著者
赤池 勇磨 金丸 智史 米田 純 久米 由花 荒川 豊
雑誌
研究報告コンシューマ・デバイス&システム(CDS)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.5, pp.1-8, 2014-05-15

本研究では,現実世界の対話における問題点を緩和し,コミュニケーションの円滑化を目的とした,AR (拡張現実) を用いた対話システムを提案する.提案システムは,没入型 HMD とカメラを組み合わせ,カメラに映る目の前の世界がリアルタイムに HMD に表示される.このとき AR により,対話者の顔の上にアバター (自分の分身となるキャラクター) を,対話者の隣に対話者に関する情報や話題となる情報を表示する.これにより,個人の持つコミュニケーション能力のレベルの差や,人間関係,対話者についての知識量の不足などによって起こるコミュニケーションの問題の緩和を狙う.今回,初対面の人と会話する必要がある代表的なコミュニケーションの場である 「合コン」 に対して本システムを使用し,提案システムの有効性を評価した.
著者
尾上 修悟 オノエ シュウゴ ONOE SHUGO
出版者
西南学院大学学術研究所
雑誌
西南学院大学経済学論集 (ISSN:02863294)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.49-96, 2016-09

ツィプラス政権は,シリザのマニフェストで明らかにされたように,欧州と決別するつもりはなかった。かれらは,あくまでもユーロ圏に留まることを前提として,これまでに遂行されてきた緊縮政策から脱出し,自律的で内発的な構造改革を推進することを意図した。その上で債権団に対して金融支援を求めること,これがツィプラス政権の基本的なねらいであった。果して,それはスムーズに達せられたであろうか。そこには様々な問題が潜んでいた。首相のツィプラスにしても財務相のヴァルゥファキスにしても,対外的な交渉は初めての経験であった。ヴァルゥファキスに至っては,政治家としての経験も皆無であった。かれらにとって,交渉の直接的対象となるユーログループがいかなる組織でどのように運営されているかを知る由もなかった。主たる交渉相手が,政治家というよりはむしろEUのテクノクラートであったことも,かれらにとって大きな障害になったことは容易に想像できる。他方で,他のユーロ圏のパートナーが,そもそもツィプラス政権の基本的政策に対して反対する姿勢を強く示したことは,交渉を一層難しくさせた。ドイツはもちろんのこと,南欧の盟主であり,ギリシャをサポートできるはずのフランスさえも,規律を守る責任と義務を強調しながらかれらに譲歩する姿勢を示さなかったのである。さらには,ツィプラス政権が一枚岩の政策を打ち出すことができなかったことは,大きなマイナス耍因となった。シリザの党内において,穏健派と過激派の対立が当初より見られたし,また連立与党内においても,シリザと独立ギリシャ人党との間で意見の食違いが生じたのである。以上のような様々な要因が絡む中で,ギリシャと債権団の金融支援交渉は初めから難航し,最終的に決裂した。本稿の目的は,そのプロセスを詳細に追跡しながら,一体,両者の間で何が問題になったかを明らかにすることである。そうすることによって,それらの問題が,ギリシャと欧州にとって何を意味するかを考えること,それが本稿の間接的動機となっている。
著者
山口 和彦
出版者
一般財団法人日本英文学会
雑誌
英文学研究. 支部統合号 (ISSN:18837115)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.67-76, 2016-01-20

Cormac McCarthy's Blood Meridian, or the Evening Redness in the West has been highly evaluated as a counter-history of the borderland, or as an epic novel. A number of critics, however, have pointed out its lack of ethical substance due to its abundant descriptions of violence, blood, and death. This essay examines the thematics of violence, and reinterprets BM as a work of fiction that explores the whereabouts and possibility of ethics in the postmodern and in the posthuman. The kid's characterization as a mother-killer is associated with the violence of American historiography, reflecting the rhetoric of America's expansion as biological development. It, in turn, defies the conventions of the Western-Bildungsroman genre: the building of American character through frontier experiences. Thus, BM foregrounds ontological problems of human existence and free will in the apocalyptic borderland. The desert in BM functions as a topos in which the judge practices his hyper-rational, hyper-nihilistic violence, which relativizes every system of values to the single purpose of life: "war," that is, "the truest form of divination." The kid, the judge's biggest rival, rejects being a subject of the "war," and, as a result, is cannibalized by the judge himself (not as a sacrifice for the common good or belief). His death, however, is presented as the unrepresentable, which demonstrates that this death itself is not usurped by the judge, who attempts to be the suzerain of the earth. The biggest dilemma the story presents is the kid's rejection of opportunities to kill the judge by exercising his own violent nature. This, paradoxically, leads to the possibility of a counter-ethics that continues to reject the judge's philosophy of violence. The counter-ethics (in the posthuman), in this sense, might be represented as one always already in a germinal stage, as shown in the epilogue.
著者
井上 博之
出版者
東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻
雑誌
言語情報科学 (ISSN:13478931)
巻号頁・発行日
no.8, pp.183-199, 2010

