著者
杉浦 淳吉
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.39-47, 1998
被引用文献数
2

環境配慮行動を促進させる説得的コミュニケーションにおいて, 社会的便益と個人的便益のどちらを強調するのが効果的であろうか。また, どのような要請主体からの説得が効果的であろうか。本研究では, 公共利益にも私的利益にもつながる「エコロジーダイヤル」への加入という行動をとりあげ, その行動を要請する主体として環境NPO, 電話会社, そして対人ネットワークとしての友人, の3つを設定した。実験は, 3つの要請主体が, 環境保全あるいは個人の経済性を重視した説得的メッセージを用いて加入要請を行う場面を想定した。結果は, 環境保全を重視したメッセージを用いた条件の方が, 経済性を重視したメッセージを用いた条件よりも, 要請主体への応諾傾向が高くなった。加入意図, および加入への態度については, 要請主体の効果がみられた。すなわち, 環境NPOから要請された条件は, 友人から要請された条件と比較して加入意図および加入への態度は高くなった。要請主体への親近性評価では要請主体が友人である条件がもっとも高かったが, 行動意図およびそれを予測する変数との間の関連は低かった。
著者
和田 実
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.38-49, 2000
被引用文献数
2

本研究は, 大学生が恋愛関係崩壊に際してどのような対処行動をとり, 崩壊時にどのような感情を抱くのか, さらに崩壊後にどのような行動的反応をとるのかを性差と崩壊時の恋愛関係進展度の観点から調べた。被験者は大学生239 (男性116, 女性123) 名であった。いずれも, 異性としばらく付き合った後に, その関係が崩壊した経験のある者のみである。恋愛関係崩壊への対処行動として"説得・話し合い", "消極的受容", および"回避・逃避", 崩壊時の感情として"苦悩", 崩壊後の行動的反応として"後悔・悲痛"と"未練"が見いだされた。恋愛関係が進展していた者ほど, 崩壊時に説得・話し合い行動がより多くとられ, 崩壊時の苦悩が強く, 崩壊後の後悔・悲痛行動と未練行動が多かった。女性は, 関係が進展していた者ほど回避・逃避行動をとらなかった。関係進展度に関わらず, 男性は女性よりも消極的受容行動を多くとった。さらに, もっとも進展した関係が崩壊した場合のみで, 男性よりも女性の方が多くの説得・話し合い行動をとる一方, 回避・逃避行動をあまりとらなかった。
著者
浅野 良輔
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.158-167, 2011

健康生成モデルは,精神的健康をより力動的でポジティブな視座から捉えようとする理論である(Antonovsky, 1979, 1987山崎・吉井監訳,2001)。しかし,これまでの健康生成モデルに関する研究では,個人内過程のみが扱われるに留まっており,個人間の相互影響過程を考慮した検討が必要である。本研究では健康生成モデルに基づき,恋愛関係における知覚されたサポートと親密性が,首尾一貫感覚を介して,精神的健康を促進するというモデルを仮定し,二者の個人内過程と個人間過程を検証した。恋愛カップル85組を対象とする質問紙調査を行った。構造方程式モデリングによる分析の結果,(a)個人の首尾一貫感覚はその個人の精神的健康を直接的に促進する,(b)個人の首尾一貫感覚を介して,知覚されたサポートと親密性はその個人の精神的健康を促進する,(c)男性の首尾一貫感覚を介して,女性の知覚されたサポートは男性の精神的健康を促進する,しかし,女性の親密性は男性の精神的健康を抑制するということが示された。以上の結果から,恋愛関係と健康生成モデルの個人内過程,ならびに個人間過程との関連性が議論された。<br>
著者
竹村 幸祐 有本 裕美
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.40-49, 2008
被引用文献数
1

