著者
川幡 穂高
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

陸の気候は私達の生活に大きな影響を与えてきました.その中でも,気温は重要ですが,寒冷限界値を除くと,気温を高精度にデジタルで復元することはこれまで難しいとされてきました.今回,西日本(広島)の初夏の気温を誤差0.2℃程度で3,000年間にわたる気温を初めて復元しました.西日本(広島)における気温の復元によると,最高気温は平安初期(西暦820年)の嵯峨天皇の頃で,気温は25.9℃でしたが,その後,断続的に下がっていき,紫式部が活躍した頃が中間点で,平清盛の時代である平安後期(11~12世紀)には,24.0℃まで下がりました.逆に,時代を遡ると天皇中心の貴族社会の開始となった聖徳太子の活躍した飛鳥時代初期(600年頃)には極小気温,24.7℃を記録しました.ヨーロッパでは10~13世紀を中心に中世温暖期(950~1250年頃)と呼ばれる時期が報告されています.グリーンランドでも9~12世紀にかけては中世温暖期の恵みにあずかり,飼料用の穀物が栽培され,家畜が飼育されました.クメール王朝の繁栄した時代は,アジア大陸では中世温暖期に相当していたので,アジアモンス-ンによる降雨に恵まれた環境であったと考えられています.同様な温暖期は,アメリカ合衆国,中国などでも確認されています.しかし,西日本では反対に,11~12世紀にかけては大きな寒冷期でした.これは,西日本のみならず,北海道南部の噴火(内浦)湾から得られた結果においても,平安時代の最高温度から最低温度まで約6℃降下していることがわかりました.この大寒冷期の原因の有力候補として,大規模なエルニーニョ状態が考えられます.なぜなら,日本列島は,エルニーニョ期には冷夏となる傾向があるためです.実際,復元された南方振動指数に基づくとエルニーニョ状態であったことが示唆されています.Reference: 1) Kawahata, Matsuoka, Togami, Harada, Murayama, Yokoyama, Miyairi, Matsuzaki and Tanaka (2016) Quaternary International, in press. DOI:10.1016/j.quaint.2016.04.013.2) Kawahata, Ishizaki, Kuroyanagi, Suzuki, Ohkushi (2017) Quaternary Science Reviews, 157, 66-79.3) Kawahata, Hatta, Yoshida Kajita, Ota, Ikeda, Habu (2017) Quantitative reconstruction of SSTs(ATs) in northern Japan for the last 7 kiloyears Implication to the society of Jomon people. Submitted.
著者
川口 真帆 小野 亜佳莉 神谷 万里子 水上 修作 向井 英史 川上 茂
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

【目的】mRNA封入脂質ナノ粒子(mRNA-loaded Lipid Nanoparticle; mRNA/LNP)は、新型コロナウイルスのワクチンとして筋肉内投与により世界的に使用されている。mRNA/LNPは生体内で分解されやすいmRNAを安定に保持し細胞質まで送達できるという利点があり、その機能性はmRNA/LNPの脂質構成に起因する。一方で、LNPは肝への集積、高いタンパク発現が知られており、肝毒性が懸念される。これは、筋肉内投与されたLNPが筋肉から肝臓へ到達するまで血中で安定な状態であるためと考えられる。そこでLNP構成脂質のうち、脂質膜の安定性に寄与するコレステロールの含有量を減らすことでLNPを不安定化し、筋肉から肝臓へ到達する前に崩壊させることができるのではないかと仮説を立てた。本研究では、コレステロール含有量を減少させたmRNA/LNPを作製し、細胞およびマウス筋肉内に投与後、タンパク発現を比較検討した。【方法】脂質組成のうちコレステロール含有量を60, 40, 20, 10 mol%としたluciferase mRNA/LNPを作製し、その物性について粒子径とmRNA封入率の評価を行った。作製したLNPをmRNAが0.1 µg/wellとなるようにHepG2細胞に添加し、luciferase発現を評価した。次に、ddY雄性マウス右大腿部筋肉に2 µgのmRNA/LNP投与し、4.5時間後に筋肉と肝臓を摘出し、luciferase発現を評価した。【結果】Luciferase活性測定の結果から、細胞ではコレステロール含有量の異なるmRNA/LNP間でluciferase発現は同程度であった。一方、マウスではコレステロール含有量の低いmRNA/LNPにおいて、肝臓での遺伝子発現と相対的に比較して、投与部位である筋肉でluciferase発現が有意に高かった。【結論】LNPの脂質組成のうちコレステロール含有量を減少させると、肝臓におけるluciferase発現を抑えられることが示唆された。本結果は、今後のmRNA/LNPの製剤設計において有益な基礎的知見となることが期待される。
著者
高津梓 佐藤知洋# 田上幸太# 柘植雅義 米田宏樹#
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

