著者
芝原 暁彦
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

近年、古生物学に関するエポックメイキングな研究成果が相次いで発表されている。例えば始祖鳥は、走査型電子顕微鏡による分析で、メラノソームと呼ばれる細胞小器官の痕跡が化石から発見されたことにより、少なくとも一部の羽毛は黒色であった可能性が示唆されている。同様に、複数の羽毛恐竜でも部分的に羽毛の色が推測されており、これまでの復元図では推測で描くしかなかった古生物の「色」についても、極めて部分的にではあるが統一できる可能性があり、科学教育やアウトリーチ分野にも影響しはじめている。 また日本各地における化石研究も精力的に続けられており、日本地質学会が2016年に作成した「県の石」リストでは化石の項目が設けられ、各県を代表する古生物が取り上げられるなど、国内における古生物の多様性を反映した教育コンテンツが続々と整備されている。こうした傾向を、今後の学校教材でどのように反映させていくかを考察したい。 また地質標本館が所蔵する鉱物・岩石・化石の標本写真は、政府標準利用規約2.0にもとづき「地質標本データベース」として公開されており、出典元を示すことで教材としての柔軟な活用が可能となっている。こうした良質なオープンデータについての紹介と、実際の利用方法についても実例を交えながら紹介し、新しい地球惑星科学教材の可能性について幅広く議論したい。
著者
橋村 斉 原田 佳澄 舘 友基 木村 圭佑 櫻井 宏明
出版者
日本理学療法士協会
雑誌
第6回日本地域理学療法学会学術大会
巻号頁・発行日
2019-10-25

【はじめに】 地域包括ケア推進のために在宅医療・介護の推進が必要であり、各地で自助・互助の強化、社会参加の促進が取り組まれている。その中で、療法士が社会参加の促進を行うためには、療法士自身が近隣の地域活動を把握している必要がある。当院では、利用者が地域の中でその人らしく生きがいを持って取り組めるような地域活動を提案するために、松阪市内の地域活動について電子地図を用いて情報収集・記録しており、リハビリテーション科の職員が常時確認できるように管理している。今回は、その活動内容を報告する。【地域活動の情報収集・管理】 松阪市内の公民館・集会場などの場所と活動内容・開催日について、市のホームページや地域包括支援センターの生活支援コーディネーターより情報収集を行った。また、公共交通機関について、市内を運行するバス停の位置をホームページ上で調査した。収集した情報を一括で管理し、各々の位置関係を把握するため、電子地図(Google My Maps)上にまとめた。これにより、利用者の自宅周辺で開催されている地域活動が視覚的に判別できるようになった。さらに、市役所に各公民館の内部環境調査を依頼し、建物内各所の部屋の構造・段差の高さ・手すりの有無などを把握することができた。これらの情報により、移動距離や段差昇降の必要性など、地域活動へ参加するために達成すべき課題が明確になり、利用者と共有できるようになった。【地域活動の見学と環境調査】 当院利用者が多く居住する地区を中心に、一部の公民館に赴いて活動内容や現地環境を調査した。活動内容は大きく分けて趣味系・運動系の2種類があった。趣味系の活動は全体的に自由に休憩が取れ、自分のペースで活動ができる様子であったが、運動系は総じて実施時間が長く、求められる身体機能が高い印象であった。また、市内には80ヶ所以上の公民館があるが、バリアフリー構造の建物は1ヶ所のみであった。その他の公民館は築50年以上が経過しており、内部構造は和室が多く段差が多数で、トイレも和式が多くを占め、身体機能の低下した高齢者にとっては利用しにくい環境であった。 【展望・課題】 上記ツールを使用し、現在までに介護保険利用者6名に対して地域活動の紹介・参加に結び付けることができ、現在も電子地図の活用事例を増やし、入院患者への適応拡大を図っている。今後は、当院のホームページ上に電子地図を公開し、当院以外の医療従事者にも活用してもらうことで意見を収集し、電子地図に掲載する情報の見直しを行っていく。【倫理的配慮、説明と同意】本研究に関しては、事前に当院の倫理委員会にて承認を受けて実施している。
著者
木野 佳音 阿部 彩子 大石 龍太 齋藤 冬樹 吉森 正和
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

