著者
川西弘一 橋本和明 林和彦 石田哲也
出版者
公益社団法人 日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学年次大会2019(札幌)
巻号頁・発行日
2019-06-11

著者らは橋梁コンクリートを対象とし,近接目視及び打音検査実施前に赤外線サーモグラフィ法による非破壊調査を実施することで,点検結果の信頼性向上と点検の効率化について論じてきた。また,既報では蓄積した点検結果より,熱画像による損傷種別の特定法,生存時間解析に基づく劣化リスク評価を示してきた。本論は,赤外線調査で抽出した損傷箇所の温度差と面積の経年変化に着目し,損傷毎の温度差履歴の特性を把握し,実橋調査と生存時間解析による劣化リスク評価から,本法でコンクリートの密実性が評価できる可能性を示した。
著者
西田真弓 石神暁郎 緒方英彦
出版者
公益社団法人 日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学年次大会2019(札幌)
巻号頁・発行日
2019-06-11

寒冷地に位置する農業用のコンクリート開水路では,凍害劣化を対象とし,劣化要因である水分の侵入抑制を期待できる表面保護工法の適用が進められている。しかし,表面保護工法適用後のモニタリングでは,その耐久性は目視等の外観にて判断することが多く,母材コンクリートの健全性の評価や,再補修の適正時期の見極めは困難となっている。本研究では,寒冷地において表面保護工法施工後10年が経過した供用中のコンクリート開水路の補修効果の検証を行った。その結果,表面保護工法の種別による母材コンクリートへの影響は大きく,母材コンクリートの健全性や含水状態を把握することの重要性が示された。
著者
田中湧磨 藤井隆史 綾野克紀
出版者
公益社団法人 日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学年次大会2019(札幌)
巻号頁・発行日
2019-06-11

