著者
矢守 克也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.95-114, 2001-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
58
被引用文献数
2 2

本稿は, モスコビッシ (S. Moscovici) が提唱した社会的表象理論は, 個別的な対象をターゲットにした個別理論ではなく, 従来の社会心理学理論の多くが, その前提として依拠している認識論-主客2項対立図式-に抜本的な改訂を迫るグランド・セオリーであることを明示し, かつ, そのことを理解する鍵が, 本来, 本理論と一体のものとして提起された社会構成主義の主張を, 徹底した形式で導入することにあることを明らかにしようとするものである。具体的には, 近年, 同理論について精力的に検討しているワーグナー (W. Wagner) の著作を参照しながら, 次の3点について論述した。第1に, 社会的表象が, 認知する主体の「内部」に存在する心的イメージの一種と考える誤解 (第1の誤解) を解消するために, 社会的表象とは, むしろ, 認知される対象であって, 主体の「外部」に存在するものであるとの主張を行なう。第2に, この主張は, 第1の誤解を払拭するために導入した第2の誤解であることを明示し, 両方の誤解をともに解消して, 社会的表象とは, 「外部」に存在する対象そのものではなく, それをそのようなものとして, 主体の前に現出させる「作用」であることを明らかにする。最後に, 上の理解になお残存する第3の誤解-主体だけは, その作用に先だって, 「内部」に自存すると考える誤解-をも解体し, 社会的表象とは, 「内部 (主体) 」と「外部 (対象) 」とが混融した状態から, 両者を分凝的に現出させる「作用」であることを示す。
著者
平井 美佳
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.103-113, 2000-02-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
30
被引用文献数
11 17

本研究は, いわゆる日本人論における「日本人らしさ」についてのステレオタイプを, 当の日本人はどのように捉えているのかを検討したものである。すなわち, 「日本人らしさ」のステレオタイプを「一般の日本人」については認めるにしても, 個々人に注目した場合には, それほどにはあてはまらないとするのではないかという仮説を検討した。まず, 代表的な日本人論の記述から2, 000項目を抽出し, これをもとに3ヵテゴリー45項目からなる「日本人らしさの尺度」を作成した。この尺度を用い, 大学生の男女226名に「一般の日本人」と「自分自身」の2評定対象についての評定を求めた。その結果, 「日本人らしさ」についての肯定度は「自分自身」についてよりも「一般の日本人」についてより高いという有意差が認められた。さらに, カテゴリー別には, 集団主義的傾向を記述したカテゴリーにおいて, 最も顕著な差が見出された。この結果に基づいて, 「一般の日本人」のレベルと個人のレベルの評定が異なる理由について考察した。
著者
Hirofumi Hashimoto
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.51-55, 2019 (Released:2019-08-23)
参考文献数
20
被引用文献数
6

The purpose of the current study was to clarify whether interdependent behavior among the Japanese is aligned with their expectations regarding others’ behavior or their own preferences. The participants were privately asked about their preference for independence or interdependence and their expectations regarding others’ independent or interdependent behavior. Then, they were asked to publicly express whether their own behavior was indicative of independence or interdependence. When comparing the participants’ preferences, expectations, and actual behavior, I found that interdependence was only evident in their expectations and public behavior; i.e., the participants answered that they preferred independence rather than interdependence, whereas they expected that others are interdependent and identified themselves as interdependent in public. These findings suggest that interdependent behavior among the Japanese is based on their expectations regarding others’ behavior rather than their own preferences.
著者
河野 和明
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.115-121, 2001-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
28
被引用文献数
2 6

自己隠蔽尺度 (SCS; Larson & Chastain, 1990) を日本語に翻訳し, さらに新たな項目を加えたうえで取捨選択し, 日本語版自己隠蔽尺度を作成した。これに, 木田ら (1993) が開発した刺激希求尺度を加えて, 身体症状尺度との関係を検討した。友人の数, 親友の数, 雑談頻度, 外的刺激希求尺度を統制したうえで, 内的刺激希求尺度と自己隠蔽尺度は自覚的な身体症状と有意な相関を示した。この結果は, 隠蔽した嫌悪的記憶の量と記憶へのアクセス頻度が積極的抑制 (Pennebaker, 1989) によって生じるストレスを規定する可能性を示唆している。
著者
大迫 弘江 高橋 超
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.44-57, 1994-07-20 (Released:2010-06-04)
参考文献数
30
被引用文献数
5 3

