著者
川名 好裕
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.67-76, 1986-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
19
被引用文献数
5 5

本研究の目的は, 対話状況において聞き手が話し手に与える相づちや, うなずきと言った社会的強化が, 相互の対人魅力にどのような影響を及ぼすものであるかを調べることであった。40人の大学生が, 自分の作った話をする話し手の役割か, その話を聞く聞き手の役割のどちらかを演じた。話し手と聞き手との対人的認知の違いを対照するために, 各々の被験者は, 終始それぞれの役割を演じた。話し手は二人の別の聞き手に, 同じ話を同じ調子でした。聞き手のうちの一人は, 相づちや, うなずきなどの社会的承認を与えて話し手の話を聞いた。もう一人の聞き手は, そうした社会的強化を話し手に与えずに話を聞いた。聞き手の方も, 二人の話し手の話を聞いたが, 一人の話し手には社会的強化を与え, もう一人の話し手には社会的強化を与えなかった。実験の結果, 明らかになったことは次の4点である。1. 話し手は, 相づちのある聞き手の方を, 相づちのない聞き手より好意的に評定した。2. 聞き手は, 自分が相づちを打った話し手の方を, 相づちを打たなかった話し手より, 好意的に評定した。3. 相づちの有無の違いによって変化する対人魅力特性は, 感情的・社交的魅力であり, 知的・道徳的魅力ではなかった。4. 対話状況においては, 話し手の方が, 聞き手より対人感受性が敏感であることも明らかになった。また, 多次元展開法が多変量の従属変数を全体的にかつ視覚的に表わすのに有用であることが示唆された。
著者
菊地 雅子 渡邊 席子 山岸 俊男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.23-36, 1997
被引用文献数
1 20

他者一般の信頼性についての信念である一般的信頼の高さが必ずしもその人の騙されやすさを意味しないというRotter (1980) の議論, および高信頼者は低信頼者よりも他者の信頼性 (ないしその欠如) を示唆する情報により敏感であるという小杉・山岸 (1995) の知見を, 情報判断の正確さにまで拡張することによって導き出された「高信頼者は低信頼者に比べ, 他者の一般的な信頼性についての判断がより正確である」とする仮説が実験により検討され, 支持された。この結果は, 他者一般の信頼性の「デフォルト推定値」としてはたらく一般的信頼の高低と, 特定の他者の信頼性を示唆する情報が与えられた場合のその相手の信頼性の判断とは独立であることを示している。すなわち, 高信頼者は騙されやすい「お人好し」なのではなく, むしろ他者の信頼性 (ないしその欠如) を示唆する情報を適切に処理して, 他者の信頼性 (ないしその欠如) を正確に判断する人間であることを示唆している。最後に, 社会環境と認知資源の配分の観点からこの知見を説明するための一つのモデルが紹介される。
著者
島 久洋
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
教育・社会心理学研究 (ISSN:0387852X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.87-103, 1968

