著者
郡司菜津美 岡部大介# 青山征彦 広瀬拓海 太田礼穂 城間祥子 渡辺貴裕# 奥村高明#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

企画趣旨 パフォーマンス心理学とは,個体主義と自然科学主義を特徴とする心理学へのラディカルな批判から出発し(茂呂, 2019),人間の集合的発達を支えようとする新しい運動である。本企画では,このパフォーマンス心理学の具体について話題提供することで,これまでの学習と発達の捉え方との違いを示し,参加者皆で学習/発達観を発達させたい。 有元(2019)が「パフォーマンスという言葉を用いるということは,アームチェアに座って頭で考えることから心理学という学問を解放したいという意図がある」と述べているように,本企画では,学習と発達について主知的(intellectual)な理解をすることを目指すのではなく,理解のパフォーマンス化(performance turn)を目指してみたい。本企画では関連する2書『パフォーマンス心理学入門』(香川・有元・茂呂編著, 2019)および『みんなの発達!』(フレド・ニューマン著,茂呂・郡司・有元・城間訳,2019)から,発達とパフォーアンスに関する4つの話題を提供する。やり方を知らないことに取り組み,発達するためには,発達の場づくりを皆でパフォームする必要があり,それはアカデミアにしても同じことだ。パフォーマンス心理学においては,研究者自身もパフォーマンスの一部(青山, 2019)であることが前提とされる。 なお本企画は,SIG DEE(日本認知科学会 教育環境のデザイン分科会)が主催する。パフォーマンス・ターンをパフォーマンスする太田礼穂 本発表では,状況論におけるパフォーマンス心理学への転回(パフォーマンス・ターン)について理論的背景と方法論を比較し,発達的実践としての「パフォーマンス」の可能性を以下の2点から議論する。 まず,パフォーマンス心理学における,パフォーマンスの位置づけとその意味を紹介する。特にこのパフォーマンスが,個人に紐づけられた成果や技術という意味ではなく,たとえば乳幼児が遊びながら今現在の自分ではない自分に「成っていく」ような協働の過程に注目する理論的装置であることを紹介する。これを支えるヴィゴツキーの遊び論や演劇論,ヴィトゲンシュタインの言語ゲームの議論などの参照を通じ,パフォーマンス・ターンの意義を整理する。 次に,状況論との連続性と不連続性について紹介する。状況論(状況的学習論)では,人間の知的営みがいかに状況の中に埋め込まれ,その中に参加する人々がどのような存在になっていくかに注目する(たとえばLave & Wenger, 1991/1993)。これは人間の知的営みが社会的起源をもつというヴィゴツキーの理論に基づくものであり,人間の思考や学習の成り立ちを過度に内的プロセスから説明しようとする個人主義的アプローチとは異なる学習・発達に関する知見だといえる。パフォーマンス心理学もヴィゴツキーの理論に基づくという意味で,状況論と思想的起源を共有しているが,両者の違いはいったい何だろうか。本発表では「現実」の分析と制約という観点から,パフォーマンス心理学がもたらす「研究」と「実践」の接続の意味を考えていきたい。学校外における子ども・若者支援のパフォーマンス広瀬拓海 近年,貧困や格差が,子ども・若者にもたらす問題に関心が集まっている。本シンポジウムで話題提供者が注目するのは,以上のような問題を受けて,身近な子ども・若者のために勉強や食事,居場所を提供する新しい地域コミュニティをつくり出した人々の動きである。パフォーマンスとは,自分とは異なる人物に成ることであるが,それは既存の社会的な制約を超えた新しい活動やコミュニティを創造(ビルド)することと切り離せない。貧困問題という急速に現れて来た社会的な課題に対して,それらを良い方向に導いていくための地域住民のコミュニティビルドは,まさに今生まれつつある新しいパフォーマンスだといえるだろう。本発表では,以上のコミュニティビルド=パフォーマンスが,実際の社会的な文脈の中でどのように準備されてきたのかを検討していく。