著者
松尾 健治
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F45-1-F45-8, 2019 (Released:2019-09-26)

本研究の目的は,「レトリカル・ヒストリー(rhetorical history)」についての近年の研究蓄積の状況を検討したうえで,意図せざる結果や失敗のメカニズムといった論点が従来見過ごされてきたことを示し,今後の研究に向けた展望を提示することである。レトリカル・ヒストリーは「企業の重要なステークホルダーを管理するための説得戦略として過去を戦略的に用いること」と定義され,正当性の確保,あるいは組織アイデンティティや組織のレピュテーションの管理といった目的で実践される。しかしながら既存研究では,意図せざる結果,とりわけ失敗に関する研究蓄積が欠けていた。その理由としては,当事者が協力を忌避しがちであることや,歴史を物語る際の聴き手の反作用についての考慮が不十分であるといったことが考えられる。本稿ではこうした問題意識に基づいたうえで,今後,意図せざる結果や失敗についての研究を蓄積していく上で必要な方法論に関する考察を行う。
著者
安達 房子
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F10-1-F10-7, 2019 (Released:2019-09-26)

テレワークとは,パソコンに代表されるコンピュータとインターネットを使って,空間的・時間的な制約を克服した働き方である。テレワークには,在宅勤務,モバイル勤務,サテライトオフィスや自社オフィスなどを使った勤務形態などがある。本稿ではテレワークを,企業と雇用関係をもつ労働者の働き方という狭義の意味でとらえている。 このようなテレワークを組織マネジメントの視点から分析する視点として,本稿ではバーナード=サイモン理論を基礎にしつつ,その研究成果を受け継いできた情報処理アプローチを整理し,意味形成アプローチを展開している。本稿では,安達(2016)『ICTを活用した組織変革』を踏まえて,共通認識・共感・共有ビジョンと組織文化の関係について論及した。
著者
福原 康司 間嶋 崇 堀野 賢一郎
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F15-1-F15-9, 2019 (Released:2019-09-26)

本稿は,専修大学が実施しているリーダーシップ開発に関するプログラム(専修リーダーシップ開発プログラム)の有効性と課題を定量的・定性的に検討することを目的とする。同プログラムは,リーダーシップ能力の養成を目指し,学部横断的に実施している課外プログラムである。同プログラムでは,その質の向上のため,学習転移の議論を意識し,実践文脈の提供やリフレクションの多様な促しなど試行錯誤を繰り返してきた。しかし,定量的な調査の結果,人間関係構築力の向上において効果が見られたものの,リフレクション能力の向上という点で本プログラムの脆弱性が判明した。さらに,定性的な調査を通じ,グループ・リフレクションの機会の適切な提供などがこの問題の解決の糸口になろうことが俄かに分かってきた。
著者
佐藤 裕
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.19-29, 2019-08-30 (Released:2021-02-26)
参考文献数
2

「差別をする」というのはどういうことだろうか.私の研究テーマは差別論であるが,私の関心は差別「されている」実態を明らかにすることではなく,差別を「する」こと,あるいは差別の方法・技術を描くことに向けられている. 差別行為の記述は,差別に対抗するワクチンとしての意味を持つと私は考えている.本論では,具体的な事例の分析を通して,差別行為の記述がどのような意味を持つのかを明らかにしていきたい.
著者
Kazufumi KITAGAKI Rei ONO Harumi KONISHI Michio NAKANISHI Hiroyuki MIURA Tatsuo AOKI Teruo NOGUCHI
出版者
Japanese Society of Physical Therapy
雑誌
Physical Therapy Research (ISSN:21898448)
巻号頁・発行日
pp.E10199, (Released:2022-09-14)
参考文献数
22
被引用文献数
1

Objective: This study aimed to investigate whether longitudinal changes in exercise capacity in patients with acute myocardial infarction (AMI) differ by sex and clarified what contributed to these differences. Methods: We retrospectively examined the differences in each variable between men and women in 156 patients with AMI (mean age: 65 ± 12 years; 82.0% male) who participated in a 3-month cardiac rehabilitation (CR) program and could be followed-up for exercise capacity 12-months after AMI onset. Sex-related differences in the change in peak oxygen uptake (peak VO2) at baseline, 3-months, and 12-months after AMI were analyzed. Results: Male patients with AMI were younger and had higher body mass index and employment rate than women. The attendance of the CR program was higher in women (men vs. women; 10 [3–15] vs. 14 [11–24] sessions, p = 0.0002). Women showed a significant lower %change in peak VO2 after 12 months (men vs. women; 7.8% [–0.49% to 14.6%] vs. 1.3% [–5.7% to 7.5%], p = 0.013). In multiple linear regression analysis, age (β = –0.76, 95% confidence interval [CI] = –1.0 to –0.50, p <0.0001) and female sex (β = –6.3, 95% CI = –9.1 to –3.5, p <0.0001) were negative independent predictors of change in peak VO2 over 12 months, while CR attendance (β = 0.21, 95% CI = 0.0032–0.42, p = 0.047) and recommended exercise habit after the CR program (β = 2.1, 95% CI = 0.095–4.1, p = 0.040) were positive independent predictors of change in peak VO2 over 12 months. Conclusion: In female patients, exercise capacity improved during the CR program but decreased to AMI onset levels after 12 months.
著者
斉藤 知洋
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.127-138, 2017-12-26 (Released:2019-01-28)
参考文献数
20

