著者
村井 淳 Jun Murai
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.117-135, 2010-03

ロシア革命後、ソヴェト当局は反革命勢力などを弾圧するために、収容所を設けた。その後、ソ連邦が成立すると、白海に浮かぶソロヴェツキー島に本格的な強制労働収容所が建設された。1930年代のスターリン時代には、インフラ整備などで労働力が必要なことから、強制労働収容所とそれを管理運営するグラーグ(収容所管理総局)システムが必要に応じて構築されていった。その切っ掛けを提案したのは、自らも最初は囚人であったフレンケリであった。30年代の大粛清などにより無実の人が逮捕され、新しく建設された強制労働収容所で過酷な無賃労働を強いられた。また、第二次世界大戦期には、ドイツ軍や日本軍などの捕虜も同様の労働を強いられた。その結果、スターリン時代に、数百万もの人々が死亡した。1953年スターリンの死とともに、この強制労働システムは急速に崩壊し、囚人や捕虜は釈放されていった。しかし、これらの強制労働はソ連の産業に貢献したが、長い目で見るとソ連崩壊の一因になった。
著者
山田 嘉徳
雑誌
大阪産業大学論集 人文・社会科学編 (ISSN:18825966)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.1-14, 2017-06-30

本研究は,ラーニング・コモンズにおける学びと活用可能性について,状況的学習論を理論的枠組みとして用いて検討するものである。A大学のラーニング・コモンズをフィールドとし,ラーニング・コモンズという場について調べ考えるという学習活動に取り組んだ65名の学生を対象に,学習活動に使用したワークシートから得られた自由記述文に対して共起ネットワーク分析を施した。結果,【通常教室と異なる場】,【個人・協働学習の場】,【友達同士で集まる場】,【飲み物を楽しみながら授業の宿題に関して相談し合える場】,【気分転換を図りながらリラックスして勉強できる場】,【発表練習ができる場】,【多様な形のコミュニケーションが可能な場】,【その他】の8 つの群が抽出された。得られた群を参照しつつ,文化的透明性概念を手がかりに,ラーニング・コモンズにおける学びと活用可能性について分析的に論じた。またLCの学びを分析する際の視点として,学習者にとっての学習概念の更新を促す「照射」の概念を取り入れることの有効性を論じ,LCの学習論の構築に向けた今後の展望を述べた。
著者
伊藤 純郎
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.147, pp.241-267, 2008-12-25

長野県東筑摩郡『神社誌』は、柳田国男および文部省国民精神文化研究所哲学科助手堀一郎、東京高等師範学校講師和歌森太郎の指導・助言により、東筑摩教育会が昭和一八年度から実施した『東筑摩郡誌別篇』氏神篇編纂事業のなかで作成されたもので、東筑摩郡内の一七一社におよぶ氏子を有する神社である氏神一社ごとに「総記」「神職」「祭」「神社をめぐる氏子生活」「祝殿」の五項目に関する氏子の語りを、東筑摩教育会教員が記録した「神社誌」である。東筑摩郡『神社誌』が平成一八年三月に刊行された国立歴史民俗博物館基幹研究「戦争体験の記録と語りに関する資料論的研究」の『翻刻資料集』二に収録された理由は、『神社誌』が国立歴史民俗博物館基幹研究資料報告書一四『戦争体験の記録と語りに関する資料調査』と同じく「戦争体験の語り」に関する貴重な記録であること、および『神社誌』が戦時下の氏神が果たした機能、戦時下の氏神信仰と祭祀の諸相、氏子制度・隣組・部落会、学校など氏神を支える社会的基盤を考察できる「戦時中に書かれた記録」であることによる。本稿は、右のような問題意識をふまえ、東筑摩郡寿村(現松本市)『神社誌』を対象に、八冊におよぶ寿村『神社誌』の記述を、『戦争体験の記録と語りに関する資料調査』と『神社誌』における話者の語り方の位相に着目しながら、役場・学校所蔵資料などの記録(資料)と語り(記憶)の視点から検討する作業を通じて、『神社誌』の資料論的意義を考察したものである。戦時下の氏神に関する氏子(個人)の語りは、どのようなプロセスをへてムラ(集団)の語りとして記述され、東筑摩郡『神社誌』という記録(資料)に結実したのだろうか。
著者
高島 まり子
出版者
鹿児島女子短期大学
雑誌
鹿児島女子短期大学紀要 = BULLETIN OF KAGOSHIMA WOMEN'S COLLEGE (ISSN:02868970)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.85-95, 2014