対人認知の3つの指標, AS。, DP, そして, DNを組合わすことにより, リーダーの対人認知様式を8つに分類し, 集団の成績を上げる必要のある状況において, フォロワーのノルマをリーダーが設定する場合, これら8つのタイプのリーダーが如何に行動するかを分析した。さらに, リーダーのフォロワーへの手紙を分析することにより, これらリーダーの行動特徴を調べた。第一課題において仮空のフォロワーA, Bのアイディアと評価点をリーダーに知らせることによりA>Bの能力差をリーダーに認知させ, 第二課題でのA, Bのノルマをリーダーに設定させた。第二課題においてリーダーにA, Bへの手紙をかかせた。その結果, 次のことが明らかにされた。<BR>1. AS。得点の低いリーダーは, 得点の高いリーダーにくらべてA, B両者に対して予想得点 (リーダーが認知したフォロワーの能力) より高いノルマを設定し, 一方, AS。得点の高いリーダーは, 得点の低いリーダーにくらべてAに対しては予想得点に近いノルマを, Bに対しては予想得点より少し低いノルマを設定した。<BR>2. DP得点の高いリーダーは, DP得点の低いリーダーにくらべてAに対して予想得点より高いノルマを設定し, DP得点の低いリーダーは, DP得点の高いリーダーにくらべてAに対して予想得点に非常に近いノルマを設定した。また, DN得点の低いリーダーは, DN得点の高いリーダーにくらべて自分の能力より低い予想をしたAの言い分を受け入れやすいことがあきらかになった。<BR>3. 手紙によるリーダーの行動の分析からは, 明確な結果が得られず, 分析方法の反省がなされた。
著者
松原 敏浩
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.55-65, 1984-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本研究の目的は, リーダーシップ行動の部下のモラールへの影響が, 部下のパーソナリティ, 部下の職務特性, 部下の職位水準によってどのように規定されるかを検討するものである。リーダーシップ行動は, PM式リーダーシップ測定尺度によって測定された。モデレーターである部下のパーソナリティ特性は, YG性格検査, 職務特性は質問紙によって測定された。そして部下のモラールも質問紙によって測定された。得られた主な結果は, 次の通りであった。1. 部下によって認知された上司の目標達成行動 (P行動) と部下のモラール (満足感次元) との関係は, 情緒的に安定した部下の方が, そうでなひものよりもより高い正の相関を示した。2. P行動と部下のモラールの凝集性次元との関係は, 社会的活動性に富む部下の方がそうでないものよりもより高い正の相関を示した。3. P行動と凝集性次元との関係は, 多様性に富む職務, 協力の必要性のある職務のものの方がそうでないものよりもより高い正の関係を示した。4. P行動と部下のモラールとの蘭係は, 部下の職位水準の上昇とともに増加した。5. 部下によって認知された上司の集団維持行動 (M行動) とモラールとの関係におよぼすモデレーターとしての部下のパーソナリティ特性の役割は, P行動の場合ほど明確でなかった。6. M行動とモラールとの関係は, 多様性に欠ける職務の方が富む職務よりもより高い正の相関を示した。7. 部下の成長欲求は, モデレーターの役割が明確でなかった。結果は, Houseのパス・ゴール理論, 三隅のPM理論から考察された。
著者
戸塚 唯氏 深田 博己 木村 堅一
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.83-90, 2002-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
11

本研究の目的は, 脅威アピールを用いた説得メッセージにおいて, 脅威に晒されていることを強調する脅威ターゲットとして受け手自身と受け手にとって重要な他者である家族を用いた場合の説得効果を比較検討することであった。独立変数は, (1) 脅威ターゲッ (受け手, 家族), (2) 脅威度 (高, 低), (3) 対処効率 (高, 低) であった。249人の女子大学生を8条件のうちの1つに無作為に配置した後, 被験者に説得メッセージを呈示し, 最後に質問紙に回答させた。質問紙では, 勧告した2つの対処行動に対する実行意図と肯定的態度を測定した。その結果, 脅威度や対処効率が大きいほど, 実行意図と肯定的態度の得点が大きくなることが明らかとなった。また実行意図の得点は, 受け手ターゲット条件よりも家族ターゲット条件の方で大きいことが明らかとなった。本研究で得られた知見によって, 重要な他者を脅威ターゲットとする説得技法が, 説得効果を高めるために有用であることが示唆された。
著者
Mizuka Ohtaka Kaori Karasawa
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.111-115, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
16
被引用文献数
4

Although previous studies have verified that perspective-taking differs according to the individuals involved and their relationships, the balance between individual and relationship effects remains unclear. Thus, we examined perspective-taking in families based on the social relations model (Kenny, Kashy, & Cook, 2006). We conducted a triadic survey of 380 undergraduates and their fathers and mothers. We analyzed the triadic responses of the 166 families in which all three members completed the survey. It was found that perspective-taking in families is affected by the family itself, each actor, fathers as partners and all dyadic relationships. The relative contributions of individual effects and relationship effects differed between parent-child relationships and marital relationships. We discuss the implications of our findings for enhancing perspective-taking.
著者
藤森 立男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.35-43, 1980-10-01 (Released:2010-11-26)
参考文献数
33
被引用文献数
5 5

