著者
髙橋 悠太 廣瀬 茂輝 佐藤 優太郎 中村 克朗
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.16-21, 2020-01-05 (Released:2020-07-13)
参考文献数
7

約138億年前,宇宙はビッグバンにより始まった.その後,宇宙膨張に伴ってエネルギー密度すなわち温度は下がっていき,現在の宇宙は2.7 K(~10-4 eV)まで冷えている.この極低温宇宙に住む私たちが,まだ灼熱だった頃の宇宙について理解するには,粒子加速器を使って宇宙初期の状況を再現し,万物の「素」となる素粒子の性質や相互作用について調べることが重要となる.得られた知見は素粒子標準理論としてまとめられ,宇宙開闢からおよそ10-10秒後,温度にして1,000兆度(~100 GeV)までさかのぼって宇宙の歴史を理解するに至った.ところが,ニュートリノ振動や暗黒物質の存在など,標準理論では説明できない事象も多く,標準理論は低いエネルギー領域での近似理論であって,より高いエネルギー領域には未知の物理法則が存在するという見方が確実視されている.この新物理の尻尾をつかむことが,我々素粒子物理学者に課された使命である.新物理の探索手法には様々あるが,有力なものとしてB中間子を使う手法がある.B中間子は加速器で大量に生成可能であり,多様な崩壊過程を精密測定することで多角的な新物理検証が可能となる.たとえばm=1 TeVの質量をもった未知の粒子が存在したとしよう.するとB中間子の崩壊において,Δt~ħ /m=10-27秒の間だけ仮想的に存在することができる.もしB中間子が,この仮想状態を経由して特定の崩壊をすると,B中間子の崩壊パターンが僅かに標準理論からずれるはずで,これを検出しようというわけである.興味深いことに,近年,B中間子のいくつかの崩壊パターンで標準理論からの系統的な差異が報告され,“Bアノマリー”と呼ばれている.中でも特に注目したいのが,レプトンフレーバー普遍性の破れに関するものである.日本のBelle実験をはじめとするB中間子の精密測定において,B中間子が異なるフレーバーに崩壊するパターンを詳しく調べてみると,3σ以上の統計的有意度で標準理論の予想値とは異なる結果が得られた.これは,レプトンフレーバー普遍性を破る新物理の存在を強く示唆している.Bアノマリーが新物理によって引き起こされているとすれば,その大きさや性質からO(1)TeVのレプトクォークが新粒子として有力視される.これを受けて,世界最高の衝突エネルギー13 TeVを誇る陽子陽子衝突型加速器LHCを利用したATLASおよびCMS実験にて,新粒子を直接生成し,探索する試みが進められている.両実験におけるレプトクォーク探索は,現状でおよそ1 TeVの質量領域に到達している.まだ直接観測には至ってはいないものの,Bアノマリーから予言される新物理のエネルギー領域に手が届きつつある.以上のように,Bアノマリーに関する実験的研究は,B中間子崩壊の精密測定による“間接探索”と世界最高エネルギーの加速器を用いた“直接探索”の両輪によって,近年急速に進展してきた.今後,Belle実験から測定精度を大きく向上させたBelle II実験や,LHC加速器を用いて行われているLHCb実験とでBアノマリーの検証を継続していく.またATLASやCMS実験でも加速器性能の向上により感度が良くなっていく.今後10年内に,Bアノマリーの是非に対して,決着がつくだろう.
著者
池川 秀彦
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.95-98, 2009-01-22
被引用文献数
2

フジテレビでは、低遅延と高画質を両立させたワイヤレスカメラの開発を進めています。カメラに着脱可能なコンパクトサイズの超低遅延HDエンコーダ「HD c3000e」を開発し、ゴルフ中継を始めとするスポーツ中継や、音楽番組の制作で実際に導入した事例を中心に紹介致します。また、2chバルク伝送を可能にする小型TSデバイダを開発することにより、圧縮符号化劣化が顕著な音楽番組でも運用可能な高画質伝送システムを検討しており、その概要を報告します。
著者
飛田 範夫
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.56-67, 1998-08-31 (Released:2011-07-19)
参考文献数
50
被引用文献数
1 1