北米と同様に自発的入植の歴史を持つ北海道では,日本の他の地域とは異なり,ヨーロッパ系北米人に似た相互独立的な心理傾向が優勢であると報告されている(Kitayama, Ishii, Imada, Takemura, & Ramaswamy, 2006)。Kitayama <i>et al.</i>(2006)は,北海道で自由選択パラダイムの認知的不協和実験を行い,他者の存在が顕現化している状況よりも顕現化していない状況でこそ認知的不協和を感じやすいという,北米型のパタンを北海道人が示すことを見出した。本研究では,Kitayama <i>et al.</i>(2006)とは異なる方法で他者の存在の顕現性を操作し,彼らの知見の頑健性を検討した。実験の結果はKitayama <i>et al.</i>(2006)の知見と一貫し,他者の存在の顕現性の低い状況において北海道人は認知的不協和を感じやすく,逆に他者の存在の顕現性が高い状況では認知的不協和を感じにくいことが示された。<br>
著者
遠藤 由美
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.53-62, 2007
被引用文献数
4

人はしばしば,自己の主観的な状態が他者に対して露わになったと信じる傾向があり,これは透明性錯覚として知られている。本研究では,自己紹介場面での緊張においてこの透明性錯覚が重要な役割を果たし,また感じている緊張の関数として透明性推測が作り出される,という仮説を検討した。人前で話す時に緊張を強く感じる人は,そうでない人に比べて,聴衆に対してその緊張が明らかなものとして伝わったと信じる程度が強かった(研究1)。対人不安特性の強い人においても同様のことが示唆された(研究2)。研究3では,これらの結果を再現し,さらに動機的説明ではうまく行かないことを立証した。最後にこれらの結果に対して,透明性錯覚と係留・調整リューリスティックスの観点から議論が加えられた。<br>
著者
小久保 みどり
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.183-195, 1992

本研究では, 環境不確実性と意思決定過程への参加が職務満足感に及ぼす効果を検討した。分析のためのパラダイムとして, 期待理論の一つである組織論的期待理論 (坂下, 1985) と, Schulerモデル (1980) を選択した。さらに, それらをもとに環境不確実性と意思決定過程への参加が職務満足感に及ぼす効果を表す新しい期待モデルを構築し, その妥当性の検証も行った。<BR>環境不確実性と意思決定過程への参加が職務満足感に及ぼす効果について, 仮説4をたてた。仮説4を導くために役割知覚を使って前提というべき仮説1, 2, 3をたてた。以下に示すこれらの仮説を検証するために, 調査を行った。<BR>仮説1環境不確実性が高くなるほど, 役割知覚は減少するであろう。<BR>仮説2環境不確実性は, 役割知覚を媒介して職務満足感を減少させるであろう。<BR>仮説3意思決定過程への参加は役割知覚を増大させるであろう。<BR>仮説4環境不確実性と意思決定過程への参加が職務満足感に及ぼす効果は次のようなものであろう。<BR>(1) 環境不確実性の大きい場合も小さい場合も, 意思決定過程へ参加することは職務満足感を増大させるであろう。<BR>(意思決定過程への参加は職務満足感に対して正の主効果を持つであろう。)<BR>(2) 環境不確実性が大きい場合に意思決定過程へ参加するよりも, 環境不確実性が小さい場合に意思決定過程へ参加するほうが, 職務満足感は大きいであろう。<BR>(環境不確実性は職務満足感に対して負の主効果を持つであろう。) (3) 環境不確実性が大きくなるほど, 意思決定過程への参加が職務満足感を高める効果はより大きくなるであろう。<BR>(意思決定過程への参加と環境不確実性は職務満足感に対して正の交互作用効果を持つであろう。)<BR>調査の結果, 四つの仮説はほぼ支持された。<BR>新モデルについては, 環境不確実性が役割知覚, (E→P) 期待, (P→0) 期待を媒介して職務満足感を増すという新しいルートについて証明された。
著者
川西 千弘
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.122-128, 2001