本研究は, 魅力次元を明らかにし, 各魅力の主要次元における態度の類似性と話題の重要性が対人魅力におよぼす効果を検討した.実験Iは, 5~7日の間隔で実施され3セッションからなっていた. 第1セッションでは, 予備調査に基づき, 8つの重要な話題 (質問紙α) と8つの非重要な話題 (質問紙β) を態度尺度として選び, 70人の被験者に6ポイント・スケールで評定させた. 第2セッションでは, 被験者の半分は, 同じ8つの重要な話題に反応している5人の質問紙αを提示され, その後で26の魅力評価尺度にそれぞれの人の評定を求められた. 5人の反応は, 被験者の反応と0%, 25%, 50%, 75%, 100%の類似性に操作されていた. ここで言う類似性とは, 8項目に対して占める被験者と提示人物との類似反応の比率のことであった. 非類似反応は, 被験者の反応から3ポイントずれており, 類似反応は常に同じであった. 第3セッションでは, 被験者は, 8つの非重要な話題に反応している5人の質問紙βを提示され, それから, それぞれの人の評定を求められた. 残りの被験者は, 第2セッションでは, 5人の質問紙βを, 第3セッションでは, 5人の質問紙αを提示された.実験IIは, 実験Iとほぼ同じであったが次の2点が異なっていた. (1) 被験者は, 3人の反応 (0%, 50%, 100%の類似性) を提示された. (2) 非類似反応は, 1ポイントずれていた.主要結果は, 以下のとおりであった.1. 魅力評価尺度の相関行列をprincipal componentanalysisに掛け, 有意味な因子と考えられる4因子をvarimax法により直交回転させたところ, 親密, 交遊, 承認, 共同などの因子が見出された.2. 両実験において, Byrneによって提出された態度の類似性-魅力理論は, 十分に確証された. すなわち, 態度の類似性の効果は, 各魅力次元において非常に有意であり, 態度の類似性が高くなるにつれて, 他者に対する魅力も高くなる傾向が見出された. しかし, 項目の重要性の効果は, 全般的に見られなかった.
著者
矢守 克也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.1-15, 2001-12-25 (Released:2010-06-04)
参考文献数
45
被引用文献数
4 1

阪神・淡路大震災の後, それまで, 特殊な専門用語に過ぎなかった「活断層」という言葉が, 広く人々に知られるようになった。本研究は, 社会的表象理論 (Moscovici, 1984) に依拠して, この言葉が, 地震にともなう新奇な事象を「馴致 (familiarize) 」し, 人々の日常世界に取り込まれる過程について検討した。この目的のため, 新聞, 雑誌に掲載された関連報道の内容分析を行ない, Moscoviciが提起した2つの馴致メカニズム-係留 (anchoring) と物象化 (objectification) -のそれぞれについて実証的に検討した。具体的には, 係留過程については「活断層」に関する比喩表現の分析に, 物象化過程については地震前兆証言の分析に焦点をあてた。この結果, 特に, 地震前兆証言は, その独特の発話形式 (回顧的発話形式) に負うて, 社会的表象研究が抱える困難-社会的表象が確立した時点で, 未確立の時点における様相を記述することの原理的困難-を克服する有力な研究対象の一つであることを示唆した。さらに, 社会的表象の概念と認知社会心理学的な諸概念との異同についても論じた。
著者
藤原 武弘 黒川 正流
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.53-62, 1981-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
24
被引用文献数
3 4

