著者
吉田 英一 山本 鋼志 長谷川 精 勝田 長貴 城野 信一 丸山 一平 南 雅代 浅原 良浩 山口 靖 西本 昌司 Ichinnorov Niiden Metcalfe Richard
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

海成堆積岩には,球状の炭酸塩コンクリーション (主にCaCO3)が普遍的に産出する. その形状は多くの場合,球状を成し,かつ非常に緻密で風化にも強く,またその内部から保存良好の化石を産する. しかし,なぜ球状をなすのか,なぜ保存良好な化石を内蔵するのかなど,その形成プロセスはほとんど不明であった.それら炭酸塩球状コンクリーションの成因や形成速度を明らかにすることを目的に,国内外の試料を用いて,産状やバリエーションについての多角的な調査・解析を行ってきた.その結果,生物起源の有機物炭素成分と堆積物空隙水中のカルシウムイオンが,急速(サイズに応じて数ヶ月~数年)に反応し,炭酸カルシウムとして沈殿しつつ成長していくことを明らかにした(Yoshida et al.,2015, 2018a).そのプロセスは,コンクリーション縁(反応縁)の幅(L cm)と堆積物中での重炭酸イオンの拡散係数(D cm2/s)及び反応速度(V cm/s)を用いてD = LVと単純化できることから,海成堆積物中の球状コンクリーションに対し,汎用的にその形成速度を見積もることができる(Yoshida et al.,2018a,b).また,風成層中においては,アメリカ・ユタ州のナバホ砂岩層中の球状鉄コンクリーションがよく知られているが,ゴビ砂漠やヨルダンの風成層中からも産出することを初めて確認した.これらの球状鉄コンクリーションは,風成層中の空隙水の蒸発に伴って成長した球状炭酸塩コンクリーションがコアとなり,鉄を含む酸性地下水との中和反応によって形成されることを明らかにした(Yoshida et al.,2018c).さらに,このような酸性水と炭酸塩との反応は,火星表面堆積層中で発見された球状鉄コンクリーションの生成メカニズムと同じである可能性がある(Yoshida et al.,2018c).本論では,これら球状の炭酸塩および鉄コンクリーションの形成メカニズムと,将来的な研究の展開について紹介する.
著者
長岡 優 西田 究 青木 陽介 武尾 実 大倉 敬宏 吉川 慎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2011年1月の霧島山新燃岳の噴火に際し、地殻変動の圧力源が新燃岳の北西5km、深さ約8kmの位置に検出され、噴火に関わるマグマだまりであると考えられている(Nakao et al., 2013)。しかし、このマグマだまりを地震学的手法によってイメージングした研究例はまだない。マグマだまりの地震波速度構造を推定できれば、マグマ供給系に対して定量的な制約を与えられることが期待される。 本研究では、地震波干渉法により霧島山周辺の観測点間を伝播する表面波を用いて、マグマだまりの検出を試みた。地震波干渉法は脈動などのランダムな波動場の相互相関関数を計算することによって観測点間の地震波の伝播を抽出する手法である。相互相関関数は観測点間の速度構造に敏感であるため、地震波干渉法は局所的な構造推定に適している。 解析には、霧島山周辺の38観測点(東大地震研、京大火山研究センター、防災科研、気象庁)の3成分で記録された2011年4月~2013年12月の脈動記録を用いた。脈動記録の上下動成分どうしの相互相関関数を計算することにより観測点間を伝播するRayleigh波を、Transeverse成分どうしとRadial成分どうしの相互相関関数からLove波を抽出した。抽出された表面波の位相速度推定では、まず解析領域全体の平均的な1次元構造に対して分散曲線を測定し、次に各パスの位相速度を領域平均構造に対する速度異常として測定する、という2段階の手順を踏んだ。各パスの位相速度を用いて表面波位相速度トモグラフィーを行い(Rawlinson and Sambridge, 2005)、各グリッド点の位相速度から、S波速度構造(VSV, VSH構造)を線形化インバージョン(Tarantola and Valette, 1982)を用いて推定した。 海抜下4 km以浅の浅部では、VSV, VSH構造ともに標高に沿った基盤の盛り上がりに対応する高速度異常が見られた。VSV構造では、海抜下5 kmで霧島山の約5 km北西に強い低速度異常が現れ、海抜下10 kmにかけて深くなるにつれて、山体北西から山体直下にかけて広く低速度異常が見られたが、VSH構造ではこの低速度異常が現れず、radial anisotropyが確認された。2011年噴火の地殻変動源はこの低速度異常の北西上端に対応していることから、低速度異常は噴火に関わるマグマだまりであると推定される。さらに、この低速度異常の南東下端に当たる海抜下10 kmからさらに深部(海抜下25 kmまで)の山体下で低周波地震が発生している。以上を踏まえ、マグマは山体の真下からマグマだまり内へ供給され、北西の地殻変動源の位置を出口として浅部へ上昇する、という描像が得られた。 今後同様の手法を他の火山に適用し、マグマだまりやradial anisotropyの存在を系統的に調べることは、活動的火山のマグマ供給系を理解する上で重要だろう。
著者
中本 祐樹 吉敷 香菜子 石井 卓 稲毛 章郎 上田 知実 嘉川 忠博 朴 仁三 和田 直樹 安藤 誠 高橋 幸宏
出版者
特定非営利活動法人 日本小児循環器学会
