著者
神田 敬 杉本 孝公 上野 健一 萩野谷 成徳 堀 晃浩 川島 儀英
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.241-250, 2008-04-29
参考文献数
13

プロ野球球場として有名な千葉マリンスタジアム(千葉県千葉市)では他球場に比べて強風が頻発する.本研究では,千葉アメダスデータを解析し,暖候期に卓越する強風の原因は,関東以北に位置する低気圧や寒冷前線通過時に吹き込む南西風が,粗度の小さい東京湾上から直接千葉市沿岸に侵入するためである事を特定した.また,現地観測により,海側から吹き込む風系は千葉アメダスと幕張で良く一致している事を確認した.次に,スタジアムのようなドーナッツ型の建築物周辺で発生する気流系の特徴を,大型風洞を利用した実験により明らかにした,作成したスタジアム模型の内部には明瞭な逆流が発生し,順流との境界およびスタジアム後面で乱れの大きな領域が発生した.逆流域の範囲は模型前方の粗度や屋根の高さに依存していた.現地観測により,スタジアム内では実際に逆流が発生している事を確認した.
著者
上野 健一 鈴木 啓助 山崎 剛 井田 秀行 南光 一樹
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

簡易レーザー式・自動雨雪判別装置を開発し、中部山岳域における冬季の降雨発生の気象学的メカニズムと積雪構造への影響を明らかにした。降雨の長期発現傾向は10年規模スケールの低気圧活動に依存し、単調な増減傾向は見られない。雨雪変化は低気圧通過時の南北に走る大地形に沿った暖域と寒気団の交換過程に依存する。積雪の堆積期における降雨発現は積雪内に氷板を形成し、融雪時期まで記録される。一方で、全層ザラメ化した融雪機の降雨は積雪水量の急増と排水に寄与する。全層濡れザラメへの移行は春一番を伴う温暖な低気圧の発生に依存する。2014年2月に発生した大雪は、2014年2月の大雪は、本来、降雨となるべき降水が降雪でもたらされ、引き続く降雨も排水されず山岳域で記録的な積雪水量の増加を導いた。
著者
須田 耕樹 上野 健一
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.123, no.1, pp.35-47, 2014-02-25 (Released:2014-03-07)
参考文献数
24
被引用文献数
1 6

The distribution of weather divides in Japanese winters was identified using 30-year data of the Automated Meteorological Data Acquisition System (AMeDAS) operated by the Japan Meteorological Agency. Two kinds of weather divide were defined, one is a cloudy weather divide (CWD) determined by the high-frequency grids of large gradients in the sunshine duration distribution, and the other is a precipitation area border (PAB) where the edge of daily precipitation areas frequently appeared. The CWD appeared continuously in eastern Japan along the Pacific backbone ranges, but it was discontinuous in the central mountain ranges and western Japan. The CWD also appeared in Pacific coastal areas, such as east of Kamikouchi, south of the Kii Peninsula, and southeast of Shikoku Sanchi. The PAB overlapped with the CWD distribution in eastern Japan, and it was enhanced throughout the Sekigahara-Tamba Kochi and Chugoku Sanchi areas, but the CWD in pacific coastal areas was not associated with the PAB. Most of the weather divides were caused by the winter monsoon pressure pattern, and some PABs in northwestern Tohoku and Hokkaido areas occurred with passing pacific coastal extratropical cyclones. The distribution of the weather divides in cold-winter years was dependent on the dominance of Satoyuki/Yamayuki weather patterns, and weather divides became unclear in warm winters.
著者
楠 健志 上野 健一
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.100, no.6, pp.913-926, 2022 (Released:2022-11-30)
参考文献数
59
被引用文献数
3

夜間の気温逆転(NTI)は山岳域の局地気候を特徴づける重要な因子である。中部日本におけるほとんどの山岳斜面は森林で覆われているが、森林の開葉・落葉が盆地内のNTIに及ぼす影響は解明されていない。長野県菅平高原の標高1320mに位置する混交林で、3年間にわたり葉面積指数(LAI)を観測したところ、盆地内のNTIは開葉に伴い弱化し、落葉に伴い強化する事が明らかとなった。数値標高・土地利用データを用いて、夜間冷気流が生じる流域内の落葉・混交林の分布を特定した。有効積算気温に基づき推定した流域スケールでの開葉・落葉時期は、NTI変化とほぼ一致した。微気象観測によると、林床でのNTIと近隣草原での斜面下降風は放射冷却が卓越した落葉期夜間に強化した。春季落葉期間と夏季開葉期間で夜間静穏晴天日をそれぞれ22日、30日分抽出した。冷気湖の発達に必要となる損失熱量を推定し、森林域での貯熱フラックスに変換した。貯熱フラックスは落葉期に比べて開葉期が3.8W m -2増加し、従来の研究で推定されている森林の貯熱量(数10W m -2)より少量となった。これは、開葉に伴う森林の貯熱量増加が夜間の放射冷却量を相殺し林床での重力流を弱めている事を示唆している。
著者
上野 健一 細川 葵 橋本 諭 及川 寛 柴原 裕亮 松嶋 良次 渡邊 龍一 内田 肇 鈴木敏 之
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.85-93, 2021-06-25 (Released:2021-07-02)
参考文献数
32
被引用文献数
1