英雄の死と再生を描く太陽神話縮図の下半円を C.G. ユングは 「夜の航海」 1 (night sea journey) と呼び, 自我が無意識の深みに下降し, 死を経た後に無意識から新たな心的エネルギーを供給されて意識面に再生するまでの精神的再生過程を象徴する元型と考えた. この過程は意識と無意識の統合を目指し, 様々なイニシエーションに死と再生の儀式として組込まれてもいる. 筆者は1850年刊行のナサニエル・ホーソーン作 『緋文字』 にこの元型的過程を見出したが 2, 時空を超えた2000年のデンマーク映画 『ダンサー・イン・ザ・ダーク』 3 にそれを見出し, その意味と 『緋文字』 との関連性を同年に論じた 4 (以後, これを拙論<Ⅰ>と記す.). ところが, 2001年に公開されて当時の我が国の映画史上最高の2,340万人もの観客動員を記録し, 2002年ベルリン国際映画祭最高賞の 「金熊賞」 と2003年米国アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した宮崎駿監督作品 『千と千尋の神隠し』 (以下, 『千尋』 と表記する) が, 全編これ 「夜の航海」 と言ってもよい内容であることは, 日本を舞台に日本人を描いた作品であるだけに一層嬉しい発見であった. あらすじを述べ, 『緋文字』 と比較しつつヒロインの 「夜の航海」 をり, ホーソーン的な意識と無意識の統合過程が現代の我々にとって持つ意味を再考してみたい.
著者
森山 貴史 佐々木 全 MORIYAMA Takashi SASAKI Zen
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 = The Journal of the Clinical Research Center for Child Development and Educational Practices (ISSN:24329231)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.21-29, 2018-03-31

個別の指導計画の作成要領及び作成支援の方法として,「後方視的対話」がある.これは,教師が自らの実践を振り返り,自らの意図や児童生徒の活動の様子などを対話と協働をもって想起し,明示化するものである.また「後方視的対話」は個別の指導計画の作成という実務に資する他にも,個別の指導計画の作成に不慣れな,あるいは初学者に対する On the Job Training またはOff the Job Training(実務場面を離れて行う研修)として,他の活用事例が示されており,その活用においては汎用性が期待される.本稿では,「後方視的対話」の活用事例として,日常の指導記録への活用事例と,指導内容の振り返りによる自己研修への活用事例の二つを報告した.これらは,自己内対話による実施であり「後方視的対話」の新たな実施形態のレパートリーであるといえた.
著者
佐々木 全 SASAKI Zen
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 = The Journal of the Clinical Research Center for Child Development and Educational Practices (ISSN:24329231)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1-10, 2018-03-31

本稿では、発達障害のある児者を対象としたタグラグビーの活動における支援方法に関して,実践場面で開発された具体的な内容とその効果の一端を明らかにすることを目的とした。 そのために本活動の活動実施記録を収集した。ここから参加者の活動の様子と支援の意図や支援の効果の記述を照合し支援方法として抽出し,逸話として記述した。また、ここでは支援方法としてのゲーム全体の流れ(「ゲームプラン」)とその中にある局面における戦術(「局面的戦術」)に着目し、ある参加者を事例としてその逸話を報告した。 戦術をもって支援したことによって参加者のプレーの習熟があった。このことは,タグラグビーの文脈に即した支援の形式であり,障害特性に基づく支援というよりも,参加者のプレーヤーとしての適性や志向,そして心的過程に基づく「ナチュラルサポート」といえた。今後,支援方法の効果について,多角的に検証される必要がある。
著者
今西 良輔
出版者
北海道医療大学看護福祉学部学会
雑誌
北海道医療大学看護福祉学部学会誌 = Journal of School of Nursing and social Services, Health Sciences University of Hokkaido (ISSN:13498967)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.27-34, 2013-03-31

本研究は,発達障害児を家庭の中で育児する父親が,子どもに向き合う中でどのような経験を積み上げているのかを明らかにすることを目的とした.研究結果より『子どもへ関わりたいが上手くいかない良くわからない』『育児は母親頼りから,父親なりに協力していく』『障害はよくわからないが,ありのまま受ける』『仕事重視の生活に葛藤し,調整を図る』『父親自身の模索と変化』『仲間や信頼できる人との出会い」『子どもを社会に出したい』『子どもの将来が不安になる』の8つの体験が導かれた.父親は,育児姿勢の変化だけでなく,父親自身を柔軟的に変化させ成長していた.父親は,自ら子どもに関わろうと努力もしているが上手くいかない.家庭に関わる時間が乏しいため子どもに違和感を感じたとしても具体的かつ深刻な状態を直接目にすることが難しい.父親自身が発達障害について理解しやすい体験やきっかけを求めているのではないかと考えられた.