雑誌
第51回日本小児循環器学会総会・学術集会
巻号頁・発行日
2015-04-21

【背景】手術技術の向上と内科管理の進歩によりFontan型手術の生存率は飛躍的に向上したが、Fontan手術適応ぎりぎりの症例に直面することも少なくない。またfenestrationを設けるべきかどうかの基準も一定の見解が無いのが現状である。【目的】Fontan手術の適応限界やfenestrationを設ける基準について検討すること。【方法】2010年1月~2013年12月までの4年間に当院でTCPCを行った128例を対象とした(IVC欠損例は除外した)。手術時年齢の中央値は2.5歳(1.0~37.0歳)。nonfenestrated TCPC手術(n-TCPC)を行った症例をN群(n=82, 64%)、fenestrated TCPC手術(f-TCPC)を行った症例をF群(n=46, 36%)とした。【結果】 病院死亡は2例(1.6%)、遠隔死亡は1例(0.8%)ですべてF群であった。術前カテデータでは、F群の方がN群よりSaO2が低く(83±5% vs 86±4%)、PAIも低かった(219±117 vs 291±129)。術後入院期間は、F群の方がN群より長かった(44±81日 vs 25±16日)が、術後ドレーン留置期間に差はなかった。術後カテデータでは、F群の方がN群より主心室の拡張末期圧が高く(9.2±3.4 vs 7.0±2.6)、肺動静脈間圧較差が小さく(4.5±1.4 vs 5.5±1.9)、SaO2が低かった(87±35 vs 94±2)。Qsに差はなかった。F群の3例(6.5%)、N群の2例(2.4%)でPLEを発症した。【考察】F群で死亡例やPLE発症例を多く認め、術後入院期間も長かったのは、術前条件が不良でFontan手術の厳しい症例が多かったことによる。術前のSaO2の低い、PAIの低い症例は、肺血管床の発育が不十分でありfenestrationを設けるべきである。しかし、fenestrationを設けた場合には術後主心室の拡張末期圧が高くなる可能性がある。【結論】肺血管床の乏しい症例はfenestrationを設けた方が良いが、心機能の悪い症例はfenestrationは無い方が良い。肺血管床が乏しく心機能も不良な症例のFontan手術適応は慎重に判断すべきである。
著者
西岡 拓哉 北 和之 林 奈穂 佐藤 武尊 五十嵐 康人 足立 光司 財前 祐二 豊田 栄 山田 桂太 吉田 尚弘 牧 輝弥 石塚 正秀 二宮 和彦 篠原 厚 大河内 博 阿部 善也 中井 泉 川島 洋人 古川 純 羽田野 祐子 恩田 裕一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

背景・目的東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、原子炉施設から多量の放射性物質が周辺地域に飛散・拡散し土壌や植生に沈着した。地表に沈着した放射性核種が今後どのように移行するか定量的に理解していくことが、モデル等により今後の推移を理解する上で重要である。重要な移行経路の一つとして地表から大気への再飛散がある。我々のグループのこれまでの観測で、山間部にある高線量地域では、夏季に大気中の放射性セシウムが増加していることが明らかになっている。夏季の森林生態系からの放射性セシウム再飛散過程を明らかにすることが本研究の目的である。観測2012年12月より浪江町下津島地区グラウンドにおいて約10台のハイボリュームエアサンプラーによって大気エアロゾルを高時間分解能でサンプリングし、Ge検出器で放射能濃度を測定している。この大気エアロゾルサンプルの一部を取り出し化学分析及び顕微鏡観察を行っている。2015年よりグラウンドおよび林内で、バイオエアロゾルサンプリングを月に1-2回程度実施している。また、感雨センサーを用い、降水時・非降水時に分けたサンプリングも行っている。200mくらい離れた林内でも同様の観測を行っている。さらに、パッシブサンプラーによる放射性核種の沈着フラックスを測定するとともに、土壌水分と風速など気象要素を自動気象ステーション(AWS)にて、エアロゾル粒子の粒径別濃度を電子式陰圧インパクタ(Electric Low-Pressure Impactor, ELPI)、黒色炭素エアロゾル濃度および硫酸エアロゾル濃度をそれぞれブラックカーボンモニタおよびサルフェートモニタにて連続的に測定している。結果と考察2015年夏季に行った観測と、そのサンプルのSEM-EDS分析により、夏季の大気セシウム放射能濃度は炭素質粒子濃度と正相関していることが分かった。夏季には粒径5μm程度の炭素質粒子が多く、バイオエアゾルサンプリングとその分析の結果、真菌類の胞子、特にキノコが主な担子菌類胞子が多数を占めていることが分かった。但し、降水中には、カビが多い子嚢菌類胞子がむしろ多い。大気粒子サンプルの抽出実験を行った結果、夏季には放射性セシウムの半分以上が純水で抽出される形態(水溶性あるいは水溶性物質で付着した微小粒子)であることもわかった。そこで、2016年夏季には、大気粒子サンプル中の真菌類胞子の数密度と大気放射能濃度の関係を調べるとともに、キノコを採取してその胞子の放射能濃度を測定して、大気放射能濃度が説明できるか、また大気粒子サンプルと同様に、半分程度の純水抽出性を持つか調べた。その結果、大気放射能濃度と胞子と思われる粒子の個数とは明瞭な正相関を示し、降水時には子嚢菌類が増加することが示された。また、採取したキノコ胞子の放射性セシウムは、半分以上純水で抽出され、大気粒子サンプルと同様に性質を示すこともわかった。但し、採取した胞子は放射能は高いものの、それだけで大気放射能を説明できない可能性がある。
