著者
奥山 史織 加々島 慎一 竹之内 耕 小河原 孝彦
雑誌
一般社団法人日本鉱物科学会2019年年会・総会
巻号頁・発行日
2019-08-13

新潟県の青海地域は糸魚川 - 静岡構造線(ISTL)の付近に位置し,この地域では多種多様な優白質岩が分布している.岩石記載の結果、優白質岩は黒雲母・白雲母を含むもの、ゾイサイトを含むもの、角閃石を含むものの3種類に分類される.全岩・鉱物化学組成のSr含有量の結果は交代作用の有無を示していると考えられる.ゾイサイトを含むものと角閃石を含むものは交代作用を受け、他の花崗岩質岩石は初生的な組成を保持していると考えられる.
著者
坂井 健太郎 生長 幸之助 金井 求
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】医薬品候補化合物の構造中にC(sp3)が多いほど臨床段階での開発成功確率が向上することが知られているように、C(sp3)-H官能基化は医薬品開発において望ましい反応形式の一つである。触媒的C(sp3)-H官能基化を実現する手法として近年、可視光レドックス触媒(PC)と水素原子移動(HAT)触媒からなるPC-HAT触媒系が、温和な反応条件、優れた官能基許容性から注目を集めている[1]。既存のPC-HAT触媒系の多くでは化合物中の最も反応性の高いC(sp3)-H結合、つまり、最小の結合解離エネルギー(BDE)を有する結合やヒドリド性の高い結合が変換されていた。化合物依存の反応性ではなく、触媒制御の反応位置選択性を実現する戦略として、特定の結合のBDEを低下させる結合弱化触媒の利用があげられる。結合弱化現象は主に錯体化学の分野で研究されており、触媒的に有機合成に用いられた例は限られている[2,3]。しかも広く研究されている低原子価金属の配位による結合弱化は、酸化的な条件であるPC-HAT触媒系を阻害する恐れがあった。そこで、PC-HAT触媒系によるC(sp3)-H官能基化に適応可能な新規結合弱化触媒の開発に取り組んだ。【結果】モデル反応としてアルコールα位C-Hアルキル化を開発することとし、アルコールの水酸基と相互作用することによって結合弱化が起きる化合物群を探索した。DFT計算を行ったところ、ケイ素化合物がエタノールと5配位のアニオン性シリカートを形成した場合に結合弱化が起きることを見出した。この計算結果を基にケイ素触媒の探索を行ったところ、下図のスピロシラン[4]が新規結合弱化触媒として機能し、PC-HAT触媒系によるアルコールα位C-Hアルキル化を促進することを見出した[5]。(1) (a) Shaw, M. H.; Twilton, J.; MacMillan, D. W. C. J. Org. Chem. 2016, 81, 6898. (b) Capaldo, L.; Ravelli, D. Eur. J. Org. Chem. 2017, 2056.(2) Tarantino, K. T.; Miller, D. C.; Callon, T. A.; Knowles, R. R. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 6440(3) For the precedents of bond-weakening phenomenon used in the cooperation with PC-HAT hybrid system, see: Jeffrey, J. L.; Terrett, J. A.; MacMillan, D. W. C. Science 2015, 349, 1532.(4) Perozzi, E. F.; Martin, J. C. J. Am. Chem. Soc. 1979, 101, 1591.(5) Sakai, K.; Oisaki, K.; Kanai, M. Adv. Synth. Catal. 10.1002/adsc.201901253.