大気中二酸化炭素濃度の増加に伴う地球温暖化が特に極域で大きく現れることは極域気温増幅としてよく知られており、南半球高緯度においては、気候モデルを用いた研究によって温暖化要因の分析がされている (Lu and Cai, 2009)。また、南極氷床コアを用いた最新の研究では、地球の軌道要素である地軸の傾きや離心率の周期変動と現地気温の変動について、詳細な位相関係の議論が行われている (Uemura et al., 2018)。そこで、本研究では気候モデルMIROCを用いて、地球軌道要素が変化したときの南半球高緯度温暖化がどのようになるか大気中二酸化炭素濃度増加の場合と比較を行い、気候フィードバックの違いを調べた。大気大循環モデルに海洋混合層モデルを結合したMIROC(Hasumi and Emori, 2004)を用いて、地軸の傾きを過去にあり得る最大値とした実験、離心率を過去にあり得る最大値でかつ近日点に冬至がくるとした実験を行い、南半球高緯度の気候変化を解析した。さらに、地表面での放射収支解析 (Lu and Cai, 2009) を行った。結果として、南極氷床が存在する南極大陸上の温暖化は、地球軌道要素が変化する場合、日射が雲に遮られない晴天域の短波放射の変化によって主に決められていた。このことは、長波放射による強い加熱が温暖化をもたらす大気中二酸化炭素濃度増加の場合と対照的だった。また、南大洋上の温暖化の定性的な季節性は、放射強制力にかかわらず共通していて、夏にほとんど温暖化がみられず、秋から冬にかけて強い温暖化がみられた。放射収支解析から、この季節性をもたらす要因は、北半球高緯度の場合と共通しており、夏に海洋に吸収されたエネルギーが 冬に大気へ放出されることであるとわかった。また、定量的には、秋から冬の温暖化の強度が異なった。これには、特に春から初夏にかけての放射強制力の違いが海氷融解に与える影響が、重要であることがわかった。今後は、大気循環や降水分布の解析も行っていく。また、海洋大循環も考慮したモデルの結果も解析する予定である。
著者
藤間友里亜 外山美樹
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

問題と目的 場面緘黙経験者は,その症状が消失し,寛解にいたった後にも不適応に陥ることが少なくないと指摘されている(久田・金原・梶・角田・青木,2016)が,これまで場面緘黙寛解後についての研究はほとんどされてこなかった。本研究では,場面緘黙の寛解を「日常生活において発話が必要とされる場面で話すことが一貫してできる状態」と定義し,場面緘黙時の経験や現在の状態にいたるまでの過程についての調査を実施した。それによって場面緘黙経験者が適応および不適応にいたる過程を明らかにすることを目的とした。方 法面接前アンケート 場面緘黙を経験した18歳以上の者21名に対し,年齢,性別,場面緘黙の基準にあてはまっていたか,現在は話すことが一貫してできるかを尋ねた。面接調査対象者:面接前アンケートの対象者のうち,寛解に達していなかった2名を除いた19名(男性5名,女性14名,平均年齢33.37±9.93歳)であった。調査内容と手続き:面接はSkype上で行った。主な質問は,「現在の生活で困っていることはありますか?」,「緘黙時にどのような経験をしましたか?」,「緘黙経験についてどのように受け止めていますか?」などであった。結果と考察 M-GTAを用いて分析を行い,21の概念と5つのカテゴリーが生成された。分析の結果作成された場面緘黙経験者の適応・不適応過程の結果図をFigure 1に示した。本研究の調査対象者は全員が寛解後に不適応を経験していた。寛解後不適応には,不安や人見知りといった気質と場面緘黙症状によって経験した緘黙時のネガティブな経験が影響していた。寛解後不適応から適応にいたる過程には不適応の改善が存在することが示された。総合考察 緘黙時に他者から責められることは自責につながっており,その自責は場面緘黙を知ることで解消されていた。よって,場面緘黙経験者本人が場面緘黙を知ることが重要である。また,周囲の人が場面緘黙を理解し,責めることを少なくすることも重要であると考えられる。本研究の対象者は,適応にいたっていても発話に対して苦手意識を持つ者が多かった。このことから,発話の苦手さによる困難を軽減するためには,発話能力を向上させるだけでなく,発話以外の対処も効果的に用いることが重要であると考えられる。 本研究より,場面緘黙寛解後にも困難を抱えることがあるという結果が得られ,寛解後の場面緘黙経験者の困難を軽減させる方法や適応にいたる過程についての研究は臨床的に意義があることが示された。
著者
蓑田 和麻 阿内 宏武 川頭 信之 石川 信行
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

