著者
野地 恒有
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.195-213, 2003-03-31

本稿は,金魚観賞における選評基準を題材とした動植物観賞の文化の比較民俗学的研究である。選評基準とは,金魚観賞において,金魚を選定・評価する基準のことである。本稿では,第1に,現代の日本金魚の選評基準として蘭鋳(らんちゅう),土佐金(とさきん),地金(じきん)の3品種の金魚を取り上げることによってその選評基準と観賞の志向をとらえ,第2に,18世紀の中頃に著された金魚飼育書『金魚養玩草(きんぎょそだてくさ)』を用いて江戸時代の金魚の選評基準を検証し,第3に,中国金魚の選評基準との比較を行った。その結果,日本金魚の選評基準は,1品種に完結した理想形として提示されており,その基準への嵌合という飼育形態がみられた。そして,その観賞の志向は,一定の理想形への深化とまとめられた。『金魚養玩草』からも,ほぼ同様な金魚観賞の志向を見出すことができたが,『金魚養玩草』には,1品種の枠を越えて新品種を評価する態度がみられ,現代における日本金魚と異なる観賞の志向もとらえられた。中国金魚の選評基準は多品種を包括した実体に即した等級分類として提示されており,定形の基準外の品種作出という飼育形態がみられた。そして,その観賞の志向は,多様姓への拡大とまとめられた。金魚の観賞における選評基準は伝承文化を背景としている。金魚飼育とは選評基準に合致した金魚を作り出す技術のことであり,選評基準とは金魚の飼育技術と密接に関係している知識体系のことである。金魚の飼育をはじめ,花卉・草木や盆景・盆栽の栽培などは〈改造された自然〉を対象とする技術であるとともに,〈改造された自然〉の観賞でもある。それは,動植物観賞の文化ということができる。〈改造された自然〉を観賞する文化において,日本では定形へ深化し,中国では変形に拡大すると予想される。その志向の差は自然観の質的な相違を表出するものである。
著者
渡邉 要一郎 永崎 研宣 大向 一輝 下田 正弘
雑誌
研究報告人文科学とコンピュータ(CH) (ISSN:21888957)
巻号頁・発行日
vol.2020-CH-124, no.4, pp.1-4, 2020-08-29

上座部仏教の聖典言語であるパーリ語の文献研究は,Vipassana Research Institute によって制作された電子テキストとその検索システムであるChattha Sangayana CD(CSCD)によるデジタル化の波を大きく受けた.しかしこの CSCD が依拠している電子テキストは,ビルマ第六結集版という研究者が標準的に用いるテキストでないものにもとづいたものであった.一般に研究者が用いている標準テキストは Pali Text Society(PTS)によって出版されたものであり,パーリ語の単語や文の位置している頁・行数は PTS 版のそれに従って記述されるのが通例である.そこで筆者は,研究者のニーズを踏まえ,PTS 版の電子テキストを用いて PTS 版の頁・行番号が簡単にとれる検索システムを作成した.
著者
服部 律子 武田 順子 名和 文香 布原 佳奈 松山 久美 田中 真理 小森 春佳 澤田 麻衣子
出版者
岐阜県立看護大学
雑誌
岐阜県立看護大学紀要 = Journal of Gifu College of Nursing (ISSN:13462520)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.63-73, 2019-03

A 県の1 次産科医療機関に勤務する経験7 年目以上の助産師を対象に、助産師が日ごろ感じている「気になる母子」とはどのような母子であるか、また一次医療機関と他機関の連携について明らかにするために質問紙調査を行った。調査内容は助産師が「気になる母子」と感じた経験の有無や具体的な場面、また「気になる母子」への対応、組織やチームの対応、他の医療機関との連携の課題、行政との連携の課題などである。勤務助産師180 名に質問紙を郵送し、そのうち返信があったのは68 名であった。「気になる母子」であると認識したことがある助産師は64 名(94%)であり、気になる場面としては【児の接し方や児への愛着に問題があると思われる場合】【母に精神的な問題があると思われる場合】【夫婦関係や家族関係に問題があると思われる場合】などであった。また「気になる母子」への対応は【地域の保健センターへ連絡する】【母の話を聞くようにする】【スタッフ間で状況を共有し対応を検討する】【母の様子を見守る】などであった。これらは日ごろから妊産婦に寄り添ってケアを行っている助産師が気づく視点であり、助産師はまず妊産婦の話を聞くことで状況を把握したり、問題解決に繋げたりする支援を行い、スタッフ間で状況を共有し対応を検討し保健センターへ連絡していた。 行政の保健師との連携における課題として【保健師と直接的な連携が取れていない】【「母と子の健康サポート支援事業」の依頼基準が不明確であり、緊急性が伝わりにくい】【退院後の保健師のケアの現状が分からない】【保健師との情報共有の場があるといい】などであった。行政の保健師とは、顔の見える関係づくりを進め、お互いの支援について理解を深めることが連携を築くことになると示唆された。「気になる母子」への介入は助産師の気づきを医療施設のチームそして地域へ広げていくことで、母子と家族への支援へ繋げることができると考えられる。
著者
オオハシ ルイーズ Louise Ohashi
雑誌
国際経営・文化研究 = Cross-cultural business and cultural studies (ISSN:13431412)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.41-48, 2012-11-01