著者
田邊 佳穂 松崎 絹佳
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-05-10

太陽系初期においてどのように惑星が形成されたのかを明らかにすることは重要である。隕石はその手掛かりの一つになっているが、地球に降ってくる隕石の数は非常に少ない。それに対して宇宙塵は隕石よりも地球へ降ってくる粒子数が多く、さらに、地球上のあらゆる場所で採取することができる。そのため、宇宙塵を研究すると惑星の形成のされ方が解明できる可能性が高い。そこで私たちは、宇宙塵に目をつけた。 宇宙塵は、ワセリンなどの粘着剤を塗布したスライドガラスを屋外にさらし、スライドガラスに付着した粒子の中から顕微鏡などの拡大機器を用いて採取する方法が一般的である。この採取方法では、地表由来の物質が混ざりやすく、また、一晩屋外に置いた際に採取できる宇宙塵の数は一枚のスライドガラスに対し0または1個と少ない。そのため、スライドガラスに付着した粒子を顕微鏡で見た際、粒子のほとんどが地表由来の物質となり、宇宙塵を探し出すのに手間と時間がかかる。 そこで本研究では、地表からの物質の混入を削減し、より効率よく採取する宇宙塵採取手法を開発した。まず初めに、地表由来の物質と宇宙塵とが混ざらないよう、図のような装置を作製した(fg.1)。重りを載せたベニヤ板に逆さまにしたプラスチックケースをガムテープで固定し、5 cmごとに高さを変化させたアルミ板をケースの側面に取り付けた。そして、プラスチックケースの底面にワセリンを塗布したスライドガラス10枚を取り付けた。外壁の高さは0 ㎝~30 ㎝の5 ㎝刻みで設定し、計七つの装置を一晩屋外に置いた。この実験では、アルミ板の外壁を取り付けることにより、風により舞い上がった余計な地表由来の物質がスライドガラスに付着するのをどれだけ減少させることができるかを検証した。その結果、外壁の高さを30 ㎝に設定したとき、地表由来の物質の数は0 ㎝のときに対して76%減少し、宇宙塵を見つけ出すことが容易になった。今回の実験では、最も高い外壁を30 cmとした。これは30 cmよりも高い外壁をつけると外壁が風の影響を受けて倒れるなど、装置が扱いにくいからである。外壁の高さを30 cmとした装置が、地表由来の物質の混入が少なく、扱いもちょうどよい高さであるため、この装置を用いて、宇宙塵採取を行うこととした。
著者
筒井 稔
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

京都産業大学では以前から地中で電磁波が励起されるかどうかを確かめるための観測研究を行ってきたが、周波数が数kHz については殆ど全てが雷放電によるもので、地中起源の電磁波は全く見つける事が出来なかった。それは地中媒質の電気伝導度が高いために、励起された電磁波は遠距離まで伝搬出来ないためであった。そこで2011年の12月から検出しようとする周波数を25 Hz以下にしたところ、電磁波観測点での震度が1以下であっても地震波により励起された電磁波を検出できる事を確認した。即ち、地震波が伝搬している近傍では常に電磁波が励起されている事を示した。これは地震波の波頭に電磁波放射源が載っていて、電磁波を放射しながら地震波の速度で移動している形を採っていると考えられる。放射された電磁波の地中を進む距離は短いが、容易に放射されている事が確実となった。これがMT法での測定でもco-seismic 信号として検出される理由である[1]。上記の電磁波は地震発生後のS波の伝搬時に発生しているものであって、解明したいのは地震発生以前に電磁波が発生するかどうかという問題である。これまでの電磁波観測データを調べたが、地震発生時には電磁波パルスが検出されていない。また岩石破壊実験でもマイクロ波の雑音は検出されているが、低周波の電磁波の励起は見られていない。そこで地震発生以前でも地中において電磁波が励起される可能性がある状況を考え、その検証のための研究を進めた。地下で電磁波が励起される機構としては岩盤内でのP波成分による一種の共振効果が作用していると考えている。そこで、岩盤からの電磁波放射を検証するために実験室でその模擬実験を行った。頑丈な木製の台の上に長さが50 cm程度の花崗岩の柱を2本直線状に並べ、その接触面にガラス玉を挟んだ状態としてセットする。そしてこの2本の花崗岩柱の軸に沿って外側から圧力を加えていくと、ある圧力を超えるとガラス玉が破壊される。この時、それまで花崗岩の軸に沿って掛かっていた圧力が急激に無くなる。この時、ガラス玉に接触していた面では負の衝撃が加わった事になる。この衝撃によって、花崗岩内の軸方向にはP波が伝搬する。ある程度の長さを有する花崗岩である場合はP波の振動での共振現象を引き起こす可能性がある。その振動によって強い圧電効果が生じ電磁波が放射されると考えられる。この時、電界と磁界成分の両方を検出した。この実験結果を紹介する。上記実験状況は実際の活断層を中心とした領域でも生じていると考えられる。活断層の接触面には破砕帯と呼ばれる領域があるが、そこには以前の地殻変動により岩盤から崩れた小岩石が多く存在すると考えられる。このような状況の下で、破砕帯の両側の岩盤に新たな圧力が加わり始めた場合、その圧力が地震を引き起こすよりもはるかに弱い圧力であっても、まず破砕帯にある小岩石が破壊されると考えられる。この時、両側の岩盤には負の衝撃が印加されるので、それにより岩盤内にP波が伝搬する。このP波の振動で岩盤内では圧電効果により電磁波が励起され、外部に放射される。岩盤に掛かる圧力が更に増加していくと、破壊される小岩石の数も増えてきて多くの電磁波パルスが放射される可能性がある。そうして最終的には地震を引き起こす。以上が、地震発生前に観測される電磁波パルス発生の可能性を持った仮説である。電磁波観測点から西南西の約24 kmの地点で地震が発生した。それによる地震波を電磁波観測点では検出しており、地上の電磁波センサーは磁界成分を検出した。そこでこの日の観測データを精査したところ、地震発生の約7時間前に地上センサーによって一つの電磁波パルスを検出していた。この事から、地震発生の7時間前に検出した電磁波は地震の前での小岩石の破壊時に励起されたものではないかと考えられる。今後はこの種の電磁波の検出データを集め、その強度とその後に発生する地震の規模やその発生するまでの時間との関係等を定量的に調べ、統計的な時間変化の傾向を確立すれば、地震予知の実現に繋がるものと考えている。[1] Minoru Tsutsui, Behaviors of Electromagnetic Waves Directly Excited by Earthquakes, IEEE Geoscience and Remote Sensing Letters, Vol. 11, No. 11, pp. 1961-1965, 2014.
著者
栗田 敬 熊谷 一郎 市原 美恵 小川 歩実 熊谷 美智世 永田 裕作 香西 みどり
