著者
西村 慎太郎
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要 = The Bulletin of The National Institure of Japanese Literature Archival Studies (ISSN:18802249)
巻号頁・発行日
no.07, pp.1-16, 2011-03-18

本稿では、天明8年(1788)に発生した天明の大火における朝廷や公家を事例として、罹災を通じた記録資料の意識と再生について検討した。近世の朝廷では記録資料の組織的な管理は行なっていない。それは構成員である天皇・公家の身分的安定のためであると考えられる。天皇・公家は排他的な血と知の継承のためには、合理的に朝廷運営・朝廷儀式を進めるためのツールとして、公日記などの記録資料が作成されることは極端に忌避していた。むしろ、個々の家で業務に関する日記を蓄積していった。そして、天明の大火に罹災した公家の事例として、高橋宗孝を事例として掲げた。高橋家には多くの記録資料や蔵書があり、目録が作られ、管理されていた。記録資料を保管するアーカイブズとして、「記録蔵」と称された土蔵があった。しかし、大火を防ぐことはできず、灰燼に帰した記録資料を目の当たりにし、愕然とした心情を吐露している。失われた資料を再生するため、宗孝は業務に不可欠な記録資料を早々に借用している。これは地下官人として円滑に業務を進めようとするためだ。さらに、大火直後、大金の書籍を購入している。おそらく、焼失した善本の回復を行なおうとする意識であろう。但し、自身の書写や購入だけでは間に合わず、「雇筆」による書籍のコピーが行なわれた。「雇筆」による書写は身分的安定を脅かすことにも成りかねないため、刊行されているものに限定されたものと思われる。The Imperial court in the early modern Japan did not manage their records systematically. Journals in which noble's business or rituals have recorded were stored in their individual houses.For example, Takahashi family, a court noble which fell victim to the fire, held, listed and managed massive records and books. They stored their documents in the repository called "storehouse of records" (kiroku gura).Munetaka Takahashi borrowed records indispensable in his duties soon after the fire in order to restore the lost documents and to continue business as a low-ranked officer. He also bought expensive books around the same time. It seems to be based on his desire for restoring treasured collection burnt down in the fire. He duplicated books by employing transcribers (yatoi fude) in order to complement books bought and transcribed by him.
著者
竹村 英二
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究
巻号頁・発行日
vol.46, pp.101-123, 2012-09-28

近代日本の知識層の「知的基盤」「“隠然たる”知的習慣」の醸成要素として、江戸中~後期の儒学/漢学教育があったことを指摘する研究は、とくに教育史、思想史、そして文学研究に存在する。しかし、儒学/漢学教育の何が、ドのような能力を鍛錬・醸成し得たかについて、史料が語る教育事実の具体的様相の呈示をもって実証し、その上でしかるべき理論・知見をもって読み解く研究は少ない。本稿ではまず、江戸中~後期の学習「制度」のみならず、学習の「仕方」の具体相を検討し、とりわけ下見、講釈、質講/会読(輪講)、後見(復読/返り視)といった包括的学習課程が熾烈な競争的勉学を奨励していたこと、また、下見―会読―復読が学習効果を高めるための一体的な教育課程として実践されていたことなどを先行研究も勘案しながら検証する。その上で、「被」教育者が各々の漢学学習について語った記述を検討し、これら二つの方向からの考察を重ねあわせ吟味することをもって、企図された学習方法がどの程度実践され、いかなる知的習慣の醸成に寄与したかを検討する。さらに、「漢學修習の遺風」が洋学学習において大いに継承された(平沼淑郎の言)が、漢学学習のどのような鍛錬手法が近代知識層のいかなる知的基盤醸成に寄与したかも考察する。

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雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, 2015-12-15
著者
川崎 博章 笹野 遼平 高村 大也 奥村 学
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.2481-2491, 2013-12-15

スクリーンリーダは,コンピュータ上のテキスト情報を音声で読み上げるソフトウェアアプリケーションであり,視覚障害者がコンピュータを利用して情報にアクセスする際に重要な役割を果たす.スクリーンリーダに搭載されている重要な機能の1つに漢字詳細読みの出力がある.多くの漢字には同音異字が存在しており,漢字詳細読みには音声による説明のみでユーザに漢字を正しく想起させることが求められている.たとえば,一般的には“コウニュウ”という読みを持つ単語は“購入”しかないため,“購”という漢字は“コウニュウのコウ”という漢字詳細読みにより想起することが可能である.一方で,“コウバイ”という読みを持つ単語は“勾配”や“公売”などが存在するため,“コウバイのコウ”という漢字詳細読みから“購”という漢字を想起することは難しい.しかし,このような曖昧性を持つ漢字詳細読みは既存のスクリーンリーダの中にも存在しており,正しい漢字が想起できない要因の1つとなっている.また,漢字詳細読みで用いる単語はユーザに慣れ親しんだものであるべきだが,単語の親密度は時間の経過やユーザの背景により変化する.そこで,本論文では,同音異字の情報と単語の親密度を考慮に入れた,コーパスを用いた漢字詳細読みの自動生成法を提案する.さらに漢字想起実験により,提案手法はインタラクティブな要素を取り入れることで生成される漢字詳細読みの長さを既存のスクリーンリーダのものと同程度に抑えていること,および,提案手法により自動生成された漢字詳細読みの性能が既存のスクリーンリーダのものよりも高いことを示す.
著者
小田嶋哲哉 李珍泌 朴泰祐 佐藤三久 塙敏博 児玉祐悦 RaymondNamyst SamuelThibault OlivierAumage
雑誌
研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)
巻号頁・発行日
vol.2012-HPC-135, no.9, pp.1-8, 2012-07-25