著者
箕輪 はるか 北 和之 篠原 厚 河津 賢澄 二宮 和彦 稲井 優希 大槻 勤 木野 康志 小荒井 一真 齊藤 敬 佐藤 志彦 末木 啓介 高宮 幸一 竹内 幸生 土井 妙子 上杉 正樹 遠藤 暁 奥村 真吾 小野 貴大 小野崎 晴佳 勝見 尚也 神田 晃充 グエン タットタン 久保 謙哉 金野 俊太郎 鈴木 杏菜 鈴木 正敏 鈴木 健嗣 髙橋 賢臣 竹中 聡汰 張 子見 中井 泉 中村 駿介 南部 明弘 西山 雄大 西山 純平 福田 大輔 藤井 健悟 藤田 将史 宮澤 直希 村野井 友 森口 祐一 谷田貝 亜紀代 山守 航平 横山 明彦 吉田 剛 吉村 崇
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

【はじめに】日本地球惑星科学連合および日本放射化学会を中心とした研究グループにより、福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質の陸域での大規模な調査が2011年6月に実施された。事故より5年が経過した2016年、その調査結果をふまえ放射性物質の移行過程の解明および現在の汚染状況の把握を目的として本研究プロジェクトを実施した。2016年6月から9月にかけて、のべ9日間176名により、帰還困難区域を中心とする福島第一原子力発電所近傍105箇所において、空間線量率の測定および土壌の採取を行った。プロジェクトの概要については別の講演にて報告するが、本講演では福島県双葉郡大熊町・双葉町の土壌中の放射性セシウム134Csおよび137Csのインベントリ、土壌深部への移行、134Cs/137Cs濃度比、また空間線量率との相関についての評価を報告する。【試料と測定】2016年6・7月に福島県双葉郡大熊町・双葉町の帰還困難区域内で未除染の公共施設36地点から深さ5 cm表層土壌を各地点5試料ずつ採取した。試料は深さ0-2.5 cmと2.5-5 cmの二つに分割し、乾燥処理後U8容器に充填し、Ge半導体検出器を用いてγ線スペクトルを測定し、放射性物質を定量した。【結果と考察】137Csのインベントリを航空機による空間線量率の地図に重ねたプロットを図1に示す。最大濃度はインベントリで137Csが68400kBq/m2、比放射能で1180kBq/kg・dryであった。インベントリは空間線量率との明確な相関がみられた。深部土壌(深さ2.5-5.0 cm)放射能/浅部土壌(深さ0-2.5 cm)放射能の比はおおむね1以下で表層の値の高い試料が多かったが、試料ごとの差が大きかった。また原子力発電所より北北西方向に134Cs/137Cs濃度比が0.87-0.93と明確に低い値を持つ地点が存在した。
著者
小山 真人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

小山(2017,科学)は、かつて箱根火山防災マップ作成検討委員会委員をつとめた外部専門家の立場から、箱根山の火山防災に関連した歴史をふりかえるとともに、2015年噴火への当事者や社会の対応を記録し、気づいた点を論じた。本講演では、そのエッセンスを紹介するとともに、紙数の関係で書けなかった総括的な考察と評価をおこなう。箱根火山の2015年噴火はごく小規模であったが、過去3000年間に5度生じたことが知られる本格的な水蒸気噴火に発展する可能性も十分あった。箱根町火山防災マップ(2004年)は、こうした水蒸気噴火による火山弾・火山礫の飛散や火砕サージ・熱泥流の発生を想定し、それらの危険範囲を描いている。その後、2008年の噴火警戒レベル導入にともなって設立された箱根火山対策連絡会議(後の箱根火山防災協議会)は、箱根町火山防災マップをベースとして噴火警戒レベルの各段階での規制範囲を定め、大涌谷地区の避難計画も事前に作成していた。つまり、防災対応システムの大枠が事前にできていた(間に合った)ことと、幸運にも次の3つの自然的要因が重なったために、2015年噴火に対する緊急対応の成功に至ったと評価できる。(1) 噴気異常の発生(5月3日)から噴火開始(6月29日)までの時間が長く、噴火自体も2日程度の短期間で終了したこと(2) 発生した水蒸気噴火の噴出量は100トン程度とごく小規模、噴火に付随した熱泥流もごく小規模、爆発力も弱く火山弾や火山礫の飛散は火口近傍に限られ、火砕サージも発生しなかったこと(3) マグマ噴火に発展しなかったことしかしながら、20世紀初めから2015年噴火に至る箱根山の火山防災にかかわる歴史を振り返ると、2015年時点の防災体制を構築するまでにはいくつかの岐路があり、各時点でプラスに働いた(かもしれない)社会的要因とマイナスに働いた(かもしれない)社会的要因を挙げることができる。プラスに働いた(働いたかもしれない)社会的要因としては、(1) 大涌谷の蒸気井と温泉供給会社の存在と活動(2) 箱根町と火山学会との連携、ならびに大涌谷自然科学館の設置と活動(3) 地元の火山観測・研究機関(神奈川県温泉地学研究所)の存在と活動(4) 2001年群発地震・噴気異常の経験とその教訓(5) 箱根火山の噴火史、とくに大涌谷付近での水蒸気噴火の履歴に関する研究成果の蓄積(6) 群発地震・噴気異常の発生シナリオ・メカニズムについての学術的知見(7) 箱根町火山防災マップの作成とその過程で得られた教訓(8) 噴火警戒レベルの導入とそれにともなう箱根火山対策連絡会議の設置と活動(9) 箱根火山防災協議会(現・箱根山火山防災協議会)の設置と活動(10) 箱根ジオパークの設置とその普及・啓発活動の10項目が挙げられる。