著者
諏訪 春雄
出版者
学習院大学
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.35-53, 2002-03-25

日本人の空間認識に顕著にみられる傾向として右回りがある。17世紀以降の江戸をえがいた屏風、地図の類の空間配置はすべて右回りであり、京都、大坂の地理案内書も右回りである。現在の日本の民俗にも多くの右回りの習慣をあげることができる。一方、右回りの習慣ほど顕著ではないが、日本人に左回りの習慣もある。 なぜ、日本人の民俗に右回りが有力なのか。そして、他方で、わざわざ左回りに固執する民俗があるのはなぜなのか。 佛教の教義では、右回りを尊重し、左回りを不吉としている。また、左を聖、右を俗とし、両者を補完しあう関係とかんがえる理論もある。そのほか、いくつかの説明がこれまでに提出されている。中国の古代には右回りを天、陽、男、君として尊重し、左回りを地、陰、女、臣下として、低くかんがえる思想があった。この中国古代思想は、天の北極星にたいする信仰にもとづき、子午線の回転によって、世の中の秩序が進行するという考えが根底にあった。こうした子午線つまり南北軸重視の思想が日本の民俗の右回り重視の慣習を生んだと見ることができる。さらに、日本人の場合には、もう一つ、太陽にたいする信仰に由来する東西軸重視の思想が、右回りの民俗を支えていることに注意しなければならない。日本の右回りの空間認識は天の信仰に由来する南北軸重視と、太陽の信仰に由来する東西軸重視の二つの思想にささえられているところに、その強みがあった。日本社会に左回りの民俗が部分的に存在するのは、中国の古代思想にあきらかなように、劣位の観念として、右回りを補完するものである。 中国の北方大帝国には天の信仰がさかんであり、南北軸重視の思想がゆきわたっていた。それにたいし、古代日本には、中国の南方少数民族におこなわれていた太陽信仰にもとつく東西軸重視の思想がさかんであった。東西軸重視は、天の信仰よりも古い信仰として、日本の現代にまでつづく民俗慣習の基本原理となっている。Space recognition of the Japanese is characterized by the right-handed, namely clockwise, rotation. From the early seventeenth century, the maps of Edo were generally drawn on the clockwise system, as were the maps of Kyoto and Osaka」n the present-day f61k customs of the Japanese, we can see many examples of the right-handed rotatlon. On the other hand, in the fblk customs of the Japanese, there are a few examples of the lefthanded rotation, Why, do we have both ways in Japan? In the ancient northern Chinese empires, people had faith in the heavens. Faith in the heavens attaches importance to the north-south axis. On the other hand, in the southern China people had faith in the sun. Faith in the sun attaches importance to the east-west axls. Both Chinese faiths influenced the Japanese's clockwise orientation. The Japanese's lefthanded rotation found in folk customs is complementary ln lts nature.
著者
山本 奈生
出版者
佛教大学
雑誌
佛大社会学 (ISSN:03859592)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.41-54, 2015-03-20

本稿は安倍政権下における「教育再生実行会議」の第五次提言を踏まえて,文科省で開催されている「実践的な職業訓練を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」で行われた,冨山和彦委員の大学構想を批判的に考察する時事評論である。 経営コンサルタントである冨山委員は,独自の経済的世界観を大学や学問といった領域に敷衍して適用し,グローバル型大学とローカル型大学のいずれかに全ての大学は変わるべきであり,ローカル大学において学術的な一般教養や専門学知を教える必要はなく,それらは国際競争を勝ち抜くためにグローバル型大学において教授すべきであるとの持論を展開した。本稿はこうした言説に対する内在的な批判と外在的批判の二種類について検討し,大学の分類を経済的尺度のみによって行うことの問題点や,社会的公正さと人間の自由の観点からみて,当該報告の問題性がどの部分にあるのかを指摘した。

