著者
遠藤 辰雄
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
教育・社会心理学研究 (ISSN:0387852X)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.103-116, 1968 (Released:2010-03-15)
参考文献数
6

(1) 犯罪者と大学生との両群を構成因子法によって比較したところでは, 社会的要因すなわち年令に相応した社会生活の技術の身につけ方, 友人のタイプ, グループの一員あるいはリーダーとしての経験などの面, および教育・訓練の要因すなわち学校および家庭における「しつけ」の面に大きな差のあるものが多く, とくに自己洞察すなわち非行に対する自分自身の態度, 自分で自分の行為の責任をひきうける計画性と能力の面に著るしい差のあることが見出された。(2) 自己洞察は, 犯罪経歴が長いほど, すなわち非行が幼時に始められていればいるほど, 劣っている。従って, 安倍淳吉氏の指摘する非行深度と関係していると推測できる。(3) 自己洞察は, 犯罪の真の心理的動機とも平行していると考えられる。(4) 自己洞察は, 年少者では困難であるが, 洞察が可能な年令群に属し, 0以上ならば非指示的療法, 責任療法が可能であり, 年少者であり, -1以下では行動療法が可能であると考えられるが, なお今後の研究をまたねばならない。(5) また, この構成因子法は, 矯正的教育・治療のメドをつけるために, 可能な限度の資料を得るために, とくに心理学的検査が不可能な場合に, もっとも適切な方法であると考えられるが, 構成因子相互間のダイナミックスとくに自己洞察との関連における犯罪性の矯正の見通しの予測の問題についても, 多くの疑問が残されているので, 後日改めて論及することとしたい。
著者
安藤 延男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
教育・社会心理学研究 (ISSN:0387852X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.61-73, 1965

基督教との関連で生じる外行動としての宗教的行為 (もしくは宗教生活) に関するインベントリーの作製手続きについて報告した。<BR>(1) "宗教的行為" の概念的定義については, 岸本の所論 (1961) を適用した。かつその測定の意義について述べた。<BR>(2) 24個の質問項目からなる原案を作製し, 予備調査 (対象: 福岡女学院高等学校3年生, N=184, 1962年度) の資料による上位・下位分析を行い, 22項目を有する最終形式をえた (Table 1)。<BR>(3) インベントリーの最終形式の質問項目22個の相互相関係数 (ピァソンのr) 231個の相関行列にもとずく因子分析のあと軸の直交回転を施した (Table 2, 3)。3個の因子に関する解釈は以下のとおりで, いずれも基督教徒の日常生活の重要な諸次元を指示する内容であった。すなわち, 第1因子は 「神中心的生活」 因子, 第2因子は 「宗教的修養」 因子, 第3因子は 「世俗生活への積極性・責任性」 因子である (Table 4, 5, 6)。<BR>(4) 一次因子の相互独立性について検討したところ, 3つの一次因子は総合点に対し, かなり高い相関を示し, かつ二次因子のレベルでも第1因子 (A) における負荷がきわめて高いことが見出された。したがって, 本インベントリーの一次因子相互間には, かなりの内的整合性がみられることから, 一次因子に準拠せる下位尺度の構成は見合わせることとした (Table 7)。<BR>(5) インベントリー最終形式の弁別力を吟味するため, いくつかのグループからえられた回答資料で分布を検べてみたところ, いずれの場合も, 6もしくは7標準偏差に及ぶ広範囲の分布がみとめられた。したがって, 最終形式の弁別力は満足すべきものということができる (Table 8-a, 8-b)。<BR>(6) 信頼性は再検査信頼度係数を用いて吟味した結果, r=. 752という, かなり満足すべきものであった。<BR>(7) 妥当性の吟味は多面的に行われた。妥当性の規準としては, 基督教会における洗礼の有無, 基督教関係学校学生・生徒と教会礼拝出席者の比較, 自己が主観的に帰属する宗教, 両親の宗教, 宗教的情操尺度・基督教への態度尺度・聖書の知的理解などの諸得点が採られ, それぞれについそ相関関係を検討した。その結果, 本インベントリーの妥当性は望ましいものであることが示された (Table 9~14)。<BR>(8) 本インベントリーは, 福岡女学院中学・高校, 西南学院中学・高校, カトリック系明治学園中学・高校のほか, 西南学院大学文学部神学科や基督教会の若干につき実施されたにすぎない。しかしながら, 本インベントリーの利用面を考え, 暫定的な標準化を行った (Table 15, 16)。いうまでもなく, 今後における資料の集積を侯って, 逐次改訂される必要のあることはいうまでもない。なお, この標準化に用いた素資料を付録として示しておく (Appendix 1-3)。
著者
相馬 敏彦 浦 光博
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.13-25, 2007
被引用文献数
2

