著者
土手 貴裕 近堂 徹 前田 香織 高野 知佐
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.650-658, 2023-03-15

ITシステムの新たなアーキテクチャとしてマイクロサービスが注目されている.マイクロサービスではシステムが持つ各機能を独立したコンポーネントとして分割し,それらをAPIで疎結合させることで,機能単位での頻繁な改修が容易となり,顧客の要望への迅速な対応が可能となる.しかし,マイクロサービスの導入によりシステム構成が複雑化し,システム状態を把握するための時系列データであるメトリック数も増大するため,障害原因であるコンポーネント(障害原因箇所)の特定が困難となる.本論文では,マイクロサービスにはコンポーネント間でAPI呼び出しによる依存関係があることに着目し,メトリックの定常時からの変化量にコンポーネント間の依存関係を組み合わせることで障害原因箇所を特定する手法を提案する.また,提案手法による障害原因箇所特定システムを開発し,ECサイトを模したマイクロサービスのベンチマークを用いた実験を行った.特定精度および特定に要する時間について評価を行い,これらの結果から提案手法の有効性を示す.
著者
亀井 文 星 千裕
出版者
宮城教育大学
雑誌
宮城教育大学紀要 = BULLETIN OF MIYAGI UNIVERSITY OF EDUCATION (ISSN:13461621)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.165-170, 2023-03-31

レジスタントスターチ(RS)は、食物繊維と類似の生理作用を持つ機能性成分として注目されている。本研究においては米飯の炊飯直後から約20℃までの温度降下の初期老化過程において、米飯のRS含量がどのように変化するかをおにぎりの形態で明らかにすることを目的とした。炊飯後すぐにおにぎりを作製し、①おにぎりを皿に置き、そのまま放冷と②おにぎりを皿に置き、皿ごとラップをかぶせて放冷の2条件で2時間室温放冷したときの温度変化とRS量の経時変化を比較検討した。①の条件下では、温度は0分から30分において急激に低下しRS量は時間経過ごとに有意にRS量は増加した。②の条件下では、温度の低下は①の条件の温度低下と比べて緩やかな低下となり、時間の経過によるRS量に有意な差は見られなかった。このことから、老化が始まるとされる60℃までのおにぎりの急激な温度低下とその後の継続的な温度低下がRSの生成に関わることが示唆された。
著者
松本 暢子 平野 あずさ
雑誌
大妻女子大学紀要. 社会情報系, 社会情報学研究 = Otsuma journal of social information studies
巻号頁・発行日
vol.14, pp.157-168, 2005

現在,多くの自治体では安全で利用しやすい公共トイレの設置が進められているが,実際の公共トイレは「危ない,臭い,汚い,暗い」といわれ,女性や子どもをはじめとして高齢者,障害者などは利用しにくい。そこで,本稿は,東京都新宿区の公共トイレのなかから公衆トイレ(26ヶ所)に注目し,現地観察調査を実施し,高齢社会において求められる多様なニーズに応える公共トイレのあり方を考察している。現地観察調査は,出入り口や施設構造,バリアフリーなどの施設条件,人目があるか,死角がないかなどの周辺立地環境,洗面台やブース内の設備・備品状況,清掃が行き届いているか,臭気はないかなど衛生状態についての把握を行っている。調査結果では,(1)すべてのトイレが不潔で危険なわけではなく,一部の問題のあるトイレでの管理方法を見直す必要があること,(2)不潔で危険なトイレの多くは施設や設備条件に問題があり,その改善が大きな課題であることが明らかになった。その結果にもとづき,(1)立地特性を踏まえ,商業施設等のトイレを含めた公共トイレ全ての配置を検討することと,(2)利用特性を配慮し,バリアフリー化や多目的な利用に応える施設設備条件の改善を進めること,(3)管理業務内容やその方法の見直しを行うことが必要であることを結論としている。さらに,施設設備条件の改善に取り組む際の問題として,施設設備の設計者と管理業務担当者の間の情報交換が不十分な現状を指摘し,情報の共有やフィードバックの必要性に言及している。さいごに,公共トイレの整備および管理の現状をとおして,公共空間の整備・管理の課題である「公共性の醸成」について考察し,住民参加による整備・管理が鍵となることを示唆している。
著者
坂本 紀子 菅野 早彩
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 教育科学編 (ISSN:13442554)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.37-47, 2021-08