本研究は, 土居健郎によって精神分析的見地から提唱された甘えの計量化をめざしたものである. 研究Iにおいては, 甘えを測定するための一次元尺度構成に関する基礎的資料を得ること, ならびに日本人の対人関係の基本次元を明らかにすることが目的である. 35名の大学生 (男子16名, 女子19名) は, 97の動詞を類似しているものは同一のグループに分類することが求められた. その類似性行列は林の数量化第IV類によって解析が行われた. そして次の8つの群が見出された. 1. 拒絶・無視, 2, 好意・一体感, 3. 優越感, 4. 保護, 5. 相手の気嫌をとること, 6. 甘えられないことによる被害者意識, 7. 負い目, 8. 甘え.研究IIの目的は, いかなる対象に対して, どのような状況のもとで甘えが最も表出されるのかを明らかにすることにある. 286人の大学生 (男子112人, 女子174人) は, 11の困った状況のもとで, 12の対象人物に対する感情を10の甘え尺度で評定することが求められた.主要な結果は次のとおりである.1. 両親よりもむしろ恋人や親友に対する甘えの方がより強くみられた.2. 男性よりも女性の方により多くの甘えがみられた.3. 家庭問題に関する状況では, 両親や兄弟姉妹に対して甘えを最も示し, 個人生活の問題に関するその他の状況では, 恋人や親友に対して甘えを強く表出した.こうした結果は, 甘えとそれに関連する問題についての理論的含みから議論が行われた.
著者
小川 暢也 大里 栄子 三隅 二不二 中野 重行
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.116-122, 1973-12-30 (Released:2010-11-26)
参考文献数
13
被引用文献数
3 3

本実験は, 競争条件による鏡映描写テスト遂行時の脈拍数およびテストの成績を非競争条件と比較し, さらにそれらの条件下における不安および攻撃性の反応特性について検討することを目的とした.対象は年令18~19才の健康な女子学生40名で, 予め施行したMASの得点19~25の者20名 (Moderate An-xiety Group=MA), 26~37点の者20名 (High AnxietyGroup=HA) であった. さらにこの40名にHGSを施行し, 高得点の者8名 (得点範囲32~48), 低得点の者8名 (得点範囲13~18) を攻撃性に関する分析の対象にした.まず, 被験者は個別に鏡映描写テスト1試行1分間で10回練習した後, 3試行を非競争条件として施行され, ひきつづき別室にてMA-MA, およびMA-HAのpairで競争条件のもとに3試行施行された.脈拍数はpulsemeterによりそれぞれの条件において10秒間の最高値が連続測定された.テスト後HGS, ならびに実験時の自己認知について質問紙法により測定した.結果は, 競争条件と非競争条件間の脈拍数に差を認めたが, HAとMA間に差は認められなかった. 安静時, 教示期, 試行中および試行後とも競争条件下では非競争条件に比べて脈拍数は増加し, 特にテスト第1試行目において顕著な増加が認められた.HGSによる高攻撃性, 低攻撃性群の脈拍数は, 非競争条件間では差は認められなかったが, 競争条件下では2群間に差が認められ, 低攻撃性群が有意に高い値を示した.以上, 競争場面のarousal levelは非競争的な場面よりも高く, 競争という特殊なsocial interactionが生理反応に影響を及ぼすことが確かめられ, しかもMASによる中, 高不安水準よりもHGSによる攻撃性においてその反応に特異性をもつことが示唆された.
著者
栗林 克匡 相川 充
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.49-56, 1995-07-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
16
被引用文献数
2

本研究では, 特性シャイネスが対人認知に及ぼす効果を検討した。被験者は, 特性シャイネス尺度の得点に基づいて選出され, 高シャイネス群は27名, 低シャイネス群は24名の計51名であった。被験者は未知の異性 (サクラ) との1対1の会話を行い, その後で相手の印象評定と「自分に対する相手の認知」の推測を行った。また各被験者は, 会話の相手であるサクラと, 第3者である評定者によって印象を評定された。その結果, シャイな被験者ほど, 社交性や積極性などを含む力本性の次元について相手の人物をネガティブに認知していた。また, シャイな被験者は全ての認知次元において相手からそれほどポジティブに認知されているとは思っていなかった。そして, 個人的親しみやすさおよび社会的望ましさの認知次元において, 被験者の推測と評定者の評定との問にはズレがあることが分かった。つまり, シャイな人は第3者の評定よりもネガティブに自分を捉えていた。これらのことから, シャイな人の行う対人認知にはネガティブな方向へのバイアスが存在している可能性が示唆された。
著者
北田 隆
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.7-16, 1981-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
26
被引用文献数
3

