- 著者
-
立見 淳哉
- 出版者
- 一般社団法人 人文地理学会
- 雑誌
- 人文地理 (ISSN:00187216)
- 巻号頁・発行日
- vol.70, no.1, pp.25-48, 2018 (Released:2018-04-02)
- 参考文献数
- 69
本稿では,パリのファッション産業を事例に,価値づけの仕組みと大都市集積の役割を明らかにした。パリのファッション産業は,知識創造など非物質的労働と衣服の製造に伴う物質的労働,ネットワークと結合が典型的に見出される事例であり,またパリという空間の中で複雑な価値づけの仕組みを有している。すなわち,フォーマル/インフォーマルな制度・慣行・媒介者の存在,膨大なコモン,出会いとネットワーク構築を通じた知識・情報の相互移転,買い手とのマッチングを媒介するショー・展示会・小売店舗,そしてそれらが立地する場所といったものである。これらの雑多な諸要素が,パリの中で分散しつつも,それぞれの市場の価値づけ活動の中で結合し配置されることで,価値づけの装置として機能しているのである。ミリュー論をはじめとして,これまでの集積研究が,コーディネーション問題の解決と集団学習の基盤となる「領域化された制度・慣行」として産業集積地域を捉えてきたのに対して,産業集積あるいはミリューは「領域化されたコーディネーションと価値づけの装置」として捉えられることを示した。