高炉スラグ細骨材を細骨材の全量に用いたコンクリートは,AE剤を用いることなく高い凍結融解抵抗性を得ることが可能である。ただし,早強ポルトランドセメントを用いた場合には,高炉セメントや普通ポルトランドセメントを用いた場合よりもより長い水中養生を行わなければ,その効果が得られない。しかし,早強ポルトランドセメントを用いた場合にも,結合材の一部に高炉スラグ微粉末を用いることで,凍結融解抵抗性が得られやすくなる。高炉スラグ微粉末を用いると,圧縮強度が小さくなるが,硬化促進剤を用いることで水結合材比を下げることなく,若材齢での強度発現性を高められる。
著者
松浦由生子 石川大樹 大野拓也 堀之内達郎 前田慎太郎 谷川直昭 福原大祐 鈴木千夏 中山博喜 江崎晃司 齋藤暢 大嶺尚世 平田裕也 内田陽介 佐藤翔平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【目的】近年,膝前十字靭帯(ACL)再建術後の再断裂例や反対側損傷例に関する報告が増えている。我々もサッカー選手において反対側損傷率が高いことを報告したが(谷川ら,2012),その詳細については未だ不明な点が多かった。そこで本研究ではACL再建術後に反対側ACL損傷を来たしたサッカー選手の詳細を検討し,その特徴を報告することを目的とした。【方法】対象は2003年1月から2012年10月までに当院にて初回ACL再建術を行い,術後1年以上経過観察しえたスポーツ選手612例(サッカー選手:187例,その他の競技選手:425例)とし,それぞれの反対側損傷率を比較した。さらに,サッカー選手187例を片側ACL損傷173例(男性151名,女性22名:片側群)とACL再建術後に反対側ACL損傷を来たした14例(男性11名,女性3名:両側群)に分けて,片側群と両側群の比較を行った。検討項目は,①初回受傷時年齢,②初回受傷側,③競技レベル,④競技復帰時期,⑤術後12ヶ月のKT-2000による脛骨前方移動量の患健差(以下,KT患健差),⑥術後12ヶ月の180°/s,60°/s各々の膝伸展・屈曲筋力の患健比(%)とした。なお競技レベルはTegner Activity Score(TAS)にて評価し,筋力測定には,等速性筋力測定器Ariel(DYNAMICS社)を使用した。また,両側群(14例)を対象として初回受傷時と反対側受傷時の受傷機転の比較を行った。項目は①コンタクト損傷orノンコンタクト損傷,②オフェンスorディフェンス,③相手ありorなし,④ボールありorなしとした。なお,相手に合わせてプレーをしていた際を「相手あり」とし,相手に合わせず単独でプレーをしていた際を「相手なし」とした。統計学的分析にはSPSS Ver.20.0(IBM社)を使用した。サッカーとその他の競技の反対側損傷率の差,片側群と両側群の初回損傷側の比較にはχ2乗検定を用い,その他の項目はWilcoxonの順位和検定を用いて比較した。さらに両側群の初回受傷時と反対側受傷時の受傷機転の比較にはMcNemar検定を用いた。有意水準5%未満を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に本研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得た。また当院倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】反対側ACL損傷率はサッカー選手7.49%(14例),その他の競技選手3.29%(14例)であり,サッカー選手が有意に高かった(p=0.02)。片側群と両側群の比較において,初回受傷時年齢は片側群28.5±9.5歳,両側群26.7±8.7歳(p=0.32)であった。初回受傷側に関しては,右下肢受傷が片側群49.2%,両側群64.3%で2群間に有意差を認めなかった(p=0.82)。TASは片側群7.5±1.0,両側群7.9±1.1(p=0.12),競技復帰時期は片側群9.3±2.0ヶ月,両側群9.6±2.0ヶ月(p=0.56),KT患健差は片側群0.0±1.2mm,両側群0.5±0.8mm(p=0.14)であった。膝筋力の患健比は180°/sでの伸展筋力が片側群87.2±15.3%,両側群86.4±10.0%(p=0.62),屈曲筋力が片側群88.2±18.9%,両側群87.8±14.8%(p=0.56),60°/sでの伸展筋力が片側群84.4±19.5%,両側群86.6±10.8%(p=0.98),屈曲筋力が片側群86.6±18.2%,両側群91.6±11.5%(p=0.32)でありいずれも有意差を認めなかった。両側群の受傷機転において,初回受傷時では相手あり4名,相手なし10名であったのに対し,反対側受傷時で相手あり11名,相手なし3名であり有意差を認めた(p=0.02)。その他の項目に関しては有意差を認めなかった。【考察】本研究においてサッカー選手がその他の競技選手と比較し,有意に反対側損傷率が高いことが示された。多種目の選手を対象とした先行研究での反対側ACL損傷率は約5%と報告されているが,本研究でのサッカー選手の反対側損傷率は7.49%であり,やや高い傾向にあった。両側群の受傷機転に関しては,初回損傷時よりも反対側損傷時の方が,相手がいる中での損傷が有意に多かった。サッカーは両下肢ともに軸足としての機能が要求される競技であるため,初回再建術後に軸足としての機能が回復していないと予測困難な相手の動作への対応を強いられた際に,反対側損傷を起こす可能性が高まるのではないかと推察した。以上のことから,サッカー選手に対しては初回ACL再建術後に対人プレーを意識した予防トレーニングを取り入れ,軸足としての機能回復や予測困難な相手の動きに対応できるagility能力を高めておくことが反対側ACL損傷予防には重要であると考えた。【理学療法学研究としての意義】本研究では,サッカー競技におけるACL再建術後の反対側ACL損傷は対人プレーでの受傷が多いという新しい知見が得られた。サッカーに限らず,反対側ACL損傷率を減少させるためには,スポーツ競技別に競技特性や受傷機転などを考慮した予防トレーニングを行っていくことが重要であると考える。
著者
瀬戸 卓弥 竹内 優志 橋本 正弘 伊藤 惟 市原 直昭 川久保 博文 北川 雄光 宮田 裕章 陣崎 雅弘 榊原 康文
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

食道癌は10年生存率が20%前後の癌であり、膵臓癌や肝細胞癌と並んで致死率の高い癌である。また、食物を運ぶ蠕動運動による狭窄と癌による狭窄の判別が難しく診断の難しい癌であることも知られている。そこで本研究では、過去に食道癌と診断された患者のCT画像を用いて畳み込みニューラルネットワーク(CNN)と 再帰型ニューラルネットワークの学習を行うことにより、新規のCT画像に食道癌が存在するか否かを判別するシステムの構築を目的とした。結果として、CNNとLSTMを用いた診断支援システムの構築に成功し、80%を超える精度で分類を行うことができた。
著者
上野 未貴
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

創作者は表現したいものをいかに伝えるかに想いを巡らせ,創作物を創っている.その過程には,対象とするテーマだけではなく,創作者個人の感性や体験,表現材料や技法の工夫など,多くの要素が存在する.創作現場には情報技術の進化が関わっているが,分野が発展したことで生まれる新たな研究が人が創る過程にどう関わるのか,未来の表現がどう変容するのか,本稿では表題のセッションに関わる研究とその展望について述べる.
著者
谷田 泰郎 高椋 琴美 齋藤 有紀子
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

人間の理解に基づくコミュニケーションは非常に重要である。然しながら、そのメカニズムを理解することは必ずしも重要ではない。本稿では、膨大な情報から情緒的価値(感覚的な感性価値)のみを抽出する「心のモデル」を提示する。
著者
森 直樹 藤野 紗耶
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