本稿の目的は,中学3年生とその母親を対象とした社会調査データを用いて,(1)中学生を含む有子世帯が相対的貧困に陥る社会経済的要因,(2)相対的貧困世帯と子どもの教育期待(将来の到達希望学歴)の関連とそのメカニズムについて検討することである. 分析の結果,得られた知見は以下のとおりである.第1に,社会階層・家族的要因として,低学歴層,世帯主が非正規雇用,子ども数が多い,母子世帯であることが有子世帯の貧困リスクを有意に高める独自効果を持つ.そして,これらの諸要因は母親15歳時の家庭の暮らし向きと現在の貧困状態の関連――貧困の世代間連鎖――を十分に説明していた.第2に,相対的貧困状態にある世帯に所属する子どもは,非貧困群と比べて高等教育への進学期待が相対的に低い傾向にあった.しかし,両者の関連は相対的貧困世帯の人的資本投資の寡少や経済的負担感を重視する経済的剥奪仮説(投資論仮説)のみでは十分に説明することができず,他の媒介メカニズムを検証する必要性が示唆された.
著者
濱本 真一
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.83-93, 2015-07-16 (Released:2018-03-28)
参考文献数
23

本論は,教育達成の階層差生成過程およびその世代変化を検証するものである.日本の学校教育は,戦後から拡大を続け,量的な飽和とともにその内部における質的な差異に関しても注目が集まるようになってきた.質的差異によって,同じ教育段階であっても「よい学校」へのアクセスに対して出身家庭背景の影響力があることが指摘されている. 特に本論では中学校段階(国私立/公立)も含めた各教育段階の質的な差異に着目し,それぞれに出身家庭背景の影響力が存在しているのかを検討するとともに,前期の教育選抜の結果が後の教育段階に与える影響(トラッキング)の変化も同時に考察する. 分析の結果,(1)中学校,高校,高等教育すべての段階に関して出身家庭背景による質的分化があること,(2)若年世代において高校に対する直接の階層効果は減少していること,(3)トラッキングの構造は一定ないしは強化されていること,(4)高等教育段階に関する直接の階層効果は増大していること,が確認された.これらより,若年世代において出身家庭背景は,中学校段階における分化の継承と,最終学歴段階による直接的な影響として教育達成過程に働きかけることが明らかとなった. 中学校と高等教育段階の質的差異は今後も拡大することが予想され,個人の教育達成過程は今後もますます階層による影響を受けやすくなることが示唆される.
著者
余田 翔平
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.131-142, 2014-07-25 (Released:2015-08-24)
参考文献数
17
被引用文献数
6

本稿の目的は2点ある.第1の目的は,家族構造と子どもの教育期待との関連を記述することである.第2 の目的は,両者の関連を説明する仮説,すなわち格差が形成されるメカニズムを検証することである.そのような仮説として,本稿では経済的剥奪仮説,役割モデル仮説,家族ストレス仮説,セレクション仮説を取り上げた. 中学3年生とその保護者を対象にした社会調査データを分析した結果,以下の知見が得られた.まず,初婚継続世帯の子どもと比較して,非初婚継続世帯の子どもは総じて教育期待が低い.非初婚継続世帯の中の差異に着目すると,死別母子世帯,継親子関係を含まない再婚世帯では,子どもの教育期待は比較的高い.他方で,離別母子世帯や父子世帯,さらに継親子関係を含む再婚世帯では,教育期待がいずれも低水準にとどまっている.また,多変量解析によって非初婚継続世帯の形成と関連する要因を統制してもなお,家族構造の効果は残されていた.本稿の分析結果はおおよそ家族ストレス仮説と整合的であり,子ども期に定位家族が安定的であることが教育達成にとって重要であることが示唆された.
著者
安原 智久 臼井 晴香 木下 淳 安田 素子 串畑 太郎 上田 昌宏 永田 実沙 曽根 知道
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.142, no.10, pp.1115-1123, 2022-10-01 (Released:2022-10-01)
参考文献数
17
被引用文献数
1