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Karinto is one of the typical traditional sweets, which is classified as a puffed confectionery. When we examine the cross section of karinto we can recognize amazing resemblance to the texture of vesiculated pyroclastic materials. This gives us an idea that the formation mechanism of karinto seems collateral to that of pumice and scoria in volcanic process and it would help deep understanding of magmatic vesiculation process. This is the starting point of our research on karinto.Here we report experimental investigation on the formation of karinto,cooking process. Particularly we focus on the sound generation during the cooking to characterize vesiculation process. The basic material of the starting dough is flour,baking soda,sugar and water. Baking soda and water determine volatility of the sample. Heating induces vaporization of water and thermal decomposition of baking soda, which result in volume-expansion and create a peculiar vesiculated texture. To see the control of this we tested following 4 sets of the composition;Sample A:flour 50g,baking soda 2g,sugar 10g,water 25gSample B:flour 50g,baking soda 0g,sugar 0g,water 25gSample C:flour 50g,baking soda 2g,sugar 0g,water 25gSample E:flour 50g,baking soda 0g,sugar 0g,water 30gSample A is based on the standard recipe of karinto. Sample C and E seem interesting to see the effect of volatile components.In the cooking experiment we put the dough of 50mm in length x 10mm in width x 6mm in thickness into hot oil at 180-170C. Soon after start of deep frying familiar cooking sound becomes audible. We recorded this and took movie by high speed camera to inspect size and location of bubbles which emanate from the dough. Common to all the composition the sound changes systematically; in the first several minutes continuous sound with flat spectrum to 25KHz emanates while after this high frequency component gradually decreases and prominent peaks in the spectrum appear in several hundreds Hz, which sound as "chant d'Oiseau". Associated with this transition size of bubbles which appear on the surface of dough changes from broad distribution to homogeneous. Also the vesiculation points become localized. All these observations are consistently interpreted that after 4-5minutes steady paths of the gas emission from the inside have been set up. The talented experienced patissier could discriminate the difference of the sound to inspect maturity.Only in the case of Sample E destructive explosions were observed at about 2 minutes from the start. During heating two competing processes are working inside the dough:solidification which proceeds from the outside and gas formation. Both are driven by higher temperature. When the solidification advances ahead hard shell is formed to impede escape of gas, which results in accumulation of high vapour pressure inside. This is the cause of the explosion. The standard recipe smartly avoids this route by arranging combination of the ingredients but in our experiments we seek the condition for explosion.In the presentation we report progressive evolution of the spectrum of cooking sound with textural evolution in relation with magmatic process.