対人認知における顔の影響について検討した。93名の女子学生が実験に参加した。彼女たちには, 刺激人物の行動情報と顔写真 (半分の被験者には知的な顔写真が, その他には非知的な顔写真) が提示され, その人物の印象と知的行動可能性について評定することが求められた。その結果, 以下のことが明らかになった。(1) 前述のいずれの評定においても, 知的な顔と非知的な顔では差が大きく, 知的な顔をした刺激人物の方がより知性が高く, 賢明な行動をしやすいと判断された。(2) 顔のみから推測される知的さについて実験的に統制すると, 上記の差は消失したが, 顔のみから推測される好意度について実験的に操作しても, その差を相殺することはできなかった。つまり, われわれは魅力的な顔の人物だからといってより知性が高いと認知するのではなく, 少なくともその他の対人情報が曖昧であったり, 判断性に乏しかったりする場合は, 顔から直接的に他者の知性を読みとり, それを用いて印象を形成することが明らかになった。
著者
釘原 直樹 三隅 二不二 佐藤 静一
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.55-67, 1980
被引用文献数
1 2

本研究は新しく考案された装置を用いることによって集団の大きさが模擬被災状況における避難行動, 即ち, 脱出成功率や混雑発生の度合, 脱出や攻撃, 譲歩反応の生起, 競合過程に及ぼす効果について実験的に検討したものである.<BR>被験者は制限時間内に, 電気ショックがくるという危機的場面から脱出しなければならない状況におかれた. 但し, 脱出口は1つしかなく, しかも複数の人間が同時に通り抜けることはできないように実験事態が設定されていた. そのうえ, 1人が20秒 (脱出ボタン100回の打叩時間) 近くも脱出口を占拠する必要があった. 混雑が生じた際には, 被験者は攻撃か譲歩かまたは全然反応せず他者の反応を待つという3つの解決方法を執ることができた. 実験は暗室でおこなわれ, 聴覚はwhite noiseで他の音から遮断されていた.<BR>本実験の条件下において次の結果が見出された.<BR>1. 集団の大きさの変化にかかわらず, 1人当りの脱出許容時間を一定にした条件下で, 集団の大きさが増大すれば, それにともなって混雑が大きくなる. そして, 脱出率は低下する. 特に, 4人集団と5人集団の間の脱出率の低下が顕著であった.<BR>2. 集団サイズが大きい場合, 即ち, 7人, 9人の場合や小さい場合, 即ち, 3人, 4人の場合より, その中間の6人の場合に, 最も競争的反応がみられた. それは不安定な報酬構造という観点から解釈された.<BR>3. 時間経過に伴って攻撃反応が増大し, 譲歩反応が減少するような状況は全員脱出に失敗することが明らかになった.
著者
蜂屋 良彦
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.47-55_1, 1978
被引用文献数
1

リーダー行動と上司への満足感やモチベーションとの関係に職務特性や部下の個人的特性が及ぼす影響を, 百貨店従業員を対象に調査し分析した。<BR>結果を要約すると, リーダー行動と上司への満足感の関係に対しては, 職務特性や個人の成長欲求の強さが影響を与えていることが見出された。リーダーシップの課題遂行の強調次元と満足感との関係は, 自律性の低い職務, 多様性の低い職務, 見通しの低い職務において, また, 成長欲求の弱い個人において, 負の相関を示したが, 自律性の高い職務, 多様性の高い職務, 見通しの高い職務, および成長欲求の強い個人においては, このような関係はみられなかった。リーダーシップの集団維持的配慮次元と満足感との関係は, 一般に正の相関がみられたが, フィードバックの多い職務や見通しの高い職務では, それを欠く職務にくらべ, 正の相関は低下した。また, 協力の必要性の大きい職務では, それの小さい職務にくらべ, 集団維持的配慮次元と満足感の間の正の相関は一層高くなる傾向が認められた。これらの結果は大筋において仮説を支持する方向にある。<BR>リーダー行動とワークモチベーションとの関係は低いものであり, また職務特性や個人的特性の影響はあまりみられず, 部分的には予想とは反対の結果が得られた。
著者
今川 民雄 岩渕 次郎
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.41-51, 1981
被引用文献数
1