2013(平成25)年2月26日,「道徳教育の充実に関する懇談会」が文部科学省に設置された。新しい学習指導要領には,その懇談会で議論された内容が反映されている。本稿は,道徳を教科化することを前提に開催された懇談会での議論の過程を整理し,さらに,教科化に対する批判的見解についても取り上げ検討する。それら両者を対照させることによって,道徳教育が有している問題や,今後の課題について考察するものである。
著者
鳫 咲子
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.34, pp.25-37, 2022-08

家庭の収入状況や保護者の健康状態が子どもの食習慣に大きな影響を与えている。そのため、困難を抱える家庭や子どもにとって、学校給食は非常に重要である。コロナ禍による子どもの食への影響も大きい。給食費未納は子どもの貧困の重要なシグナルである。未納の問題を、保護者としての責任感や規範意識とだけで片付けてしまうのではなく、不登校や虐待などと同様に貧困の兆候としてとらえるべきである。公立小中学生の7人に1人が、子どもの就学を経済的に支援する就学援助制度を利用している。制度の認知度の低さやスティグマの存在などから、この制度を利用していない家庭も相当数ある。子どもの貧困に対して、給食無償化が果たす役割は大きい。現状の就学援助による個別的な給食費などの支援は、給食無償化により普遍的に全員に実施されることが望ましい。給食費も教育を受けるために必要不可欠な支出である。今後さらに、教育無償化に向けて社会の関心が高まり、財源が確保されることが必要である。
著者
根來 孝明 Takaaki Negoro
出版者
同志社大学
巻号頁・発行日
2022-03-03

書の歴史において、その正統性の頂点に位置付けられるのは東晋の王羲之(303?〜361?)である。彼の書は現存しないとされ、後世の人々は、拓本などの複製を通して王羲之の書を学んできた。本稿の目的は、各時代の人々が思い描く王羲之の書、すなわち書聖・王羲之の像(イメージ)がどのようなものかを、造形分析を通して明らかにし、その変遷を考察することである。
著者
森勢 将雅
雑誌
研究報告音声言語情報処理(SLP) (ISSN:21888663)
巻号頁・発行日
vol.2016-SLP-110, no.5, pp.1-6, 2016-01-29

本稿では,筆者らが 2010 年に提案した基本波検出に基づく基本周波数 (F0) 推定法の耐雑音性向上手法について述べる.2010 年に提案した F0 推定法は,周期信号の調波構造における基本波を低域通過フィルタにより抽出し,基本波の周波数を求める.F0 が未知であるため,カットオフ周波数の異なる複数の低域通過フィルタを用意し,各フィルタにより処理された信号から F0 候補と信頼度を求め,全ての候補中最も信頼できる候補を選択していた.基本波検出に基づく方法は,低域に雑音が混入する環境では充分な SNR の確保が困難であるため,高 SNR 環境で収録された音声を対象としていた.提案法では,滑らかな F0 軌跡を描くよう候補を再選択するアルゴリズム,および推定結果に対し瞬時周波数により結果を補正する処理を導入することで雑音に対する頑健性を向上させる.本稿では,耐雑音性向上手法について述べ,耐雑音性に限定した評価から提案法が期待通り動作することを示す.
著者
森勢 将雅
雑誌
研究報告音声言語情報処理(SLP) (ISSN:21888663)
巻号頁・発行日
vol.2016-SLP-114, no.23, pp.1-6, 2016-12-13

基本周波数 (F0,最近は FO と表記することもあるが本稿では F0 に統一する) は,周期的に生じる声帯振動間隔の最も短いものの逆数として定義され,知覚する音声の高さに概ね対応する音声の主要なパラメータである.F0 は様々な音声処理に利用されるパラメータであり,例えば Channel vocoder の考えに基づいた高品質音声合成では,音声から F0 を可能な限り高い精度で推定することが要求される.筆者らは,これまで高 SNR の音声を対象とした実時間処理が可能な推定法について検討し,SNR が 30 dB 以上であれば実時間処理が可能であり,かつ最新の方法と比較しても遜色ない性能が達成可能な方法を提案してきた.一方,例えば統計的音声合成では,学習に必要な音声パラメータは事前に分析しておけば良いため,実時間性よりも高い精度と雑音に対する頑健性を備えた方法が望ましいといえる.本稿では,計算速度ではなく,高い耐雑音性と推定精度にフォーカスを絞った F0 推定法 Harvest を提案する.Harvest は,音声スペクトルが調波構造を持つことに着目し,基本波に相当するピークを検出する方法を採用している. まず,高調波と低域雑音を除去するため,様々な中心周波数のバンドパスフィルタによるフィルタリングを実施し,得られた多チャネル信号から F0 の可能性がある候補を全て選定する.その後,選定された候補を瞬時周波数を用いて補正し,時系列の連続性を考えて接続することで最終的な F0 軌跡を生成する.本稿では,音声データベースを用いた評価,および筆者らが 2016 年に提案した耐雑音性評価法により提案法の有効性を示す.
著者
曽根 正輔
出版者
曽根正輔
巻号頁・発行日
2005-03-19