庭園植栽は日本に庭園が誕生する以前の, 人間と植物との長い歴史が存在していたから可能になったといえる。旧石器時代から樹木の幹・枝は薪, 果実は食料となり, 縄文時代には樹木の管理栽培が開始され, 弥生時代には稲作・畑作や果樹栽培がなされている。古墳時代には薬草栽培・植林も行われていたであろう。こうした植物に対しての長い間の知識が, 庭園植栽に応用されたわけである。飛鳥・奈良時代の海洋風景式庭園にはマツが多く植えられ, シダレヤナギ・ウメ・モモなどが愛好されている背景には。中国文化の影響がある。また, 中国本草学の影響を受けて薬草栽培が盛んに行われ, 薬用植物が次第に庭園に利用されるようになったことも見逃せない
著者
奥村 太朗 加藤木 丈英 小谷 俊明 川合 慶 白井 智裕 赤澤 努 佐久間 毅 南 昌平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0528, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】思春期特発性側弯症(以下:AIS)は思春期に誘因なく発症する側弯症である。運動が盛んに行われる時期に進行し,不良例は手術に至る。脊柱の側弯が運動能力に及ぼす影響はほとんど明らかにされておらず,AIS患者と健常者の運動能力差に関しても明らかになっていない。そこで本研究の目的は,新体力テスト結果を用い健常者と比較し,AIS患者の運動能力を明らかにすることである。【方法】対象者はAIS患者17例(男性2例,女性15例),手術時平均年齢14.5±1.6歳とした。全例胸椎右凸カーブで,平均Cobb角は53.3±9.6であった。検討項目は,手術前の新体力テストの種目別記録(上体起こし,長座体前屈,反復横跳び,20mシャトルラン,50m走,立ち幅跳び,ハンドボール投げ,握力)と総合得点とし,文部科学省の発表する同年代の健常者標準値と比較した。なお種目別記録は年齢別平均値より偏差値を算出し正規化した。統計処理は,AIS患者と健常者における各種目別の偏差値と総合得点を対応のないt検定で比較し,有意水準を5%以下とした。【結果】AIS患者の新体力テストの種目別記録において,上体起こし41.6±10.2(p=0.005),長座体前屈44.7±8.9(p=0.03),ハンドボール投げ42.6±7.4(p=0.001),総合評価45.1±5.4(p=0.002)で健常者と比較し有意に低下していた。【考察】本研究により筋持久力を表す上体起こし,柔軟性を表す長座体前屈,巧緻性を表すハンドボール投げが健常者と比較し有意に低下していた。上体起こしは,AIS患者はCobb角の進行を抑えるために長期間のコルセット着用が義務付けられる。コルセットは体幹を前後左右から締め付けて体幹を支持する。その影響により体幹の可動性が減少し,腹筋群や背筋群などの体幹筋力の低下を惹起すると考える。さらに,Cobb角の進行とともに体幹筋力が低下するという報告もあり,双方の関与が示唆される。長座体前屈は,長期間のコルセット着用により胸椎・腰椎の可動性が制限されたことも原因の一つであると考える。また,側弯症は脊柱が捻じれを伴いながら曲がっていく疾患であり,傍脊柱起立筋にも左右差が出現するという報告があり,筋の伸張性の左右差や椎間関節の左右の可動性の違いの関与も示唆される。ハンドボール投げは,凹側に比べて凸側の肩関節に不安定性が強く,肩甲胸郭関節の動きが制限されるとの報告があり,その関与が示唆される。また,小学校時代からコルセット療法が開始されている患者も多く,ボールを投げる等の運動経験自体が少ない可能性も示唆される。さらに,総合得点が有意に低下していることから,AIS患者は同年代の健常者よりも総合的に運動能力が劣っていることが明らかとなった。この結果は脊柱側弯が運動能力に何らかの影響を与えている可能性を示唆させるものであった。しかし,今回は運動部所属の有無や運動習慣歴などを考慮しておらず,AIS患者の日常生活と運動能力との関係性を明らかに出来ないことは,本研究の限界であると考える。【理学療法学研究としての意義】AIS患者は健常者より運動能力が劣っており,脊柱側弯が運動能力に少なからず影響していることが示唆された。この時期の運動能力低下は,今後成人を迎えていくAIS患者のライフスタイルに大きく影響する可能性がある。側弯症を有していても高いレベルの競技者も大きくいるため,AIS患者の運動に対する意識を高めて運動を推奨していく必要があると考える。