著者
大野 裕幸 遠藤 涼 中埜 貴元 篠田 昌子
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

筆者らは、日本における測量としての地図作成に導入可能な高精度な地物抽出を実現するべく研究に取り組んでいる。セマンティックセグメンテーションによる地物抽出の評価用データセットとしていくつかのデータセットが知られているが、それらは日本国外を対象としたものであるほか、数都市程度のデータセットであり地域多様性が高くはない。そのため、日本での測量としての地図作成における地物抽出性能評価用のデータセットとしてそれらを用いるのは適切でないと考えている。そこで、日本における地図作成で実際に使われている空中写真を対象として、高い地域多様性を持った地物抽出性能評価用データセットを構築することを目的として、1967年以降に日本で空中写真撮影が実施された1328地区から均等に評価範囲を抽出して評価用データセットを構築した。さらに、pix2pix及びU-Netを使用し、道路と建物について我々が構築した評価用データセットと既存の評価用データセットによる評価結果とを比較して考察することで、我々が構築した評価用データセットで十分に信頼できる地物抽出の性能評価を実施することができるとの結論を得た。
著者
青木 寿篤
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-05-17

2011年に起きた東日本大震災の津波の影響によって、約30万戸の建物が被害を受け、約1万6000人の死者を出した。今日、このような津波の被害を食い止めるために通常よりも大きい“巨大防潮堤”の建設が進んでいる。人々の命を守る上ではこの防潮堤はとても重要な役割を果たすが、とても高い防潮堤を建設することによって、景観が阻害され、観光業を財源としている自治体にとっては大きなダメージを負ってしまう。この2つの問題を解決するために、私の研究は「高さを変えずに従来の防潮堤での強化」するため、「堀」を防潮堤に組み合わせることを考えた。堀というアイデアは、宮城県の被災地を訪れた際、被災された方から「元々の波は高かったけれども、目の前に川があったおかげで波の威力が弱まった」という話を聞き、そこで私は、「川のようなものを防潮堤の後ろに取り付ければ、波の威力を軽減できるかもしれない」と考えた。水槽(約1.2m)と発泡スチロールでモデルを作り模擬的に波を発生させ、波の高さと到達距離を測定し、堀の奥行きを対照区として実験を行った。波の高さを定量化し、再現性を高めるために、波の起こすための水量を一定化させ、実験を行った。はじめに、どの程度の奥行が効果的であるのかを調査するために、奥行を3段階(0,5,10,15cm)にわけそれぞれ5回ずつ波の高さと到達の有無(波が水槽の端に届いた回数)を計測した。結果、どの程度の奥行が効果的であるかは不明であったが、堀がない場合よりも堀がある場合のほうが波の到達距離を軽減できることが分かった。次に、データ数の増加を図り堀の奥行を5cmに絞って48回実験を行った。今度は、到達距離を数値化しより細かくデータを採取した。その結果を用いて散布図(横軸が波の高さ、縦軸が到達距離)を作成し、近似直線を描いた(y=1.9592x-33.27 相関係数は0.73)。この数式を、実物大に拡張し、防潮堤の高さ5m、堀の奥行2mに固定して計算した。すると、堀がないとき6mの波に対して10m以上到達してしまう(最初の実験の堀無のデータを用いた)に対し、堀があると10mの波が押し寄せたとしても、5.3mの到達距離で済むという結果が得られた。しかしながらこの実験にはいくつかの問題点があり、1つ目は津波本来の波長は数㎞から数百㎞に対し、研究装置が2mに満たないためこの結果が津波に対して有効であるかは疑問が残る。さらに、この実験には変数がとても多い(堤防の傾斜、高さ、堀の奥行、深さ、波の高さなど)ので条件を変えた時の変化は予想が難しい今後の展望として、この実験をパソコン内で再現し、より多くの条件のもとでシミュレーションを行うことを考えている。