本研究において我々は,排他的なサポート関係に影響する要因について検討した。<br> 一般的信頼感(山岸,1998)と,進化論的な理論的枠組みとから,我々は次のように予測した。恋愛関係に所属する者は,個別的な信頼感の影響を統制しても,関係の外部からのサポート取得を抑制するだろう。また,これらの関連は,一般的信頼感の低い者に顕著に認められるだろう。<br> 以上の仮説を検証するために,我々は136人の大学生を対象とした調査を行った。仮説は支持された。一般的信頼感の高い者は,個別的な信頼感を発展させた恋愛関係であっても,その外部にサポート取得することができた。同様の結果は,個別的な信頼感の高い,もしくは低い異性との友人関係では認められなかった。これらの結果は,一般的信頼感の低い者が,恋愛関係に所属したときに,多様なソーシャル・サポート・ネットワークを形成することが困難であることを示唆する。最後に,所属する関係によって,資源交換のされやすさが異なる可能性について考察された。<br>
著者
大西 彩子 吉田 俊和
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.111-121, 2010
被引用文献数
2

本研究の目的は,自己愛傾向,認知的共感性,情動的共感性,いじめに否定的な集団規範が生徒のいじめ加害傾向に与える影響を明らかにすることで,いじめの個人内生起メカニズムについて検討することである。188人(男子103人,女子85人)の中学生を対象に,自己愛傾向,認知的共感性,情動的共感性,関係性いじめ否定規範意識,直接的いじめ否定規範意識,関係性いじめ加害傾向,直接的いじめ加害傾向を質問紙調査で測定し,共分散構造分析による仮説モデルの検討を行った。主な結果は以下の通りであった。(1)各いじめ否定規範意識は,各いじめ加害傾向に負の影響を与えていた。(2)誇大的自己愛傾向は,各いじめ否定規範意識に負の影響を与えることで間接的に各いじめ加害傾向に影響を与えていた。(3)認知的共感性は,直接的いじめ加害傾向へ負の影響を与える直接効果と,関係性いじめ否定規範意識に正の影響を与えることで,関係性いじめ加害傾向に負の影響を与える間接効果がみられた。(4)情動的共感性は,各いじめ否定規範意識に正の影響を与えることで,間接的に各加害傾向に影響を与えていた。本研究によって,集団規範がいじめ加害傾向に影響を与える主な要因であることが示唆され,集団規範を考慮したいじめ対策を行うことの重要性が明らかになった。<br>
著者
三隅 二不二 黒川 正流
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
教育・社会心理学研究 (ISSN:0387852X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.169-181, 1971

本研究は, 「集団規模の拡大は群集化傾向と軍隊化傾向を生じる」という仮説を, リーダーシップPM論との関連において実証し, あわせて集団規模と帰属意識およびモラールとの関係を分析することを目的とした。<BR>某製鉄所一般工員4, 418名 (698集団) および某化学工場一般従業員1, 369名 (305集団) に対して, 質問紙による面接調査を実施した。<BR>結果を要約すればつぎの通りである。<BR>(1) リーダーシップM機能についていえば, 職場集団規模の拡大につれて, 一般にM機能の強いPM型もしくはM型の第1線監督者が減少し, M機能の弱いP型もしくはpm型の第1線監督者が増加する傾向が認められた。<BR>(2) リーダーシップP機能についていえば, 強いM機能が伴わないならば, 職場集団規模の拡大につれて, 一般にリーダーシップPおよびPが増加し, あるいは少なくとも減少することはないことが実証された。<BR>(3) 以上の結果から, 職場集団規模の拡大につれて, 軍隊化傾向か, あるいは群集化傾向が生じることが考察された。<BR>(4) 会社もしくは組合, およびその両方に対して高い帰属意識得点を示すものの比率は, 上司のリーダーシップ類型をPM型と認知する成員の中で最も高く, 以下M型, P型, pm型と認知する成員の順にその比率が低下し, 会社もしくは組合, およびその両方に対して低い帰属意識得点を示すものの割合は, 上司をpm型と認知する成員の中で最も高く, 以下P型, M型, PM型と認知する成員の順にその比率が低下することが見出された。<BR>(5) 上記 (4) の結果にもかかわらず, 職場集団規模の大いさは, 会社と組合, およびその両方に対する成員の帰属意識の強さに有意な影響を与えるという証拠は見出されなかった。<BR>(6) 上記 (4), (5) の結果から, 職場集団規模の拡大が会社と組合に対する帰属意識を相対的に高める傾向をもつという仮説が暗示された。<BR>(7) 職場集団規模の拡大につれて, 一般にモラール (チームワーク得点を含む) が低下する傾向が認められた。このことは, リーダーシップの変化による軍隊化傾向および群集化傾向のいずれも, いわゆる職場のモラールを犠牲にして成立することを裏付けるものと解釈された。
著者
奥田 達也 伊藤 哲司
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.167-174, 1991
被引用文献数
2 2