Webサイトを運営する企業にとって、サイトを訪れたユーザの状況に応じた適切なコミュニケーションが必須である。その戦略の1つとして、ユーザ行動のレコメンドが考えられる。しかし検索条件の選択のような、Webサイト上のコンバージョン(例:予約ページ、購入ページなど)と直接関連しないユーザ行動をレコメンドする場合、従来の教師あり学習を用いた最適なユーザ行動の導出は困難であった。本研究では、深層強化学習を用いて上記問題を解決し、実際のユーザのWebアクセスログを用いた実験によりその有効性を示す。
著者
白水 智
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

江戸時代については、巷間、人と自然が優しく共存した時代であると称揚されることが多い。しかし、実際には自然の過剰利用による資源枯渇が発生するなど、必ずしも人は自然に優しく生きていたわけではない。 「御林書上帳」という史料がある。御林とは、庶民の利用に厳しい規制がかかった幕府・大名の統制林であったが、その日常的管理は、御林守などに任命された地元住民に委ねられていた。彼らは領主の指示により、森林の状況を詳細に調べ上げた報告書を作成し、「御林書上帳」として提出した。そこには、木の種類・太さ・高さ・本数などが列記されている。歴史学研究者にとっては、解読することはできるが、ひたすら退屈な史料である。しかし林学の研究者から見ると、この帳面は、今は見ることのできない何百年も前の森林状況のデータが埋もれた宝の山であり、当時の森林環境が鮮やかに復元できる素材である。長野県林業総合センターの小山泰弘氏に信濃国北部の森林について、これらの史料を利用して復元研究を行ってもらったところ、御林の多くは直径20~30センチほどのアカマツを中心とする疎林にすぎず、豊かな緑に覆われていたわけではないことが明らかとなった。一方で、同じ地域の栄村にあった「仙道御林」は、全く様相が異なっていた。そこはナラとブナが7割を占める13.5㏊の森で、幹周2丈(6m。胸高直径2mに相当)を超える樹木が56本もあった。環境省が「巨木」とする木は幹周3m以上をいうが、それに相当する目通り9尺以上の樹木は1615本もあり、まさに現代なら天然記念物級の「巨木の森」だったのである。わずか200年前の日本にこのような森があったのは驚きであるが、逆に言えば、こうした森を当たり前のように存在させたのが日本の自然だったのであり、それが失われた原因は紛れもなく人為による伐採であった。日本の自然を考えるとき、人間活動の痕跡を大きな要因として加えることの重要性を示す重要な一例といえる。 民有林に相当する林地では、当然ながら過剰な伐採は進行し、有用樹種の枯渇を招く事態となった。北信濃の秋山地区では、スギ・クロベなどの有用な針葉樹は19世紀初頭までに多くを伐り尽くしてしまい、史料には「残るのはブナ・ナラ・トチなど雑木ばかり」と、どうでもいい無用な木ばかりになってしまったかのように記されている。それまで秋山で生産されていたのは、桶・曲物など目の通った針葉樹材を材料にした器物であったからである。しかし人は窮地に陥れば知恵を働かす。今度は材料を豊富に存在する広葉樹に転換し、木鉢・コースキ(木鋤)などの木工品作りに精を出すようになった。「使えない雑木」だったものが主たる素材になったのである。こうして新たな樹種の利用方法を編み出し、窮地を脱することができたが、「人欲は限りなし」と自ら記録に記す伐採状況であったことは間違いない。 また一方、「御林書上帳」を子細に見れば、必ずしも真実を正確に書き上げたものとはいえない部分もある。歳月を経て提出された2冊の書上帳間で、樹木の本数が全く同数に揃えられているのである。森林管理の不備を問われることを恐れて、明らかに数字を調整したと見られる。書き残された古文書は、やはり「人くさい」社会の産物でもあるのである。この「人くさい」社会の営み(政治・経済・制度・心意・習俗)を明らかにするのが、歴史学の真骨頂である。そしてこの「人くささ」を前提とした古文書の内容・文言の吟味、すなわち史料批判を通じて、史料はデータとしての意味をより明確に捉えられるようになる。
著者
村田 剛志
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

