著者
植田 康孝
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.27, pp.35-85, 2017-03

日本は,面積は世界60 位に過ぎないが,人口は世界10位,GDPはいまだ世界3位であり,「大きな力を持つ小さな島国」である。しかし,同じく小さな島国であるニュージーランドと日本の国民生活の質を示す「一人当たり名目GDP」は逆転し,年々その差を拡げつつある。伴い,多くの変化が見られるようになって来た。日本とニュージーランドは対極にあることが分かる。日本が貧しくなっているならば,ニュージーランドは豊かになっている。英国EU離脱や米国トランプ大統領就任が続く中,移民を上手く受け入れ自由貿易を推進するニュージーランドは今や「世界を元気づけ幸福に出来る唯一の例外」である。 ニュージーランドでは,2016年12月,49.5% という高い国民支持率を得ながらジョン・キー首相(1961 年8 月9日生まれ,55 歳)が「今が引き際」と辞任(政界引退)を表明し,副首相兼財務相のビル・イングッシュ氏にその座を禅譲する潔さが話題となった。一方,日本は,東京五輪準備で元首相が影響力を行使するなど,高度経済成長の頃を夢見て,客観的な判断を怠る姿を露呈した。日本の凋落は,幻想に縛られ,時代の転換期に付いて行けなくなっている前世代がもたらす「老害」に他ならない。「21 世紀に生きているのに,20世紀から抜け出せない感覚を抱いている」世代は,若い世代に居心地の悪さを与える。日本の若者は,職業が安定せず年金がもらえない不安があり,賃金も低いまま放置されている世代である。将来に不安があるため,晩婚化が進み社会に少子化をもたらす。民主主義はその参加者により決まるが,わが国が抱える病理は,参加者の大半が高齢者になっている点である。高齢者は自らの世代を最優先に考えて行動するため,年少世代が貧乏くじを引く羽目に陥いる。 2016 年末,テレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ(逃げ恥)」が若者を中心に人気沸騰したが,25 歳大学院修了で働きたい意欲を持つ主人公「森山みくり」(新垣結衣)が派遣切りされ月給19万4,000円で「家事のプロ」を目指さなければならない,「就職難」「晩婚化」という日本の若者が抱える現代事情を反映させたことが,広く「共感」を呼んだ。若者世代は社会や他人から必要とされたいアイデンティティ欲望を強く持つが,高学歴で「できる」若者が,「できない」高齢者の割を食う構図にあり,生き難いと感じる社会になっている。主人公が「ああ,誰にも必要とされないって,つら~い」とため息を付くところから,作品は始まった。 同じく大ヒットした「君の名は。」は,女子高生・三葉(上白石萌音)と男子高校生・瀧(神木隆之介)の「入れ替わり」という超常現象で結び付いた恋愛関係が山深い町に住む人々を100 年に1 度の彗星が近付く巨大災厄から救う大きな力になる。若者世代が活躍する場が狭められている日本において,「社会に役立つ存在になりたい」「他人から必要とされたい」という2つの欲求を同時に成就させる過程が若者世代の心を捉えた。 バブルを知らず大きな災厄のみを体験して来た若者世代は「もう日本は経済成長せず,下り坂を転がり続ける」と感づいており,「日本はどうなってしまうのか」と壮大な不安の只中にいる。東京五輪も無責任な高齢者たちが場当たり的に事を進める茶番を繰り広げ,大手メディアからの「みんなで」応援しようという「同調圧力」は悽まじい。推進するはずであった大手広告代理店は24歳の新入社員を過重労働やサービス残業,セクハラやパワハラで自殺に追い込んだ。SMAP が解散に至るまでの経緯は,若い挑戦者が年長者や既存システムにすり潰されて行く姿を映し出した。新しい時代を築くためには新しい発想が不可欠であり,若者世代が主役となるべきであるが、日本は若者世代が活躍する場が極めて狭い社会となっている。 「老人大国」日本と「若者の国」ニュージーランドでは将来性に大差があり,今後更に格差が拡がる見込みである。
著者
井上 (吉川) 久幸 石井 雅男 河野 健 村田 晶彦
出版者
国際環境研究協会
雑誌
地球環境 (ISSN:1342226X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.153-160, 2004