In Japan there is a clear preference for ‘native speaker’ varieties of English, but in a time where English is used by more non-native speakers (NNSs) than native-speakers (NSs), students who have no exposure to non-native varieties may find themselves unprepared for the world that awaits them. This project focused on World Englishes for several lessons as part of a third year university writing course. The students were required to write an essay on the topic and a survey was administered to further gauge their views. As there was a very limited sample (n=20) the results cannot be generalized, but the findings give some insight into student views that are worth sharing. The study found that while the majority of students felt that learning different varieties of English was important, they favoured NS teachers over NNS teachers and some expressed fear that learning more than one variety would lead to confusion. It seems that while these students were open to the idea of World Englishes, they were reluctant to take steps towards learning about different varieties. As such, it is their teachers who will have to take the initiative in developing their English skills for the world stage that awaits them. It is hoped that this minor research project will encourage others to explore World Englishes with their students, which may in turn lead to more data on this important topic being collected and shared.
著者
春成 秀爾
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.83, pp.1-59, 2000-03-31

哀悼傷身の習俗の一つに抜歯がある。この抜歯は18~19世紀のハワイ諸島の例が有名である。抜く歯は上下の中・側切歯であって,首長や親族の死にさいして極度の哀悼の意をあらわすために1回に2本を抜く。文献記録では,16~18世紀の中国の四川省や貴州省に住んでいた佗佬の例がもっとも古い。しかし,考古資料では,徳島県内谷石棺墓の男性人骨に伴った女性の上顎中切歯1本が哀悼抜歯の存在をしめしており,4世紀までさかのぼる。中国新石器時代の抜歯は,7000年前に上顎の側切歯を抜くことから始まる。抜歯の年齢・普及率からすると,成人式とかかわりをもつと考えてよい。中国では4500年前になると,この習俗はいったん衰退する。まもなく今度は上下の中・側切歯を抜くことが安徽・江蘇・山東付近で始まる。抜歯の年齢はあがり,その頻度は低くなる。新たに始まったこの抜歯は死者に対する哀悼のためであった,と私は推定する。上下の中・側切歯を抜いた例は,モンゴル(~19世紀?),シベリア(新石器~19世紀?),アメリカ(15世紀以前~19世紀?),日本(縄文前期~6世紀=古墳時代),琉球(縄文~13世紀),ポリネシア(18~19世紀)で知られている。中国新石器時代に発祥した哀悼抜歯が数千年かけてアジア・アメリカ・太平洋にひろがっていったことを,これらの事実は示唆している。ポリネシア・シベリア・モンゴルでは,髪を切り身体を刀で傷つける哀悼傷身は,首長や親族との特別に親密な関係を表現し更新する役割を果たしている。考古資料にのこされている哀悼抜歯の痕跡は,墓の内容,男女の別などを考慮することによって,抜歯された人物の社会的な位置を探り,さらにはその社会の構造を解明していく手がかりとなる可能性を秘めている。
著者
平井章康 吉田幸二 宮地功
雑誌
マルチメディア、分散協調とモバイルシンポジウム2014論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, pp.633-638, 2014-07-02

近年,登場してきた簡易脳波計は携帯可能な大きさであり,装着が簡単で,装着者の行動を制限しない.このため,日常的な使用が可能で,比較的安価で入手し易い利点がある.そこでこの簡易脳波計を用いて脳波情報を取り入れた遠隔教育における指導支援にフィードバックできるシステムの構築を検討している.本論文では昨年の実験で記憶作業に関する反応がlow_γと,ワーキングメモリと呼ばれる短期記憶領域で反応を示しているθ波の2つの波長の関係性を調べ,その特性を利用したサポートシステムを構築,実際に脳波計測において学生の記憶作業中の脳波データの相関関係を実験により比較分析した.その結果,(θ+α)/10とLow_γが同期した波長である事が判明した.またこの2つの波長の特性を利用したプロトタイプシステムを構築し,実験により,(θ+α)/(10×low_γ)がサポートシステムの有無で記憶力の変化が見られた事から記憶の度合いを測る指標として有効であると結果が出た.