特に,このとき交換(柄谷,2001)の観点からそのプロセスを見ていくことで,パフォーマンスが歴史的な交換様式の変化の中で生じた問題への応答としてあらわれてくる可能性について議論する。教員養成におけるパフォーマンスの実際郡司菜津美 現在,新たに教員養成に求められていることとして,(1)主体的・対話的で深い学びの場作りができるようになること,(2)チーム学校の一員として仲間と共同することの重要性について理解させること,の2点が挙げられる。筆者は教員養成に携わる一人として,この2点を重視した指導を行ってきた。そのために応用演劇の一つである「インプロ」を用い,学生たちが教師としてのパフォーマンスを学習できるように重点を置いてきた。 ここでいう教師としてのパフォーマンスとは,やり方を知らないことに皆で取り組める場をつくることであり,講義ではこのことを先取り的に体験させた。またインプロとは,共同の価値を学習することができる演劇手法であり,集団の中で失敗を失敗にしない安心感のある場を作る体験ができるものである(Lobman & Lundquist, 2007)。講義ではインプロを用いたことで,学生たちはチームの一員として仲間と共同することの重要性に気付いたと考えられた。 ただ,こうした学生たちの姿は何かができるようになったというよりは,パフォーマンスの意味・意義を体験的に知ったという方が妥当であろう。そこから何が起きるのか?授業である以上,ここが最も重要である。 本発表では,筆者が実際に授業で実践しているパフォーマンスの効果について,皆さんと検討してみたい。みんなの発達のためのパフォーマンス城間祥子 『みんなの発達!』は,現代の社会や文化の中で感情の痛みをかかえて生きているごく「普通の人びと」の日常に,ソーシャルセラピーの実践的で批判的なメッセージを届けるために書かれた本である。この本には,パフォーマンス心理学の創始者のひとりであるフレド・ニューマンのソーシャルセラピーに参加した「普通の人びと」が数多く登場する。ソーシャルセラピーは,セラピーと称しているものの,従来の心理療法とは異なり,診断とそれにもとづく問題解決を目指さない。コミュニティを創造するプロセスを通して,自らのライフ(生活,人生,生き方)の全体を転換させる実践である。 ソーシャルセラピーグループは,参加者が自らの発達を創造することを支える場である。参加者は場に「ギブ」することで場の発達に貢献する。同時に,場の発達が個々の参加者に発達と成長をもたらす。グループで試みられた新しい生のパフォーマンスは参加者相互の「ギブ」によって完成し,問題がもはや問題として成立しなくなるような発達が生じるのである。 本発表では,ソーシャルセラピーのアプローチを理解する上で重要ないくつかの概念(ゲットとギブ,全体と個別,言葉,エクササイズ等)を共有するとともに,ニューマンの哲学と実践を,私たちの文化や日常を変化させるためにどのように用いていけばいいのかを議論したい。参考文献「パフォーマンス心理学入門 共生と発達のアート」 香川秀太・有元典文・茂呂雄二 編著 新曜社 2019「みんなの発達!ニューマン博士の成長と発達のガイドブック」 フレド・ニューマン・フィリス・ゴールドバーグ 茂呂雄二・郡司菜津美・城間祥子・有元典文 訳 新曜社 2019
著者
鴫原孝博 真壁寿
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【はじめに,目的】筋緊張亢進はADLやリハビリテーションに大きな影響を与えており,理学療法では痙縮筋の筋緊張低下を目的として,様々な徒手療法や物理療法が利用されている。しかし,手技の効果を比較検討した報告は見当たらない。本研究の目的は,脊髄運動細胞の興奮性の指標として,経皮的電気刺激法によるIa相反抑制と持続的伸張によるIb抑制が筋緊張に及ぼす影響を検討し,臨床におけるIa相反抑制とIb抑制の有効性を比較検討することである。【方法】対象は神経障害の既往がない健常成人10名(平均22.0±1.4歳)とし,測定脚は左下肢とした。