航空輸送は現代社会を支える重要な要素であり、それを支える空港建設は巨大な公共資本投下である。これを適切に行うためには、需要予測に基づく政策決定が不可欠であるが、日本の空港整備では問題が指摘されている。北九州市は2006 年3 月、新北九州空港の開港により待望の本格的空港を都市基盤の一つとして獲得するが、その活用を通じ、更なる北九州市の発展を図る為の都市政策を策定し、かつ北部九州の空港能力問題改善に貢献していくためには空港利用の予測とその正しい解釈、適切な政策化が必要である。新空港は北九州市の航空事情を一変させるに留まらず、北部九州に日本では例外的な空港選択状況を現出させる。特に、経済情勢の変化から航空需要が必ずしも単調増加ではなくなった現在、増加の予測に留まらず旅客の選択について正しく予測する事が今後の空港政策策定の上で重要である。本研究では既往研究の検討と現在までに公表された諸予測の問題点をそれぞれの予測モデルと使われたデータに立ち帰り明らかにし、次に問題の解決の方向としての集計ロジットモデルの合理的な適用への基礎検討として、わが国における航空と新幹線の選択状況を集計ロジットモデルで解析した。次に空港選択を大きく左右する空港アクセス条件の影響を北九州都市圏の特性を併せ、非集計ロジットモデルにより解析した。また、2000 年に北部九州の空港能力問題に対し、福岡空港を中心にした需要予測に関する研究が発表されており、予測手法として集計ロジットモデルが提案されていることから、詳細な検証を行った。更に空港に関する旅客の選好要因を、既存の交通統計データの限界を超えて解析するため、消費者性向の解析に使われるコンジョイント分析手法を空港選好要因調査に適用した調査を行った。本研究で取り上げたモデルはいずれもロジットモデルを基礎として旅客の選択を解析し、結果として選択要因である旅行の所要時間、総費用などの要因に関する旅客の定量的な反応を表すパラメータを得るが、各々の解析からのパラメータ間には互いに斉合性が見られ、旅客は合理的な基準によって選択を行っていることが示された。この事実は本論文の主題である、旅客の空港選択の定量的な解析が空港の有効活用に向けての都市政策に有効であることを示す。これらの結果から現在、北九州都市圏では福岡空港へのアクセスにかなりの割合で新幹線が使われる地域がある反面、自家用車が最も有利な手段として主に使われる地域も存在するなどの現状が定量的に把握され、都市圏が広範囲に広がる北九州市では新空港に対する活用促進の都市政策は地域による調整が必要である事が示された。また北部九州の航空事情については福岡空港の能力問題があり、一部で利用者の意識構造データによる空港選択モデルなどから、福岡空港を中心とした利用者の動きを恒常的とする主張がされ、これを福岡市の都市構造問題と絡めた新福岡空港構想が提出された。しかし過去に行われた福岡空港についての需要予測は航空事情の変化により、現状から既に乖離しており、空港利用者は条件の変化に対応して選択している事を示した。また本論文での解析から利用者は合理的に選択をしている事から、航空利用者は新北九州空港に対しても実現する利便性を正しく評価・選択することが予測された。本論文では解析方法の比較検討及び独自に行った各種の解析から空港選択予測のあり方として、情報公開と解析の再現性の面から、集計ロジットモデルを適切に用いる方向を推奨すると共に、現状の交通統計データによる非集計ロジットモデルの限界を示した。また、空港利用者の空港選択要因を見出し、定量的な比較検討を可能とする手段としてChoice-Based Conjoint 解析が有効である事を示した。以上の結論から、北部九州に関する空港政策として、空港事情に大きな影響を与える新北九州空港開港の結果生まれる北部九州の空港利用状況を正しく予測し、適切な空港間の機能分担を実現する都市政策を採るためには、適切な選択行動の解析と理解が不可欠であり、これらをもとに中期的計画が策定され、直ちに実行されなければならない。中期計画は直面する問題を部分的ながら解決し、長期計画の前提となるべきものであり、本論文では、その策定への具体的な手順と内容を示すとともに現在の空港政策の検討は長期に偏り、中期的視野に欠けている事を指摘した。