In social-psychological studies, it is often necessary to observe what role each member of a small sroup has and how the structure of the group is. SYMLOG (a SYstem for the Multiple Level Observation of Groups: Bales & Cohen, 1979) is a method for that kind of observation. But it is not appropriate to use SYMLOG translated directly into Japanese because of cultural differences. The purpose of this study is to make simple rating items of SYMLOG for the Japanese people. In SYMLOG, three dimensions for locating each group member are assumed, which are "Upward-Downward (dominant-submissive) ", "Positive-Negative (friendly-unfriendly) ", and "Forward-Backward (task-oriented-emotionally expressive) ". First of all, it was pointed out that the definition of "F-B" in the Japanese version should be "in-context-out-of-context", and then eighteen items were made which are constructed of sets of three items for each polar of each dimension. Observation 1 examined the validity of these eighteen items through factor analysis of ratings of SIMSOC (SIMulated SOCiety) interaction. The result showed the necessity to improve the items N, F, and B. The validity of the remade twenty four items was investigated in Observation 2 through factor analysis of ratings of discussions by five people. It yielded six factors that almost correspond to each polar in each dimension. Further factor analysis of twelve items extracted from the remade items made six factors, that showed the three-dimension-structure. Correlations between ratings by these twelve items and scorings (that is the other method in SYMLOG) were positive. Therefore these twelve items in Japanese Japanese improved version of SYMLOG-are valid and useful for observation of small group interactions.
著者
脇本 竜太郎
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.160-168, 2008
被引用文献数
3

自尊心の高低と援助要請に関しては,正の関係を想定する脆弱性仮説と負の関係を想定する認知的一貫性仮説・自尊心脅威モデルという対立する仮説が提案され,双方を支持する知見が蓄積されている。本研究では,そのような知見を整理する1つの視点として自尊心の不安定性を取り上げ,自尊心の高低と不安定性が青年の被援助志向性および援助要請に及ぼす影響について,対人ストレスイベントの頻度・日間変動を統制した上で検討した。援助要請についてはさらに,家族・非家族という対象ごとの検討も行った。 48名の大学生・大学院生が1週間の日誌法による調査に回答した。階層的重回帰分析の結果,自尊心の高低と被援助志向性・援助要請の関係は,自尊心の不安定性により調節されていた。具体的には,自尊心が不安定である場合は高さと被援助志向性,援助要請の回数は負の関係を,特に自尊心が安定している場合は正の関係を持つことが示された。また,対象別の援助要請の分析では,上記のような関係が非家族への援助要請数でのみ認められた。自尊心の高低と同時に不安定性を検討することの意義・有用性および今後の研究に対する示唆について議論した。<br>
著者
前田 重治
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
教育・社会心理学研究 (ISSN:0387852X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.149-172, 1967-03-31 (Released:2010-03-15)
参考文献数
5
著者
吉武 久美子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.65-69, 1989-08-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
7

This experiment was conducted to compare the conformity rates in the case of the suddenly formed consensus and in that of the gradually formed consensus in elective task. Moreover, the effects of public self-consciousness scores in conformity were tested. Subjects were 35 (10 males and 25 females) college students. The results were as follows. The conformity rates under the suddenly formed consensus condition were higher than that under the gradually formed consensus condition. However, follow ing the experiment, no difference was found between the suddenly formed consensus condition and the gradually formed consensus condition with regard to the amount of private acceptance. And High public self-consciousness scorers conformed more than low scorers.
著者
深谷 澄男 田宮 葉子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.25-34, 1971-11-15 (Released:2010-11-26)
参考文献数
23