著者
青景 聡之 平山 隆浩 塚原 紘平 高 寛 清水 一好 中川 晃志 岩崎 達雄 笠原 真悟 内藤 宏道 中尾 篤典
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景・目的】ECMOには抗凝固療法が必須であり、出血や貧血を代償するため輸血が用いられる。輸血需要に関連した患者の臨床的特徴、凝固管理、予後については十分に解明されていない。本研究では輸血需要が増加しやすい患者の特徴を明らかにし、リスクに応じて異なる抗凝固戦略の必要性について考察する。【方法】2013年1月から2018年8月までの成人ECMO症例 67例のうち、96時間以上のECMO使用例、30例を研究対象とした。導入前後に開胸手術、Central ECMOを要した症例は除外した。入院時の臨床的特徴および、導入から7日目まで(離脱・回路交換を行ったものはその時点まで)の輸血量と凝固パラメータを評価した。1日あたりの平均赤血球輸血量の中央値は240 ml/dayであったため、少量輸血群(<240ml/day)13例と多量輸血群(≧240ml/day)17例の2群に分類し、臨床的特徴と凝固パラメータ、予後について解析した。【結果・考察】臨床的特徴・予後を表に示す。多量輸血群ではVA ECMOの頻度が高かった。年齢・性別・APACHE/SOFAスコアは両群間で差はなかった。管理面では、多量輸血群で、血小板値が低く、ヘパリン使用量が少ない反面、APTTは延長していた。ACTとECMO期間に差はなかった。VA ECMOでは、VVよりも出血が生じやすい可能性があり、輸血量に反映された可能性がある。【結語】輸血量が多い群ではVA ECMOの割合が多かった。VAではVVと異なる抗凝固戦略の必要性が示唆された。今後はさらに解析をすすめ、VAとVVの患者背景と管理法の違いを明らかにしていく。
著者
登張真稲 名尾典子 首藤敏元 大山智子
雑誌
日本教育心理学会第56回総会
巻号頁・発行日
2014-10-09

【問題と目的】 登張・名尾・首藤・大山(印刷中)は教師が生徒の協調性を評定できる尺度等を含む質問紙を作成し,小学校,中学校,高校の教師計96名に回答を求めた。この質問紙では教師たちに,「子どもたちをどのように育てたいと思うか」についても聞いている。本研究では,この質問への教師の回答について報告する。「協調的な人に育てたい」という期待が,他の期待と比較し,相対的にどのぐらい大きいかということについても検討する。【方法】研究対象:小学校教師61名,中学校教師21名,高校教師14名,計96名(男性50名,女性46名;20代~60代)質問内容:「子どもたちをどのように育てたいと思うか,どのような人になってもらいたいと思うか,お聞きします」という設問に対して,「自分の意見をしっかり主張できる人」等の15項目の中から,5つまで選ぶことを求めた。この15項目は,研究者4名で相談して,学校の教師が生徒に期待すると思われる項目として考案したものである。調査:2013年7月に小学校教師17名に,2013年8月に小学校教師44名,中学教師21名,高校教師14名,計79名に質問紙への回答を求めた。【結果と考察】 「子どもたちをどのように育てたいと思うか」という設問に対する15項目のそれぞれについて,小学校教師,中学校教師,高校教師,小学校+中学校+高校の各群で選択された比率を,多い順にTable 1に示した。 最も多く選択されたのは,「相手の気持ちを考えて行動する人」であった。「協調性の高い人」を最も良く表しているのは「いろいろな人と協調・協力できる人」であるが,この項目の選択は中高の教師では比較的高いものの、小学校教師では30%未満であり、中学生以上で特に期待される特性であることが示唆された。