本研究の主目的は, Deci (1975) とRoss (1976) の両仮説を検討することを通じて, 成績に基づく報酬が内発的動機づけに及ぼす効果に関する機制を明らかにすることにある.54名の女子大学生が, 2つの独立変数より成る6つの条件に, 各々9名ずつ無作為に割り当てられた. 独立変数は, 報酬 (成績に基づく報酬と無報酬条件) と成績 (高成績, 低成績, そして統制条件) であり, 2×3の要因配置の実験計画がとられた. 成績の水準は, 課題に対する被験者の能力に関する偽のフィードバックを与えることによって操作された.各被験者は, 上記6条件のいずれかの条件の下で, 課題として射撃ゲーム (T.V. ゲームの一種) を120回遂行した. 続いて, 従属変数として, 課題遂行に対する楽しさや興味等の評価と, 8分間の自由選択時間 (無報酬事態) に再びゲームに取り組まれる持続性とが測定された.主な実験結果は次のようであった.(a) 統制条件において, 報酬は内発的動機づけに影響を及ぼさなかった.(b) 高成績, 低成績の両条件において, 報酬は内発的動機づけの水準を低下させた.(c) 無報酬条件において, 高成績と低成績の両条件における内発的動機づけは, 統制条件のそれに比較して, 増大を示した.(d) 上記の効果は, 課題評価においてはみられず, 持続性においてのみみられた. また, 両従属変数の間には, 全く相関が認められなかった.(e) 更に, 上記の効果は, 実験試行時の疲労や飽和によるものでないことが明らかにされた.以上の結果に基づいて, 外因性報酬と成績が内発的動機づけに及ぼす効果に関する図式 (Fig. 1) が提案された. その図式は, 報酬が内発的動機づけに及ぼす効果を説明するのに際して, 成績の水準のみならず, その確実性をも重要な変数として考慮すべきことを主張するものである. 例えば, 克服不能な確実な失敗は, 内発的動機づけを損うが, 克服が期待される失敗は, むしろ, 内発的動機づけの水準を高めるであろう.
著者
礒部 智加衣 浦 光博
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.98-110, 2002
被引用文献数
1 1

本研究では, 社会的比較において情報を好ましい意味へと再構築するスキルが劣っているのかもしれないといわれている低自尊心者でも (Taylor, Wayment, & Carrillo, 1996), 優れた内集団成員との比較による脅威から回避することが可能となるのはどのような状況かについて検討した。我々は, 集団間上方比較状況 (内集団が外集団より劣っている状況) では, 低自尊心者でさえ, 優れた内集団成員との比較による状態自尊心の低下が低減されるという仮説をたてた。95名の女性被験者に対し, IQテストを実施した後, 集団間上方比較が有るもしくは無い状況において, 内集団成員の優れたもしくは同等な個人間比較を想像によりおこなわせた。結果は仮説を支持し, 低自尊心者は集団間上方比較状況の無い時において, IQテストで優れた得点を得た内集団成員との比較後は同等比較後よりも状態自尊心が低下していたが, 集団間上方比較条件が有る条件ではこのような差が認められなかった。高自尊心者は, 集団間上方比較状況の有無に関わらず, 内集団成員との上方比較後に状態自尊心の低下はみられなかった。
著者
工藤 力 西川 正之
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.99-108, 1983
被引用文献数
7 33