This paper aims to examine the relationship between the state of exile and Mexican representation in Cormac McCarthy's All the Pretty Horses (1992), which is the story of a modern Texan young man who loses his home and crosses the border south to Mexico in search of a "paradise" for cowboys. The protagonist, John Grady Cole, projects his own vision onto Mexico and then gets "betrayed" by the violent reality of Mexico. It is true that Mexico appears here as "the Infernal Paradise," but the country is also "another country," where foreigners can only know of the Otherness of Mexico, and at the same time functions as a "mirror" which reflects the reality of the U. S. John Grady loses his Mexican "paradise" and returns to Texas, where there is no place for home; he comes to be a cowboy on the border, who cannot belong to the U. S. nor to Mexico. This homelessness seems to join him to some Mexican-Americans who appear in the story, such as Luisa, Arturo, Abuela and a "Mexican" who has never been to Mexico. Thus, his "failed" crossing, paradoxically, makes him into a true border-crosser.
著者
小野田 亮介 松村 英治
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.407-422, 2016
被引用文献数
4

本研究の目的は, 低学年児童の意見文産出活動を対象として (1) マイサイドバイアスの克服におけるつまずきの特徴を解明し, (2) マイサイドバイアスを克服するための指導方法を提案することの2点である。2年生の1学級32名を対象とし, 1単元計5回の実験授業を行った。その結果, マイサイドバイアスの克服におけるつまずきとして, 反論を理由なしに否定する「理由の省略」と, 反論と再反論の理由が対応しないという「対応づけの欠如」が確認された。一方, 他者の意見文を評価する活動においては, 児童は反論想定とそれに対応した再反論を行っている意見文を高く評価していた。そこで, 児童は「良い意見文の型」を理解してはいるが, その産出方法が分からないためにマイサイドバイアスを克服できないのだと想定し, 児童が暗に有している「良い意見文の型」を児童の言葉から可視化する指導を行った。その結果, 児童は教師と協働で「良い意見文の型」を構築・共有することができ, その型を基に独力でマイサイドバイアスを克服した意見文産出ができるようになることが示された。
著者
柳岡 開地
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.395-406, 2016
被引用文献数
1

私たちは日常様々な場面でスクリプト(Schank & Abelson, 1977)を利用している。スクリプトは, 様々な場面に共通する要素と場面特異的な要素から構成される。本研究ではこうした要素間の区別を, 場面変更時に柔軟に利用できるようになる発達過程とその認知的基盤に関する検討を行った。実験1では, 幼児67名を対象に柳岡(2014)の人形課題を改良した課題を実施した。実験2では, 幼児66名を対象として2つの時期に分けて, 実験1と同様の人形課題, 実行機能を測定する赤/青課題, DCCS, 9ボックス課題の3課題, 語彙能力を測定する絵画語い発達検査を実施した。本研究の人形課題では, ある行き先にむけて人形に服を着せる途中に, 他者が別の行き先への変更を指示する課題であった。この課題では, "着替えスクリプト"の共通要素と固有な要素を区別して変更できるかどうかを測定した。結果, 幼児期後期になると, 2つの行き先間で変更する際に共通の要素を脱がさず固有の要素のみ変更していたことから, スクリプトを柔軟に利用できることが明らかとなった。さらに, その認知的基盤として実行機能の発達が関連することが示唆された。
著者
河合 輝久
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.376-394, 2016
被引用文献数
5

