著者
町田好男
出版者
日本磁気共鳴医学会
雑誌
第42回日本磁気共鳴医学会大会
巻号頁・発行日
2014-09-11

圧縮センシング(Compressed Sensing: 以下CS)とは、「観測対象データがある表現空間では「スパース(疎)」であると仮定して、少数の観測データから対象を復元する手法」である。近年、ランダムな成分を持つ観測マトリクスの場合に復元可能であることが情報理論分野において示され、さらに、観測データをランダムサンプリングできるMRIはCSのよい適用となっていることが示された(Lustig, 2007)。図は、CS-MRIにおける再構成の概要を示したものである。再構成したい画像(対象データ)をmとしよう。CS-MRIでは、「(1)表現空間データΨmが疎であること」と「(2)アンダーサンプルしたフーリエ変換像Fumが観測(収集)データyに近いこと」を条件としてmを求める。(適当なモデルのもとで解を求められることがCS理論の教えるところである。) 通常のMR断面像ではΨとしてWavelet変換などが用いられる。CS-MRIにおいては、観測データ、対象データ、疎表現データの3つを切り分けて考えること、あるいはそれらをうまく割り当てることが重要であるが、この時の自由度が高く従って応用範囲が広いのがMRIの特長となっている。本講演では、原理説明に続きいくつかのアプリケーションを紹介する。また現在我々が検討しているCS画質の評価検討について一部紹介したい。
著者
田中悠樹
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

問題と目的 現在,教育現場の課題として自然体験活動の欠如が取り上げられている(日置, 2004; 国立青少年教育振興機関, 2010)。その要因のひとつとして昆虫に対して嫌悪感を示す子ども・教師が増えている(日高, 2005; 鑄物・地下, 2014)ことが考えられる。しかし嫌悪は恐怖や不安といった感情と近い属性を備えた感情であるとされるものの,対人的な場面以外の研究は多くなく,特に昆虫に対する嫌悪は従来本能的なものであると考えられており,その構成要因についてはほとんど明らかでない。 よって,本研究は,対人嫌悪の研究を参考として尺度作成を試みることで昆虫に対する嫌悪感情の構成を明らかにすることを目的とする。方法 調査対象者 関西の国立大学で,2015年1月から2月に質問紙調査を実施した。分析対象は大学生51名(男性:17名,女性:34名)である。 質問項目 日高(2005)において想起されやすかった昆虫「ハチ・ダンゴムシ・イモムシ・チョウ・カブトムシ・バッタ・ゴキブリ・セミ・ガ」についてそれぞれA:(比較的)好ましく思う,B:(比較的)いやだと思う,C:どちらでもない,のどのイメージ群に当てはまるか解答を求めた。なお,統制のためにそれぞれスライドショーで該当する昆虫の画像を提示した。その後,金山・山本(2003)の嫌悪対象者に対する感情の尺度のうち4因子を応用し,昆虫に対する嫌悪感情の尺度を作成,各群について回答を求めた。質問項目は全20項目×3群であり,6件法である。結果と考察 昆虫へのイメージ 各昆虫に対するイメージ群の選択率をFigure 1に示す。χ2検定で選択率を比較した結果,好ましく思う群にはチョウ・カブトムシ・バッタが,いやだと思う群にはハチ・イモムシ・ゴキブリ・ガが選択される傾向にあることがわかった(p<.05)。この結果は日高(2005)の結果を概ね支持し,嫌悪対象となる昆虫とそうでない昆虫とは区分されていることが示唆された。今後昆虫の持つどのような属性が感情に影響を及ぼしているのか調査する必要があると考える。 昆虫に対する嫌悪感情の構成 昆虫に対する嫌悪感情の尺度20項目の3群それぞれ主因子法・Promax回転による探索的因子分析を行った。その際に全群において信頼性係数を低下させていた1項目を分析から除外した。金山・山本(2003)との比較のために,いやだと思う群について取り上げたところ,4因子構造が妥当と判断され下位項目の特徴から各因子を命名した。それぞれの因子名・下位項目・α係数をTable 1に示す。 今回の調査で得られた因子構造のうち「恐怖感情」「無関心」は金山・山本(2003)の尺度と一致したものの,新たに「不快感情」「敵意感情」の因子が抽出された。このことから,嫌いな他者といやだと思う昆虫とで抱く嫌悪感情は概ね似通っており,昆虫に対しては不快と嫌悪が別の感情であることがわかった。 また,嫌悪感情4因子の各尺度得点について,好ましさによる平均値の比較を分散分析によって行った。結果,無関心以外の3因子において好ましさの程度によって差が見られ(不快感情:F(2, 100)=66.68, p<.01; 恐怖感情:F(2,100)=55.89, p<.01; 無関心:F(2,100)=0.39; 敵意感情F(2,50)=12.66, p<.01),いやだと思う群が他の2群と比べて該当する3因子すべてで有意に得点が高かった。こしたことから,いやだと思う昆虫に対する不快や恐怖,敵意といった感情は他の昆虫と比べて強いものであることが示唆された。
著者
山田 隆二 井上 公夫 苅谷 愛彦 光谷 拓実 土志田 正二 佐野 雅規 李 貞 中塚 武
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

赤石山地鳳凰山東麓小武川支流ドンドコ沢に大量に分布する花崗岩質の巨大な角礫群は、堆積層から採取した樹幹試料等の放射性炭素(14C)年代測定に基づいて、奈良-平安時代に発生した大規模岩屑なだれに由来し天然ダムを形成したと考えられている(苅谷, 2012, 地形, 33: 297-313)。本研究では、酸素同位体比年輪年代測定法を用いて、岩屑なだれの誘因や堆積過程の解明に迫った。年代測定用の試料は、ドンドコ沢天然ダム湖堆積物の地表下約1 mの砂泥層に含まれるヒノキ(樹幹直径約50 cm、年輪計数による推定樹齢約400年)からディスク状に切り出して採取した。切り出したディスクから木口面に平行な厚さ1 mm、幅1 cmの薄板をスライスして板のままセルロース化し、最外年輪を53年分切り出して、総合地球環境学研究所が所有する熱分解元素分析計付きの同位体比質量分析計で測定した。測定結果の経年変動パターンを木曽ヒノキの標準変動曲線と対比したところ、ヒノキはAD 883+α(αは1年以上、数年程度)以降に倒伏・枯死したと考えられる。岩屑なだれの誘因を地震による強震動であると限定した場合、同じ露頭から採取した樹幹の14C年代測定結果は809-987(CalAD, 2σ; 苅谷, 2012)であることから、既往文献(宇佐美ほか, 2013, 日本被害地震総覧599-2012, 東京大学出版会)によると誘因となる可能性のある歴史地震が4つ程度考えられる(AD 841 信濃、 AD 841伊豆、AD 878 関東諸国、AD 887 五畿七道)。一方、酸素同位体比年輪年代のレンジはAD 883+αであるため、誘因となる可能性のある歴史地震はこれらのうちAD 887 五畿七道地震に絞られる。苅谷ほか(JPGU 2014, HDS29-P01)は同じ樹幹試料より年輪幅を計測し、AD 887晩夏の枯死年代を得ており、五畿七道地震(仁和三年 = AD 887夏)に関連して枯死したと指摘したが、酸素同位体比年輪年代測定の結果はそれに矛盾しない。この研究は、平成27年度砂防学会の公募研究会の助成を受けた。