GPU クラスタ上でのプログラミングは,様々なプログラミングフレームワークが直交しており,複雑になってしまうことが多い.本研究では,XMP をアクセラレータを持つ並列計算機向けに拡張した言語仕様 XMP-dev の一実装として,GPU と CPU によるハイブリッドワークシェアリングを容易に行うことができる XMP-dev/StarPU を提案し,プロトタイプ実装を行う.XMP-dev は,XMP が本来提供している分散メモリノードへのデータと処理の分割・通信の機能に加え,各ノードでの処理の一部を GPU にオフローディングをすることが可能である.しかし,現在の実行モデルでは GPU にオフロードされた部分はすべて GPU により実行され,CPU との協調計算やワークシェアリングを行うことができない.本研究では,StarPU をバックエンドスケジューラとして用い,計算をタスクという単位で GPU や CPU へスケジューリングをすることで,GPU / CPU のワークシェアリングを可能とする.本稿では,現在開発中の XMP-dev/StarPU のプロトタイプコンパイラと同等の動作をするハンドコンパイルしたコードを用いて重力 N 体問題について評価を行う.結果として,GPU/CPU ワークシェアリングは機能しているが性能向上は十分ではなく,大きな要因は GPU と CPU の性能差に対応する十分な問題サイズを与えることが難しいこと,また,これを改善するために何らかの負荷バランス機能が必要であることがわかった.
著者
保坂 修司
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
Cairo Conference on Japanese Studies
巻号頁・発行日
pp.131-145, 2007-12-20

Cairo Conference on Japanese Studies, カイロ大学, 2006年11月5日-6日
著者
堀 洋祐 湯村 翼
雑誌
エンタテインメントコンピューティングシンポジウム論文集
巻号頁・発行日
vol.2021, pp.97-106, 2021-08-23

本研究では,相手の存在を感じる音声通話を実現する糸電話型デバイス“ミエナイトデンワ”を提案する.携帯電話などの音声通話では相手の存在をあまり意識せずに会話することが多い.本デバイスは「見えない糸で結ばれた糸電話」をコンセプトに,2対のコップが空間的に向かい合ったときのみ音声通話を可能とする。会話のために相手と向かい合っているという状況を必要とすることで,相手との繋がりを強く意識した「対話」を実現できる。
著者
櫻井 圀郎
出版者
東京基督教大学
雑誌
キリストと世界 : 東京基督教大学紀要 = Christ and the world (ISSN:09169881)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.125-135, 2012-03

法人は解散すると清算法人となり,清算結了に至るまで,清算の目的のためには存続するが,本来の法人としての事業活動はできなくなる。その点は,宗教法人で。あっても異なることはない。地下鉄サリン事件などを惹起した宗教法人オウム真理教は 1995 年 10 月 30 日の 東京地方裁判所の解散命令(1996 年 1 月 30 日確定)によって解散しているはずであるがその後の 1999 年 12 月 27 日に施行された無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律によってオウム真理教は規制対象とされており,最近では2011 年 8 月 1 日に公安調査庁が全国 27 カ所のオウム真理教施設に立入検査を行っている。この,一見,矛盾する,ありえない現象は,宗教法人の特殊性にあるのであるが 本項では,その点について言及し,宗教法人解散後の宗教活動の可能性について論及する。
著者
今岡 典和
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 = The journal of the Department of Social Welfare, Kansai University of Social Welfare (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.55-60, 2009-03

戦国期の地域権力の性格の捉え方には様々な見解があるが,近年は特に「戦国大名」の概念を求める立場と,守護の概念を重視する立場が並存している.本稿では,戦国期の地域権力における守護職・守護権の意義を重視する立場から,その意義について改めて論じ,さらに具体例として越前朝倉氏を取り上げ,朝倉氏における守護職・守護権の意義について検討した.朝倉氏は,応仁の乱の時に越前守護代となり,長享・延徳の相論で斯波氏との間で越前の支配権と自らの家格をめぐって争い,その後守護家として幕府から認定されるにいたる.戦国期においては,守護権(国成敗権)は守護家という家によって体現されるのが大きな傾向であり,朝倉氏も守護家として認定されることと越前の支配権は深く結びついていた.そこに,戦国期の地域権力の中でも守護家を独自の存在として捉える意義が存するであろう.
著者
神長 英輔 Kaminaga Eisuke
出版者
國學院大學
雑誌
國學院雑誌 (ISSN:02882051)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.1-18, 2021-01