することである。本論文では,集団間紛争の生起と激化の過程に関して,集団を中心とした3つのフェーズから検討した。フェーズ1では「内集団の形成」として,自らの所属集団への同一視と集団内過程が紛争にもたらす影響を検討した。フェーズ2では「外集団の認識」として,紛争相手となる外集団がいかに否定的に認識され,攻撃や差別がなされるのかを検討した。フェーズ3では「内集団と外集団の相互作用」として,フェーズ1,2で形成された内集団と外集団が相互作用する中で,紛争が激化していく過程を検討した。最後に,これらの3フェーズからの知見を統合的に議論し,集団間紛争に関する社会心理学研究の今後の課題と展望を議論した。<br>