中部及び西部赤道太平洋において、大気及び表面海水の二酸化炭素分圧の観測を1999年から2003年にかけて実施した。これらの観測は「炭素循環に関するグローバルマッピングとその高度化に関する国際共同研究 海洋表層における炭素フラックスと一次生産に関する研究」(科学技術振興調整費)の一環として海洋地球研究船「みらい」で行った。観測の結果、中部及び西部赤道太平洋の表層は、大きくふたつの海域に分けることが出来た。すなわち西太平洋暖水塊と、その東にある赤道湧昇域である。西太平洋暖水塊では、表面海水の二酸化炭素分圧(pCO2sw)が大気の分圧(pCO2air)に等しいか僅かに高く、栄養塩が枯渇し、低塩分(<34.5)・高温(>28.5℃)である。赤道湧昇域では西から東に向かってpCO2swが溶存無機炭素及び栄養塩濃度と共に増加し、表面水温は減少している。ふたつの海域の境界は、エル・ニーニョやラ・ニーニャ発生により東西に大きく移動する。エル・ニーニョ期に西太平洋暖水塊は東進し、中部及び西部赤道太平洋のpCO2swは減少する。このため2002~2003年のエル・ニーニョ期間中、同海域の大気へのCO2フラックスは大きく減少したことが示された。本研究では更に「みらい」等のデータと米国海洋大気庁太平洋海洋環境研究所(NOAA/PMEL)と大西洋海洋気象研究所(NOAA/AOML)が取得したデータを組み合わせ、赤道太平洋全域における大気へのCO_2フラックスを評価した。赤道太平洋から大気へのCO2フラックスは、1997/98エル・ニーニョ期間中の1998年1~2月に0.1±0.1 PgC/yr、逆にラ・ニーニャ的状況にあった2001年1~2月には0.9±0.4PgC/yrと見積もられた。これは大気中のCO2濃度増加率にしておよそ0.4ppm/yr程度の変動に相当している。
著者
田崎 俊之
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
no.8, pp.105-119, 2009-05-23

現在、日本酒製造の担い手は季節労働者(杜氏や蔵人)から社員技術者へ転換してきている。本稿では、京都市伏見の日本酒メーカーに勤める酒造技術者へのインタビューを通して、彼らがどのようなつながりのなかで技術の習得や継承を行なっているのかを明らかにし、伝統的な杜氏制度と社員体制との間の連続性と変化について検討する。また、分析に際しては実践コミュニティ概念を手がかりとすることで、フォーマルな組織の枠をこえた技術者仲間のつながりを把捉するよう努めた。社員技術者らは、日本酒メーカーの社員であるとともに、技術者たちが形成する企業横断型の実践コミュニティにも参加している。つまり、日本酒製造の担い手が企業に内部化されても、なお企業の内部では完結しない集合的な酒造技術の習得過程が存在している。他方で、社員技術者らの実践は個人的なつながりを基盤とした相互交流へと深化していた。これは、彼らが勤務先である日本酒メーカーをはじめ、技術者の団体やインフォーマル・グループなど複数の所属性をもつことによる。企業横断型の実践コミュニティは日本酒メーカーが当然求めるべき「企業の利益」と産地内での協調という「共同の利益」の両立にせまられており、社員技術者らは相互交流の複数の位相を用いることでこれを可能にしている。
著者
新井 泰弘
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.17-27, 2012-01

本稿では音楽市場における民間機関の著作権保護についてゲーム理論的なフレームワークを構築し,作曲家が楽曲の違法利用を防止するために自発的に著作権協会を組織した場合,社会厚生にどのような影響を与えるか考察を行った.日本音楽著作権協会(JASRAC)が現実に作曲家との間に締結している信託契約を考慮に入れ,作曲家の自発的参加と協会内における利潤分配交渉を含む2段階ゲームを定式化することで次の結論を得ることができる. まず,取締費用がそれほど高くなく,著作権協会に参加する作曲家のパフォーマンスの差が十分大きい場合,著作権協会の存在により社会厚生が増加することが示せる.次に全作曲家が著作権協会に参加するならば,著作権協会が楽曲使用料を統一に設定する方が,著作権者に楽曲利用料を決定させるよりも社会的に望ましい事が示せる.We consider non-governmental copyright protection in a music market in a game theoretical framework. Music composers voluntarily form a non-governmental association to prevent illegal uses of music and to impose music fees collectively. We find that the formation of an association increases social welfare when differences in composers' abilities are sufficiently large. We also show that a uniform pricing rule, as currently employed by the association in Japan, is more desirable from the social point of view than a non-uniform pricing rule whereby members can set music fees individually to maximize their private profits.
著者
大木 文雄 ダールストローム アダム
出版者
北海道教育大学
雑誌
釧路論集 : 北海道教育大学釧路分校研究報告 (ISSN:02878216)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.69-77, 2003-11-30