本論文では, 好意的2人関係における相互的な認知過程の関連を吟味するとともに, その構造に関して因子分析的な検討を行った.<BR>56ペア112名の好意的関係にある男子大学生を被験者とし, 長島ら (1967) のSelf-Differential Scaleによって (1) 自己認知: S→s, (2) 他者認知: S→o, (3) 他者の自己認知についての推測: S→ (O→o), (4) 他者の他者認知についての推測: S→ (O→s), (5) 理想の自己像: S→Isの各認知過程につき, 相互に評定させた. 主な結果は以下の通りである.<BR>1) 好意的な2人関係においては, S→Is: O→Io, S→s: S→ (O→s), S→o: S→ (O→o) の3種が, 最も基本的な認知過程対であることが明らかとなった.<BR>2) 認知過程対の類似度に基づく因子分析の結果, 「自己像の類似性に関わる因子」 「自己像の開示性因子」 「理想化傾向因子」 「他者像の類似性に関わる因子」 「Self-esteem因子」 「他者像の開示性因子」 「自己志向的正確さの因子」 「他者による理想化傾向因子」 「他者志向的正確さの因子」 の9因子が見い出された.<BR>3) これらの因子は認知の対象 (自己・他者) と, 対人認知に働く要因 (正確性・類似性・開示性・理想化) の2次元に基づいて分類された.
著者
浜名 外喜男 松本 昌弘
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.101-110, 1993
被引用文献数
2

The purpose of this action research was to examine the effects of experimentally induced changes of teaching behavior on students' classroom adjustment. Sixteen teachers ranging from fourth to sixth grades and their students served as subjects. In a preexperimental session, all of these students were asked to rate the teaching behavior of their teachers toward them, and their own classroom adjustment. Thereafter, 9 classes were selected as an experimental group, and 7 classes as a control. At the beginning of the experimental session, each teacher in an experimental class was asked to increase his/her interactive teaching behavior toward those students who had rated their teachers' behavior toward them poorly. These induced attempts were continued for three weeks. Teachers in the control classes received no such experimental manipulation. In the post-experimental session, all of the students in the 16 classes were again asked to rate teaching behavior of their teachers toward them, and their own classroom adjustment. The results showed that the classroom adjustment scores of target students in the experimental group became more favorable due to the changes in teaching behavior.
著者
渡辺 匠 唐沢 かおり
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.25-34, 2012
被引用文献数
1

本研究は存在脅威管理理論の観点から,死の顕現性が自己と内集団の概念連合に与える影響について検証をおこなった。存在脅威管理理論では,死の顕現性が高まると文化的世界観の防衛反応が生じると仮定している。これらの仮定にもとづき,人々は死の脅威にさらされると,自己と内集団の概念連合を強めるかどうかを調べた。死の顕現性は質問紙を通じて操作し,内集団との概念連合は反応時間パラダイムをもちいて測定した。その結果,死の脅威が喚起された参加者は,自己概念と内集団概念で一致した特性語に対する判断時間が一致していない特性語よりも速くなることが明らかになった。その一方,死の脅威が喚起されても,自己概念と外集団概念で一致した特性語に対する判断時間は一致していない特性語よりも速くはならないことが示された。これらの結果は,死の顕現性が高まると,自己と内集団の概念連合が強化されることを示唆している。考察では,自己と内集団の概念連合と存在脅威管理プロセスとの関係性について議論した。<br>
著者
山浦 一保
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.16-27, 2000
被引用文献数
2

本研究は, リーダーの課題関連行動, あるいは社会情緒的行動が出現する背景に, 部下の行動やリーダーの管理目標がどのように関与しているのかを明らかにするため, リーダー行動の変容・形成過程を吟味した。研究1では, 部下の不満対処行動に対するリーダーの認知と, リーダー自身のリーダーシップPM行動 (三隅, 1978) との関連について検討した。看護組織を対象に調査を行った結果, 自分の部下が不満を感じても「服従」していると認知しがちなリーダーの方が, 自分の部下は「服従していない」と認知しがちなリーダーよりも, 自己評価によるM得点が高かった。研究2で用いた要因計画は, 2 (作業者のP行動・M行動) ×2 (リーダーの課題指向の管理目標・関係指向の管理目標) であった。被験者は, 男子大学生38名で, それぞれ4人集団のリーダー役に任命された。主な結果は, 次の通りである。(1) 課題指向的リーダーは, メンバーどうしの連帯感が強いM的行動をとる作業者よりも, 高い生産性をあげP的行動をとる作業者に対して, 配慮的行動を多く用いるようになった。(2) 課題指向的リーダーは, 関係指向的リーダーよりも強制的な指示を増加させ, とりわけ, M的行動をとる作業者に対して, 攻撃的な言動を多用するようになった。(3) 関係指向的リーダーの場合, P的行動をとる作業者よりもM的行動をとる作業者に対して, 課題に関連する情報を提供しなくなり, 頻繁に雑談を行った。(4) 関係指向的リーダーは, P的行動をとる作業者に対して配慮的な行動を増加させ, 同時に, 方向づけの増加と情報提供の減少という課題関連行動の変容が認められた。以上の結果から, リーダーのPM型は, 課題指向的リーダーが, 生産性の高い作業者を統率する状況で形成されやすいことが示唆された。
著者
三隅 二不二 杉万 俊夫 窪田 由紀 亀石 圭志
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-14, 1979
被引用文献数
1