また、マイナスに働いた(働いたかもしれない)社会的要因としては、(1) 開発された温泉観光地ゆえのリスク情報公開への躊躇(2) 大涌谷自然科学館の閉館(3) 箱根町火山防災マップ作成過程での噴火想定の限定(マグマ噴火ならびに大涌谷周辺以外の火口を想定せず)(4) 噴火警戒レベル判定基準への固執(レベル2へ上げる判断の遅れ)(5) リスク情報(危険範囲、火山ガス濃度)共有の部分的失敗(6) 噴火シナリオ(および各シナリオの確率推定)の不在(7) 噴火認定の失敗(噴火警戒レベル3へ上げる判断の遅れ)(8) 不透明な意思決定(9) 地元行政・経済への過度の忖度(10) 政治家の不当な介入(11) ジオパークとの連携不十分の11項目を挙げることができるだろう。箱根山2015年噴火の緊急対応「成功」の影には、上記した自然的要因の幸運の上に、過去数十年間にわたって上記のプラス要因をうまく利用し、危ない橋を渡りつつもマイナス要因を抑制してきた当事者たちのたゆまぬ努力があったと認識できる。
著者
榎戸 輝揚 和田 有希 古田 禄大 湯浅 孝行 中澤 知洋 中野 俊男 土屋 晴文 鴨川 仁 米徳 大輔 澤野 達哉
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

日本海沿岸の冬季雷雲からは 10 MeV に達するガンマ線が観測されてきた(Torii et al., 2002, Tsuchiya & Enoto et al., 2007)。これは、雷雲内の強電場により電子が相対論的な領域まで加速され放射される制動放射ガンマ線と考えられている。これまでの観測では単地点が多く、現象の生成・成長・消失の追跡は難しかった。そこで我々は、雷雲の流れに沿ってマッピング観測を行うことで、放射の始まりと終わりを確実に捉え、ガンマ線強度やスペクトル変化を測定し、雷雲内で生じる物理現象の全貌を明らかにすることを狙っている。2016年度は、小型コンピュータ Raspberry Pi で読み出せる小型で安価な FPGA/ADC ボードの開発と BGO シンチレータの主検出部や専用読み出し回路基板を組み合わせて標準観測モジュールを作成し、石川県の高校や大学の屋上に設置して観測を開始した(和田ほか JpGU M-IS18 の発表を参照)。2016年12月8日から9日にかけて、金沢-小松の4地点で雷雲ガンマ線を検出したのを皮切りに、複数のイベントを捉えている。本講演では、私たちが進めている多地点ガンマ線観測の現状と、今後、そこからアプローチできる雷雲内の物理現象の理解について紹介したい。
著者
高木伸也 佐々木淳
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第58回総会
巻号頁・発行日
2016-09-22

問題と目的 DSM-5が2014年に発刊され,新しく不安症の中に選択性緘黙(Selective Mutism; 以下,SM)が加わった。中でも社交不安症(Social anxiety disorders; 以下SAD)はSMと近い症状があることが知られており,併存する確率が高い(Vecchio et al,2003)。SM自体の研究は臨床心理学の研究としてSMに対する事例研究として行動療法(沢宮・田上,2003)・遊戯療法(上野,2010)などが適用されてその効果が検討されている。しかしSMのメカニズムを明らかにする研究は数少ない。中でも維持期における認知行動モデルが解明されることは、今後の臨床でのより細やかな認知行動療法の適用だけでなく,SM児と日々接している教師・保育士に対して有益な見立てを提供できる可能性を秘めている。 SADの認知モデル(Clark&Wells,1995)はこれまでの研究の蓄積が多い。これを参考にしつつSM独自のモデルを作成することは意義深い。また,SMに関する尺度はSMQ(Selective Mutism Questioner; Bergman,2008)やその日本語版の場面緘黙質問票(以下,SMQ-R; かんもくネット,2011)があるが,これは行動指標を主に捉えているスクリーニング用の質問紙であり,苦手とする状況の最中で考えていること(認知)に着目した尺度は存在していない。そのため本研究では,⑴SMの維持期における認知行動モデルの作成,⑵SMの認知行動尺度の項目作成を目標としたインタビューを行う。方 法手続き 半構造化面接の方法を用い,事前に作成したインタビューガイドに基づいて70分程度のインタビューを行った。SMの症状があった時期の脅威的状況および克服した現在における同様の状況の場合の双方を想定し,その状況下の認知・感情・行動・身体的変化について焦点を当てて質問した。対象者は筆者がSMの治療の経験が豊富な臨床心理士等に依頼し,現在は克服しているSMの経験者の紹介を求めた。インタビューで得られたデータは内容分析によって,質的研究の観点から⑴SMにおける認知行動モデルを作成,⑵SMの認知行動尺度を作成することを念頭においてまとめられた。 なお,本研究は,大阪大学大学院人間科学研究科教育学系研究倫理委員会において承認されている(受付番号15-061)。対象者 現在3名(女性3名)。年齢平均21.3歳であり,過去に緘黙の診断をもっていたのは2名であった。