The purpese of the present study is to investigate personality perception in dyadic peer relations from the view point of cognitive consistency theory, the basic principle of which is that there is a tendency toward consistency maintenance within the P-O-X system.According to this theory, Hypotheses 1-a through 1-c were constructed on the basis of relationships between P-O and Assumed similarity, Perceived similarity, Real similarity, and Accuracy, all of which were constructed from the discrepancy scores that existed between and pair among self-image, other-image, and self-image through other. Hypothesis 2 was constructed on the basis of relationships between P-O and the scores of self-image and other-image.The research on the questionnaire was conducted on October 27 and on November 5, 1969. At the first session, each of 96 girls of the first grade of Yokohama Kyoritsu Gakuen Junior High School was required to answer the sociometric test for the purpose of constructing a set of P-O relationships. At the second session, the girls were required to take Self-Differential scale test, developed by Nagashima and his associates (1967), in terms of the following three criteria: 1) the subject's own self-image, 2) the other-image of a friend appointed for her by the experimenter, and 3) an evaluation of the subject's own self-image as rated by the appointed friend.The conclusions derived from the results were as follows:1) When there existed positive interpersonal feelings in a dyadic peer relation, the person perceived the other-image more similar to her own self-image than when there existed negative interpersonal feelings.2) At the same time, when there existed positive interpersonal feelings in the dyadic peer relation, the person gauged her own self-image as perceived by the other, to be more similar to her own self-image than when there existed negative interpersonal feelings.3) The one who had more positive personal feelings in the dyadic peer relation perceived the other-image more similar to her own than in the case of one who had more negative personal feelings.4) A person who had more Positive personal feelings perceived the other-image more similar to the other's own perception than occurred with the case one who had more negative personal feelings.5) Either of the dyads estimated her own self-image as perceived by the other differently from the other's perception when they had mutually divergent personal feelings.6) Self-image does not depend on the interpersonal relations, while the other-image, at least in part, does depend on the personal feelings toward other. This is to say that if personal feelings toward other is negative, the other-image tends to be more negatively perceived than the other's own self-image.
著者
Ryosuke Yokoi Kazuya Nakayachi
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.22-27, 2021 (Released:2021-10-16)
参考文献数
13
被引用文献数
1

This study tests the effect of moral value similarity on trust in autonomous cars (ACs). We adopt two moral values: utilitarianism (promoting a greater good) and deontology (condemning deliberate harm). Previous research found that utilitarianism similarity had a significant effect on trust in ACs, whereas deontology similarity did not. The research also revealed that when participants preferred a deontological action, ACs were less trusted than a human driver, even when the ACs performed the same action as the participants. We investigated the replicability of these findings and whether distrust in ACs arises from the ACs’ inability to sympathize with potential victims. Our online experiment (N=609) found that both utilitarian and deontology similarities positively influenced trust in ACs. Mediation analysis also indicated that when the driver was an AC, the participants recognized that the AC lacked the capacity to feel sympathy, thereby decreasing trust in it. The paper also discusses the theoretical implications of our findings.
著者
木原 香代子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.155-164, 2002-04-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
17

本研究では, 2種類の相貌印象判断と2種類の提示方法を用いて顔の再認記憶に及ぼす影響を検討した。実験1では, 2種類の特性語を用いて相貌印象判断を行い, 顔の再認記憶にどのような影響を及ぼすかを検討した。再認課題には記銘時と再認時で提示される表情が異なる異画像再認課題を用いて行った。その結果, 表情独立特性語で相貌印象判断を行った方が表情依存特性語で行うよりも後の再認成績が良くなることが示された。実験2では, 同一人物の異なる3種類の表情が連続提示され, 一括して相貌印象判断を行う一括符号化条件と, 同一人物の異なる3種類の表情がリスト中に分散して提示され, 個々に相貌印象判断を行う分離符号化条件を設定し, それぞれの提示方法が顔の再認記憶に及ぼす影響について検討した。相貌印象判断は実験1同様2種類の特性語を用い, 再認課題は異画像再認課題で行われた。その結果, 一括符号化条件の方が分離符号化条件よりも後の再認成績が良くなることが示された。したがって, 3つの表情の統合を促す符号化が顔の再認記憶を促進することが示唆された。
著者
吉山 尚裕
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.47-54, 1988-08-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
14