There is a need for pharmacists to be actively involved in home healthcare through a wide range of collaboration in healthcare and welfare. However, insufficient evidence is available to search for factors that prevent pharmacists from being proactive in home healthcare. In this study, we conducted an extensive questionnaire survey among pharmacists engaged in home pharmacy work who belong to the Hyogo Pharmaceutical Society regarding the current status of pharmacists' work in home medical care and their psychological burden; we also explored the factors that may hinder the future development of home medical care. As a result, 925 (44%) valid responses were obtained, and seven factors— “current multidisciplinary cooperation”, “relationships with patients and their families”, “emotional burden for home healthcare”, “attitude toward patients”, “ideal of multidisciplinary cooperation”, “anxiety about aggressive intervention”, and “anxiety about talking to and dealing with patients”— were extracted. Furthermore, it was suggested that pharmacists' mental burden and anxiety are closely related to their successful experiences in building relationships with patients and patients' families as well as with multidisciplinary cooperation in home healthcare. Therefore, to train pharmacists to be actively involved in home healthcare, it is important not only to impart knowledge and skills but also for them to gain experience practicing their contributions as pharmacists in the field of home healthcare with multiple professions, patients, and patients' families.
著者
松井 克浩
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.61-71, 2013-07-19 (Released:2014-08-31)
参考文献数
9
被引用文献数
5

2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故により,多くの住民が避難を余儀なくされた.新潟県でも,なお5,000人を超える人びとが避難生活を続けている.本稿では,福島県からの広域避難者とそれを迎え入れた新潟県内の団体・個人を対象としておこなってきた聞き取り調査をもとに,広域避難者の現状,避難者支援にみられる特徴,支援の課題について検討を試みた.その結果,①強制避難者(柏崎市)・自主避難者(新潟市)という「棲み分け」がみられ,避難者の属性の違いに対応した支援がなされていること,②支援に取り組む姿勢には一定の共通性(避難者との距離感)があり,その背後には災害経験の蓄積があったこと,③時間の経過とともに避難者が抱える困難は増しており,社会関係の分断が進む中で各個人・世帯が個別的な判断を迫られていること,などが分かった.その上で,ゆるやかなコミュニティの維持と避難者の共同性の回復に向けた支援が課題であることを指摘した.
著者
本郷 正武
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.109-119, 2013-07-19 (Released:2014-08-31)
参考文献数
23

本稿はHIVが混入した輸入血液凝固因子製剤によりHIV感染した血友病患者が政府と製薬企業を相手取った訴訟運動(1986~1996年)に参加するプロセスを示した上で,「薬害」概念が訴訟により構築されていく要件を検討する.血液凝固因子製剤によりHIV感染した事実のみで「薬害HIV」は成立しない.感染被害者や医師へのインタビュー調査から,原疾患である血友病,血液製剤により重複感染していたB型・C型肝炎との重要度の比較からHIV/AIDSの問題を認識し,さらに憤りや義憤を超えて,亡くなっていった仲間たちに対する使命や弔いの感情をもつようになるプロセスを明らかにした.こんにち,政府は「薬害教育」を強く推進しているが,本稿は「薬害」問題を開示する社会運動の生起を説明するため,従来の社会運動論の動員論,行為論とは異なる,社会運動の「質」を説明する「第三のアプローチ」を参照し,「薬害」概念を再検討するための枠組みを提示した.
著者
茅野 恒秀 阿部 晃士
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.31-42, 2013-07-19 (Released:2014-08-31)
参考文献数
7
被引用文献数
5

東日本大震災によって,岩手県大船渡市は人口の約1%にあたる住民が死者・行方不明者となり,7割近い人が住居や仕事に震災の影響を受けた.市は早くから復興計画策定に取り組み,震災発生から40日後の2011年4月に基本方針を,7月に復興計画骨子を決定し,10月に復興計画を決定した. 市は基本方針で市民参加による復興を掲げ,市民意向調査やワークショップ,地区懇談会などの手法を用いて復興計画に住民の意見を反映させることを試みた.しかしながら広域かつ甚大な被害に対して速やかな生活環境の復旧が強く求められる状況下,市は復興計画を早急に策定するという目標を設定する一方,国等からの復興支援策が具体化せず数度にわたりスケジュール変更を余儀なくされた.このため,復興計画の詳細にわたる充分な住民参加の実現という点では課題を残した. 筆者らの意識調査によれば,住民は復興計画に強い関心を持つが,自ら策定過程に参加した人はごく限られており,丁寧な住民参加・合意形成を前提としたボトムアップ型の復興と,行政のリーダーシップの下でのスピード感あるトップダウン型の復興とを望む対照的な住民意識があることが明らかになった.今後,地区ごとの復興が進められる段階で,復興に対する意識がどのように推移していくか,見守っていく必要がある.