- 著者
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立見 淳哉
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
- 巻号頁・発行日
- vol.88, no.1, pp.1-24, 2015-01-01 (Released:2019-10-05)
- 参考文献数
- 54
- 被引用文献数
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本稿は,フランスのショレ・アパレル縫製産地が,1990年代以降のアパレル製造業の劇的衰退の中で高級品ブランドの下請生産へとシフトして生き残りを図ることができた要因を,制度・慣行概念を手掛かりに明らかにした.市場と高級品ブランド企業の戦略変化に適応する産地企業の能力は,以下の3点から理解することができる.第1に,高級ブランド企業とショレ産地の生産者の「生産の世界」が相互に接近し,「品質の慣行」の共有によって取引の調整がなされた(「可能世界」の親和性).第2に,パリとの地理的近接性や賃金水準などの諸条件に加えて,地域主義的なメンタリティや協調的な労使関係などの地域的な諸慣行が,産地企業の技術力と産地内協力を可能にした(諸慣行の構築).第3に,それらの諸慣行はそれぞれ単独で機能するのではなく,相互に補完し合い,一つのシステムとしてショレ産地の発展を維持していたといえる(制度補完性).