本研究は, 第一に少数者行動の一貫性が, 多数者に生起する少数者への同調行動の内面化に及ぼす効果を時系列的に検討し, 第二に多数者の少数者に対する属性認知 (自信と能力) の成立過程について吟味した。被験者は男子大学生80名。5人集団が構成され10試行群と20試行群の2条件に割りあてられた。実験集団の1人はサクラ (少数者) であった。集団状況において, 被験者はスクリーン上に70cmの長さの線分を3.3m離れた位置から実際に構成するように教示された。そのとき, サクラは一貫して逸脱した長さ (85cm) を呈示した。試行終了後, 被験者は個人状況において線分を構成した。結果は次の通りである。1. 多数者は少数者側への同調行動を生起させたが, 時間経過に伴う内面化の進行は見いだされなかった。2. 多数者は少数者に対して自らよりも“能力”を低く, “自信”を高く認知した。3. 多数者の少数者に対する“自信”認知は, “能力”認知に比べ敏感ではなく, その成立に時間を必要とした。4. また, 多数者は少数者との行動のズレが大きい場合に, 少数者の“自信”を自らよりも高く認知した。少数者の行動一貫性および少数者と多数者の行動のズレは, 多数者の少数者に対する“自信”認知成立の決定因であると結論された。また, 実験結果から今後検討すべきいくつかの間題が討論された。
著者
小杉 考司 藤沢 隆史 水谷 聡秀 石盛 真徳
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.16-25, 2001-12-25 (Released:2010-06-04)
参考文献数
13
被引用文献数
3 1

本研究は, ダイナミック社会的インパクト理論の一連の研究における, 空間的収束という結果をうみだす要因を特定することを目的としている。そのため, ダイナミックインパクト理論で用いられている, シミュレーションモデルに含まれている変数の効果を検証するべく四つのモデルを作った。派閥サイズモデルや累積的影響モデルでは二種類の連続変数をもち, 影響力の強さに個人差が付与されていたが, 本研究のモデルAおよびBは一種類の強度変数しか持たせず, さらにモデルCは影響力の個人差をなくした。モデルDは距離を離散的に表した, 近傍という変数を持つモデルである。結果は, いずれのモデルにおいても空間的収束が見られるというものであり, 影響力の数や個人差, 人数という変数は空間的収束の必要条件ではないことが明らかにされた。このことから, 結果をバイナリ変数に変換する関数と局所的相互作用という特徴が, 空間的収束に必要な条件であると考えられた。また, ダイナミック社会的インパクト理論を展開する方向性が示唆され, この理論から得られるシミュレーションの結果の, 誤解や拡大解釈という問題点が指摘された。最後に, コンピュータシミュレーション一般における, モデル構築の容易さが引き起こす問題点と, 今後の展望が示された。
著者
樂木 章子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.23-39, 2002-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
22
被引用文献数
1

乳児院の集団的・組織的特徴と乳児の発達の関係について検討するために, 対照的な2つの乳児院 (A乳児院とB乳児院) において事例研究を行った。A乳児院は高度な医療機能を有し, 都会の高層ビルの中にある大規模施設であり, B乳児院は温かい家庭的処遇を指向した山間部の小規模施設である。2つの乳児院における集合的行動, ならびに, 集合的行動の背後にあるコミュニケーションの特徴を検討した。すなわち, (1) 「乳児-保育者」集合体, ならびに, 職場集団における観察可能な集合的行動の相違, (2) コミュニケーション過程において形成される意味的差異の相違を検討した。その結果, A乳児院においては <効率-非効率> という差異が主導的であり, B乳児院においては <私物化-非私物化> という差異が主導的であることが見出された。また, それらの主導的差異によって構成される意味的世界は, 互いにとっての外部をなしている世界-A乳児院 (またはB乳児院) にとっては, B乳児院 (またはA乳児院) に構成されているような意味的世界-によってゆらぎを与えられていることも示唆された。筆者の先行研究において, A乳児院で観察された (しかし, B乳児院では観察されなかった) 乳児の行動, 応答の指さし課題における通過率の高低, 集団見立て遊びの成立・不成立等を, 上記の集団的・組織的特徴の一側面として考察した。
著者
Takuhiko Deguchi
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.105-110, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
12

A questionnaire and a computer simulation were used to investigate the validity of a critical mass model of rule-breaking behavior with local interaction. In this model, individuals were only able to perceive some of their neighbors’ behavior. The questionnaire assessed attitudes toward and the frequency of rule-breaking behavior, and 887 valid responses were obtained from Japanese junior high school students. Computer simulations based on cellular automata were conducted using the questionnaire data. The outputs of the simulations including local interactions showed strong positive correlations with the rule-breaking frequencies obtained with the questionnaire. These findings imply that models taking the limits of perception into account could be useful for describing real micro-macro relationships.
著者
Claudia Gherghel Takeshi Hashimoto Jiro Takai
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.56-60, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
16
被引用文献数
2 3