日本は世界有数の火山国であり、世界の活火山の約7%が存在する。火山の噴火は時として甚大な人的・物的被害を及ぼすものであり、2014年の御嶽山や2018年の草津白根山での火山災害は記憶に新しい。火山活動を正確に把握して必要な対応を取ることは、専門家のみならず周辺地域の多くの人々にとっての重大な関心事である。噴火予測などの火山の研究は、これまでは火山物理学からのアプローチが主であったが、火山周辺に設置された伸縮計や地震計などから観測される時系列データを用いた情報学的なアプローチによって、新たな展開や可能性が見えてくると期待される。火山の観測装置から得られる時系列データは噴火と大きな関係があるが、一般にデータは複雑で、専門家にとっても分析は容易ではない。我々は火山噴火分類と火山噴火予測の二つの問題に注目した。前者の目標は、100分間の時系列データからその100分間に火山が噴火するか否かを分類することであり、また後者の目標は、100分間の時系列データから兆候を認識してその直後の60分間に火山が噴火するか否かを予測することである。前者については、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を時系列データに対して適用するVolNetを提案した。実際のデータを用いて火山噴火分類を行ったところ、F-scoreで90%程度の精度を達成した。また後者については、時系列データにおける時間変化を検出するためにStacked 2-Layer LSTMを用いて実験を行った結果、噴火・非噴火の2クラス平均のF値による精度で66.1%であった。また、与えられた時系列データを”Non-eruption”, “May-eruption”, “Warning”, “Critial”の4つに分類する警告システムを構築したところ、”Critial”に分類された時系列データで噴火が起こったものの割合は51.9%であった。我々は京都大学防災研究所附属火山活動研究センター長の井口正人教授の協力のもと、火山に関する最大級の規模と質の時系列データを用いた実験によって、提案手法の有効性を示した。また国内および海外での火山噴火のニュースが多い昨今において、AIを用いて噴火を予測するというテーマは社会的にも関心を集め、日本経済新聞での記事、NHK鹿児島でのローカルニュース、南日本新聞での記事、月刊誌(みずほ総合研究所「Fole」)での記事など、多くのメディアで取り上げていただいた。
著者
石橋 克彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

●徳島県海陽町宍喰の大日寺に伝わる「円頓寺開山住持宥慶之旧記」(猪井・他,1982)の中の「当浦成来旧記書之写」(A)は,永正九年(1512)八月に洪浪が同地を襲い,浦中流失して約2200人が死亡したと記す.これは,石橋(2014,2015),Baba et al.(2017),馬場・他(2017)などが引用した『震潮記』中の記事(B)や,『大日本史料』『増訂大日本地震史料』『宍喰村誌』『海部郡誌』などが掲載する『宍喰浦旧記』(『徴古雑抄続編』所収,C)の元だと考えられる.BとCには大きな誤写があるが,Aについても幾つかの疑問がある.猪井・他(1982)が紹介した翻刻に拠って問題点を指摘する.●まず,「当浦成来旧記書之写/永正十一年正月に書記すとこれあり候」以下の中核部分に,以下のような内容的疑問がある:(1)橋より南の町は残らず流失したが死者は少なく,橋より北の町家は痛みは多くなかったが死人多く,「両町の人老若男女とも三千七百余人の相助し人一千五百余人也」という大被害のもとで,二人の城主が翌年十二月中旬までに諸寺諸社13を含む家数1805軒を再建したというが,被災地にそれほどの財的・人的・物的資源があったのか.(2)生存者1500余人に対して「町家千七百家」の再建は多すぎるだろう(しかも北町の損家は少数!).(3)北町で死者が多かったのは不自然.(4)海辺の大松原や集落周囲の山林を皆伐して建材を調達したというが,その後の高潮・豪雨災害を懸念せずに本当にやったのか.(5)「御取立(建築)の諸寺諸社」の中に祇園拝殿も記されているが,大永六年(1526)の再建棟札があるから(宍喰村誌),矛盾している.(6)城主「藤原朝臣下野守元信公 同宍喰村城主藤原朝臣孫六郎殿」と記すが,『阿波志』『宍喰町誌』によれば,愛宕山城主は藤原孫六郎元信,祇園山城主は藤原下野守持共で,名前が混乱している.●中核部分に続いて,「新寺駅路山一寺円頓寺宥慶/時に慶長十年三月四日書記す也」と末尾に記された「九ケ所寺々名附所付」などがあるが,その中の「御当代蜂須賀阿波守茂成公の御先祖蓬庵公」という記述にも次の疑問がある:(7)茂成(本名,家政)は天正十三~慶長五年(1585-1600)の藩主,以後元和六年(1620)までの藩主は子の至鎮,しかも蓬庵は家政の号だから,二重におかしい.●永正九年洪浪の記録全般に関する疑問:(8)宍喰は戦国期より前は高野山蓮華乗院の荘園だったが,文安二年(1445)の「兵庫北関入舩納帳」(林屋,1981)に木材運搬の宍喰船の記録が20件あり,その後も堺などとの交易や海部刀の輸出などが盛んだったというから(宍喰町誌),舟運被害が記されていないのは不自然ではないか.(9)宍喰の壊滅は畿内などにも影響を与えた可能性があり,他の記録があってもよいのではないか.