近年,機械学習の飛躍的な発展を背景として,人工知能(Artificial Intelligence: AI)が社会における重要な基盤技術として注目されている.しかしながら,創作に関する分野への AI の適用は現在でも極めて困難であると考えられている.本研究では AI 技術を用いた人間の心に響く絵本の自動生成について検討し,現在提案中である"ユーザ内のとある感性観測に基づく対話型デジタル絵本'' (Interactive digital picture book with Observing ∃ Kansei ∈ User: IO∃K)において重要な絵本オブジェクトの自動配置手法を提案する.IO∃K はユーザに内在しているある感性に着目し,その感性に基づいて作られた画像とストーリーを融合してデジタル絵本を作成するシステムである.なお,IO∃K という名称は,著者たちにとって深い思い入れがある国鉄 103 系電車に着想を得ている.今回は IO∃K の持つモジュールの中で,オブジェクト自動配置モジュールについて提案する.
著者
大知 正直 城 真範 森 純一郎 浅谷 公威 坂田 一郎
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

研究への投資戦略策定のために,早い段階で有望な研究や研究分野を特定することは重要である.また,近年の論文出版数の急増及び専門知識の細分化のため,将来の技術動向を自動で予測する技術の開発が必要である.一方で技術の現状を表す指標には様々なものがあり,どの指標による未来予測を示すかは分析の目的に依存する.つまり,様々な指標による技術動向の自動予測を行うための基盤技術の開発が課題である.そこで,本稿では,出版社の論文データの様々な異種ネットワーク情報を用いて,未来の様々な技術指標を自動で予測するための分散表現を抽出する手法を提案する.実験の結果,論文間の参照関係の予測のF値は95.6%で,出版後3年後のh-indexは一定の条件下で64.4%だった. この結果は,論文間の参照関係を十分に写像できていることを示している.一方で,将来のh-indexの予測精度は比較手法と同等であり,さらに研究を深める必要がある.本論文の成果は,論文データ向けの異種ネットワーク分散表現が技術動向の自動予測を行うための基盤となる可能性が示唆している.
著者
北 佐枝子 Heidi Houston 田中 佐千子 浅野 陽一 澁谷 拓郎 須田 直樹
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

The slip on the plate interface has the potential to affect the stress field and seismicity within the subducting slab. Several studies have examined the interaction of slow slip phenomena with intraslab earthquakes [Nankai and Tokai regions, Han et al. 2014; Mexico, Radiguet et al. 2018, 2018 JpGU meeting; New Zealand, 2018, Warren-Smith, 2018 AGU meeting]. Kita et al. [2018, SSJ meeting] reported the stress change in the whole slab associated with ETS times based on stress tensor inversion results. However, we find a clear double seismic zone under Kii Peninsula, as also noted in a previous study [e.g. Miyoshi and Ishibashi, 2004]. Therefore, we here examine seismicity rate variations, stress changes, and b-value variations of seismicity separately for the upper plane events and oceanic mantle ones relative to ETS timings beneath the Kii Peninsula. We use the JMA earthquake catalog, the NIED tremor catalog, the upper surface of the Philippine sea plate estimated by Shibutani and Hirahara [2016], P-wave polarity data by NIED, and a stress tensor inversion code [Vavrycuk, 2014].We determined the timings of ~30 large ETS beneath the Kii Peninsula from 2001 to 2017, and categorized slab seismicity relative to the occurrence times of nearby the ETS (i.e., 60 days before or after). We then combined or stacked the slab seismicity based on these relative occurrence times. The rate of seismicity both in the upper plane events and in the oceanic mantle ones after the ETS timings clearly decreased, compared to the rate before the ETS timings. The peaks of b-values of seismicity both in the upper plane events and oceanic mantle ones were found to occur 1.5 months before ETS. A change in stress orientations before and after the ETS was seen in the oceanic mantle, and a relatively small change was seen for the upper plane events. The stress change in the upper plane events appears to be larger in the region updip of the ETS zone. The results of our study suggest that the aseismic slip on the plate boundary may affect the stress field and the occurrence of seismicity within the subducting slab beneath the Kii Peninsula. Fluid migration from the oceanic slab into the ETS zone on the plate boundary could be related to the interaction of slow slip phenomena with intraslab earthquakes.
著者
伊藤 孝行 柴田 大地 鈴木 祥太 山口 直子 西田 智裕 平石 健太郎 芳野 魁
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