質問紙 インタビューを始める前に,SMの程度を把握するためにSMQ-Rを二枚用意して回答を求めた(一枚目はSMの症状が一番顕著に表れていた時,二枚目は,現在の状態を想定する)。SM時の平均得点は12.3,現在の平均得点は37.3であった。なお,Bergman(2008)によると,健常児は43点,SM児は12点であった。結 果 想起された状況は,「自己紹介の場面」「スピーチの場面」「話すことを強制させられる場面」であった。本研究では,感情,行動,身体的反応のうち特に認知と行動に焦点を当てて報告したい。認知は主に2つに分類することができた。<受動的な認知>と<能動的認知>である。<受動的認知>は「自分の番でどうやってやり過ごそう」「早く終わらないかな」などの受身的な考えやイメージであった。<能動的認知>は「何を話そうかな」「1対1の時のように話そう」などの自発的な考えやイメージであった。また,行動は主に2つに分類された。即ち,<受動的行動>と<能動的行動>であった。<受動的行動>は「先生がもういいよと言うまで待つ」「話せなくなる」などの受身的な行動であった。<能動的行動>は「ネットでコツを調べた」「職場だったら頑張って話すようにする」などの自発的な行動についてであった。 また社交不安症の維持要因として考えられている自己注目や安全行動などは,緘黙を克服した現在においてもなお続いていた。考 察 SMの経験者の認知と行動には受動的側面と能動的側面が共通して見られた。SMの維持期においては受動的側面が多く,克服した現在においては能動的側面が多く見られる傾向が示唆された。そしてインタビューにおける文脈から<受動的認知>が<能動的認知>に変化して,それが<能動的行動>を促進していることが推測された。即ち,受動的体験から能動的体験にシフトしていると捉えることができた。 また,SMを克服した者でも現在において社交不安傾向があったため,SMの維持期は,社交不安の維持期よりもさらに複雑な仕組みを持っていることが考えられる。そのため,今後は,SM独自の維持要因という視点からもデータ収集と分析を行っていく必要がある。 最後に本研究の結果から,SMに対する支援のあり方として,受動的認知という内的な側面に働きかける試みがその糸口となることが考えられた。
著者
梶野 瑞王 石塚 正秀 五十嵐 康人 北 和之 吉川 知里 稲津 將
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

はじめに2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い大気中に放出された放射性Csは、東北・関東地方において広範囲に沈着した。事故約1年半後の2012年12月以来、避難指示区域内に位置する福島県浪江町・浪江高校津島分校の校庭において、放射性Csの大気濃度の長期間変動と、陸面に沈着した放射性Csの再飛散を評価するために、連続観測が行われて来た。本研究では、約30年と半減期の長い137Csを対象として、再飛散モジュールを実装した3次元物質輸送モデルと、避難指示区域内(浪江高校)と区域外(茨城県つくば市)の2地点の長期間大気濃度観測結果を用いて、東北・関東地方における再飛散を伴う137Csの収支解析を行った。期間は2012年12月から2013年12月までの約1年間を対象とした。手法モデル:ラグランジュ型移流拡散モデル(梶野ら, 2014)を用いた。気象庁メソ解析データ(GPV-MSM)を用いて、放射性物質の放出、輸送、沈着、反応、放射性壊変を解く。土壌からの再飛散は、浪江高校校庭におけるダストフラックス観測に基づいて開発された再飛散モジュール(Ishizuka et al., 2016)を用いた。植生からの再飛散については、メカニズムが明らかになっていないため、放出率は一定として137Csの航空機モニタリング結果による地表面沈着量(減衰率は放射性壊変のみ考慮)と森林面積および植物活性の指標としてGreen Fraction(Chen and Dudhia, 2001)を掛け合わせたものを用いた。観測:大気濃度は、浪江高校校庭および茨城県つくば市の気象研観測露場(Igarashi et al., 2015)でハイボリウムエアサンプラーを用いて捕集されたエアロゾル中の137Cs濃度の測定値を用いた。サンプリングの時間間隔はそれぞれ、浪江高校は1日間、気象研は1週間である。結果浪江における137Cs濃度は、冬に低く(0.1 – 1 mBq/m3)夏に高い(~1 mBq/m3)傾向が見られ、つくばにおける濃度(0.01-0.1 mBq/m3)に比べて1桁程度高かった。モデルにより計算された2地点間の濃度比は、観測の濃度比と整合的であった。土壌からの再飛散は、逆に冬に高く夏に低くなる傾向があり、絶対値は冬季の浪江の観測値を説明できるレベルであるが、夏季の濃度ピークを1-2桁程度過小評価した。解析期間中の原子炉建屋からの放出量は約106 Bq/hr程度(TEPCO, 2013など)であり、浪江の観測値を説明できるレベルではなかった(2-3桁程度過小評価)。植生からの再飛散計算結果は、浪江の季節変動をよく再現し、10-7 /hrの放出率を仮定すると、観測濃度の絶対値と同レベルとなった。依然、事故から5年が経過した現在でも再飛散のメカニズムは明らかにされておらず、観測・実験に基づいたメカニズムの解明研究の発展が望まれる。参考文献Chen and Dudhia, Monthly Weather Review, 129, 569-585, 2001.Igarashi et al., Progress in Earth and Planetary Science, 2:44, 2015.Ishizuka et al. Journal of Environmental Radioactivity, 2016, in press.梶野ら, 天気, 61, 79-86, 2014.TEPCO, 2014 原子炉建屋からの追加的放出量の評価結果(平成26年3月)