Previous research suggests that individuals from interdependent cultures have more congruent views of agency and social obligations. This study aimed to confirm these findings by investigating the moderating effects of culture on the association between perceived social expectations regarding helping and affect. Japanese (n=164) and American (n=177) adults recalled a recent situation in which they helped someone and responded to a questionnaire regarding need satisfaction and affect. As expected, the Japanese subjects showed a stronger positive association between the perceived social expectation that they should help and positive affect than the Americans. For Japanese, the perceived social expectation that they should help increased satisfaction of the need for competence, leading to a more positive affect, while for Americans, the perceived social expectation that they should help reduced satisfaction of the need for autonomy, which in turn, reduced positive affect.
著者
大河内 茂美 杉万 俊夫
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.63-72, 2000-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
11

集団目標の達成を志向するP行動と, 人間関係それ自体の維持を志向するM行動という, 2種類の行動形態によってリーダーシップ行動を把握しようとするP-M論に基づき, P行動とM行動の効果性に関する数理モデルを提出した。P行動の下位形態として, メンバーの能力向上を志向するP行動と, 累積目標達成量の増加を志向するP行動を設定し, これらにM行動を加えた3つのリーダーシップ行動の時間的関数として効果性を定式化した。第1に, 「メンバーの能力」と「人間関係の円滑さ」が, 「集団モラール」に与える効果を, 経済学における生産関数を援用して定式化した。第2に集団モラールは, メンバーの能力向上, 人間関係の円滑化, 累積目標達成量の増加に利用されるものとし, それぞれに対する利用は, 上記3つのリーダーシップ行動によって決まるものとした。数理モデルの解析には, ポントリャーギンの最大値の原理を用いた。本モデルは, これまでの実証的研究の成果に対して, 有効な解釈を与えうることが示唆された。
著者
渡部 幹 寺井 滋 林 直保子 山岸 俊男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.183-196, 1996-12-10 (Released:2010-06-04)
参考文献数
42
被引用文献数
19 20

最小条件集団における内集団バイアスの説明のために提出されたKarpら (1993) の「コントロール幻想」仮説を囚人のジレンマに適用すると, 囚人のジレンマでの協力率が, プレイヤーの持つ相手の行動に対するコントロール感の強さにより影響されることが予測される。本論文では, 人々の持つコントロール感の強さを囚人のジレンマでの行動決定の順序により統制した2つの実験を行った。まず第1実験では以下の3つの仮説が検討された。仮説1: 囚人のジレンマで, 相手が既に協力・非協力の決定を終えている状態で決定するプレイヤーの行動は, 先に決定するプレイヤーの行動により異なる。最初のプレイヤーが協力を選択した場合の2番目のプレイヤーの協力率は, 最初のプレイヤーが非協力を選択した場合の2番目のプレイヤーの協力率よりも高い。仮説2: 先に行動決定を行うプレイヤーの協力率は, 同時に決定を行う通常の囚人のジレンマにおける協力率よりも高い。仮説3: 2番目に決定するプレイヤーの協力率は, 相手の決定が自分の決定の前に知らされない場合でも, 同時に決定を行うプレイヤーの協力率よりも低い。以上3つの仮説は第1実験の結果により支持された。3つの仮説のうち最も重要である仮説3は, 追実験である第2実験の結果により再度支持された。
著者
鈴木 勇 菅 磨志保 渥美 公秀
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.166-186, 2003-03-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
73
被引用文献数
8 7

本研究は, 阪神・淡路大震災を契機とする日本の災害ボランティアの動向を歴史的経緯を踏まえて整理し, 現在展開しつつある災害NPOの全国的なネットワーク化の意義と課題を以下の3点から検討したものである。第一に, 日本における民間の災害救援活動の歴史を阪神・淡路大震災以前, 震災直後, そして, 震災以降の3つに分けて整理した。その結果, 阪神・淡路大震災を契機として, 災害に関わるボランティアが「防災ボランティア」から「災害ボランティア」へと変容し, 災害ボランティアのネットワーク化が求められてきたことが明らかになった。第二に, 災害ボランティア・NPOのネットワーク化の現状について, 事例調査を基に報告した。災害NPOは, 地元地域における従来の活動を維持しつつ, 効果的な救援活動を行うために全国ネットワークに参加していることが明らかになった。最後に, 災害NPOのネットワークがもつ今後の課題を整理し, 日本における災害救援の今後のあり方を考察した。