- 著者
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大島 埴生
飯田 淳子
長崎 和則
- 雑誌
- 川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
- 巻号頁・発行日
- vol.27, no.2-1, pp.247-258, 2018
本稿は,中途障害者の生活の再編成に関する先行研究を検討したものである.先行研究は,(1)直 接的な援助を想定した援助志向の研究と,(2)当事者の生活をありのままに理解しようとする,当事 者の生活に焦点を当てた研究,(3)両者のいずれにも属さない,障害と社会の関係を問う社会モデル に基づく研究に大別された.さらに,援助志向の研究は医学モデルと生活モデルに基づく研究があっ た.医学モデルに基づく研究は中途障害者の生活の再編成を個人の問題として,生活モデルに基づく 研究は個人と環境を含めた問題として,そして社会モデルに基づく研究は社会の問題として捉えてい る.当事者の生活に焦点を当てた研究は,インペアメントに伴う体験に関する研究と個人史に着目し た研究があり,前者は短期的な生活を,後者は中長期的な人生を扱う傾向がある.これらの先行研究 の課題としては,第一に一部の中途障害の研究で社会モデルの観点がほとんど採用されていない点, 第二に研究対象者が豊富な語りをもつ人に限定されている点,第三に短期的な生活と中長期的な人生 の関係性が捉えにくい点がある.今後はこれらの課題を踏まえ,語りの聴き取りのみならず,生活の 観察も行うことにより,従来の研究の俎上に上がってこない人々の体験を,社会的状況と人生史の文 脈のなかで考察し,中途障害者の生活の再編成過程を描写していくような研究が求められる.