目 的 特別支援学校では,児童生徒一人一人に対して個別の教育支援計画および個別の指導計画が作成されている(文部科学省, 2009)。しかしながら,個別の指導計画の書式は自治体や学校によって異なっており,目標や手立ての設定も各教員にゆだねられている部分が大きい。実態から目標,手立てへの記述やつながりが適切ではないことが指摘されたり,評価の視点が定まりにくく次年度の担任へ継続されにくかったり,また,家庭との共有の困難さなどの課題も生じている。 本研究では,知的障害特別支援学校小学部において,児童の育ちについて段階的に目標を設定し,PDCAサイクルを繰り返すことのできる個別の指導計画の書式作りに取り組んだ。方 法対象: A知的障害特別支援学校小学部(1~6学年)の個別の指導計画方法: (1)目標の縦断的な分析および見直し 小学部6年児童の事例について,これまでの個別の指導計画計画の目標とその変化を縦断的に分析し整理した。従来の書式では,個別の指導計画で「目標」と「手だて」の欄,通知表で「目標」と「評価」の欄を設け,それぞれ並列して記述していた。その際,目標欄に長期的な目標を設け,手だて欄に細分化した目標と段階的な方略を挙げており,目標欄における目標の達成や変化が短期間では見え辛いという課題が挙げられた。また,包括的な目標に対しエピソードを交えた文章表記の評価を行っており,評価の視点が定まりにくく,教師と家庭で認識を共有することに困難が生じる場合もあった。このことから,個別教育計画の目標と手だての設定および記載方法を再検討した。(2)目標設定の方法及び評価の在り方の再検討 上記課題を踏まえ,目標設定および評価の方法や基準を検討した。個別の指導計画の書式については,「目標」「手だて」「授業」「評価(4期)」「備考」の欄を設け,目標から評価までが一枚で見えるようにした。通知表の書式は別途作成し,授業内容と活動の様子を記述するようにした。また,記述方法等の改善を行った(Table 1)。(3)新書式運用後の目標の変化の検討 新書式運用後の評価として,児童の目標量の変化について検討した。対象: X-1年度(前書式)およびX年度(新書式)の1~6学年在籍児童,各23名の個別の指導計画。方法: 各児童の前期評価時の目標欄から,「達成した目標」「新しく設定された目標」「修正した目標」の数を算出し,合算した。達成した目標については,「達成した」「できるようになった」という評価が記述されているものを対象とした。(4)保護者アンケートに基づく妥当性の検討改善した個別の指導計画について,X年度末に保護者アンケートを実施し妥当性を検討した。結 果 児童の目標の変化を,Figure 1に示した。達成したと明確に示された目標が20件から175件と大幅に増加し,新規に設定された目標についても増加した。さらに,修正された目標が31件あった。 保護者アンケートでは,新書式について96%が「満足」,目標の授業内容への反映について89%が「あてはまる」と回答があった。さらに,自由記述や連絡帳,面談において,「新しい書式は今できることや課題がわかりやすい。家庭でもがんばりたい」などのポジティブなコメントが寄せられた。考 察 個別の指導計画において,段階的な目標と手だて,短期間での評価機会を設定することで,児童一人一人の目標の達成と新規目標の設定が活性化された。また,児童に関する評価だけでなく目標や手だてに対する評価を行うことにより,実態に合わなかった目標や手だてについての振り返りが行われ,より実態に合った教育活動を提供できるようになった。達成した目標に加えて,修正した目標や手だては,児童の学びの過程の詳細な記録となると考えられる。付 記 本研究は筑波大学附属大塚特別支援学校小学部研究の成果であり,初村多津子氏,田中翔大氏,北村洋次郎氏,杉田葉子氏,菅野佳江氏,當眞正太氏,飯島徹氏,小家千津子氏,仲野みこ氏,新城理奈氏,との共同研究である。また,JSPS科研費18H1037による研究の一部である。