ヒラメ筋を被験筋とし,M波の最大振幅及び最大M波の10%の振幅が得られる刺激強度でのH波振幅を測定し,H波は介入前の振幅の平均値に対する百分率で表した。介入は前脛骨筋に経皮的電気刺激を行う条件(以下,Ia条件)と下腿三頭筋に持続的伸張を行う条件(以下,Ib条件)の2条件とした。Ia条件では,前脛骨筋の運動点に対し経皮的電気刺激を行った。刺激波形は持続時間1msecの矩形波,刺激強度は強度を上げても収縮力が強くならない最小強度とし,立位で20分間行った。Ib条件では,足関節背屈20°の傾斜台上立位にて,下腿三頭筋に対し20分間持続的伸張を与えた。各条件の測定は1日以上の間隔をあけ,介入前後に誘発筋電図装置(日本光電,Neuropack MEB-2200)を用いてH波及びM波を導出した。導出肢位はベッド上腹臥位で膝関節軽度屈曲位,足関節中間位となるようポジショニングを行い,各条件前後に姿勢変化がないように配慮した。刺激電極は膝窩部に設置し,脛骨神経に対し経皮的電気刺激を行った。刺激頻度0.5Hz,刺激持続時間1msecの短波形とした。導出電極には表面電極を用い,関電極は脛骨結節と足関節内果の中間で,脛骨のすぐ内側のヒラメ筋上に貼付し,アースを刺激電極と関電極の中間点に貼付した。介入前と介入後0,5,10分毎に約15発ずつ測定し,規定したM波の振幅に近い波形を10発ずつ採用した。測定中は被験者に安静を保たせた。Ia及びIb条件前後の各時間の振幅変化率とその減少比率を求め比較検討した。また,各条件間の振幅変化率の差を各時間にて比較検討した。Ia及びIb条件前後の振幅変化率の差の検定には一元配置分散分析,その減少比率の検定にはχ2検定,各条件間での各時間の振幅変化率の差の検定には対応のあるt検定を用いた。なお,各統計学解析の有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り対象者のプライバシー侵害および人体に与える影響などに留意し,研究の意義と実験方法を口頭と書面で説明し,同意が得られた人を対象とした。【結果】Ia条件では介入直後10例中7例,5分後10例中6例,10分後10例中7例で有意なH波振幅の減少,10分後10例中1例で有意なH波振幅の増大が認められた(p<0.05)。これらの減少比率はすべて有意差が認められた(p<0.01)。また,振幅変化率の全体平均値は各時間に有意差は認められなかった。Ib条件では介入直後10例中8例,5分後10例中7例,10分後10例中5例で有意なH波振幅の減少が認められた(p<0.05)。これらの減少比率はすべて有意差が認められた(p<0.01)。また,振幅変化率の全体平均値は各時間に有意なH波振幅の減少が認められた(p<0.05)。なお,Ia条件とIb条件の各時間での振幅は,介入直後と10分後で,Ib条件で有意に減少率が高いことが認められた(p<0.05)。また,5分後では有意差はないが,Ib条件で減少率が高い傾向にあった。【考察】今回の研究において,経皮的電気刺激法によるIa相反抑制と持続的伸張によるIb抑制が筋緊張の抑制を目的とした理学療法手技として有効であると言える。Ia相反抑制後のH波振幅変化率の全体平均値の結果では,興奮性の反応が影響していたことが考えられる。条件間の比較では,Ib抑制がより筋緊張抑制手技として有効であることが示唆された。しかし,10例中1例で有意にIa相反抑制の効果が高い例が認められ,Ib抑制の効果が高いとは必ずしも言い切れない。今後,筋緊張の亢進を有する患者に対して,その他の手技も含めてその効果を比較検討する必要がある。そして,臨床でより有効な筋緊張抑制手技を選択するには,各手技の最も効果の高い介入条件や,対象者の身体的及び精神的な特性の違いによる各介入条件の効果量の変化についても明らかにすることが重要である。【理学療法学研究としての意義】筋緊張抑制手技を選択するにあたって,より効果的な手技を選択し,患者のADLや円滑なリハビリテーション進行の基盤となる可能性が高い。
著者
野田 陽
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