本研究は, 企業組織体における中間管理者のリーダーシップ行動を実証的に検討し, その測定尺度を構成することを目的とするものである。<BR>フィールドは, 自動車部品の製造, 販売を主要な業務とする企業体であった。まず, 中間管理者 (部長, 工場長, 課長) に, 管理・監督行動に関する自由記述を求め, それを分類・整理しながら, リーダーシップ行動を測定するための質問項目を作成した。質問項目作成の過程で, 質問項目検討のための専門家会議を数回にわたってひらき, 中間管理者のリーダーシップ行動が質問項目として網羅的に含まれることを期した。最終的に, (1) 部 (次) 長・工場長用49項目, (2) 事務・技術系課長用92項目, (3) 工場課長用85項目の質問項目を作成した。リーダーシップ行動測定項目はすべて部下が上司のリーダーシップ行動を評価する, 部下評価の形式にした。これに, リーダーシップ測定項目の妥当性を吟味するための外的基準変数を測定する16項目を加えて質問票を印刷した、外的基準変数は, 仕事に対する意欲, 給与に対する満足度, 会社に対する満足度, チーム・ワーク, 集団会合, コミュニケーション, 精神衛生, 業績規範の8変数である。<BR>回答者数は, 部 (次) 長・工場長用533名, 事務・技術系課長用1, 040名, 工場課長用273名であった。リーダーシップ行動測定項目に関して因子分析を行なったが部 (次) 長・工場長, 事務・技術系課長, 工場課長, いずれの場合も, 「P行動の因子」と「M行動の因子」が見出された。<BR>次に, P行動のさらに詳細な構造を明らかにするために, 「P行動の因子」で. 60以上, かつ「M行動の因子」で. 40未満の因子負荷量を持つ項目のみを対象とする因子分析を行なった。その結果, (1) 部 (次) 長・工場長の場合は, 「計画性と計画遂行の因子」, 「率先性の因子」, 「垂範性の因子」, 「厳格性の因子」, (2) 事務・技術系課長の場合は, 「計画性の因子」, 「率先性の因子」, 「垂範性の因子」, 「厳格性の因子」, (3) 工場課長の場合は, 「計画性の因子」, 「内部調整の因子」, 「垂範性の因子」, 「厳格性の因子」が見出された。<BR>M行動のさらに詳細な構造を明らかにするために, 同様の分析を行なつた。<BR>その結果, (1) 部 (次) 長の場合は, 「独善性の因子」 と「公平性の因子」, (2) 事務・技術系課長, 及び (3) 工場課長の場合は, 「独善性の因子」と「配慮の因子」が各々見出された。<BR>従来の研究との比較によって, 第一線監督者と中間管理者のリーダーシップ行動の差異が考察された。すなわち, 具体的な内容には若干の違いがあるものの, 「厳格性の因子」及び「計画性の因子」は第一線監督者と中間管理者に共通している。しかし, 部 (次) 長・工場長及び事務・技術系課長の場合に見出された「率先性の因子」と, 工場課長の場合に見出された「内部調整の因子」は, 第一線監督者を対象とした従来の研究では見出されてはおらず, 中間管理者に特有な因子であると考察された。<BR>P行動, M行動の因子得点を用いてリーダーをPM型P型, M型, pm型に類型化し, 8個の外的基準変数との関連においてリーダーシップPM類型の妥当性を検討したが, いずれの外的基準変数においても, PM型のリーダーの下で最も高い得点, pm型のリーダーの下で最も低い得点が見出され, PM類型の妥当性が実証された。このPM類型の効果性の順位は, 従来の研究における第一線監督者の場合と全く同様であった。<BR>また, P行動測定項目10項目, M行動測定項目10項目を選定した。10項目を単純加算して得られるP (M) 行動得点はP (M) 行動の因子得点と. 9以上の相関を示すこと, PM行動得点を用いてリーダーの類型化を行なった場合のPM類型と外的基準変数の関係が因子得点を用いて類型化を行なつた場合の関係と同じであったことからこれらPM行動測定項目の妥当性が明らかになった。
著者
橋本 剛明 唐沢 かおり 磯崎 三喜年
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.76-88, 2010
被引用文献数
2

