著者
栄原 永遠男
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.192, pp.13-25, 2014-12-24

正倉院文書に関する研究は,写経所文書の研究を中心とすべきである。そのための前提として,接続情報に基づいて,断簡の接続を確認し,奈良時代の帳簿や文書を復原する必要がある。「東大寺写経所解」を例とすると,これは9断簡からなっている。『大日本古文書(編年)』の断簡配列は,その根拠があいまいで,誤りを含んでいる。接続情報に基づいて断簡を配列し直すことにより,これが天平19年12月15日付の文書であることを,かなりの確率で言うことができる。そうすると,この文書は「東大寺」に関する最古の史料であることになる。国家仏教の中心寺院として東大寺が位置付けられた画期を示しており,重要である。個別写経事業研究は,断簡の集合体である写経所文書を写経事業ごとに仕分ける意味を持つが,一方で,独自の意義を有している。その例として注陀羅尼4000巻の写経事業に注目する。これは,天平17年8~9月ごろに始まったと推定される。この推定が妥当であるとすると,この写経事業は,聖武天皇の病気平癒祈願として行われたと推定できることになる。そのころすでに宮中で密教的な修法が行われていたことを示す。個別写経事業研究は,奈良時代の仏教,仏教と政治との関係などの研究に資するところが大きい。
著者
川村 ハツエ
出版者
日本英学史学会
雑誌
英学史研究 (ISSN:03869490)
巻号頁・発行日
vol.1994, no.26, pp.1-16, 1993

It was in 1888 that<I>THE OLD BAMBOO-HEWER'S STORY</I> (Taketorimonogatari) was translated into English for the first time and published in London by F. V. Dickins. Eight years later, in 1906, he revised it completely and included it in his<I>PRIMITIVE & MEDIAEVAL JAPANESE TEXTS</I>. In the preface he wrote, &ldquo;I desire here to acknowledge my great indebtedness to the writings of Dr. Aston, Prof. B. H. Chamberlain, Dr. Karl Florenz and Sir Ernest Satow : to my friend, Mr. Minakata Kumagusu.&rdquo; <BR>Kumagusu stayed in London from 1892 to 1900. During his stay, he met F. V. Dickins, then registrar of University of London. According to Kumagusu's diary, Dickins showed him his translation of<I>TAKETORIMONOGATARI</I>and asked for his opinion. On reading it, Kumagusu criticised it severely from his point of view as a Japanese. The diary says Dickins got very angry, because he was proud of his rendering. However, Dickins accepted Kumagusu's helpful advice. It took him eight years to revise it thoroughly. This shows that Dickins was fascinated by the story of Kaguyahime, simple, graceful and genuinely Japanese.
著者
松本,憲一
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, 1997-11-20
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1383, pp.66-69, 2007-03-19

匿名を条件に会ってくれた、その男は約束の1時間を過ぎてもしゃべり続けた。オールバックに撫でつけた髪をポマードで固め、スーツはダブル。年の頃は50代後半か。 交渉事の世界を長年渡ってきた知恵がそうさせたのだろう。風貌だけで初対面の相手を縮ませる術を心得ている。だが、この時は思いのほかに饒舌だった。 この男、ファンド経営者である。それも極めつき。
著者
澤山 英太郎 高木 基裕
出版者
水産増殖談話会
雑誌
水産増殖 = The aquiculture (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.441-446, 2010-12-20
参考文献数
22
被引用文献数
3

種苗生産場で生じたヒラメの逆位個体について,マイクロサテライト DNA マーカーを用いた遺伝的多様度の解析および DNA 親子鑑定により,発生要因の推定を行った。種苗生産には17個体の親魚を用い,96日齢時に正常個体52個体と逆位個体49個体を得た。ヘテロ接合体(観察値,期待値,観察値/期待値)およびアリル頻度において,正常個体群と逆位個体群で違いは見られなかった。マイクロサテライトマーカー座の多型により全ての親子関係を判別できた。親子鑑定の結果から,正常個体は7個体のメス親魚と5個体のオス親魚からなる14組から生じていることが分かり,また逆位個体は7個体のメス親魚と7個体のオス親魚からなる18組から生じていることが分かった。1個体のメス親魚は他の親魚よりも高い割合で逆位個体を産んでいることがわかった。以上の結果から,本異常の発生要因は後天的な影響が強いものの,一部のメス親魚は遺伝的もしくは他の母性要因により逆位個体を産生していることが示唆された。
著者
堤 修郎
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.537-545, 1981-12-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
26
被引用文献数
2

乳臼歯隣接面齲蝕は,その発見が困難であるばかりでなく,進行が速やかなため小児歯科臨床上重大な諸問題を生じさせる。したがって,乳臼歯隣接面齲蝕の抑制は,小児歯科臨床上重要な課題である。そこで著者は,乳歯齲蝕の進行抑制剤として本邦で臨床的に広く使用されているAg-(NH3)2Fに注目し,本薬剤による乳臼歯隣接面齲蝕の抑制効果を検討した。臨床試験対象者は,左右側乳臼歯隣接面が共に健全なものおよびエナメル質に限局した蝕を有する3歳-5歳の小児58名である。乳臼歯隣接面の一方に,Ag(NH3)2Fをデンタルフロスを用いて3分間,3カ月間隔で塗布し実験側とした。他側は,3カ月間隔のフロッシングのみとし,対照側とした。初診時より6 カ月間隔で視診, 触診および咬翼法によるX 線診を行い, 齲蝕の程度を判定した。18カ月間の観察結果,Ag(NH3)2F塗布側における齲蝕の発生は,対照側より有意に抑制されており,また,エナメル質齲蝕から象牙質齲蝕への進行も有意に抑制されていた。以上の結果から,Ag(NH3)2Fを乳臼歯隣接面へ局所塗布することにより,同部の齲蝕予防とエナメル質齲蝕から象牙質齲蝕への進行拡大を効果的に抑制出来ることが示唆された。
著者
鈴木 哲 松井 岳巳 安斉 俊久 孫 光鎬 菅野 康夫
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では,マイクロ波を用いた完全な非接触での生体計測手法を応用し,血圧変動を推定する手法の確立を目指すことを目的とした.手法の有効性の確認のための,①推定法の理論的検討,②システムの試作,③実験室内における試作したシステムの評価実験,を実施した.さらに,臨床的知見の蓄積とシステムの問題点の確認のため,④医療現場における心不全患者へ適用した実証実験,の4点の実施を目標とした.結果として,理論構築およびシステム試作,さらに評価実験を行い,ある程度良好な結果を得た.一方で,臨床的知見の蓄積のための調査については,安全性と精度に課題があったため十分な実施が出来ず見送る結果となった.