著者
中川 みなみ 南出 靖彦
雑誌
情報処理学会論文誌プログラミング(PRO) (ISSN:18827802)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.28, 2016-06-06

正規表現マッチングは文字列を操作するウェブプログラムなど,様々な場面で用いられており,その実装の多くはバックトラックに基づいている.そのため,正規表現マッチングにかかる時間が文字列の長さに関して線形でないことがあり,最悪の場合指数関数時間となる.本発表では正規表現マッチングの時間計算量を判定する手法を提案する.対象の正規表現から先読み付き木トランスデューサを構成する.その先読み付き木トランスデューサから準同型写像や有限遷移系を構成し,それらを用いた遷移過程の中に反復補題が成り立つ遷移過程が存在しているか調べることで計算量を判定することができる.この判定には,AhoとUllmanによる木トランスデューサの増加率の判定法を先読み付き木トランスデューサに拡張したものを利用する.先行研究では,EngelfrietとManethのマクロ木トランスデューサの増加率の判定法を用い,正規表現マッチングの計算時間が入力文字列に対して線形であるかどうかを判定する手法が提案された.本発表で提案する手法は,時間計算量が線形であるかどうかの判定だけでなくO(n2),O(n3),...になることも判定できる.この提案手法をOCamlによって実装し,既存のPHPプログラムで使用されている正規表現を対象に実験を行った.実験の結果,393個中入力文字列の長さに対して338個が線形,44個が2乗,6個が3乗の計算量であると判定された.
著者
江頭 満正
出版者
尚美学園大学総合政策学部
雑誌
尚美学園大学総合政策研究紀要 = Bulletin of policy and management, Shobi University (ISSN:13463802)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1-16, 2019-03

日本において音楽フェスティバルへの参加は一般的になり、音楽産業として見過ごせなくなった。しかしその参加動機については、ほとんど知られてない。本研究はVIVA LAROCK(埼玉)を事例に、参加動機を探るものである。訪問者を再来場回数で分け、探索的因子分析を行った。 その結果再来場回数が増えるにつれて、出演アーティストではなく、フェスティバル要素が評価されていることが明らかになった。この結果は、音楽フェスティバルの競合は、ディズニーランドである可能性を示唆している。
著者
河南 克也 藤本 典幸
雑誌
先進的計算基盤システムシンポジウム論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.365-372, 2011-05-18

2 つの文字列の最長共通部分列を求める LCS 計算は遺伝子の比較などの様々な応用を持つ.本論文では Crochemore らのビット並列アルゴリズムを用いて改善した Hirschberg の CPU 用 LCS アルゴリズムを,GPU を用いて高速化する方法を提案する.Crochemore らのアルゴリズムは 1 ビット毎に同時並列実行が可能なビット毎の論理演算の他に,逐次性が強い算術加算など,GPU での実装に工夫が必要な演算も含んでいる.本論文では特にそれらの演算の効率的な実装方法について論じる.その方法に基いて設計したプログラムを,2.93GHz Intel Core i3 530 CPU とGeForce 8800 GTX,GTX 285,GTX 480 GPU を用いて評価した結果,CPU 上でのビット並列アルゴリズムに対しては最大 12.77 倍,Hirschberg の CPU 用 LCS アルゴリズムに対しては最大 76.5 倍高速であった.また,Kloetzli らの GPU を用いた既存アルゴリズムに対しては 10.9 倍から 18.1 倍高速であった.
著者
坂本 光太
出版者
国立音楽大学大学院
雑誌
音楽研究 : 大学院研究年報 = Ongaku Kenkyu : Journal of Graduate School, Kunitachi College of Music (ISSN:02894807)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.125-140, 2020-03-31

《エシャンジュ Échanges》(1973 / 1985)は、ヴィンコ・グロボカール Vinko Globokar(b. 1934)自身のトロンボーン奏者、即興演奏者としての経験を積極的に使用した金管楽器ソロ作品であり、本人が演奏することを前提として作曲された。「この記譜法はパズルに等しい」という本人の言及からも伺えるように、本楽曲の記譜をそのまま演奏することは困難を極める。本稿の目的は、1973年版と1985年版の2種類の楽譜、1978年と1992年の自作自演録音をそれぞれ比較し、グロボカールの作曲者と演奏者の両面を検討することによって、作曲者本人ではない奏者による《エシャンジュ》演奏実践の可能性を呈示することである。楽譜の分析として、1973年版と1985年版の比較を行った。前者には即興演奏こそ明確に認められていないものの、形式的構造などの様々な実践的アイデアを見いだすことができ、その実演が想定されていることが伺える。それに対し、後者の記譜にはより強固に「音色の研究」という実験精神が前面に押し出され、より理念的であるが、一方でこの作品の即興演奏が認められている。自作自演録音の分析から、部分的に楽譜から抜粋して演奏する部分が存在しつつも、記譜と演奏実践に大きな乖離があるということで明らかになった。いずれの録音も、演奏全体は即興的でありながら、1973年版の楽譜と同じように、形式的構造で統一感を保っている。また、グロボカールは「音色の研究」のために、楽譜に書かれていない様々な工夫を行い、多彩な音色やそれに伴う楽想を実現している。以上二つの分析から、《エシャンジュ》は指定されたプリパレーションを用いた音色の研究のための即興的パフォーマンスであるといえる。楽譜は、具体的な演奏内容が示してあるものというよりは、物理的なセッティング(プリパレーション)の交換による即興的パフォーマンスのための「指示書のようなもの」であると考えたほうがよいだろう。演奏実践において重要なことは、音楽的な強い推進力と音の連続性を持って、全体としてのまとまり・形式感・統一感を保ちながら、様々な工夫をもって音色を追求することであり、それは記譜されたシンボルを正確に再現することに優先する。一方で、記譜されたシンボルは完全に無視されるものではなく、演奏者は記譜から全体の構成――例えば1978年の録音のABAのような形式――の着想を得ることできるだろう。本楽曲の演奏は、楽曲全体の音響自体がノイズであるがゆえに漫然としやすい。しかしそれゆえに様々な個別の音響をまとめ、一つの楽曲に統一する構成が必要とされるのであるのである。
著者
寺田 充樹
出版者
電気通信大学
巻号頁・発行日
2020-03-25