本研究は, 男女大学生を被験者として甘え表出に及ぼす性差と出生順位の影響を検討するとともに (研究I), 対人的葛藤事態における対人感情及び葛藤処理方略に及ぼす甘えの影響を検討すること (研究II) を主たる目的として行われたものである。甘え表出における性差の影響に関しては, 部分的ではあるものの, 男子よりも女子の方が強くなることが示された。出生順位に関しては, 長子と末子のみについて比較したが, 性差ほどには顕著な差異は認められなかったが, 兄弟姉妹に対する甘え表出においては, 長子よりも末子の方が強くなる傾向が示された。対人的葛藤事態における対人感情, 及び葛藤処理方略には, 甘え表出の強い者と低い者とでは顕著な差異のあることが明らかにされた。対人感情に関しては, 甘え表出の高い者の方がより強い不快感情を示していた。また, 葛藤処理方略に関しては, 他譲志向, 自譲志向, 方向探索, 状況離脱志向の全ての方略において, 甘え表出の強 い者の方が用いやすいことが明らかにされた。これらの結果を, 土居 (1971) の提唱した甘え理論の枠組みで考察し, また, 甘え測定にかかわる問題点などを指摘した。
著者
矢守 克也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.20-31, 1996-06-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2 6

「災害は忘れたころにやってくる」-この警句は、災害体験がいかに「風化」しやすいかを暗示している。しかし、実際に、「風化」はどのくらいの速度で進むものなのだろうか。また、そのようなことを測定する方法があるのだろうか。本研究は、1982年7月の長崎大水害を事例として、災害の記憶が長期的に「風化」していく過程を、同災害に関する新聞報道量を指標として定量的に測定することを試みたものである。災害を単なる自然現象ではなく、一つの社会的現象としてとらえる立場にたてば、その「風化」についても、それは言語を介した社会的現象の形成・定着・崩壊過程として把握されねばならない。現代においては、マスメディアは明らかにその作業の一翼を担っている。本研究では、被災地の地元地方紙である長崎新聞に掲載された水害関連記事を災害後10年間にわたって追跡し、月ごとの報道量を測定した。その結果、報道量は指数関数的に減少することが見いだされた。ただし、新聞報道量の減少、すなわち、災害の「風化」とは単なる忘却の過程ではない。それは、当該の出来事の意味が人々のコミュニケーションを通してこ・定の方向へと収束し、共有され、定着していく過程でもある。
著者
Ryosuke Yokoi Kazuya Nakayachi
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1819, (Released:2019-01-31)
参考文献数
11
被引用文献数
7

This study examined the determinants of trust in artificial intelligence (AI) in the area of asset management. Many studies of risk perception have found that value similarity determines trust in risk managers. Some studies have demonstrated that value similarity also influences trust in AI. AI is currently employed in a diverse range of domains, including asset management. However, little is known about the factors that influence trust in asset management-related AI. We developed an investment game and examined whether shared investing strategy with an AI advisor increased the participants’ trust in the AI. In this study, questionnaire data were analyzed (n=101), and it was revealed that shared investing strategy had no significant effect on the participants’ trust in AI. In addition, it had no effect on behavioral trust. Perceived ability had significantly positive effects on both subjective and behavioral trust. This paper also discusses the empirical implications of the findings.
著者
M.H.B. Radford L. Mann 太田 保之 中根 允文
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.115-122, 1989-02-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
23
被引用文献数
5 4

意志決定は, 文化の違いを越えて共通に見られる基本的な認識作用である。本研究は, 長崎大学に在学中の156名を対象にして, 意志決定行為と人格特性について, JanisとMann (1977) が提唱した意志決定の葛藤理論に基づく尺度により調査した研究の第一報である。調査結果は, 葛藤理論に基づく予想を支持するものであった。すなわち, 意志決定者としての自己評価が高い場合には, 「熟慮」型の意志決定スタイルとポジティブな相関関係が見られ, 「自己満足」「防衛的回避」および「短慮」といった不適切なスタイルとの相関関係はネガティブであった。更に, オーストラリアの同年代で同質の学生と比較したところ, 意志決定行為の違いが明らかになった。この結果については, 意志決定の葛藤理論を文化の違いを越えて適用することの是非を問い直すという観点から考察をくわえ, かつ今後も継続的に比較研究することの重要性について述べた。
著者
桜井 茂男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.85-94, 1992-07-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
29
被引用文献数
26 15 5