「相手の気持ちを考えて行動する人」「良い人間関係を築ける人」「道徳や規則をしっかり守る人」「人のために行動できる人」「人に迷惑をかけない人」「他人に対して寛容な人」も協調性の高い人に含めることが可能とも考えられるので、そうした回答を含めると、協調性を求める回答は多いと言える。協調性以外の特性で,多く選択されたのは,「夢を持ち夢の実現に向けて努力する人」,「自分の意見をしっかり主張できる人」等である。「自分に厳しい人」「自分を犠牲にして他者を助けることができる人」は優先順位が低かったと言える。 「自分らしさを大事にする人」は小学校教師で,「人のために行動できる人」「難しい問題にも恐れず立ち向かう人」は中学校教師で,「謙虚な人」は高校教師で相対的に多い傾向が見られた。 特に中学教師と高校教師の人数が少なかったため,この結果が常に再現されるかどうかは不明であるが,教師が生徒をどのように育てたいと思うかということが少し明らかになった。Table 1 「子どもたちをどのように育てたいか」という設問に対する選択の比率(5つまで)(%)【引用文献】 登張・名尾・首藤・大山 (印刷中) 日本心理学会第78回大会論文集
著者
金澤 朋美
雑誌
日本畜産学会第126回大会
巻号頁・発行日
2019-07-08

はじめに ウシの妊娠成立と維持には機能的な黄体が存在し,黄体からのプロジェステロン(P4)の持続的な分泌が必要である.これまで,直腸検査や超音波画像診断装置により測定した黄体サイズから血中P4濃度を評価してきた.近年,非侵襲的に血流の検査が可能な超音波ドプラ法を用い,黄体の血流を指標とした新たな機能評価が注目されている.本講演では,黄体の血流と機能の関係,ならびに胚移植(ET)における受胎性評価への適用について概説する.黄体の血管走行 黄体は血管が豊富な組織の一つであり,卵巣動脈から分岐する螺旋動脈を基部とし,黄体を取り囲むように血管網が発達している.排卵後,内卵胞膜から発達した血管が排卵窩へと侵入し血管網を構築して黄体細胞へ血液を供給する.この血管新生は黄体細胞でのP4合成に必要なコレステロールの輸送とP4の全身循環に必須である.黄体血流と機能 黄体サイズと血中P4濃度は正の相関があり,黄体発育に伴い両者は増加する.しかし,黄体サイズは発情後12日に最大となるが,P4濃度は14日まで増加し,黄体退行期では先にP4が減少し,次いで黄体サイズが減少する.一方,黄体血流面積(最大直径における血流面積)は黄体発育に伴い増加し14日に最大となり,16~17日に著しく増加した後,急激に減少する.黄体発育期や退行期では,黄体血流面積とP4濃度の増減が同期するため,超音波ドプラ法を用いた血流観察により機能的変化を鋭敏に評価できる.しかし,中期黄体期 (発情後9~12日)では黄体血流面積とP4濃度に相関が無いことから,黄体サイズが機能評価の指標としては優れる.黄体血流と受胎性 近年,性判別精液の普及に伴う安定的な後継牛の生産や黒毛和種子牛の販売価格高騰から,乳用牛への黒毛和種胚の移植が増加している.これまで,直腸検査や超音波画像診断装置または血中P4濃度による受胚牛の選定が行われてきたが,受胎率の向上には至っていない.そこで本研究では,黄体機能を反映する黄体血流と受胎性との関係,ならびにETにおける受胎性評価への適用を調べた. 分娩後50日以上経過したホルスタイン種経産牛58頭(平均産次数2.5 ± 1.7産,平均分娩後日数131.6 ± 82.3日)を供試し,発情後0,3,5,7及び14日に採血,超音波画像診断装置を用いて黄体と卵胞の形態及び超音波ドプラ法で黄体血流を調べた.7日に黒毛和種胚を移植,30日に妊娠診断をした後,受胎・不受胎群に分類し,共存卵胞,黄体面積,黄体血流面積(BFA),螺旋動脈基部の血流速度(TAMV)及び血中P4濃度を比較した.その結果,共存卵胞,黄体面積及び血中P4濃度は両群間で有意な差は無かった.