著者
島崎 邦彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

日本海西部(能登半島以西)の「最大クラス」津波の断層モデル(国交省, 2014)は、過小評価であり再検討が必要である(島崎, JpGU, 2015)。過小評価の原因は、入倉・三宅式(2001)にある。この式は断層面積から地震モーメントを推定する際に用いられるが、西日本に多く分布する、上部地殻を断ち切るような高角の断層では地震モーメントが過小評価となる。長さが同じ断層で比べると、低角の断層に比べて高角の断層では、断層面積が小さく、地震モーメントや、ずれの量の平均値が小さくなる。島崎(JpGU, 2015)は過小となる理由として次の二つをあげた。1. 断層の長さや面積などの断層パラメターは、地震発生後に得られるものであって、事前に推定できる値とは異なり、大きくなることが多い。2. 断層の幅を14kmと固定した場合、入倉・三宅式を変形して得られる式(地震モーメントが断層長さの二乗に比例する式)の係数が、武村式(1998)や山中・島崎式(1990)の係数の1/4程度となる。本講演では、2.をさらに検討した。すなわち、静的変形の実測値が、入倉・三宅式を用いた断層モデルで説明可能かどうかを調べた。測量によって地震時の静的変形が観測されている1927年北丹後地震、1930年北伊豆地震、1943年鳥取地震について、既存の断層面積の推定値(Abe, 1978; Kanamori, 1973)から、入倉・三宅式を用いて平均的なずれの量を求め、これから推定される変形が実測値と調和的かどうかを検討した。その結果、入倉・三宅式では実測値の1/4以下の変形しか説明できないことがわかった。以上から、次のように結論することができる。日本の上部地殻を断ち切るような高角の断層で発生する大地震の地震モーメントの推定には入倉・三宅式を用いるべきではない。
著者
大木 聖子 白木 千陽
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

「地震」や「活断層」という言葉を社会的に捉えると,マイナスイメージが先行していると言わざるを得ないだろう.地震は被害をもたらして人々の生活を不便にしたり,大切な人の命を奪ったりする.2011年3月11日の東日本大震災以降は,活断層という言葉で原子力発電所やそれがもたらす深刻な事故を思い浮かべる人も多いだろう.しかし地球科学的な観点から捉えれば,地震による隆起は土地を生み出して私たちに生活の場を与えてくれているし,活断層による地殻変動の積み重ねが日本の美しい景色の根幹にもなっている.地表地震断層は端的に地球のダイナミックさを語り,地球の活動である地震と私たちの生活との折り合いの付け方を再考する機会を提供しているとも言える.このような場のひとつとして,地表地震断層の保存公園や保存館がある.断層保存の学術的・社会的重要性については地震発生直後から多くの研究者が指摘して働きかけるが,その維持管理には担当する行政部署や運営受託組織,被災者でもある住民など複雑なステークホルダーが関与している.本発表では,著者らが巡検した丹那断層と野島断層のそれぞれにおける保存の経緯と維持管理のあり方を比較し,今後の地表地震断層保存のための一助としたい.丹那断層は箱根芦ノ湖から伊豆市の修善寺まで約30km続く北伊豆断層帯の代表的な活断層である.1930年11月26日に発生した北伊豆地震(Mw6.9)によって,震央である函南町に地表地震断層が現れた.これを保存する丹那断層公園には,左横ずれ断層を象徴する庭石や断層側面を直接観察できる地下観察室があり,近隣の火雷神社には鳥居と階段と神殿がずれているまま保存されている.いずれも手入れが行き届いており,良い保存状態で維持されている.丹那断層公園設立までの経緯を調べてみると,地震発生から5年後の1935年には地表地震断層が国指定の天然記念物となっており,翌年には国庫補助金で指定地を公有化して囲柵で保存している.断層跡が次第にわかりにくくなっていくため,1992年には丹那断層保存整備委員会を組織して,断層を公園として整備する作業が行われた.2011年には伊豆半島ジオパーク推進協議会が設立され,2012年には日本ジオパークに認定されている.断層の管理については函南町教育委員会生涯学習課が,ジオパークに関することは函南町観光部局農林商工課が担当しており,丹那断層公園の維持管理については両者が協力している.維持管理に関する当面の問題点としては,観察面保存のための樹脂コーティングの予算獲得が難しいことと,断層観察面の劣化による剥落やコケ類の除去作業などである.一方,野島断層は1995年1月17日の兵庫県南部地震(Mw6.9)で一部が地表地震断層となって現れた.調査に訪れた研究者らの保存に向けた動きは早く,地震発生4日後には,逆断層の上盤側が雨などによって崩落しないようにと主要部分をビニールシートで覆うなどの応急処置が施された.また同月末には天然記念物として保存してはどうかという研究者からの要望が当時の北淡町(現淡路市)に届けられ,それを受ける形で町長が野島断層保存の意向を発表している.1995年から1996年にかけて野島断層保存検討委員会が設置され,1997年には野島断層活用委員会と名称変更をして,今も野島断層に関する検討を重ねている.