ニューラルネットで最適化されたスペクトルフィルタを用いて、赤外線反射光から材質を判別する手法を提案する。通常はフィルタとして特定の波長に着目したバンドパスフィルタを用いる。しかしながらバンドパスフィルタは高価である。そこで本論文では複雑な吸収スペクトルを持つ有機材料をフィルタとして利用した。この有機材料フィルタの配合比をニューラルネットで最適化する事により、非常に安価で軽量な材質判別装置を自動で設計できる。不純物を含むプラスチック片がPP(ポリプロピレン)であるか非PPであるかを判別するタスクにおいて、赤外線分光スペクトルを用いるニューラルネットと同等の精度(99.6%)が得られた。
著者
北本 朝展 市野 美夏
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

1. はじめに過去の書籍や文書から情報を抽出し、それを統合することで、過去の世界を復元して分析する。このような歴史研究を我々は「歴史ビッグデータ」と呼ぶ。それはこのアプローチが、現代を対象に行われる「ビッグデータ」の研究と同じ構造や同じ目的を持つため、現代ビッグデータを過去に延長していくことに意味があると考えるからである。しかしそこに立ちはだかるのがデータ構造化である。過去のドキュメントにくずし字(手書き文字)で書かれたデータから、過去の世界を計算処理で復元するための高品質データを整備するには、デジタル化から品質管理に至る長大なデータ構造化ワークフローを支援する情報基盤が必要である。しかし自動的な構造化は困難なため、人間と機械の共同作業による効率的なデータ構造化ワークフローが必要である。そこで本研究は、非構造化データ(画像・テキスト)を構造化データ(解析準備データ)に変換するワークフローを設計し、再利用かつ検証可能な人文学データセットを構築するための情報基盤を構築する。EUでは「Time Machine Flagship」(https://timemachineproject.eu/)という巨大プロジェクトが200機関以上の参加を得て立ち上がりつつある。そして、イタリアのベニスやオランダのアムステルダムなど、都市の歴史のビッグデータを集めて時空間を自由に行き来する「タイムマシン」の構築が始まっている。この動向は日本やアジアにはまだ波及していないため、本研究で構築する情報基盤は日本の拠点となってグローバルな活動と連携できる可能性がある。2. 課題過去の世界を復元するための研究はこれまでも数多く行われてきたが、歴史ビッグデータ研究は以下の点で既存のアプローチとは異なる。第一に、対象とするデータの種類である。例えば古気候研究の場合、気候に関するあらゆるデータを用いるため、書籍や文書に限らず、自然界に残された痕跡(アイスコアや年輪などのプロキシデータ)なども活用することになる。しかし歴史ビッグデータの対象はあくまで人間が残した記録に限定し、文字記録の読み解きを含めた新しいデータ構造化の研究に焦点を合わせる。第二に、対象とする分野である。単一分野の研究では、過去の世界の一部の現象のみを対象とし、それ以外の現象には注意を払わないことが多かった。例えば同じ日記を研究対象としていても、書誌データや抽出データは研究者グループを越えて共有されず、多数の研究者が同じような作業を繰り返す状況に陥ることが多かった。この状況を解決するため、歴史ビッグデータは分野横断的に活用可能な構造化ワークフローを提供し、情報共有のメリットを活用した研究を可能とする。3. データの掛け合わせと読み替え現代ビッグデータを過去に延長するには、技術の過去への延長に加えて、コンセプトや方法論の延長も重要な課題である。第一に、データの掛け合わせとは、異なるデータを重ねて意外な関係性を見出すという方法論である。その典型的な例が地図である。複数のデータを位置合わせして重畳表示することで、データから得た洞察をアクションにつなげることができる。そこで課題となるのが、APIの相互運用性や語彙の共有などである。この問題を解決するために、我々は研究グループの今後の研究課題を共有し、作業の重複を避けてお互いの強みを活かすことで、限られたリソースを最大限に活用した情報基盤を開発している。第二に、データの読み替えとは、ある目的に作られたデータを別の目的に再利用することの価値を見出す方法論である。現代ビッグデータにおいて有名な例は、車の走行データを震災時の通れる道マップに再利用するという事例であるが、同様のアイデアは歴史ビッグデータでも有用なはずはずである。例えば、人名録の変遷は気候変動の社会影響評価に使えないかなど、柔軟に発想を巡らせてデータを創造的に活用する必要がある。4. 同床異夢を越えて歴史ビッグデータ研究は、多分野を融合した研究である。もちろん人文学と理工学など文理の間には大きな違いがあるが、理工学の中でも分野による考え方の違いは決して小さくはない。こうした違いをどのように乗り越えるか。我々の基本的な考え方は、まず同床異夢であること、すなわち共同研究のメンバーが目指す個々の夢は異なることを認めた上で、なお同床であることの意義を積極的に評価するというものである。例えばデータやツールは夢が異なるものの間でも共有できるはずである。こうした共有のメリットを最大化した上で、個々の研究者は過去世界の異なる部分の復元に挑むというのが歴史ビッグデータ研究の構想である。
著者
平澤 直之 清水 大地
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