二枚貝の麻痺性貝毒(PSTs)はマウス毒性試験(MBA)で検査されているが,動物愛護に対する社会的関心の高まりとともに高感度・高精度なPSTs分析法も開発され,動物実験代替法の利用が可能となった.本研究では,PSTsのモノクローナル抗体を利用したイムノクロマトキットによるスクリーニング法の開発を試みた.食品衛生法規制値(4 MU/g)を下回る2 MU/gをスクリーニング基準として試験液の希釈倍率を80倍とした条件で試験した.目視に加え,画像解析判定も併せて検証した.MBA 2 MU/g以上の20試験品はすべて本キットで陽性を示し,偽陰性はなかった.また,2 MU/g未満の327試験品のうち偽陽性は3%であった.以上のように,本法は高い正確度を示し,迅速・簡便なPSTsスクリーニング法として有用であることが示された.
著者
澤田 壮弘 上野 健一
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.2, pp.473-496, 2021 (Released:2021-04-22)
参考文献数
65
被引用文献数
6

気象庁137地点の2日積算降水量を使い,2014―2019年寒候期における多降水事例を選出した。全球降水観測(GPM)主衛星に搭載された二周波降水レーダー(DPR)のプロダクツおよびヨーロッパ中期予報センター再解析データを使用した流跡線解析により、閉塞過程の温帯低気圧構造が多降水を引き起こす仕組みを解析した。多降水についての上位の事例のほとんどは温帯低気圧により発生し、その多くが成熟段階であった。上位50事例の中から、3つの南岸低気圧を抽出し、メソスケールの降水系と気流系の関係を集中的に診断した。多降水が発生した観測地点における時間降水量変化は、基本的にウォームコンベアーベルト(WCB)、コールドコンベアーベルト(CCB)、ドライイントルージョン(DI)の組み合わせの影響を受けていた。低気圧中心の東側に広がる層状降水域はCCB上の下層WCBと上層WCBから構成され、低気圧中心付近の対流性降水域はWCB上に上層からのDIを伴い、線状降水帯の形成とともに地上で強い降水強度をもたらした。対流性の降水活動は、停滞性の層状降水域上空に上層WCBとして湿潤な大気を移流させる働きを担った。さらに、DPRプロダクツは、低気圧中心の後面に延びる雲域(クラウドヘッド)での背の高い層状降水、中層(地上付近)での潜熱開放(吸収)、及び低気圧の発達を可能にするCCBに沿った渦位増加を確認した。
著者
野元 世紀 杜明 遠 上野 健一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.137-148, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
9
被引用文献数
2 1

雲南省西双版納の景洪,劾養盆地で1986年~87年, 88年~89年の寒霧季,冷気湖と霧の観測を行なった。盆地大気下層の気温プロファイルは霧形成時に大きく変化する。霧形成時に気温の逆転層,すなわち冷気湖が発達する。しかし下層の逆転は霧形成時に消滅し,不安定なプロファイルが形成される。 逆転層や不安定大気の発達は盆地内の地形環境に強く影響される。そのため両盆地における夜間の気温プロファイルの変化は異なる。霧の発達は気温のプロファイルに関係するので霧のラィフサィクルについても両盆地で差が見られた。さらに冷気湖の発達や霧の形成にメソスケールの循環系の関学が示唆された。
著者
上野 健一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.24-48, 1985-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
45
被引用文献数
5 5

関東大震災が起こる以前の大正中期の東京は,江戸時代からの城下町的伝統を一部に保ちながら,近代都市として脱皮しつつある途上で,近代都市としての都市構造が基本的に形成された時期である。 本稿は,大正中期の東京における居住地域構造を因子生態的方法によって解明した。まず,東京市内を816地区に区分し,各地区に関する19変数を入力変数として,データ行列を作成し,これに因子分析をくわえた。その結果,6つの共通因子が抽出され,それらの中で第1因子は家族的地位,第2因子は公務・自由業従事者,第3因子は高齢独身女性とそれぞれ解釈された。さらに,これら6因子の因子得点を入力変数として,クラスター分析を行ない,居住地域に関する5つの基本類型と5つの副類型とに区分した。そして,これらの居住地域に関する基本類型および副類型を利用して,大正中期の東京における居住地域構造の基本的な構造をモデル化した。その結果,この時期の東京における居住地域構造は,従来いわれていた「山手」・「下町」という単純な空間的モデルでは充分説明できないことがわかった。すなわち,東京の中心部は商業従事者の卓越地域であり,また,東部は子もち夫婦の工業従事者中世帯の卓越地域がみられ,この地域が当時の東京で最も広い面積を占めていた。これに対して,東京西部は公務・自由業従事者の卓越する地域であり,東京東部の縁辺部は工業労働者の卓越する地域であった。そして,大正中期の東京における居住地域構造は,江戸の都市構造に明治以後に形成された地域構造が改変・追加されることにより形成されていたとみることができ,したがって,当時の東京は都市的発展段階として,工業化途上の都市と位置づけることができる。
著者
久保田 晶子 藤井 良昭 加賀 岳朗 西村 一彦 上野 健一
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.61-67, 2019-06-25 (Released:2019-08-07)
参考文献数
17
被引用文献数
2