本研究は, Russellら (1980) の開発した改訂版UCLA孤独感尺度の邦訳版を作成し, その信頼性と妥当性を検討することを目的とした。被調査者は, 学生, 一般社会人, 入院治療中のアルコール依存症患者, 合計975名である。孤独感尺度のほかに, 社会的行動, および身体的徴候に関する自己評定尺度, 家族との愛情関係測定用のSDスケール, 自尊心尺度, CPI 10が用いられた。<BR>主要な結果は, 以下の通りである。<BR>(1) 孤独感はアルコール依存症患者で最も強く, 次いで, 男子の大学新入生, 30代~40代の一般社会人の順であった。しかし, 平均的にみると, 大学生に比べて一般社会人の方が有意に強い孤独感を示していた。<BR>(2) 孤独感の性差に関しては, 大学新入生においてのみ見出された。<BR>(3) 孤独感尺度の信頼性は, 上位・下位分析, α係数, 折半法, 再検査信頼性係数により吟味されたが, いずれの場合も本尺度の信頼性が充分であることを示している。<BR>(4) 孤独感尺度の妥当性は, 孤独感の行動的対件, 社会的関係の認知, 家族との愛情関係, 身体的徴候の現出, 自尊心尺度とCPI 10尺度との対応, 一般社会人とアルコール依存症患者の比較などにより検討されたが, いずれの場合も併存的妥当性が充分であることを示した。<BR>(5) 補足的な結果として, 母親との愛情関係 (経験) は, 孤独感の強さを規定するものであることが示唆された。<BR>今後は, 本尺度を使用して, 孤独感に陥る原因の解明や, 孤独感の永続化に寄与する要因の分析, 孤独感解消のための対処行動の様態, さらには孤独感の因果帰属が感情反応や対処行動, さらには自尊心に及ぼす影響などを明らかにする必要があるように思われる。
著者
Takuhiko Deguchi
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1808, (Released:2018-07-21)
参考文献数
12

A questionnaire and a computer simulation were used to investigate the validity of a critical mass model of rule-breaking behavior with local interaction. In this model, individuals were only able to perceive some of their neighbors’ behavior. The questionnaire assessed attitudes toward and the frequency of rule-breaking behavior, and 887 valid responses were obtained from Japanese junior high school students. Computer simulations based on cellular automata were conducted using the questionnaire data. The outputs of the simulations including local interactions showed strong positive correlations with the rule-breaking frequencies obtained with the questionnaire. These findings imply that models taking the limits of perception into account could be useful for describing real micro-macro relationships.
著者
河津 雄介 三隅 二不二 小川 暢也 大里 栄子 宮本 正一
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.22-30, 1973
被引用文献数
1

本実験は, プラシーボー投与にともなう薬効暗示と実験者の監督的指示とが, 被験者の知覚運動技能や自律反応に及ぼす影響について吟味したものである. 薬効暗示はstimulantとdepressantの二種, 監督的指示はP型, M型および特定の監督的指示を与えないO型の三種であった. 課題は鏡映描写で, 生理反応は指尖脈波を記録し心拍数を指標とした.<BR>仮説は, 1) 鏡映描写の成績や心拍数はプラシーボー投与にともなう薬効暗示の種類によって異なった影響を受けるであろう. 2) 上述の影響は, 実験者の与える監督指示のちがいに応じて異なった相乗効果を及ぼすであろう.<BR>生理反応 (心拍数) については明確な条件差は見出されなかったが, 鏡映描写の成績に次のような条件差が見出された. 仮説Iについては, depressant暗示がstimulant暗示よりも鏡映描写の成績にポジティブな効果を及ぼした. 仮説IIについては次のような結果がみられたedepressant暗示群ではP型の監督指示を受ける群が最も成績がよく, 次にO型でM型は最低であった. 一方, stimulant暗示群ではM型が一位, O型が二位, P型が三位という順位であったが, 条件間の差は有意でなく傾向のみであった.<BR>P型とM型の監督指示の影響が, 薬効暗示がdepressantかstimulantかで異なった相乗効果を及ぼす現象即ち, depressantの場合P型が, stimulantの場合M型が望ましい相乗効果を及ぼすことについて, PM式リーダーシップ論におけるP-M相乗効果との関連から考察が加えられた.
著者
鎌田 晶子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.78-89, 2007
被引用文献数
3