●Aは「円頓寺開山住持宥慶之旧記」の一部だが,全体についての疑問:(10)冒頭に「元文四己未年の春駅路山円頓寺開山住持宥慶の旧記等円頓寺の二階の上鼡の巣の中より取出し候其の時々拝見の僧円頓寺住持嘉明真福寺住持大雲也旧記の本紙は円頓寺にこれあり候旧記本紙の通相違なく写取るもの也/時に元文四己未年三月十四日」とあるが,慶長十年(1605)頃の膨大な古記録(慶長九年津波のものも含む)が元文四年(1739)まで鼠の巣の中にあって,鼠害に遭わずに詳しく読めたのは不自然ではないか(後のほうの一部には「鼡喰い云々」とあるが).(11)「円頓寺開山住持宥慶」というが,同寺(大正元年<1912>大日寺に合併)の「御建立成来旧記之事」(宍喰町誌)は,「駅路山円頓寺住侶 法印快厳(花押)/慶長四己亥年正月二十八日書記之」として「当時開山住侶 <中略> 久米田寺多門院一代法印快尊弟子快厳時代也」と記すから,宥慶は開山住持ではないだろう.●以上の問題点は,書記や書写の各段階での思い違いや写し間違いの所為にされるかもしれない(翻刻ミスもありうるが,そのレベルではない).だが,不自然な記述が多く,Aの信憑性は低いのではないだろうか.ただし,Aの内容がすべて事実無根と言えるわけではなく,地元の記憶・伝承が融合されて架空の記録が作られたのかもしれず,生起年代は別として,個別的な歴史的事実は含まれているかもしれない.しかし「永正九年八月の宍喰浦洪浪災害」の実在に関しては,現段階では疑問と言わざるをえない.今後Aの記述内容を,史料学と地学的・考古学的現地調査によってさらに検討することが重要であろう.なお「宥慶之旧記」全体の精査は,慶長九年十二月十六日(1605.2.3)の宍喰の地震動・津波という歴史地震学の大問題に直結している.
著者
郡司菜津美
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

問題と目的 現在,大学の教員養成の段階で,どの教員にとっても必須である性教育指導に関する必修カリキュラムは組まれておらず,教員志望の学生らが性教育に関する指導スキルを十分に身につけていないまま現場に出て行くことが課題となっている(天野ら,2001:西田ら,2005:児島,2015:長田ら,2016)。つまり,性教育の「指導方法がわからない(佐光ら,2014)」まま教壇に立つ教員を養成し続けていることになる。そこで,本研究では,教員志望の学生が,性教育の適切な指導スキルを身につけられるプログラムを開発することを目指し,学生が模擬授業を行うラーニングバイティーティング形式による性教育指導に関する主体的対話的学びの講義を実施し,その学習効果を検討することを目的とした。方 法 2017年7月,首都圏A私立大学の教員免許取得必修科目「生徒指導論」において,受講者84名(男子67名,女子17名)を対象に,「性に関する正しい知識を指導できるようになろう」という課題を与え,ラーニングバイティーチング形式の講義を実施した。具体的には,筆者が高等学校での性教育講演で用いるPPT資料を配布し(内容は①第2次性徴&デートDV,②妊娠と中絶,③性感染症,④性的マイノリティ),4つのグループで構成された1チーム内で内容を分担し,それぞれの資料を元に指導略案を作成,その場で互いに模擬授業を実施させた。授業の学習効果を明らかにするため,授業の前後に性に関する知識(上記①~④に関するもの)を問う質問紙調査(回答は記述式13問と選択式6問の全19問)を実施し,質問内容の回答がわからない場合には「わからない」と記述すること,あるいはその項目を選択するように教示した。それぞれの質問内容に対して①適切に理解していると判断できる回答をした人数,②わからないと回答をした人数,③①における性差について,それぞれ授業前後及び性差に有意な差があるかどうかを,①と②についてはt検定(対応のある),③についてはχ2検定を用いて検討した。結 果1. 適切に理解していると判断された回答数 全19問の性に関する知識を問う項目について,84名の回答を集計した結果,適切に理解していると判断される回答をした人数の平均値は,授業前が1問あたり38.95人,授業後は59.47人であり,授業の前後で適切に理解している回答を記入した人数に有意な差があることが示された(t=6.109, df=18, p<.001)。各質問項目について,最も理解度に変化があったのは,「避妊の確率が高い順序の並び替え」「同性愛者の方が異性愛者よりも性感染症(HIV)に罹患しやすいこと」の2項目であり,授業前の正答率がそれぞれ1.19%,27.38%であったのに対して,授業後は44.05%,63.10%と増加した。2.わからないと表記された回答数 1.と同様に集計した結果,授業前は1問あたり24.74人であったのに対して,授業後は5.95人であり,授業の前後でわからないと表記した人数に有意な差があることが示された(t=6.909, df=18, p<.001)。