This study was designed to construct a new self-consciousness scale for Japanese children, examine the reliability and validity of the scale, and investigate the relations between self-consciousness and seven personality traits: shyness, self-exhibition, loneliness, and four kinds of perceived competence. A questionnaire consisting of twenty-eight self-consciousness items, 90 items concerning the above ersonality traits, and 25 social desirability items was administered to 424 5th-and 6th-graders, and factor analysis concerning self-consciousness items revealed 2 solutions as predicted; one factor was nemed public self-consciousness and the other was named private self-consciousness. The reliability and validity was highly estimated. Public self-consciousness score was positively related to the scores of shyness, self-exhibition, and loneliness. Private self-consciousness score was negatively related to the scores of shyness and loneliness, and also positively related to the scores of self-exhibition and four kinds of perceived competence. Results concerning private self-consciousness were inconsistent with the previous studies. It was understood from the developmental point of view.
著者
野村 竜也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.73-86, 2000-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本稿は, オートポイエーシス理論とその数理的記述モデルを紹介し, オートポイエーシスの数理的記述が社会心理学においてもたらす含意を検討することを目的とした。最初に, オートポイエーシス理論を概観し, その特徴を明らかにした上で, 社会心理学の隣接分野での展開について記述した。次に, オートポイエーシス理論の難解さの原因について, 外部観察主義者の定義を含めてこの視点から検討し, 現時点での数理的記述モデルについて外部観察主義的視点から紹介を行ない, その問題点について検討した。最後に, 現在の社会心理学分野の状況におけるオートポイエーシスの数理的記述の持つ含意について検討した。
著者
山口 勧
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.1-8, 1980-10-01 (Released:2010-11-26)
参考文献数
35
被引用文献数
2 2

The present study manipulated fear-arousal (fear, non-fear) and anonymity (high, low) in a 2×2 factorial design. From the theory of deindividuation (Zimbardo, 1969), the two varlables were expected to induce an internal state of deindividuation, and thereby disinhibit aggressive behavior.Fifty-seven male undergraduates were randomly assigned to each of the four experimental groups. The subjects were asked either to take a pill which had side-effects (fear condition), or to take coffee (non-fear condition). In addition, the subjects in the low anonymity condition were asked their name and about their personal backgrounds, and they were always called by name during the experiment. They were also given a name tag to wear. In the high anonymity condition, subjects were not asked their name nor anything about their personal backgrounds. Instead, they were given a white robe to wear to decrease individuality.The subjects were then given an opportunity to deliver electric shocks to another subject (confederate) through a Buss-type aggression machine. Both the intensity and duration of the shocks were recorded during the administration of aggression. Deilldividuation was measured on a postsession questlonnaire that assesed the subjects' memory of their own aggressive behavior.Prior to statistical treatment, two orthogonal variates, direct aggression and indirect aggression, were identified by a principal component analysis of the aggression data. The effects of fear arousal and anonymity manipulation upon the variates were as follows: (a) fear arousal increased indirect aggresson but did not affect direct aggression; (b) anonymity manipulation affected direct aggression but did not affect indirect aggression. The questionnaire data did not confirm the mediation of the deindividuated intemal state.It may be concluded that fear arousal and anonymity manipulation affected different aspects of aggressive behavior, though it remains uncertain whether or net the effects were mediated by the internal state of deindividuation.
著者
松尾 睦
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.10-20, 1994-07-20 (Released:2010-06-04)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

Past research indicates that choice of a performance-depressing drug as a self-handicapping behavior occurs only when the behavior is known to others. This study examined two other types of self-handicapping, effort reduction and choice of a difficult task. It was hypothesized that previous experience of failure and exposure of choices and consequences to others affect those two types of self-handicapping. More specifically, effort reduction was predicted to occur only among those who have experienced failure in the private situation, and choice of a difficult task was to occur in all conditions. Contrary to the prediction, publicness (public vs. private) of the situation did not affect effort reduction. Further analysis showed an interesting and intricate relationship between choices of the two types of self-handicapping; those who had reduced effort in the public condition also chose a difficult task, whereas those who had reduced effort in the private condition did not. This intricate relationship was interpreted to occur to “mend” the negative evaluation by others (that mattered only in the public condition) due to the low achievements of those who have reduced effort.
著者
大野 俊和 長谷川 由希子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.87-94, 2001-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
12
被引用文献数
2 3

