著者
伊藤 毅志 松原 仁 ライエル グリンベルゲン
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.1481-1492, 2004-05-15

人間の問題解決の認知過程については数多くの研究が行われてきた.ゲームやゲーム理論は昔から人間の問題解決行動の研究において重要な役割を果たしてきた.なかでもチェスを題材にした認知科学的研究では,エキスパートのプレーヤは,記憶課題において非常に卓越した認識能力を示した.Simon とChase は,このエキスパートの優れた記憶能力をチャンクという概念を用いて説明した.本論文では,将棋を題材に次の一手問題を様々な棋力の被験者に提示して,指し手を決定するまでの思考過程を発話プロトコルとアイカメラデータとして記録する実験を行った.その結果,将棋の上級者以上のプレーヤでは,単に局面に対する駒の配置に関する知識が形成されるだけでなく,局面をその前後関係からとらえられる知識が獲得されることが分かってきた.また,従来の研究から,チェスの上級者では,必ずしも強くなるにつれて量において多く先読みをしないことが知られていたが,将棋では上級者になるにつれ,深く大量に先読みすることが分かった.これらの結果は,従来のチェスの研究で見られたような「空間的チャンク」だけでなく,時間的な前後関係を含んだ「時間的チャンク」の存在の可能性を示唆している.
著者
鬼頭 葉子
出版者
長野工業高等専門学校
雑誌
長野工業高等専門学校紀要 = Memoirs of Nagano National College of Technology (ISSN:18829155)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.1-6, 2016-06-30

This paper explores the intersection of animal ethics with European and American feminism. Feminist theory and activism tried to liberate women and animals from oppression. The feminist care tradition in ethics developed as an alternative to the rights-based theory of justice. A caring approach is useful in animal ethics. Feminist caring ethics aims to have a compassionate insight directed toward compassionate action. This feminist theory has culture-contextual advantage. However, it is doubtful whether feminist theory involves universal and inclusive compassion toward enemies, wildlife, and destructive animals.
著者
櫻井 勇良
出版者
湘南工科大学
雑誌
湘南工科大学紀要 = Memoirs of Shonan Institute of Technology (ISSN:09192549)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.1-5, 2011-03-31

In this paper, we describe light emission from electric stimulation of TAKUAN which isrepresentative of the pickled Japanese radish. As a result of experiments on various pickled radish we confirmed that strong light emission appeared in TAKUAN. Steam, along with a peculiar smell isobserved when alternating current or direct current voltage is gradually applied in TAKUAN. The light emission, which is accompanied by a discharge phenomenon within the TAKUAN that is in contact with the electrode, appears after the generation of the steam. We conclude that flame reaction is associated with this light emission because black powder was formed after the light emission. This light emission was observed in the vicinity of the electrode and soon after the steam ends regardless of type of power supply and polarity. The emission process appears quickly after the generation of steam stops.
著者
斉藤 博
雑誌
埼玉医科大学進学課程紀要
巻号頁・発行日
vol.8, pp.15-25, 2000-03-31

アテネの疫病は, トゥキュディデスの『戦史』2巻には記載されているが, 『ヒポクラテス全集』(『全集』)には記載されていない.アテネの疫病は, 出血性, 発熱性ウイルス性感染症であるマールブルグ病, エボラ熱, 或いは, その類似疾患と考えられる.『戦史』と『全集』の色彩表現は関連性があったと推測される.『戦史』の3巻以降には色彩表現は殆ど認められないが, トゥキュディデスが疫病に罹り, その合併症であるブドウ膜炎による後天性色覚異常になったためと推測される.ヒポクラテスの生年をBC 460年頃とすると, アテネの疫病はBC 430年であるから, 彼は当時30歳代と推測される.『全集』にはアテネの疫病の記載がないが, ヒポクラテスがアテネの疫病に関与しなかったか, 或いは, 後に記載が脱落したかは不明である.
著者
土谷 隆
出版者
GRIPS Policy Research Center
雑誌
GRIPS Discussion Papers
巻号頁・発行日
vol.20-04, 2020-05