3.理解度における性差について 全19問について,適切に理解していると判断された回答を記入した人数について,性差があるかどうかを授業前後で比較した結果,全ての問題において有意な差がみられなかった。考 察 本研究では,性に関する内容を検討・模擬授業させるラーニングバイティーチング形式による講義を実施した。その結果,授業前後で性に関する問いに適切に回答できる学生数が増加し,「わからない」と回答する学生数が減少した。これらは,⑴仲間に教授すること (Teaching),⑵仲間の教授を受けること(Learning through Peer Teaching)の効果であることが推測される。指導案を検討し,模擬授業を実施するという授業デザインによって,学生らが主体的・対話的に学んだと考えられる。また,全ての項目について,回答数に性差が見られなかったことから,互いの性別に関係なく,対話的に学習する機会であったことが推測できる。 本研究での実践は,講義内での学習を目的としたものではなく,教育実習や,教員になった際に現場で活かされるために行ったものである。従って,本実践で得られたことが,学生らの未来の教育実践にどのように活かされて行くのか,そのことを引き続き検討していくことが重要である。付 記本研究はJSPS科研費 17K18104の助成を受けたものです。
著者
渡辺 満久
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

1 はじめに 発表者はこれまでに、「福島」以前の杜撰な審査を繰り返さずに原子力関連施設の安全性が確保されることを願い、原子力施設の再稼働の前提となる新規制基準適合性に係わる審査に対しいくつかの具体的提言を行ってきた(渡辺ほか、2013;渡辺・中田、2014)。ところが、最近の北海道泊原子力発電所の審査における、原子力規制委員会(以下、規制委員会)の姿勢には大きな疑問を感じている。本報告では、積丹半島の活構造を総括し、規制委員会による審査の問題点を指摘する。本研究では、平成25~27年度科学研究費補助金(基盤研究(C)研究代表者:渡辺満久)の一部を使用した。2 積丹半島の活構造(渡辺・鈴木、2015;渡辺、2015a;2015b;北電、2013、2014) 積丹半島西方断層は神威海脚の西縁から神恵内西方まで約60 km連続し、比高数100 mの凸型斜面(撓曲崖)を形成している。撓曲崖基部には新しい地すべり地形が多数見られ、最近も斜面が不安定になったことがわかる。北電による音波探査の結果にも、いくつかの断層構造が確認される。規制委員会は、明瞭な断層構造が確認できないことを理由に活断層の存在を否定しているようである。しかし、上述したように断層構造は確認されている。そもそも、十分な変動地形学的検証なしに音波探査結果だけで活断層の存在を否定してはならないことは、2007年中越沖地震で学習したはずである。 積丹半島南西岸では、MIS 5eの海成段丘面が30 m程度の高度にあり、高度の異なるノッチや離水ベンチが存在しているため、間欠的隆起が繰り返されていることが強く示唆される。一方、北東岸では、海成段丘面は分布しておらず、離水ベンチもほとんど認められない。このような変動地形学的コントラストは非常に明瞭であり、両地域の地形発達が同じであるとは到底考えられない。これらの特徴は、積丹半島西方断層の活動で統一的に説明できる。規制委員会は、このような地形学的特徴の違いをまったく考慮していない。また、積丹半島全域が定常的かつ一様に隆起していると結論しているが、本当にそのような地殻変動が継続しているかどうかの検証はまったく行われていない。 規制委員会は、半島南西岸の海成段丘面(MIS 5e)の旧汀線高度はほぼ一定であるとした。しかし実際には、その旧汀線高度は一定ではなく、10 km程度の区間で10 m程度の高度差がある。これは、それほど本質的な問題ではないが、このような事実誤認があることも問題である。また、神恵内付近における旧汀線高度の急変に関しても、合理的な説明はなされていない。これらの問題に関して、2015年度活断層学会で報告したところ、当時の審査担当者から「北電から満足のゆく回答はまだなく、結論はでていない」というコメントがあった。その内容は、規制委員会の結論とはまったく異なるものであり、審査の進め方などに大きな疑問を感ずる。 MIS 9以降、積丹半島南西岸は等速度で隆起していると考えられ、中新統は南西側へ撓曲している。泊原子力発電所は、MIS 9に形成された海成段丘面を掘削して建設されており、撓曲する中新統には複数の層面すべり断層がある。これらの断層が後期更新世に活動していないと断言できる証拠はない。