2 0 0 0 OA 本朝画人伝

著者
村松梢風 著
出版者
中央美術社
巻号頁・発行日
vol.中, 1926
著者
警備警察研究会編
出版者
立花書房
巻号頁・発行日
1962
著者
酒井 麻紀子 窪田 由紀
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.236-251, 2019-12-30 (Released:2020-01-24)
参考文献数
40
被引用文献数
6

本研究の目的は,小学校教師の職場における援助要請を促進・抑制する要因を検討することである。本研究では,援助要請における個人の態度として「被援助志向性」,状況認知的要因として「自己による内的な帰属」と「他者による内的な帰属の予測」,環境要因として「協働的風土」に着目し,各変数が援助要請意図におよぼす効果について,問題(不登校・学業不振・学級経営)や援助者(同僚・管理職)の違いごとに検討した。小学校の通常学級担任176名を対象に場面想定法を用いた質問紙調査を行った。共分散構造分析の結果,全ての場面に共通するパスと,問題や援助者によって異なるパスの存在が明らかになった。そのうち,協働的風土が被援助志向性の「肯定的態度」を媒介して援助要請意図を促進するプロセスは,問題や援助者の違いにかかわらず,全ての場面で示された。この結果から,職場の協働的風土が,教師の援助要請を促進する重要な要因であることが示された。
著者
川合 紀宗
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.269-273, 2010 (Released:2010-08-31)
参考文献数
17
被引用文献数
3 5

認知行動療法とは, クライエントの不適応状態に関連する行動や情緒, 認知の問題に対して介入し, 適応的な反応を学習させ, 情緒の安定や行動の修正を行う方法である. 吃音臨床・研究分野においても, 特に吃音の多因子モデルが発表され, 吃音の核症状以外の問題が具体化され, その問題へのアプローチの重要性が提起された1990年代後半より, 認知行動療法を取り入れた臨床や研究が数多く発表されるようになった. 本稿では, 認知行動療法の理論および構造, そして認知行動療法がどのように吃音の臨床で用いられているかを紹介するとともに, その留意点や限界点についても論述する. また, 認知行動療法が吃音研究・臨床分野において脚光を浴びる以前より実践されている認知行動療法の要素を含んだアプローチについても紹介する.
著者
谷合 信一 前新 直志 田中 伸明 栗岡 隆臣 冨藤 雅之 荒木 幸仁 塩谷 彰浩
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.192-198, 2015 (Released:2015-05-21)
参考文献数
14

高齢で突発した心因性吃音の症例を経験した.症例は70歳男性,肺炎で他院入院中に突然吃音を発症.当科初診時,口腔・咽喉頭に器質的異常なく,構音障害や失語症も認めなかった.語頭音のくり返しを主症状とする吃音を認め,随伴症状を認めた.訓練は,発話速度低下訓練とカウンセリングを併用した.訓練実施後から吃音症状は徐々に軽減し,訓練開始3ヵ月半でほぼ消失した.本例の特徴は,吃音が獲得性で突然発症している,発話は語頭音のくり返しが多い,随伴症状がある,数ヵ月の訓練で著明に改善している,画像所見で突発した吃音を説明できる病変がない,発症誘因と推察される入院に伴う強いストレスがある,吃音の原因となる他疾患の可能性がないことがある.これらの特徴から,本例は心因性吃音であると考えられた.
著者
三科 仁伸
出版者
三田史学会
雑誌
史學 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.85-108, 2015-04

文学部創設125年記念号(第1分冊)論文 日本史はじめに一 玉川電気鉄道の設立と開業までの道程二 玉川電気鉄道の開業と鉄道事業の展開三 玉川電気鉄道の経営陣と株主おわりに
著者
西 正博
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.101-109, 2015-10-01 (Released:2015-10-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1