大学生が所属するサークル集団は,フォーマルな組織とインフォーマルな集団の双方の特徴を併せ持った集団であり(新井,2004),本研究はこれを準組織的集団と位置づけた。その上で,サークル集団における成員と集団とをつなぐコミットメントのモデルを探り,検討を加えることを目的とした。具体的には,組織研究の領域における3次元組織コミットメントのモデル(Allen & Meyer, 1990)を基盤に,サークル・コミットメントを測る尺度を作成し,学生205名を対象に調査を行った。その結果,サークル集団におけるコミットメント次元として,情緒的コミットメント,規範的コミットメント,集団同一視コミットメントの3因子が抽出された。さらに,それぞれのコミットメント次元の規定要因に関して,集団がフォーマル集団に近い程度を表す集団フォーマル性との関連を含めて分析を行った。情緒的コミットメントは課題および成員への集団凝集性により規定されており,また,課題凝集性と集団フォーマル性の交互作用が示唆された。規範的コミットメントと集団同一視コミットメントはともに,集団フォーマル性と成員凝集性によって規定されていることが認められた。<br>
著者
浅井 千秋
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.79-90, 2013
被引用文献数
1

本研究では,自発的職務改善が,情緒的組織コミットメントとキャリア開発志向の2つの就業態度および,上司エンパワーメント,上司の統制的管理,組織エンパワーメント,キャリア開発支援,業績主義評価の5つの就業環境によって規定されるという仮説に基づいて,構造モデルが構成された。5つの企業の従業員372名に対する質問紙調査のデータを用いた共分散構造分析によって,このモデルの妥当性を検討した結果,自発的職務改善に対して,キャリア開発志向と上司エンパワーメントから正の影響が見られ,業績主義評価から負の影響が見られた。組織エンパワーメントと情緒的組織コミットメントは,キャリア開発志向を高めることを通して,間接的に自発的職務改善に影響を与えることが示された。最後に,本研究を通して明らかになった知見の妥当性と課題について考察を行った。<br>
著者
村山 綾 三浦 麻子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.81-92, 2014
被引用文献数
2

本研究では,集団討議で生じる葛藤と対処行動,およびメンバーの主観的パフォーマンスの関連について検討した。4名からなる合計17集団(68名)にランダムに配置された大学生が,18分間の集団課題を遂行した。その際,討議開始前,中間,終了時に,メンバーの意見のずれから算出される実質的葛藤を測定した。また討議終了時には,中間から終了にかけて認知された2種類の葛藤の程度,および葛藤対処行動について回答を求めた。分析の結果,集団内の実質的葛藤は相互作用を通して変遷すること,また,中間時点の実質的葛藤は主観的パフォーマンスと関連が見られないものの,終了時点の葛藤の高さは主観的パフォーマンスを低下させることが示された。関係葛藤の高さと回避的対処行動は主観的パフォーマンスの低さと関連し,統合的対処行動は主観的パフォーマンスの高さと関連していた。関係葛藤と課題葛藤の交互作用効果も示され,課題葛藤の程度が低い場合は,関係葛藤が低い方が高い方よりも主観的パフォーマンスが高くなる一方で,課題葛藤の程度が高い場合にはそのような差はみられなかった。葛藤の測定時点の重要性,および多層的な検討の必要性について議論した。<br>
著者
矢守 克也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.119-137, 1997
被引用文献数
3