この委員会により,まず1996年に兵庫県および北淡町の企画部局主導で公園設置事業に伴う保存施設の設置の動きが始まり,1998年には保存施設を含む北淡町震災記念公園が完成,1999年にメモリアルハウスや震災モニュメントが公開された.現在は教育委員会が維持管理にあたっている.設立当初は年間30万人の入館者を想定していたが,実際には82万人が訪れた.しかしその後は入館者数が減少し,2015年度は17万人余りである.その原因のひとつとしてアクセスの悪さが挙げられる.設立当初は野島断層保存館に徒歩圏内の富島港へ明石港からの高速艇が定期運行していたり,岩屋港からの定期路線バスが運行されていたりしたが,利用者の減少に伴ってどちらも廃止されている.これに加えて,逆断層であるため上盤側の管理が困難であることや,学芸員が不在であること,産業振興課などの観光に関わる管轄が運営に協力する体制になっていないことなども原因として挙げられるだろう.本発表では,両断層保存施設の設立経緯と管理体制の比較から今後のより良い管理維持のあり方を再考するとともに,さまざまな困難を乗り越えて存在している現在の地球科学関連施設の尊さを再認識する機会を提供したい.
著者
新妻 信明
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

半世紀前に確立したプレートテクトニクスは,中央海嶺における海洋プレートの拡大を定量的に記述することに成功した.しかし,拡大した海洋プレートの沈込については定性的な推定の域(「海洋底拡大説」の域)を脱するに到っていない.変形しなければ海洋プレートは沈込めないので,プレートテクトニクスの中心教義「変形しないプレート」を放棄しなければならない.海溝周辺の活発な地震活動は,海溝に沿って海洋プレートが沈込でいることに対応している.東日本大震災以後の地震活動は,太平洋プレートが海溝に沿って同心円状屈曲して沈込み,平面化して和達の深発地震面に連続していることを示している.プレートテクトニクスを海洋プレートに連続するスラブへ拡張するために,以下の仮定に限定して中心教義「変形しないプレート」を解除し,定量化する.1)海溝軸は屈曲しており,日本海溝については北から襟裳・最上・鹿島と名付けた小円に沿う円弧をなしている.2)オイラー回転する海洋プレートに連続するスラブ上の点は地心から見て同一オイラー緯線に沿って移動する.3)オイラー回転によるスラブ上面に沿うの移動距離は海洋プレートの移動距離に等しく,地心から見たスラブ上の点の移動速度はスラブ傾斜に応じて海洋プレート上の点よりも遅い.4)スラブ上面深度は海溝軸小円心からの距離によって決定される.小円心はスラブ上面深度断面の回転対称軸になる.5)海洋プレートは海溝に沿って同心円状屈曲し,平面化角Apに達すると平面化して深発地震面に接続する(付図).各小円についての同心円状屈曲半径や平面化角などの係数は地震活動に基づき決定する.これらの仮定のもとに,日本海溝に沿って沈込む太平洋スラブの運動を約10km間隔で0.125my毎に算出し,気象庁の初動発震機構解とCMT発震機構解を比較解析した.気象庁の地震計網から外れている日本海溝域の震源を海底地震計によって決定された震源(Shinohara et al., 2011, 2012; Obana et al., 2011, 2012,2013)と比較したところ,気象庁のCMT解の初動震源深度が深目に出ているが,震央分布に問題ないことが確認された.深海底面上の点と海底面下5kmの点との距離は,海洋プレートが移動しても5kmと一定であるが,海溝に沿って同心円状屈曲すると屈曲半径の小さい深度5kmの点が先行し,距離が増大する.5%の5.25kmに達する位置は日本海溝側の海岸線に沿っており,屈曲スラブの平面化に伴う地震活動と対応している.スラブが日本列島下を通過して日本海側に到るとその距離は10%以上に増大し,5.5km以上になる.スラブ表層5kmでもこれだけ大きな変形をもたらす沈込は,日本列島下のマントルへ更に大きなの影響を与え,日本列島の大地形形成に関与していることを示唆している.海洋プレート運動方向のオイラー緯線に直交するオイラー経線に沿って並ぶ点の間の併進距離は,海洋プレート上では一定であるが,スラブ沈込に伴うスラブ上面深度差によって変動する.小円心が島弧側に位置する場合には併進距離が増大,海洋側に位置する場合には減少する.変動の細部は小円心の位置とプレート運動方位によって支配され,併進距離変動は最大±1%に達する.小円心が島弧側の最上小円区で引張応力による正断層型発震機構解が優勢で,海洋側の襟裳小円区・鹿島小円区で圧縮応力による逆断層型発震機構解が優勢であることと良く対応している.震源分布も併進距離変動と対応している.深度200km以深CMT発震機構解の地心三次元座標系における最小自乗法によって算出された襟裳・最上・鹿島小円区からの平面(Vlad面)と,日本海溝に沿うスラブ上面との交線を算出した.この交線に沿って平面化による逆断層型震源が配列することと,その日本海側でCMT震源数が急減することは,海溝に沿うスラブの同心円状屈曲とVlad面への平面化が進行していることを示している.海溝から遠くの深い位置で交わる最上小円区から沈込だVlad面にはCMT震源が分布せず,海溝近くの浅い位置で交わる襟裳・鹿島小円区から沈込だVlad面にCMT震源が分布していることは,深発地震発生過程について示唆を与える.