VHF 帯及びUHF 帯の電波は,気象現象に伴うダクト伝搬により,非常に長い距離を伝搬することが知られており,無線システムにおいては,異常伝搬によるオーバリーチ干渉が問題となる.特に地上テレビ放送では,そのディジタル化により,干渉波の同定が困難になり,対策がより困難になってきている.本稿では,異常伝搬とディジタル放送時代の新しい異常伝搬対策技術について解説する.
著者
二井 彬緒
出版者
学校法人 自由学園最高学部
雑誌
生活大学研究 (ISSN:21896933)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.45-53, 2015 (Released:2016-08-15)
参考文献数
16

「ユダヤ人問題」は終わっていない.これはアウシュヴィッツをはじめとしたナチス・ドイツによる「絶滅強制収容所」の解放以降も,「ユダヤ人DP(Displaced Person)問題」や「ユダヤ難民」と名前を変えて続いている問題である.これらの延長に存在するもの,それがパレスチナ問題である.この複雑な紛争を語る時,ユダヤ人問題は切っても切れない存在だ.ホロコーストとパレスチナ問題という異なる歴史上の二点はこのようにして一本の線の上に位置づけることができる.これらの問題を並行して考えることは,ユダヤ人社会の意識の違いを見る糸口にもなる.仮にホロコーストをより普遍的な歴史的事象と捉えた時—つまりユダヤ人以外の民族にも起こり得る歴史的出来事であると考える場合—パレスチナ問題はホロコーストを生き抜いたユダヤ人にとってイスラエル国家という存在の根本を揺るがす問題にもなる.本誌のこの論文は,卒業論文「“ホロコースト” と“パレスチナ問題”—ユダヤ人として生きる基準—」の内容をすべて掲載するのではなく,その一部であるE・ヴィーゼルを中心に,サラ・ロイ,イラン・パペのユダヤ人社会における立ち位置とホロコーストに関する考え,また,彼ら「預言者的ユダヤ人」がユダヤ人社会に果たす役割を中心に論じていく.
著者
河野 憲太郎 樋浦 善敬
出版者
日本家禽学会
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.267-270, 1983
被引用文献数
2

鳥類に対する直腸電気射精法の応用をはかる目的で,さし当り鶏を用いて電極ならびに通電法の検討を試みた。<br>1) 実験動物:単冠白色レグホーン種の雄鶏。<br>2) 電気刺激器:めん山羊用交流電気射精器のスイッチを持続的通電可能に改造して使用。<br>3) 電気射精用直腸探子:直径約8mm,長さ約35mmの中空プラスチック棒に3極環状または2極板状電極を配線し,これにL字型のビニール被覆鋼鉄線の柄をとりつけ,柄と導線を接着して作成した。<br>4) 動物の保定:雄鶏の両脚を輪にした紐で縛り,輪の他端を腰掛けた施術者の片足で踏んで引張り,鶏体の胸部と腿部をその膝に乗せ,頭部を膝の外側方に下げ,尾部を高くして保定した。<br>5) 精液の採取:探子の柄を尾の方に立てて電極部を直腸内に挿入し,電圧40V,電流0mAにセットしてスイッチを入れ,電流を徐々に増し,探子のわずかな移動操作によって強く充血ぼっ起した退化交尾器が突出して来る最小の電流を選んだ。排出される糞や尿は暖めた精液希釈液か生理液を吹きつけて洗い流し,脱脂綿でぬぐい,クロアカの両側を軽く圧迫し,交尾器から流出する精液を試験管で受けた。電流を切って後,探子を直腸から抜いた。<br>6) 成績:13例の測定結果(M±S.D.)一採取精液量(ml)0.47±0.25,精子濃度(億/ml)16.46±4.64,精子活力(CLARK and SHAFFNERの相対値表示法)4.12±0.54。通電中動物はほとんど苦痛の様子をみせず,経験後も本法による精液採取を嫌うようにはみえなかった。<br>7) 本法の問題点は糞尿による汚染で,通電法や探子の移動操作を慎重にすることで軽減することができた。