深潭七郎の『楢山節考』は、典型的に日本的な作品なのであるが、その作品が外国人にも理解され感動を与えることができるかというところから拙論のテーマは発している。筆者はこの小説『楢山節考』を、昨年平成14年度後期から今年平成15年度前期にかけて、北海道教育大学釧路校の外国人留学生のための授業「日本文化論」の教材にも使ってきた。この小説をこの授業の教材に取り上げたそもそもの理由は、勿論この小説が戦後の日本文学を代表する決定的な作品であり、日本文化を勉強しようとしている彼ら外国の学生たちにとってこの小説は最適の教材と思っていたからである。しかしそれと同時に筆者にはもうひとつの期待があった。それは外国の彼らも一体にこの小説にショックを受けるであろうか、そしてこの小説に感動するであろうかという一縷の望みを内に孕んだ密かな期待であった。そしてその期待は実現した。しかしその感動の源泉は一体どこからくるのであろうかというのがこの論文のライトモチーフである。拙論では特にハンガリーの神話学者カール・ケレーニーイ(Karl Kerenyi 1897-1973)の根源神話(Urmythologie)を援用しつつ、ドイツの古代史学者フランツ・アルトハイム(Franz Altheim 1898-1976)の著書『小説亡国論』を分析しながら、この『楢山節考』を比較検討している。スウェーデンのアダム・ダールストローム君は、国費研究生として北海道教育大学釧路校で日本文化を研究してきた。とりわけ彼はこの『楢山節考』に関心を待って筆者の指導を受けた。彼の論文には意味深いものがあると思われるのでここに補遺の形で掲載することにした。
著者
本郷 次雄
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.31-41, 1977

1976年11月10日より11月29日の間, 小笠原諸島の菌類調査を行なったが, そのさいの採集品のうち, 分類学的もしくは生物地理学的に興味深いもの10種をここに報告する。 1) Anthracophyllum nigrita (LEV.) KALCHBR.ネッタイカタハ(新称)だいだい色&acd;かば色, 皮質のヒラタケ型の菌で, ひだの組織はKOH液で青緑色に変わる。熱帯&acd;亜熱帯性. 2) Mycena chlorophos (BERK. & CURT.) SACC.ヤコウタケ熱帯&acd;亜熱帯性の発光菌である. 3) Xeromphalina tenuipes (SCHW.) A.H.SM.ビロウドエノキタケ(新称)ややエノキタケに似るが, 茎だけでなくかさの表面も微毛におおわれる。熱帯&acd;亜熱帯に広く分布。筆者は屋久島でも採集したことがある. 4) Lepiota subtropica HONGOムニンヒナキツネガサ(新種)ナカグロヒメカラカサタケL.praetervisa HONGOなどに近縁の小形種。 5) Ripartitella brasiliensis (SPEG.) SING.ニセキツネノカラカサ(新称)外観はカラカサタケ属Lepiotaに似ているが, 胞子が細かいとげ状突起におおわれる点, ならびにシスチジアがザラミノシメジ型である点はきわめて特徴的である。従来は北米&acd;南米からのみ知られていた種類で, 分布的にも興味深い。熱帯&acd;亜熱帯性。 6) Panaeolus tropicalis OLA'Hアイゾメヒカゲタケ(新称)子実体が帯緑青色に変色すること, および厚膜のシスチジアが存在することがいちじるしい特徴である。近縁のP. cyanescens (BERK. & BR.)SACC.に比し胞子が小形である。広く熱帯に分布. 7) Psathyrella stellatifurfuracea(S. ITO & IMAI) S. ITOキラライタチタケ故伊藤・今井両博士によって小笠原(父島)から記載された菌であるが, 原記載が簡単なためここに英文記載を補足した. 8) Rhodophyllus glutiniceps HONGOアイイッポンシメジ(新種)ウスムラサキイッポンシメジR. madidus (FR.) QUEL.に似るがずっと小形で, かさは粘液におおわれ, 茎は白い。 9) Suillus granulatus (FR.) O. KUNTZEチチアワタケリュウキュウマツとともに持ち込まれたもので, 本来の小笠原の種類ではない。 10) Lactarius akahatsu TANAKAアカハツ前種と同様にリュウキュウマツとともに移入されたものである。L. semisanguifluus HEIM & LECLAIRにきわめて近縁で, もし両者が同一種であることが判明すれば, 学名としては田中氏のものを用いるべきである。
著者
福永 聖子 片山 徹也 庄山 茂子
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.25-34, 2014-05

同一の料理工程画面を用いて、異なるフォントや配置のテロップを作成し、女子大生を対象に可読性やおいしさ感にどのような違いがみられるか検討した。料理名と材料名のテロップを5種類のフォントで組み合わせた25画面の印象では、「可読性」ではゴシック体、「料理に調和している」では行書体と楷書体の画面の評価が高かった。料理画面に「最もふさわしいフォント」では楷書体が選ばれた。このことから、可読性より和食の料理に調和するフォントが重視されたことが明らかとなった。さらに、楷書体を用いて、料理名と材料名の配置を変えた32画面の印象評価では、料理画面に「最もふさわしいテロップの配置」は、左上に料理名、右下に材料名であった。テレビ番組のテロップにおいては、視聴者の視線が左上から右下へ移動していると考えられた。また、テロップを黙読し終える平均時間には32画面間に有意差はみられなかった。
著者
開發 孝次郎
出版者
日本大学
雑誌
日本大学芸術学部紀要 (ISSN:03855910)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.53-68, 2003-07-30