オンライン上のクラウド(Crowd)スケールの議論の支援が次世代の民主主義プラットフォームとして注目を集めている.大規模な合意を形成できれば,これまでには不可能だった,大規模な人数による意思決定が可能になる.そこで,筆者らは複数の実フィールドでオンラインの議論支援システムCollagreeを開発し,幾つかの社会実験を行い有用性を確認している.ここでは,炎上を防ぎながら議論を適切にリードするために人間のファシリテータがオンライン議論をファシリテートした.課題は,規模が非常に大きいことから,人手でファシリテーションを行うのが困難な点である.オンラインで24時間休むことなく議論を管理することは非常に難しい.そこで本研究では,自動ファシリテーションエージェントを実装することで,大規模な人数の人たちの意見を効率的に収集し,合意を形成するシステムを実現する.評価として,名古屋市と協力して,名古屋市次期総合計画の中間案に対する市民の意見集約の場の一つとして,本システムを導入した.その結果,自動ファシリテーションエージェントは予想以上にうまく動作し,参加者からの投稿数が増加する傾向が見られた.
著者
神先 凌太朗 中島 遼 井上 綾 田中 瞭 小島 未央奈
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

概要: ①人工知能(AI)が発達した未来社会においては, AIが裁判官を務める場合が考えられる. そこで本稿では, 裁判官とAI裁判官である場合の二つの状況において信頼度に影響を与える指標を明らかにしたい. 今回用いた指標は従来から言われている誠実さ, 能力(中谷内, 2018)に加え, 思いやりであると考えた. 思いやりという指標は裁判の現場でも述べられており(最高裁判所資料, 2013), Mayer(1995)の信頼に影響する能力, 正直さに加え慈悲という項目をおいていることとも関連が深い.②:結果としては,裁判官,AI裁判官, のどちらにおいても思いやり条件で信頼度を高めるという有意差が見られた. しかし思いやり条件下において, 誠実さ, 能力も同様に上昇した. そのため, 思いやりが誠実さ, 能力に影響し, その片方, あるいは両方を経由して信頼度に影響していないとは言い切れない結果となった.
著者
山本 希 三浦 哲 市來 雅啓 青山 裕 筒井 智樹 江本 賢太郎 平原 聡 中山 貴史 鳥本 達矢 大湊 隆雄 渡邉 篤志 安藤 美和子 前田 裕太 松島 健 中元 真美 宮町 凛太郎 大倉 敬宏 吉川 慎 宮町 宏樹 柳澤 宏彰 長門 信也
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

蔵王山は,東北日本弧中央部に位置し宮城県と山形県にまたがる第四紀火山であり,現在の蔵王山の火山活動の中心となる中央蔵王においては,火口湖・御釜周辺での火山泥流を伴う水蒸気噴火など多くの噴火記録が残されている.一方,蔵王山直下では,2011年東北地方太平洋沖地震以後,深部低周波地震の活発化や浅部における長周期地震や火山性微動の発生が認められ,今後の活動に注視が必要であると考えられる.そのため,地震波速度構造や減衰域分布といった将来の火山活動推移予測につながる基礎情報を得るために,「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の一環として,人工地震を用いた構造探査実験を実施した.本人工地震探査は,全国の大学・気象庁あわせて9機関から21名が参加して2015年10月に行われ,2箇所のダイナマイト地中発破 (薬量200kgおよび300kg) によって生じた地震波を132点の臨時観測点 (2Hz地震計・500Hzサンプリング記録) および定常観測点において観測した.測線は,屈折法解析による火山体構造の基礎データの取得およびファン・シューティング法的解析による御釜周辺の地下熱水系の解明を目指し,配置設定を行った.また、地中発破に加え、砕石場における発破も活用し、表面波解析による浅部構造推定の精度向上も目指した.得られた発破記録から,解析の第一段階として,初動到達時刻を手動検測して得られた走時曲線のtime term法解析を行った結果,P波速度5.2~5.5 km/sの基盤が地表下約0.5kmの浅部にまで存在することが明らかとなった.また,本人工地震探査時および2014年に予備観測として行った直線状アレイを用いた表面波の分散性解析の結果も,ごく浅部まで高速度の基盤が存在することを示し,これらの結果は調和的である.一方,ファン状に配置した観測点における発破記録の初動部および後続相のエネルギーを発破点からの方位角毎に求め,御釜・噴気地帯を通過する前後の振幅比から波線に沿った減衰を推定した結果,御釜やや北東の深さ約1km前後に減衰の大きな領域が存在することが示された.中央蔵王においては,これまで主に地質学的手法により山体構造の議論が行われてきており,標高1100m以上の地点においても基盤露出が見られることなどから表層構造が薄い可能性が示唆されてきたが,本人工地震探査の結果はこの地質断面構造とも整合的である.一方で,得られた速度構造は,これまで蔵王山の火山性地震の震源決定に用いられてきた一次元速度構造よりも有意に高速度であり,今後震源分布の再検討が必要である.また,御釜やや北東の噴気地帯直下の減衰域は,長周期地震の震源領域や全磁力繰り返し観測から推定される熱消磁域とほぼ一致し,破砕帯およびそこに介在する熱水等の流体の存在を示唆する.今後のさらなる解析により,震源推定の高精度化など,火山活動および地下流体系の理解向上が期待される.