本研究では,近年広く普及しつつあるブレイクダンスにおいて,動作を自動的に判別してその結果を可視化するシステムを開発した.その際,加速度センサーを組み込んだ靴(スマートフットウェア Orphe)を使用し,自然な環境下での動作を深層学習によって分類し,その結果をダンサーにフィードバックするシステムの開発を目指した.本発表では,そのシステムの紹介を行うとともに,上記のシステムを応用して動作のオリジナリティーの程度を評価する事例についてもその途中経過を報告する.また,この事例がダンスカルチャーに組み込まれることによってダンサーにどのような影響を及ぼすか考察する.
著者
園田 亜斗夢 鳥海 不二夫 中島 寛人 郷治 雅
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

情報が電子媒体で発信されるようになり,情報の即時性や情報量の増加が進んでいる.そのため,読者が情報を選択する際の労力は増加しており,そのような負担を減らす推薦サービスの導入も進んでいる.一方で,過度な推薦により,ユーザに偏った情報のみを提供するフィルターバブルが発生しているとの指摘もある.本研究では,推薦に先立つ記事の分類により,推薦システム導入前の行動変容を分析し,閲覧回数等が行動変容に与える影響を分析した.
著者
水田 孝信
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

近年,投資ファンドがある業界のすべての企業の大株主となる``水平株式保有''(horizontal shareholding)(または``共同保有''(common ownership)ともよばれる)が,公正な企業間の競争を阻害し,産業の発展を妨げているという主張が増えてきた.特にパッシブファンドによる水平株式保有が大きな割合となっており,大きな議論となっている.本研究では,人工市場モデルを用いてパッシブファンドの増加が企業間競争と市場価格へ与える影響を分析した.その結果,パッシブファンドの割合がさほど大きくなくても,競争を阻害する可能性を示した.また,競争に勝った企業の市場価格が増加したファンダメンタル価格以上に上昇して割高となり競争を促す株主が離れて競争力を弱くする一方,競争に負けた企業の市場価格が減少したファンダメンタル価格よりさらに下落して割安となり競争を促す株主が増え競争力を強くして,企業間競争のバランスをとるメカニズムが存在する可能性があることを示した.パッシブファンドの増加はこのようなメカニズムを弱める恐れがあると考えられる.
著者
神嶌 敏弘 赤穂 昭太郎 麻生 英樹 佐久間 淳
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

公平配慮型分類とは,性別などの公平性の観点から影響してはならい情報が採用の可否などの判定に関与しないようにするクラス分類問題である.今までにロジスティック回帰について正則化項を加える方法を提案していた.ここでは,確定的な決定則の影響を明示的に考慮することで予測精度と公平性のより良いトレードオフを実現できることを示す.
著者
浅谷 公威 川畑 泰子 鳥海 不二夫 坂田 一郎
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

オンラインソーシャルネットワーク(OSN)上の友人関係やその中での会話のネットワーク構造は,同類選好と優先的選択によりその多くの部分が説明される.しかし,これらのメカニズムには特定の属性を持つ人間への別の属性を持つ人間からの一方的な選好は想定されていない.OSNには地理的制約がなく検索性も高いため,一方的な選好によるコミュニケーションが起こりやすいと考えられる.我々はTwitterにおける家出に関するツィートとそれに対するリアクションを抽出し,ユーザー間のネットワークを分析することで,OSN上に数千人単位の一方的な選好によるコミュニケーションが存在すること確認した。そこでは,お互いに関係が疎な2つのグループ間(誘い出す側と,家出を表明する側)で一方向のコミュニケーションが存在する.さらに、前者のグループのユーザーの2割程が後者への一対多のコミュニケーションをとっており,明確な一方的な選好が存在することが想定される.また,そのような一対多のコミュニケーションをとるユーザーからのツィートは誘い出しの意図が想定される割合が非常に高いことが分かった.
著者
福島 宙輝
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

本稿では一杯の酒を呑んでからその表象が構成されるまでのモデルを示す.モデルでは多相的な表象が,投射的に構成されるという流れを,類推を基本概念として示す.なお論文の前半においては「多相性」の表記バリエーションを検討している.
著者
高野 雅典 角田 孝昭
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

