- 著者
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石井 康太
今枝 龍介
和田 健太
横濱 道成
Kouta Ishii
Imaeda Ryusuke
Wada Kenta
Yokohama Michinari
- 巻号頁・発行日
- vol.46, no.2, pp.114-123,
現在,日本のイワナ属魚類はオショロコマ(Salverinus malma),アメマス(S. leucomaenis)およびアメマスの亜種のゴキ(S.l. imbrius)の2種1亜種に分類する説と,オショロコマをオショロコマ(S. malma malma)およびミヤベイワナ(S.m. miyabei)の2亜種とし,アメマスとアメマスの亜種のゴキをまとめ,単にアメマス[地方名 : エゾイワナ](S.l.f. leucomaenis),ニッコウイワナ[地方名 : イワナ](S.l.f. pluvius),ヤマトイワナ(S.l.f. japonica)およびゴキ(S.l.f. imbrius)の4タイプに分ける説もあり,分類には論議が絶えず統一化されていない。また,日本においてイワナ属魚類はまだ形態学的特性による分類法では今のところ定説はない。そこで我々は,既に検出法が確立されているアイソザイムやmt-DNAおよびゲノムDNAの多型に加え,新たに生化学的手法による標識因子を開発するために北海道産のイワナ属魚類を用いて,血液タンパク質および筋肉タンパク質の多型座位の検索を試みた。1)血液タンパク質型の検索 イワナ属魚類において,血清トランスフェリン(Tf)型,血清エステラーゼ(Es)型,ヘモグロビン(Hb)型および血球膜タンパク質(Cell X)型について検索し,Tf型[基本バンドD,F,H,Lおよび不顕性(-)]は9種類のうち,F型が出現頻度0.712でオショロコマに特徴的な表現型であり,J型が出現頻度0.917でアメマス類に特徴的な表現型であった。Es型では3つの領域のうちオショロコマにはEs-II領域[基本バンドA,Bおよび不顕性タイプ(-)]およびEs-III領域[基本バンドF,I,Sおよび不顕性(-)]が,アメマス類にはEs-III領域[基本バンドD_1,D_2および不顕性(-)]がそれぞれ特徴的な領域であった。Hb型では2つの領域(IおよびII領域)に分けることができ,そのうちI領域(基本バンドA,B)に多型が認められ,アメマス類はA型に,オショロコマにはB型に偏った出現頻度を示した。Cell X型(基本バンドA,B)には明確な種間的差異が検出されなかったが3つの表現型に分類することができた。また,オショロコマにおいてTf型Es型(IIおよびIII領域),Hb-IおよびCell X型に,アメマス類においてはEs型のI領域に地域的差異と考えられる表現型が検出された。2)筋肉タンパク質(Mu)型の検索 イワナ属魚類において,Mu型(基本バンドA,B)ではオショロコマはA型に,アメマス類はB型に偏った出現頻度を示した。以上のことから,Tf型,Es型(I,IIおよびIII領域),Hb-I領域およびMu型においてオショロコマとアメマス類の2グループに分けることができる差異が検出され,アイソザイムやmt-DNAなどと同様に種間や種内の差異を明らかにできる座位の検出法が確立された。3)種間雑種個体の確認 丸瀬布町武利川で採取されたエゾイワナの1個体は,斑紋および形態的にはエゾイワナタイプであったが,Tf型およびMu型でオショロコマとアメマス類のヘテロ型と思われる表現型が検出され,オショロコマとエゾイワナの交雑した個体と考えられた。