著者
安川 徹 小瀬 由奈 笹野 寿基 吉田 貴大
雑誌
第16回日本薬局学会学術総会
巻号頁・発行日
2022-10-03

【はじめに】薬剤性せん妄は医薬品が原因のせん妄で、軽い意識障害や注意障害を中心に様々な精神症状が現れ、数時間から数日間で発症し、症状は日内変動することがある。せん妄は長期的な死亡率の上昇や認知機能の低下とも関連があり、せん妄の予防や早期発見が重要である。今回は在宅においてファモチジンによるせん妄を発症した患者への対応を報告する。【症例】患者は80代男性、薬剤の管理が難しく、高齢で病院までの移動手段がないため在宅開始。妻と二人暮らしで自転車で近所への買い出しをすることができ、会話は問題なく行える。夜間の逆流性食道炎のためファモチジン錠10mgを以前より服用しているが、現在は無症状。2週間に一度の自宅訪問中、知らない子供がいると幻覚症状の聴取。【結果】Drに幻覚症状が出ていることを報告、合わせてファモチジンがせん妄を引き起こす可能性があることを報告。Dr指示により翌日よりファモチジン中止し、レバミピド100mg追加、後日胃症状ないためこれも中止。中止3日後にはせん妄症状は収まったが、その後片足立ちタイムの低下や自転車での転倒などが見られ、判断力の低下が見られた。その1年後に急激な認知機能悪化によりメマンチン開始、施設入居となった。【考察】高齢者の場合認知症により幻覚などの症状が出ることがあるが、まずは服用している薬剤にせん妄のリスクがないか疑うことが重要である。ファモチジンはせん妄を引き起こす可能性があり、また認知機能障害の要因となりうる薬でもある。特に75歳以上の高齢者で慢性的に服用している患者では可能な限り使用を控えるとの報告がある。今回はせん妄症状がでた初期にファモチジン中止により症状改善されたが、その後認知機能が低下していることから、75歳以上の患者でファモチジンを使う必要がなければ早期に別薬剤への変更が必要である。また腎機能低下などが認められるときには75歳未満でも変更を考慮する。
著者
山根 朋巳 鈴木 桂子
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

幸屋火砕流(宇井, 1973)は、約7300年前(福沢, 1995)の鬼界カルデラ形成に伴った鬼界アカホヤ噴火の際に発生した大規模な火砕流である。鬼界アカホヤ噴火はプリニー式噴火に始まり降下軽石とイントラプリニアン火砕流を発生させ、続く幸屋火砕流の噴出で終了した(町田・新井, 2003; Maeno and Taniguchi, 2007; 藤原・鈴木, 2013)。幸屋火砕流堆積物は、給源近傍の薩摩硫黄島・竹島のほか、周辺の陸地(薩摩半島・大隅半島・種子島・屋久島・口永良部島)で分布が確認されている(宇井, 1973; 町田・新井, 1978; 小野ほか, 1982; Maeno and Taniguchi, 2007; 下司, 2009; 藤原・鈴木, 2013)。噴火当時の海水準は現在とほとんど変わらない(例えばTanigawa et al., 2013)ことや堆積物の分布から海上を流走したことは明らかであるが、海の存在が幸屋火砕流に与えた影響は検討されてこなかった。 鬼界アカホヤ噴火噴出物中には、SiO2 wt.% = 75前後の“高SiO2ガラス”とSiO2 wt.% = 65前後の“低SiO2ガラス”の2種類の火山ガラスが含まれ、幸屋火砕流堆積物中で両ガラスの量比が垂直方向で変化を見せる(藤原・鈴木, 2013)。このことから、藤原・鈴木(2013)は、火砕流噴火初期には高SiO2ガラスのみからなる火砕流が発生し、噴火が継続していく中で低SiO2マグマが噴出し始めたとした。 本研究では、露頭記載、火山ガラス化学組成分析、層厚・軽石最大粒径測定という手法を用いて、これまで議論に含まれてこなかった種子島の堆積物に基づき幸屋火砕流の流動・堆積機構を議論し、また、海の存在が幸屋火砕流に与えた影響を検討することを目的とした。 火山ガラス組成分析には、種子島の4地点で幸屋火砕流堆積物の基底部から上位へ一定間隔で採取したマトリックス試料を用いた。分析結果から、基底部からは高SiO2ガラスのみ、上位層準からは低SiO2ガラスが少量混ざるという垂直変化が得られた。これは給源近傍や薩摩半島・大隅半島(藤原・鈴木, 2013)と同じ垂直変化であり、火砕流噴火初期に発生した高SiO2ガラスのみを含む火砕流は薩摩半島・大隅半島・種子島に到達・堆積したことが明らかになった。また、最も低SiO2ガラスの含有量比が大きくなると考えられる最上位層準で検出される低SiO2ガラスの量比を見ると、大隅半島に比べて小さいことが分かった。これは、継続する火砕流噴火のより後期に発生した低SiO2ガラスを多く含む火砕流が大隅半島には到達したが種子島には到達しなかったことを示していると考えられ、種子島では大隅半島より層厚が薄いことと整合的である。 軽石最大粒径は一般的な大規模な火砕流堆積物とは異なり、給源からの距離に伴って小さくなる傾向を示さない。しかし、海上流走距離との関係を見ると、海上流走距離が大きくなると軽石最大粒径が小さくなるという比例関係が明らかになった。これより、幸屋火砕流が運搬できる軽石粒径の上限は海上流走距離によって決定されたとみなせる。また、この比例関係から海上を流走する幸屋火砕流の到達限界は約70 kmと推定され、種子島は火砕流の到達限界に近いことが分かった。 以上の議論より、幸屋火砕流は海上流走中に多くの火砕物を落としたことは容易に想像でき、鬼界カルデラを取り巻く海底には広範囲に火砕流堆積物が堆積していると考えられる。