本研究では, いじめの被害者に対する外見的ステレオタイプについて検討した。調査対象者に, 彼らとはまったく面識のない, 中学校の卒業アルバムから得た2クラス分の生徒写真 (49枚) を刺激として提示し, いじめの被害者を判断させた場合, 彼らの判断がどの程度一致するかを検討した。その結果, 多くの写真において調査対象者間の判断が一致することはなかったが, 数枚の写真において判断は強く一致していた。ある写真では, 約70%の調査対象者による判断の一致が示された。また, 別調査の結果, 強い一致が見られた写真の外見的特徴として, 一般的な弱さが示された。そして, クラスに在籍していた級友に対して実際のいじめの被害者が誰であったかを調査した結果, 面識のない調査対象者が, いじめの被害者として想定した人物の多くは, 実際のいじめの被害者ではないが, 調査対象者の7割がいじめの被害者として想定する1名の人物は, 級友から実際にいじめの被害者であったとの報告を最も多く得ていた。
著者
山岸 俊男 山岸 みどり 高橋 伸幸 林 直保子 渡部 幹
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.23-34, 1995-07-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
24
被引用文献数
10 12

人間性の善良さに対する信念として定義される, 他者一般に対する信頼である一般的信頼と, コミットメント関係にある特定の相手が, その関係の中で自分に対して不利な行動を取らないだろうという期待として定義される個別的信頼との間で, 理論的区別が行われた。社会的不確実性に直面した場合, 一般的信頼が低い人々は, そこでの不確実性を低減するためにコミットメント関係を形成する傾向が強いだろうという理論に基づき, 売手と買手との関係をシミュレートした実験を行った。実験の結果, 社会的不確実性と被験者の一般的信頼の水準が (a) 特定の売手と買手との間のコミットメント形成および (b) 個別的信頼に対して持つ効果についての, 以下の仮説が支持された。第1に, 社会的不確実性はコミットメント形成を促進した。第2に, コミットメント形成はパートナー間の個別的信頼を促進した。第3に, 上の2つの結果として, 社会的不確実性は集団内での個別的信頼の全体的水準を高める効果を持った。第4に, 人間性の善良さに対する信念として定義される一般的信頼は, コミットメント形成を妨げる効果を持った。ただし, 第2と第4の結果から予測される第5の仮説は支持されなかった。すなわち, 一般的信頼は個別的信頼を押し下げる効果は持たなかった。
著者
北山 忍 唐澤 真弓
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.133-163, 1995-11-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
191
被引用文献数
24 30

自己についての文化心理学的視座によれば, (i) 心理的傾向の多くは, 観念, ディスコース, 慣習, 制度といった文化の諸側面によって維持・構成され, さらに (ii) これら文化の諸要素は, 歴史的に形成され, 社会的に共有された自己観 (北米・西欧, 中流階級における相互独立的自己観や, 日本を含むアジア文化における相互協調的自己観) に根ざしている。この理論的枠組みに基づいて, 本論文ではまず, 日本の内外でなされてきている日本的自己についての文献を概観し, 現代日本社会にみられる相互協調の形態の特性を同定した。次いで, 自己実現の文化的多様性とその身体・精神健康問題へのインプリケーションについての日米比較研究の成果を吟味し, 心理的傾向が文化によりどのように形成されるかを具体的に例証した。最後に, 将来への指針を示し, 結論とした。
著者
橋本 博文
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.182-193, 2011
被引用文献数
13

本稿の目的は,これまで文化心理学において議論されてきた相互協調的自己観に焦点を当て,日本人の相互協調性が共有され,維持される一つのプロセスを分析することにある。文化的自己観尺度を用いた研究1と研究2の結果をもとに,本稿ではまず,現在の日本人が相互協調的な心のあり方や生き方を必ずしも好ましく受け入れているわけではないこと,そして日本人にとっての相互協調性はあくまで文化的に「共有」された信念であることを主張する。さらに,相互協調的に振る舞う人に対する印象評定を扱った研究3の結果から,相互協調的に振る舞うことで他者から好意的な反応を得るだろうという予測,そしてその予測を生み出す文化的共有信念の重要性を指摘する。また,実施した一連の研究知見をもとに,日本人の相互協調性に関する本稿の理解――個々人が共通して持っている価値や信念ではなく,文化的に共有されている(他者の行動原理に関する)信念こそが,日本人に相互協調的な振る舞いをさせる誘因となると同時に,この誘因に従う行動そのものによって相互協調行動が維持され,そうした行動に関する信念もまた共有され維持されるという理解――について議論し,本稿が採用する文化への制度アプローチが,今後の文化心理学研究に与えるインプリケーションを考察する。<br>