MIS 9以降の一様な隆起運動を考えれば、今後も動きうる断層として評価すべきである。 規制委員会は、南方の岩内平野では中新統~前期更新統の撓曲構造が前期-中期更新統の「岩内層」に覆われており、後期更新世には成長していないとした。しかし、前期-中期更新統の傾斜は、発電所近傍では12~13度であるのに対し南方の岩内平野では3~4度程度であり、岩内平野では変形の程度が小さい。泊原子力発電所直下の構造を、離れた地域で検証することはむつかしい。また、岩内平野の「岩内層」は、前期-中期更新統ではなく、MIS 5eの海成層である可能性が高く、1度程度傾斜している可能性がある。以上を考慮すれば、敷地内の撓曲が活構造であることは否定できず、重要構造物直下にcapable faultが存在する可能性がある。3 規制委員会の評価への批判 規制委員会は、積丹半島の変動地形学的特徴を誤認し、積丹半島西方断層の上盤の敷地内断層の活動性に関しても正しく評価していない。規制委員会は、新規制基準に基づく安全審査を実施しておらず、事業者の調査結果を鵜呑みにして「総合的におおむね妥当」と判断している。審査ガイドに明記された厳格な審査に違背した評価であり、「過去の形式的で杜撰な審査は見直し、事業者よりの専門家が関与した非科学的な審査結果は一掃しなければならない」と批判された、保安院時代のものと同質のものである。すべては、3・11以前に戻った。【文献】北電、2013。20131003_02shiryo_01.pfd。北電、2014、20150529-000108711.pdf。渡辺ほか、2013、活断層学会秋季大会。渡辺・中田、2014、地理学会2014年度春季学術大会。渡辺・鈴木、2015、科学、85。渡辺、2015a、地理学会2015年度秋季学術大会。渡辺、2015b、活断層学会2015年度大会。
著者
北本 朝展
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

IIIF Curation ViewerはIIIF(International Image Interoperability Framework)に準拠した画像ビューアである。IIIFはもともとミュージアムやライブラリにおける高解像度画像の公開に相互運用性をもたらすためのコミュニティ活動から始まった。そして現在までに4つの仕様が公開されており、仕様に準拠したオープンソースソフトウェアも次々に構築されることで、IIIFを活用した画像公開は世界中に広まりつつある。ただしIIIFコミュニティは文化資源に関わる人々が中心となっているため、科学分野における利用例は未だに多いとは言えない。衛星画像や医療画像など、高解像度画像が研究の重要な素材となる割には標準化が進んでいない分野が科学分野にも多いことを考えると、そうした分野へのIIIFの適用にはまだ開拓の余地が大きいと考えられる。そこで我々は、ひまわり8号・9号の高解像度気象衛星画像を例として[1]、科学分野におけるIIIFのニーズと課題の調査を進めている。我々はすでにTimeline APIとCursor APIという拡張仕様を提案し実装した[2]。これは文化資源における「書籍」という概念を衛星画像における「時系列」という概念に拡張するための仕様であり、Timeline APIは時系列のモデル化、Cursor APIは時系列のように要素数が長大な場合の部分アクセスという問題に対する解を提示するものである。さらに、もう一つの拡張仕様であるCuration APIは、様々なIIIFソースからテーマに沿って部分画像を収集する「キュレーション」を実現するための仕様である。これはいわば、部分画像を切り取る「ハサミ」と並べてまとめる「ノリ」の機能を合わせたものであり、文化資源に限らず科学分野においても、様々な文脈による画像の再利用を広げることができる。これらの拡張仕様の開発は、世界の中でも我々の研究グループが先進的に取り組んでいるため、既存のIIIF準拠ソフトウェアでは対応できないという問題がある。そこで我々はIIIFの拡張仕様に対応した画像ビューアであるIIIF Curation Viewer [3]の開発を進めている。これは人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)が推進し、本間淳氏が中心開発者となってアクティブに開発を進めるオープンソースソフトウェアである。このビューアは上記の拡張仕様に関する機能をすべて備えており、拡張仕様の参照実装にもなっている。またCuration APIで作成したキュレーションを保存するJSONストアとなるJSONkeeper [4]も、CODHが推進しTarek Saier氏が中心となって開発が進むオープンソースソフトウェアであり、これらの連携によってIIIF活用のためのソフトウェア基盤も広がりつつある。