本研究ではIoT技術をこれまで経験とカンに頼ってきた養蜂に導入し,プロでも現地で巣箱の内外を観察しなければわからないことを遠隔でモニタするシステムの開発と評価を行った.外気および巣箱内の温湿度,重量,二酸化炭素濃度を計測し,スマートフォン等でその変化をモニタするセンサシステム,そして早期対応が必須であるスズメバチの襲来を機械学習モデルによって検出するカメラシステムを,安価なマイコンボードESP32およびRaspberry Piを用いて実装した.温湿度センサ,重量センサ,二酸化炭素センサは試験的に1群のみにセンサを設置したが,そこではダニや分蜂等の異常は発生しなかったため異常検知はできなかった.しかし,遠隔モニタで巣箱の温湿度や二酸化炭素濃度は一定に保たれ正常であることや重量変化からミツバチの群勢や採蜜時期の判断材料になるなどの有用性が示された.機械学習を用いたスズメバチの物体認識ではWebの写真やビデオ撮影した動画から切り出した500枚の画像データを用いて,ImageAI,TensorFlow,TensorFlow Lite環境で比較評価した.TensorFlow Liteは42.6%の精度で他よりも低いが処理速度がImageAIの20倍,TensorFlowの30倍以上高速であった.そこで,学習データを900枚増やしたデータセットでは92.9%の検出率を得ることができた.誤検出も多少生じたが,検出を正解とする閾値を高くすることで誤検出をなくすことができることを示した.また,Raspberry Piの各モデルやエッジAIデバイスで処理速度・容量を比較し,価格面や複数台のカメラを接続させた時のFPSを考慮すると7,700円で10台のカメラを1台あたり1fps以上で処理できるRaspberry Pi 4 model Bが適当だった.実際に養蜂場に設置した想定で防水ウォールボックス内にRaspberry Pi 4 model Bとモバイルルータを入れ,ESP32と距離を離した時の8m以上距離を置くと接続が切れることがわかった.さらに,スズメバチの検出の手法をミツバチの個体数のカウントに応用し,誤差7~22%という結果が得られた.精度向上に向けてまだ多くの改善の余地が残されているが,これは先行研究の誤差2倍以上と比較して極めて高い精度である.また,この結果からIoTやAIを応用した養蜂の研究が,いかに初期の段階であるかを物語っている.機械学習による映像解析は,巣門前の個体数だけでなく,採蜜のために出入りするミツバチの数だけをカウントすることで活動状態を調べたり,巣箱を開けて巣枠に密集している蜂の状態を全体で観察して群の個体数を把握したり,またそれぞれの働きバチが持つ役割を解析したりと様々な応用が考えられる.本研究ではその大きな可能性を示すことができた.
著者
門田暁人 佐藤慎一 神谷 年洋 松本 健一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.2178-2188, 2003-08-15

ソフトウェアに含まれるコードクローン(重複するコード列)は,ソフトウェアの構造を複雑にし,ソフトウェア品質に悪影響を与えるといわれている.しかし,コードクローンとソフトウェア品質の関係はこれまで定量的に明らかにされていない.本論文では,20年以上前に開発され,拡張COBOL言語で記述されたある大規模なレガシーソフトウェアを題材とし,代表的なソフトウェア品質である信頼性・保守性とコードクローンとの関係を定量的に分析した.信頼性の尺度として保守工程で発見された「フォールト数/LOC(Lines of Code)」を用い,保守性の尺度として「モジュールの改版数」を用いた.分析の結果,コードクローンを含むモジュール(clone-includedモジュール)は含まないモジュール(non-cloneモジュール)よりも信頼性(平均値)が約40%高いが,200行を超える大きさのコードクローンを含むモジュールは逆に信頼性が低いことが分かった.また,clone-includedモジュールはnon-cloneモジュールよりも改版数(平均値)が約40%大きく(すなわち,改版のためにより多くの保守コストが費やされてきた),さらに,モジュールに含まれるコードクローンのサイズが大きいほど改版数がより大きい傾向にあることが分かった.
著者
神田 英宣
出版者
東京海洋大学
巻号頁・発行日
2017

東京海洋大学修士学位論文 平成29年度(2017) 海洋管理政策学 第2811号
著者
本田 和也 川田 耕太郎
出版者
鹿児島女子短期大学
雑誌
鹿児島女子短期大学紀要 = BULLETIN OF KAGOSHIMA WOMEN’S COLLEGE (ISSN:02868970)
巻号頁・発行日
no.58, pp.69-73, 2021-02-28

近年,障害のある幼児の動向として,幼稚園や保育所,幼保連携型認定こども園において,障害のある幼児が在籍しており,特別支援教育の対象となる幼児の数は年々増加傾向にある.「幼稚園教育要領解説」等では,障害のある幼児の障害の種類や程度を十分に理解して指導内容を設定し,指導方法の工夫を行うことが求められている.本研究では幼児教育段階での障害のある幼児への指導のあり方について検討した.特に,指導内容や指導方法における自立活動の有効性について,質問紙による調査を通して分析した.その結果,保育現場において,自立活動の理解が進んでいないことが示唆された.しかし,保育者への自立活動の理解を促すことが,指導の有効性へとつながることも示唆された.