本研究の目的は, 大学在学時に抑うつ症状を呈し始めた友人が身近にいた大学生の視点から, 大学生の抑うつ症状に対する初期対応の意思決定過程と実際の初期対応を明らかにすることである。大学生12名を対象に, 身近な友人が抑うつ症状を呈し始めた時の初期対応について半構造化面接を行った。得られた結果について, グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析を行った結果, 「抑うつ症状を呈し始めた友人を援助する利益, 援助しないリスクを意識すると, 当該友人に援助的な初期対応を提供する」, 「抑うつ症状を呈し始めた友人を援助するリスク, 援助しない利益を意識すると, 当該友人に援助的な初期対応を提供せず, 距離を置いたり過度に配慮したりする」, 「専門的治療・援助の必要性を意識し勧めようとしても, 専門的治療・援助の利用勧奨リスクや専門的治療・援助の利用リスクを意識したり, 適切な専門的治療・援助機関を知らなかったりする場合, 専門的治療・援助の利用を勧めない」など8つの仮説的知見が生成された。大学生の抑うつの早期発見・早期対応においてインフォー マルな援助資源を活用する際には, 特に初期対応の実行に伴うリスク予期を軽減させるアプローチが重要であると考えられる。
著者
飯村 周平
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.364-375, 2016
被引用文献数
7

高校受験は, 多くの中学生にとってストレスフルな出来事である一方で, 生徒に心理的な成長をもたらす可能性もある。本研究では, パーソナリティ特性と知覚されたサポートが高校受験を通じたストレス関連成長に及ぼす影響を検討する。対象者は中学3年生(男子96名, 女子87名)であり, パーソナリティ特性, 知覚されたサポート, およびストレス関連成長で構成される尺度に回答した。階層的重回帰分析の結果, パーソナリティ特性と知覚されたサポートは, ストレス関連成長の全分散の30-50%程度を説明した。男子では, パーソナリティ特性と知覚されたサポートの交互作用がストレス関連成長と関連を示し, 女子では, パーソナリティ特性と知覚されたサポートの主効果のみが確認された。以上の検討から, パーソナリティ特性と知覚されたサポートの効果は, 生徒の性別や両要因の組み合わせによって異なることが示唆された。
著者
千島 雄太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.352-363, 2016
被引用文献数
2

本研究の目的は, 自己変容の想起がアイデンティティ形成にもたらす影響について明らかにすることであった。今のどのような自分を(現実自己), この先どのような自分に(理想自己)変えたいと思っているかを尋ねる項目に加えて, 志向性, 変容後のイメージ, 計画性を尋ねる項目が作成された。研究1では, 大学生393名を対象に質問紙調査が行われた。分析の結果, 自己変容を望まない者は, 自己変容を望む際に具体的な現実自己や理想自己を想起する者よりも, 反芻的なアイデンティティ探求が低いことが示された。研究2では, 大学生230名を対象に実験的操作を用いた2回の質問紙調査が行われた。分析の結果, 理想自己を伴って自己変容を想起した群は, 何も想起しなかった群と比べて, 反芻的探求が有意に減少した。また, 2つの研究を通して, アイデンティティ形成に影響を及ぼす要因は, 理想自己に変わった姿をイメージすることや理想自己への変容のための計画を持つことであることが明らかにされた。
著者
大西 恭子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.340-351, 2016
被引用文献数
5

本研究では, 一般的な学生の学業領域に固有の知覚された無気力について探索的な検討を行った。研究1では, 学業領域固有の無気力状態測定尺度(PASS-A)を作成し, 学業への取り組みの実際との関連から妥当性を検討した。研究2では, スチューデント・アパシーと抑うつとの相関から作成した尺度の特徴を検討し, クラスタ分析を用いて学業領域固有の知覚された無気力を類型化した。2つの研究の結果, 労力回避, 葛藤, 達成非重視という3つの知覚された無気力と, 無気力群, 低無気力群, 中間群, 達成非重視低群という4つの群が得られた。達成非重視は, これまでの無気力研究では検討されていないものである。その特徴は無気力的な行動が狭い範囲にとどまり, アパシー的な感情を感じることも少なく, 病的なモラトリアムではなく, アイデンティティの確立にむけて将来を考えている状態であることが示された。一方で学業課題の達成を非重視できない一群の学生は病的なモラトリアムの状態に固着しており, アイデンティティの確立に課題を抱きやすいことが示唆された。