著者
榎戸 輝揚 湯浅 孝行 和田 有希 中澤 知洋 土屋 晴文 中野 俊男 米徳 大輔 澤野 達哉
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

日本海沿岸の冬季雷雲から 10 MeV に達するガンマ線が地上に放射されていることが観測的に知られており(Torii et al., 2002, Tsuchiya & Enoto et al., 2007)、雷雲内の強電場により電子が相対論的な領域まで加速されていると考えられている。これまでの観測では単地点の観測が多く、電子加速域の生成・成長・消失を追跡を追うことは難しかった。そこで我々は、雷雲の流れにそって複数の観測点を設けたマッピング観測を行うことで、放射の始まりと終わりを確実に捉え、ガンマ線強度やスペクトル変化を測定し、加速現象の全貌を明らかにすることを狙っている。冬季雷雲の平均的な移動速度は ∼500 m/ 分で、単点観測で数分にわたりガンマ線増大が検出されるため、およそ数 km 間隔で約 20 個ほどの観測サイトを設けることを考えている。そこで、CsI や BGO シンチレータ、プラスチックシンチレータと独自に開発した回路基板、小型のコンピュータ Raspberry Pi を組み合わせ、30 cm 立方ほどの可搬型の放射線検出器を開発し、金沢大学と金沢大学附属高校に設置して観測を開始した。個々の放射線イベントの到来時間とエネルギー、温度などの環境情報を収集してる。今後、観測地点を増やして、マッピング観測を行いたい。なお、本プロジェクトは、民間の学術系クラウドファンディングからの寄付金によるサポートも得ておこなわれた。
著者
内出 崇彦 森本 洋太 松原 正樹
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

地震波形記録は地震学における基本的なデータである。地震学者は通常、地震波形を画面や紙に描いて可視化して、そこから情報を読み取る。しかし、ほかの方法もある。地震波形を音に変換するという可聴化である。これは近年よく行われるようになってきたが、主に非専門家へのアウトリーチが目的である。われわれは、地震波の音を研究目的で利用することを試みている。一般に、時系列データを音に変換する方法には2つある。ひとつは時系列データをそのまま音響信号に見立てて再生するaudificationであり、もうひとつは瞬時周波数や振幅といったデータの特徴に応じて音を割り当てるというsonificationである。われわれは地震波形のaudificationとsonificationの手法を開発して、どのような情報が地震波可聴化音から聞き取れるかを検討した。初めに2011年東北地方太平洋沖地震を題材とした。防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET)と強震基盤観測網(KiK-net)の地表観測点のうち116点を適当に選んで使用した。一般に、地震波記録は聴きとるには周波数が低すぎるため、audificationの場合は再生速度を上げて、周波数を可聴域に移さなければならない。116観測点の地震波形のaudificationを10倍速の再生速度で行い、それらを重ね合わせた。可聴化音は聴きとることができるが、まだ低い。可聴化音からは日本全国に地震波形が広がる様子が感じ取れる。地震波の特徴をより明らかにするために、零交差率と振幅に応じて音を割り当てるsonification手法を設計した。10倍速で再生するものとしたため、可聴化音の全長は40秒ほど聴き取りやすい長さとなった。さらに、アウトリーチ活動で利用することも考慮して、怖くない雰囲気になるように音を選んだ。全116観測点からのデータは時間同期を考量した上で、同時に再生する。Sonificationによって得られた音は、やはり全国的な地震波伝播を感じさせるものである。初めは大きく高い音であるのに対し、徐々に小さく低い音に移行していく。これは、地震波の幾何減衰や非弾性減衰の効果を反映している。可聴化音の23秒ごろ(発震時の230秒後に相当する)に、全国的な地震波伝播とは明らかに異なった高い音が聴こえた。地域ごとに可聴化を行ってこの原因を追究した結果、岐阜県飛騨地域からのものであることがわかった。この地域で動的に誘発された地震[例えば、Uchide, SSA, 2011; Miyazawa, GRL, 2011; 大見ほか, 地震, 2012]と時刻も一致する。Audificationとsonificationによって、周波数や振幅の違いや変化を多くの観測点について同時に観測することが容易になった。本研究は、巨大地震から長距離を走ってきた地震波より高い周波数の地震波を放射する動的誘発地震を検出する方法として優れていると考えられる。謝辞: 本研究では、防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET)と強震基盤観測網(KiK-net)の地震波形記録を使用しました。