3 0 0 0 OA 態度と随伴性

著者
中丸 茂
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.105-117, 1998-06-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
45

本論文は, 態度研究を随伴性の観点より分析することを目的とする。社会心理学において, 態度は, 内的な, 説明変数であり, 質問紙法や尺度法によって, 言語行動として測定されている。行動分析学では, 態度は随伴性の観点から研究され, タクト, マンド, インタラバーバル, エコーイック, オートクリティックとして取り扱われる。そして, 言語行動としての態度は, 随伴性形成行動の目的行動として, ルール支配行動のルールとして, ルール支配迷信行動の偽ルールとして取り扱われる。また, 態度は, 感情的側面をもち, 条件性刺激として, 感情を制御する。同じ表現型をとる言語データでも, 違う成立過程で形成されていることが考えられる。随伴性の観点から態度研究を 条件づけの手続きに還元することによって, 態度についての知見をより単純に捉え直すことが可能となるだろう。
著者
樫村 志郎
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.148-159, 1996-06-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

会話分析は, 会話者自身が会話をする中で, 作り出し, 利用する, 秩序性を判別し, 定式化しようとする, 経験的分析である。そのような「自然な」秩序性には, ターンとその内部的構造化, 後続するターンによる先行するターンの解釈提示, 複合的で延長されたターンの維持管理, 順番のローカルな配分, 「問」と「答え」のような隣接発話対に代表される順番連鎖の制御構造, 制度的に特徴あるそれらのバリエーションが含まれる。本稿では, これらの会話現象の構造ないし形式的特性と会話分析の方法論的基準との間の関連が論じられる。つぎに, あるエスノグラフィックな調査研究の現場における会話が分析され, それらの会話現象が現に存在する会話の形式的構造を作り上げていることが例証される。最後に, それらの会話が, 通常の会話であると同じ仕方の中で, 同時に, エスノグラフィックな調査インタビューとしての制度的特質を示していることが示唆されることを示す。
著者
大野 俊和
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.230-239, 1996-12-10 (Released:2010-06-04)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

「いじめの被害者にも問題がある」とする見解は, 一般的によく聞かれる見解である。本研究の目的は, 攻撃が「いじめ」として定義される特徴的な形によって, この見解が生じてしまう可能性について検討することにある。本実験では, 以下の2つの仮説が検討された。(1) ある攻撃が, 単独の加害者により行われる場合に比べ, 集団により行われた場合の方が, 被害者は否定的に評価される。(2) ある攻撃が, 一時的に行われる場合に比べ, 継続的に行われた場合の方が, 被害者は否定的に評価される。本実験の結果により, 仮説1は支持されたが, 仮説2は支持されなかった。また予備実験の結果から, 否定的評価と関連する個人差要因として「自己統制能力への自信」と「社会一般に対する不信感」と解釈される2つの信念・態度の存在が指摘された。
著者
野波 寬 土屋 博樹 桜井 国俊
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.40-54, 2014
被引用文献数
4

正当性とは,公共政策に対する自他の決定権について,人々が何らかの理由・価値をもとに評価する承認可能性と定義される。本研究では沖縄県における在日米軍基地政策を取り上げ,これに深く関わる当事者と関与の浅い非当事者との間で,NIMBY問題における政策の決定権をめぐる多様なアクターの正当性とその規定因を検討した。正当性の規定因としては信頼性と法規性に焦点を当てた。当事者は精密な情報処理への動機づけが高いため,信頼性から正当性評価への影響は,評価対象のアクターごとに変化すると考えられる。これに対して非当事者は,各アクターの正当性を周辺的手がかりにもとづいて判断するため,一律的に信頼性と法規性が規定因になると仮定された。これらの仮説は支持されたが,その一方で非当事者ではNIMBY構造に関する情報の獲得により,自己利益の維持を目指して特定アクターの正当性を承認する戦略的思考の発生が指摘された。以上を踏まえ,公共政策をめぐるアクター間の合意形成を権利構造のフレームから検証する理論的視点について論じた。