では気象衛星画像に対してキュレーション機能はどのように活用できるだろうか?第一に研究ツールとしての活用がある。自分が興味のある現象を矩形で囲んで「お気に入り」にブックマークすれば、後から現象を一覧することができるのが利点である。例えばカルマン渦が出現した気象衛星画像だけを集めれば、カルマン渦がどのような状況でどのように出現しているかを一覧でき、個々の場面に詳しいメタデータを付与すれば検索できる機能も将来的には実現する計画である。これによって、キュレーション機能は研究素材集として活用できるようになると考えられる。第二に、気象図鑑としての活用である。著名な現象が発生した日時の気象衛星部分画像をキュレーションに加えていくことで、「名場面集」を中心とした一種の図鑑を構築することができる。これは教育目的には有用な資源となるであろう。さらにこれを静止画だけでなく動画にすることで、時間発展する現象のダイナミクスを把握しやすい「動く図鑑」にすることも可能である。具体的には、Curation API、Timeline API、Cursor APIという3つの拡張仕様とImage APIという標準仕様を駆使し、それらをつなぐ簡単なスクリプトを開発することで、開始フレームと終了フレームをキュレーションに登録すれば、その間を線形補間でつないで動画化するシステムが構築できる。さらにIIIF Curation Viewerの固定幅切り取り機能を活用すれば、この動画を指定の大きさで作成することも可能となる。このように画像アクセスを標準化し、ツールをオープンソースとして組み合わせ可能な形で構築することによって、より複雑な処理もツール群の組み合わせによって簡単に実現可能となることが期待できる。このように相互運用性とオープンなアクセスに基づく画像公開は、衛星画像のような科学分野においてもメリットが大きいと考えており、その一つとしてのIIIFの可能性については今後も研究を進めていく計画である。 参考文献:[1] デジタル台風:次世代気象衛星「ひまわり8号・9号」画像/動画, http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/himawari-3g/[2] IIIFを用いた高品質/高精細の画像公開と利用事例, http://codh.rois.ac.jp/iiif/[3] IIIF Curation Viewer, http://codh.rois.ac.jp/software/iiif-curation-viewer/[4] JSONkeeper, https://github.com/IllDepence/JSONkeeper
著者
横井 祥 小林 颯介 福水 健次 乾 健太郎
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

コロケーション獲得や対話応答選択など,言語表現の間の関連の強さのモデル化は自然言語処理における基本的タスクである.デファクトの共起尺度である自己相互情報量(PMI)は疎なデータに適用すると大きな学習時間が必要となる.本講演では,PMIが「相互情報量へのペア(x,y)の貢献度」と捉えられることと対応付け,新しい共起尺度であるPointwise HSIC(PHSIC)を「カーネル法に基づく依存性尺度HSICへのペア(x,y)の貢献度」として提案する.PHSICは句や文などの疎な言語表現に適用でき,しかも行列計算に基づく高速な推定が可能である.実験では,PHSICを対話の応答文選択タスクに適用し,学習速度が既存尺度に比べ約100倍高速で,かつデータ数が少ないときにも予測精度の劣化が少ないことを示す.
著者
田中 義洋 松本 至巨
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

高等学校の「地理」と「地学」は、従来から取り扱い方が異なるものの、内容の一部が重複している。例えば、地形や気候に関して「地理」では人間生活との関わりを、「地学」では形成過程や原理を中心に扱っているが、明らかに両科目で扱っている内容は重複している。今後、このように重複する部分について、両科目の特性を生かしながらどのように取り扱うべきかを検討する必要があると考えられる。すでに自然環境と防災など共通に取り扱っている内容もあり、生徒が学んだことを将来生かせるように身につけてもらうためには、両科目の教員間の連携・調整が必要である。今回の発表では、現在「地理A」および「地学基礎」を併置している本校において、取り扱う内容をどのように連携・調整しているかを報告し、今後よりよい指導に向けてどのように行っていくべきかを提案したい。