「透明性の錯覚」(Gilovich, Savitsky, & Medvec, 1998)とは,自分の内的状態が他者に実際以上に明らかになっていると過大評価する傾向である。本研究では,行為者がひとつだけ味の異なる飲み物を観察者に言い当てられないように飲むというGilovich et al.(1998; Study 2)の手続きに基づいて3つの実験を行った。研究1a(<i>n</i>=45)では,Gilovichらの追試を行い,日本の大学生においても行為者の透明性の錯覚が同様に認められることを確認した。研究1b(<i>n</i>=46)では,同様の課題で1対1の対面条件を設定し実験を行ったが,透明性の錯覚は消滅せず,研究1aの結果が実験上のアーチファクトではないことを明らかにした。研究2(<i>n</i>=116)では,係留点が透明性の錯覚に与える影響について検討するため,行為者の主観的な衝撃度を操作した。その結果,衝撃の強さが行為者の透明性の錯覚量に影響を与える傾向が示された。これは,透明性の錯覚の発生メカニズムとして係留・調整効果を支持するものであった。行為者―観察者の対人相互作用における主観性や認知的バイアスについて考察した。<br>
著者
瀧川 哲夫
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.143-148, 1985

An experimental analysis of voting behavior based on a new matrix game paradigm defined by Takigawa (1983) is reported. Five experimental conditions defined by 2×2 payoff matrices were adopted, where the first row represented the player's vote for the first party and the second row the vote for the second party. The first column corresponded to the winning of the first party and the second column to the winning of the second party. Eight successive elections were performed in the course of an hour. The result showed the effectiveness of the payoff matrices used. The selection distributions converged upon the first party acceleratively, which we called an avalanche phenomenon, as shown in Figs. 2 and 3. Further analysis suggested that there were two stages in decision making in this kind of situation, i. e., the subjects tended to control the outcome of the voting by voting to realize the best score cell initially in each election and shifted their choice by voting for the other party which they predicted would win at the next vote in order to realize some score.
著者
内藤 哲雄
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.129-140, 1994

本研究では, 内藤 (1993a) によって開発されたPAC分析の技法を利用することで, 性の欲求や衝動の解発刺激, 欲求の生起にともなう生理的・身体的反応, 心理的反応, 異性や同性への対人行動に関する全体的・統合的な態度 (イメージ) 構造を, 個人別に分析することを試みた。<BR>被験者は, 実験者とは初対面の女性で, 専門職職業人1名, 大学生3名であった。また, いずれも未婚で, 交際中の異性と性行為の経験をもっていた。<BR>被験者Aの事例では, 恋人への依存欲求と自立への欲求間の葛藤が, 恋愛感情と身体的な性の衝動や反応を分離させるシンデレラ・コンプレックスを示唆する構造が析出された。また, 構造解釈を通じて被験者自身が気づくという現象が見いだされた。<BR>被験者Bの事例では, 強い正の報酬価をもつ性行為と性欲求の解発刺激として焦点化した恋人を独占的に占有しようとする欲求とが, 相互に循環的に補強し合う機制が成立していると考えられた。<BR>被験者Cの事例は, 性欲求へのマイナスイメージが父親やマスコミからの隠されたメッセージとして伝達され内面化され, 愛する父親や恋人への両価感情を生じ, さらには恋人の要求に流されて性行為を行う自己自身へのマイナス感情を生じているとみなせるものであった。<BR>最後の被験者Dの場合には, 友愛が恋愛へと変わり, 破局の危機を修復する手段として性行為が生じる。しかし関係が回復されると, 結婚と性行為に関する信念により再び前段階に押し戻してしまう。強固な規範意識によって進展段階を後戻りしながらも, 恋愛関係が壊れない事例として注目されるものであった。<BR>以上の成果を踏まえて, 性の欲求や行動を個人別に構造分析することの意義を検討するとともに, こうした目的にPAC分析を活用できることが明らかにされた。<BR>最後に今後の課題として, 男性についても検討するとともに, 恋愛行動の進展段階と対応させたり, 性障害の診断や治療効果測定などへの応用可能性を探っていくことがあげられた。