1. 本研究では,東京都,大阪府,神奈川県の3自治体を取り上げ,簡単な感染症数理モデルをあてはめて種々のデータと整合性のある形で新型コロナウイルス感染症の感染実態を説明することを試みた.項目4から8がモデルによる解析の主たる結果である.2. 解析に用いるモデルはSIRモデルの単純な一変種で,未感染者・感染者・免疫保持者の割合の時間的変化を記述する.感染者は感染後一定期間(15日間) は他人に感染させる力があり,その後免疫保持者となる.感染者が感染力を持つ期間の感染力は(感染力パラメータβ) × (その時点での未感染者率) である.自粛や緊急事態宣言等の影響を,βの日毎の変化としてモデル化した.モデル自身はその考え方も記述も高等学校の数学の範疇で理解できるものである.3. 解析に用いたデータは下記の通りである.(a) 各自治体によって発表されている日ごとのPCR検査の陽性者数,(b) 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策専門家会議より2020年5月1日に発表された,東京都における日ごとの発症数(のグラフ),(c) 東京大学(2020年5月15日プレスリリース) と大阪市立大学(2020年5月1日プレスリリース) から発表された抗体検査の結果.4. 本感染症の実際の新規感染者数は,各自治体が把握している新規陽性者数の20倍程度はいる可能性があることが判明した.おそらくはこれらの感染者は,罹患中は感染源となるにもかかわらず,本人自身は未発症かごく軽症に終わり,自治体がその実態,感染プロセスを遅滞なく把握することは困難であると考えられる.仮に,発症者よりも感染力が弱いとしても,これらの未把握感染者は人数的には発症者の20倍程度おり,自由に活動し続けるため,感染が拡大していく上で主要な役割を果たしている可能性もある.したがって,ウイルス根絶のためには,行政が把握している新規陽性者が0となっただけでは不十分で,その状態をそれなりの期間継続する必要がある.5. 東京都において,5月25日に緊急事態宣言の解除が行われた.仮に3週間前後かけて3月26日以前のレベルの社会・経済活動に戻し,そのまま活動を続けると,7月上旬から中旬には感染者が急増する.さらに,仮に,それをそのまま放置すると,10月中旬にピークを迎える大流行となり,12月初旬には収束する.都民の88%が罹患し,36万人が発症し,7万2千人が重症化する.ピーク時には(現在の行政的意味で)1万7千人強の陽性者が1日に発生すると予測される.(これは,あくまでモデルによる試算である.実際には,今回すでに行われたような適切な活動制限・自粛を行うことによって回避可能である.西浦による4月15日の全国についての予測とオーダー的には合致している.)6. 直近の戦略について述べると,6月30日まで緊急事態宣言解除を延期して,その後比較的早く3月下旬のレベルまで社会活動を戻す方が,現行の解除戦略よりも,第2波が起こるまでにより長期間の活動が可能となるだけではなく,クラスター対策がより有効なレベルまでウイルス感染者が減少しうる点で,活動制限延長の損失を補って社会的には利得が大きいと考える.現行の戦略は,ウイルスが減少しきっていないうちに社会・経済活動を戻すため,最悪の場合には6月中に感染者が再増加し,再び行動制限や自粛をしなくてはいけなくなる可能性がある.7. 現行のシステムにおいても,ウイルス感染拡大を抑えるという立場だけからだけであれば,社会・経済活動を2ヶ月の活動期間と3ヶ月の活動制限期間を繰り返す形で,最大1日100人程度の(行政的意味での) 陽性者発生に抑え,周期的に持続していくことは可能であると思われる.(過去4ヶ月の内2月,3月を活動期間,4月,5月を活動制限期間として,仮にさらにもう一月,ウイルス感染鎮静化のため,6月までを活動制限期間としてみれば良い.) ただし,これでは経済的に持続可能とは限らないので,いろいろな工夫をして,3ヶ月の活動期間と1-2ヶ月の活動制限期間を繰り返す形にできるようにすることが,まずは,一つの現実的社会的目標として考えられる.8. 大規模な抗体検査,PCR検査, ICTの活用等,ウイルスの感染実態をつかむ継続的なサーベランスによる予測精度向上と社会全体での情報共有が重要である.9. なお,筆者は統計数理や数理工学の研究者ではあるが,感染症の数理モデルの専門家ではない.流行の態様と行く末を定量的に理解することを目的として,公開されているデータと素朴な数理モデルのみを利用して何ができるか,非力ながらも自分なりに真剣に考えてまとめたものが本小論である.モデルの帰結として若干の予測なども行っているが,これを読まれる方は,書かれている予測結果を鵜呑みにすることはせず,自身の責任で,検討材料の一つとしていただければ幸いである.モデルの検証に必要なことはすべて小論内に書かれている.なお,本小論の結果や考察はあくまで筆者個人の意見として発信されるものであり,筆者の所属大学の公式見解とは無関係である.
著者
岡部 寿男 中沢 実
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.548-551, 2020-05-15

情報処理学会では2020年3月情報処理学会では,新型コロナウィルス感染症への対策として,第82回全国大会の現地開催を中止し,一般・学生セッションについてオンライン開催を行った.本稿では,急遽オンライン開催を決定した経緯と運営の考え方,当日の状況について報告する.