一方,受胎群のBFAは高く推移し,不受胎群と比べて発情後7及び14日で有意(p<0.01)に高かった.受胎群のTAMVは高く推移する傾向が認められ,不受胎群と比べて14日で有意(p<0.01)に高かった.また,ロジスティック回帰分析より受胎に影響を及ぼす要因は,7日ではBFA,14日ではBFA及びTAMVであった.さらに,ROC(受信者動作特性)解析より受胎性評価に有用な因子は,7日ではBFA,14日ではBFA及びTAMVであり,カットオフ値はそれぞれ0.43 cm2(感度79.4%,特異度75.0%),0.63 cm2及び50.6 cm/s(感度85.3%,特異度91.7%)となった.以上の結果から,受胎群では発情後7及び14日のBFA及びTAMVは高く,また,これらを指標とすることで受胚牛の受胎性が高感度・高特異度で評価可能なことが示された.略歴: 平成17年3月 日本獣医生命科学大学 卒業平成17年4月 宮城県農業共済組合 入組平成29年3月 岐阜大学大学院 連合獣医学研究科 博士課程 卒業
著者
池田智子 山下純子 小澤靖枝
雑誌
日本教育心理学会第59回総会
巻号頁・発行日
2017-09-27

問題と目的 村上(1986)は,抑うつ傾向と成功失敗事態での原因帰属のパターンの関係について検討を行い,抑うつ傾向が高いほど,自分の内的要因(能力・努力など)とは関係のない,自分にとって統制不可能な外的要因へ帰属することを報告している。また,平松(2003)は,対人的傷つきやすさは成功場面よりも失敗場面における原因帰属スタイルとの関係が強く,対人的に傷つきやすい人ほどその失敗が自分の内部に内在していると帰属しやすく,また失敗の原因は安定的で,普遍的であると考える傾向があると報告している。 さて,近年,教育現場,臨床現場等多くの場面で,さまざまな不適応的傾向から起こる不適応状態に陥っても,それに立ち向かう力としてのレジリエンス(resilience)という概念に注目が集まっている(小塩・中谷・金子・長峰, 2002)。抑うつ傾向や傷つきやすさといった不適応傾向にある者が特有の原因帰属のスタイルを持っているならば,レジリエントな状態にある者も,適応状態につながる特有の原因帰属のスタイルを持っていると予想される。そこで,本研究では,大学生のレジリエンス要因と原因帰属スタイル,そして人間行動の原因帰属をどれくらい多く行うかという帰属の量,言い換えれば,原因帰属の複雑性の関係について検討することを目的とした。方 法調査対象者 女子大学生121名(有効回答者)。質問紙1. 二次元レジリエンス要因尺度(BRS)(平野, 2010)21 項目に5件法で回答を求めた。2. 帰属複雑性尺度(佐藤・川端, 2012)28項目に7件法で回答を求めた。3. 原因帰属スタイル測定尺度(村上, 1989)学業達成領域と対人関係領域のそれぞれ成功場面と失敗場面5場面における,原因帰属の外在性,安定性,普遍性について7件法で回答を求めた。手続き 授業時間を利用して,集団で質問紙調査を行った。結果と考察 二次元レジリエンス要因尺度の得点を因子分析した結果,「楽観性」「行動力」「自己理解」「他者理解」の4因子が抽出された。各レジリエンス要因因子の得点と帰属複雑性尺度の得点,各原因帰属スタイルの得点間の相関分析の結果(Table1),レジリエンス要因因子の「自己理解」「他者理解」と主に対人領域での成功場面において正の関連が見られ,他者や自分を理解する自信が高いほど,対人関係がうまくいった原因を自分に帰属し,また,その原因は安定的だとみなしていることがわかった。また,このレジリエンス要因の「自己理解」と「他者理解」の2つの因子の得点と原因帰属の複雑性得点との間に正の相関がみられ, 自己や他者を理解する自信が高いほど,多くの原因帰属を行なうことがわかった。これらの結果から,レジリエンス要因の高い者に特徴的な原因帰属のスタイルと量があることが示唆された。