共感,愛情,尊敬を与えるなどの社会的支援は,子どもの健康を高め,ストレスを軽減する.我々はいじめ被害者に対するソーシャルサポートをオンラインコミュニケーションによって促進することを目指す.本研究では実生活でのいじめ(オフライン)とオンラインコミュニケーションによるサポートに焦点を当てる.オンラインソーシャルサポートがいじめ被害者にどのように影響を及ぼし,どのような条件がソーシャルサポートが肯定的な効果をもたらすかを,アバターチャットサービスのコミュニケーションデータを分析することによって調査する.我々は仮想世界での少人数の友人に対する「いじめ被害の告白」が,いじめ被害者に正の効果をもたらすことを発見した.そこにはいじめ被害者の自己開示的発言が含まれていた.したがって,いじめ被害者による自己開示がソーシャルサポート提供を促すために重要であることを示唆している.
著者
川村 隆浩 江上 周作 長野 伸一 大向 一輝 森田 武史 山本 泰智 古崎 晃司
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

本論では,2018年に国内で初開催するナレッジグラフを対象とした推論チャレンジについて述べる.近年,深層学習をきっかけに人工知能(AI)技術への関心が高まっている.今後,AI技術は幅広く普及し,さまざまな社会システムに埋め込まれるようになるだろう.しかし,安全・安心に社会の中でAIを活用していくためには,AIによるシステムの動作を正しく解釈,検証し,品質を保証する技術が必要となる.そこで,本会セマンティクWebとオントロジー(SWO)研究会では,解釈可能性なAIに関する最先端技術の共有と研究開発の促進を図るため,推論に関するチャレンジを開催する.具体的には,広く知られたシャーロックの推理小説をナレッジグラフ化し,そこから犯人を推理(推論)する技術を広く一般から募集する.本チャレンジは2018年度人工知能学会全国大会開催当日より約半年間の日程でスタートする.是非,チャレンジへの参加をご検討されたい.
著者
小鷹 研理
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

筆者の研究室は、ここ数年、一般的なHMD環境を使って、体験者の身体の外観に対応する「アバター」と「視点」を擬似的に分離する、種々のインタラクションを構成してきた。こうした「三人称的自己」は、夢や幽体離脱において立ち現れる特異的な自己のあり方と深く関係する点が重要である。本講演は、研究室の近年の試みを紹介するとともに、HMDによる構成的空間を通して「三人称的自己」を解明することの意義を議論する。
著者
加納 靖之 橋本 雄太
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

京都大学古地震研究会では,2017年1月に「みんなで翻刻【地震史料】」を公開した(https://honkoku.org/).「みんなで翻刻」は,Web上で歴史史料を翻刻するためのアプリケーションであり,これを利用した翻刻プロジェクトである.ここで,「みんなで」は,Webでつながる人々(研究者だけでなく一般の方をふくむ)をさしており,「翻刻」は,くずし字等で書かれている史料(古文書等)を,一字ずつ活字(テキスト)に起こしていく作業のことである.「みんなで翻刻」では,正式公開から約1年で,東京大学地震研究所図書室が所蔵する資料のうち「古文書」に分類されデジタル画像化されている421点のうち386点のの翻刻がひととおり完了している.総入力文字数は約356万文字である.古地震(歴史地震)の研究においては,伝来している史料を翻刻し,地震学的な情報(地震発生の日時や場所,規模など)を抽出するための基礎データとする.過去の人々が残した膨大な文字記録のうち,活字(テキスト)になってデータとして活用しやすい状態になっている史料は,割合としてはそれほど大きくはない.「みんなで翻刻」によって大量のテキストデータを生成することができた.このテキストデータに対して,計量テキスト分析を行なった.分析には,計量テキスト分析(テキストマイニング)のために開発されたソフトウェアであるKH Coder(http://khc.sourceforge.net/)を利用した.まず,頻出語の計数を行った.頻出語の上位には「地震」「崩」「水」「人」「山」「火」「町」「寺」「宿」「川」「破損」などが挙がった.これらは,地震とその被害に関する語であり,既刊の地震史料集(たとえば,『大日本地震史料』,『新収日本地震史料』など)による翻刻からの印象とほぼ同じである.この印象を定量的に評価できたことになる.また,共起関係についても分析した.「地震」という語には,方角や地名に関する語だけでなく,被害に関する語が伴なうことが多いことがわかった.それぞれの資料で対象となっている地震によって,被害のあらわれ方が違うことから,資料ごとにより詳細に分析することによって,テキスト分析から地震の様相を抽出できる可能性がある.これらのテキスト分析には適切な辞書が必要である.資料の年代や地震記事であることに対応した辞書を作成する必要がある.既存の辞書を利用しつつ,ここでの分析の結果を再帰的に反映させることによって,よりよい辞書を作成できるだろう.謝辞:「みんなで翻刻【地震史料】」は京都大学古地震研究会によって公開・運営されている.「みんなで翻刻【地震史料】」では,東京大学地震研究所所蔵の資料の画像データを利用した.「みんなで翻刻【地震史料】」の翻刻は,有志の参加者によって実施されている.
著者
HyeJeong Kim Hitoshi Kawakatsu Takeshi Akuhara
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