空前の都市型震災となった阪神大震災は, 多くの尊い人命を奪い, 甚大な被害をもたらすとともに, 自然災害に対する社会的対応のあり方, ひいては, 日本の社会システムのあり方に関して, 多くの警鐘を鳴らした。その一つに, 大量の避難者を, しかも数ヶ月という長期間にわたって引き受けた避難所に関わる問題がある。これまで, 災害に伴う避難所には, 被災者の安全と当面の衣食住を確保する「一次機能」だけが想定されていた。しかし, 阪神大震災によって, 避難所が, 中長期的な生活復旧を支援するための拠点としての機能, すなわち, 「二次機能」をもカバーしなければならないことが明らかになった。本研究では, まず, 事例としてとりあげるA小学校 (神戸市東灘区) が, 強力な地域リーダーのもと, ボランティアを巧みに活用しながら, 時期ごとに運営体制を段階的に変容させ, 一次機能, および, 二次機能の両者を果たしえた過程を, 同避難所のリーダー, 一般避難者, ボランティア, 関連行政組織の担当者らに対するインタビュー結果をもとに報告する。次に, その段階的変容プロセスを, 杉万ら (1995) が提唱した, 避難所運営に関する「トライアングル・モデル」の観点からとらえ返す。最後に, 以上を踏まえて, 今後の大規模災害時の避難所運営に関して, 10の提言をまとめる。
著者
和田 実
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.49-59, 1991
被引用文献数
12 3

本研究の目的は, 対人的有能性の下位概念としてのノンバーバルスキルおよびソーシャルスキルを測る尺度を作成することである。データは大学生 (男子68名, 女子174名) から収集された。因子分析の結果, ノンバーバルスキルについては二つの因子-非表出性および統制, 感受性-, ソーシャルスキルについては三つの因子-関係維持, 関係開始, 自己主張-が抽出された。そして, 既成の類似した尺度 (ACT, SM) およびいくつかの社会的変数 (きょうだい数, 親友数, 孤独感およびその変化, 恋人の有無など) との関連から, この尺度が妥当であることが確かめられた。なお, 具体的には以下の結果が見いだされている。: (1) ノンバーバル感受性, ソーシャルスキルの関係維持は男性よりも女性の方が優れている。(2) ソーシャルスキルの関係維持に優れない者ほど, 孤独を感じている。(3) 恋人がいる者の方がいない者よりも, ノンバーバル感受性を除いたすべてのスキルで優れる。(4) 全体でみれば, 孤独感が減少した者の方がソーシャルスキルの関係維持, 自己主張に優れる。今後は, 特にノンバーバルスキル尺度の項目内容のさらなる検討が必要であろう。
著者
樋口 収 道家 瑠見子 尾崎 由佳 村田 光二
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.148-157, 2011
被引用文献数
1

他者との良好な関係を維持したいという欲求は,根源的なものであるとされる。先行研究では,そのような動機から,被害者は時間の経過とともに加害者を許すことが示されている(Wohl & McGrath, 2007)。このことから,本研究は重要他者との葛藤を思い出したとき,被害者は加害者よりも当該出来事を遠くに感じる可能性について検討した。実験1では,参加者に重要他者との間に起きた過去の葛藤を被害者あるいは加害者の立場から想起させ,当該出来事をどの程度遠くに感じるかに回答させた。その結果,被害者は加害者よりも当該出来事を遠くに感じていた。実験2では,参加者に重要他者あるいは非重要他者との間に起きた葛藤を被害者あるいは加害者の立場から想起させ,当該出来事をどの程度遠くに感じるかに回答させた。その結果,重要他者との葛藤を思い出した場合には被害者の方が加害者よりも出来事を遠くに感じていたが,非重要他者との葛藤を思い出した場合には被害者と加害者の間で有意な差はみられなかった。これらの結果は,仮説と一貫しており,他者との良好な関係を維持したいという欲求が自伝的記憶の再構成に及ぼす影響を議論した。<br>