- 著者
-
西谷 大
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.136, pp.267-333, 2007-03-30
本稿は中国雲南省紅河哈尼族彝族自治州の金平県で抽出できた,者米谷グループと金平グループの2つの市グループについての特質を明らかにすることを目的としている。これまで金平県でたつ6日ごとの市の考察から,市を成立させる条件として「余剰生産物の現金化と生活必需品の購入」,「徒歩移動における限界性」,「市ネットワークの存在と商人の介在」,「商品作物の処理機能」,「交易品としての食料と食の楽しみ」,「店舗数(市の規模)と来客数の相関」の6つ条件を提示した。さらに市という場としての特質として「小商いの集合による商品数の創出と多様な選択性」や,「生産物の処理の自由度と技術の分担による製品の分業創出」,「市のもつ遊びの楽しみ」などにも目を向ける必要があると論じてきた。ところが市を者米谷グループと金平グループという2つの地域に分けて考察してみると,者米谷グループの市システムは,生業経済の色合いが濃厚で,地域住民がある程度は市を馴化する,あるいは主体的に利用することが可能であるという性格をもつ。それに対して,金平グループの市システムは,町・都市の論理や移動商人が物資の移動を握り,地域の農民が主体的に市を活用する論理が通用しなくなっている。地域経済の動態を解明するために交易という地域ネットワークに焦点をあてた場合,市が誕生し市システムが発達していくなかで,定期市システムは,ある段階までは地域社会の生業経済を安定的に維持する方向に働き,農民たちの主体的な生業戦略を促進させる。いわば「生業経済に埋め込まれた定期市」といった段階があるのではないか考えられる。一方,各地域の市システムがネットワーク化されていく段階で,市の性格は「市場経済を促進する定期市」へと変化していくのではないかと推測される。