Conventional receiver function methods assume horizontal geometry and isotropy for velocity discontinuity analysis. However, in subduction zones, the isotropy assumption unlikely holds. In case of anisotropic velocity or dipping velocity discontinuity P-to-S receiver function show variation by back azimuth (Shiomi & Park, 2008). We employed the harmonic decomposition method (Bianchi et al. 2010, Agostinetti & Miller, 2014) to extract non-isotropic component from receiver functions to image the Pacific plate subduction under Japan. The harmonic decomposition gives five components (isotropic, cos(kθ), sin(kθ) terms for k=1, 2) from linear matrix inversion using radial and transverse receiver functions. The preliminary analysis using data from three Hi-net stations (ANIH, IHEH, KZMH) located along the 40N latitude with varying distance from trench shows following features: (1) Within first harmonics, the EW (sin(θ)) component is larger than the NS (cos(θ)) component at timing of the oceanic Moho phase. This well reproduces westward dipping of the Pacific slab. (2) In upper most crust (0-1 s), amplitude of k=2 harmonics is larger than k=1 harmonics, which implies large horizontal symmetric axis anisotropy. (3) Between continental Moho and top of subducting oceanic crust, large k=1 and k=2 harmonics are observed in mantle wedge . (4) Below subducting oceanic crust, both k=1 and k=2 harmonic components decrease consistently for all three stations, but locally large k=1 harmonics appear. Signature of previously reported hydrated mantle above subducting oceanic crust (Kawakatsu & Watada, 2007) is observed in station ANIH. At later positive peak, large amplitude of k=1 and k=2 harmonics is observed, which might indicate existence of dipping structure having horizontal symmetric anisotropy beneath. Our results show a possibility of applying the harmonic decomposition method to image non-isotropic component of subduction zones using receiver functions.
著者
長谷川 精 吉田 英一 勝田 長貴 城野 信一 丸山 一平 南 雅代 淺原 良浩 西本 昌司 山口 靖 Ichinnorov Niiden Metcalfe Richard
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

Spherical Fe-oxide concretions on Earth, in particular in Utah, U.S.A, have been investigated as an analogue of hematite spherules discovered in Meridiani Planum on Mars, in order to support interpretations of water-rock interactions in early Mars. Although several formation mechanisms have been proposed for the concretions on Earth and Mars, it is still unclear whether these mechanisms are viable because a precise formation process and precursor of the Fe-oxide concretions are missing. Here, we show evidence that Fe-oxide concretions in Utah and newly discovered Fe-oxide concretions in Mongolia, had spherical calcite (CaCO3) concretions as precursors. Observed different formation stages of calcite and Fe-oxide concretions, both in the Navajo Sandstone, Utah, and the Djadokhta Formation, Mongolia, indicate the formation process of Fe-oxide concretions as follows: (1) calcite concretions initially formed by groundwater evaporation within aeolian sandstone strata; (2) the calcite concretions were dissolved by infiltrating Fe-rich acidic waters; and (3) mobilized Fe in acidic waters was fixed to form spherical FeO(OH) (goethite) crusts on the pre-existing spherical calcite concretion surfaces due to the pH-buffering dissolution reaction. The similarity between these Fe-oxide concretions on Earth and the hematite spherule occurrences in Meridiani Planum, combined with evidence of acid sulfate water influences on Mars, suggests that the Martian spherules also formed from dissolution of pre-existing carbonate concretions. Formation of recently discovered spherical-shaped nodules in Gale crater on Mars can also be explained by a similar process, although evidence of acid water influence is not obvious in lower strata of the Gale crater. The hematite spherules in Meridiani Planum and spherical nodules in Gale crater are possibly relics of carbonate minerals formed under a dense thick carbon dioxide atmosphere in the past.