食品中の不揮発性アミン類分析法として,試料からヒスタミン,チラミン,プトレシンおよびカダベリンを5%トリクロロ酢酸溶液で抽出し,強陽イオン交換カラムInertSep MC-1を用いて精製した後,フルオレスカミンで誘導体化し,HPLC-FLで定量,LC-MS/MSで確認する方法を検討した.検討した分析法を用いて,生鮮魚介類,魚介加工品および発酵食品計11食品に不揮発性アミン類を100 mg/kgで添加し,添加回収試験を行った結果,真度81~100%,併行精度0.4~3.1%の良好な結果が得られた.これらの結果から,本法は食品中の不揮発性アミン類分析法として有用と考えられた.
著者
上野 健一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.655-671, 1993-12-25
被引用文献数
6

冬期北半球500hPaに卓越する主な3つの沿革伝播パターン(NAO,PNA,WP)を回転主成分分析により抽出し、パターンが顕著に卓越した年の低気圧位置および軌跡の頻度分布をパターンの極性ごとに合成して比較した。さらに、パターンの変動に連動した降水量変動を示す地域を単相関解析により明らかにした。低気圧の位置・軌跡データは、それぞれNCAR地上気圧格子点データ(1946-90)およぴECMWF1000hPa等圧面高度格子点データ(1980-90)を利用して客観的に解析した。異なる性質の2つのデータに共通して、正負のパターンの出現に伴う大幅な低気圧経路の変更が北大西洋および北太平洋上を中心に示された。NAOパターンの振動に伴い、主な低気圧経路は北大西洋上を南北に振動し、低気圧が主に北大西洋中部を東進する場合と北西部沿岸を北東進してアイスランド付近から北海に達する場合が明らかとなった。この振動にともなう有為な降水量の年々変動が、ヨーロッパ沿岸の南西部と北西部に出現した。PNAパターンの場合、北太平洋上の低気圧経路は40゜-50゜Nに沿って東に向かい北東部太平洋上で北に進路を変えてアラスカ南部沿岸に向かう場合と、北西部沿岸を北東進しべーリング海へ達する場合がある。前者はアリューシャン低気圧東部を深めるパターンであり、後者では日本の太平洋沿岸を中心とするユーラシア大陸東岸とカナダ西岸の一部で降水量と正の相関がある。WPパターンの場合、南南西-北北東に走向を持つ帯状の低気圧分布域が北太平洋上を南北に変動する。この分布域が北上する場合、アリューシャン低気圧西部を強化し、日本の南西諸島と中部太平沿岸にて降水量の有為な増加傾向が認められる。さらに、東部アリューシャン低気圧付近のPNAパータンの変動に伴う低気圧経路の変動と、1977年以降顕著となった地上気温のアラスカから西カナダにかけた昇温および北東部太平洋上の低温化との関係について考察を行った。
著者
渋谷 俊昭 金山 圭一 上野 健一郎 木村 洋子 後藤 昌彦 籾山 正敬 北後 光信 白木 雅文
出版者
朝日大学
雑誌
岐阜歯科学会雑誌 (ISSN:03850072)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.91-95, 2010-10-20

歯周組織に及ぼす喫煙の影響を検討する目的で,歯肉線維芽細胞へのニコチンの影響について検討した.歯肉線維芽細胞は通常の培地で24時間培養され,次に1μg/ml,0.1μg/ml,0.01μg/ml のニコチン含有培地で培養した.細胞増殖能を測定するために培養終了24時間前に3H-Thymidine を添加した.培養終了後に放射能計測を行い,細胞分裂能を観察した.さらに同様の培養後に細胞形態を観察した.また細胞骨格の観察の目的でFITC Phalloidin で染色し,ストレスファイバーの観察をおこなった.ニコチン添加1μg/ml 群では有意に細胞増殖能が低下した.また1μg/ml 群では細胞形態は紡錘型を呈していた.さらに細胞骨格のストレス線維は収縮し,粗になっていた.これらの結果から,歯肉線維芽細胞の増殖にニコチン摂取が抑制的に関与することが示唆された.
著者
里村 雄彦 林 泰一 安成 哲三 松本 淳 寺尾 徹 上野 健一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

2004年7月および2005年3月の2回にわたりカトマンズ(ネパール)のネパール水文気象局本局を訪問し,既存の気象・気候データの所在,保存方法・形態,デジタル化の手順や収集の可能性について調査を行った。また,2004年10月7日には,第1回の現地調査の結果をふまえてアクロス福岡にて国内打合せ会議を開き,第2回現地調査項目および将来の国際共同研究計画への戦略について議論を行った。これらの内容は以下の通り:1)国内会議・南アジア(特にネパール・バングラとインド北部)における雨とそれに関わる大気状態の観測に取り組む必要がある。世界的に見て顕著な降水がある領域であるが、観測・データの制約、研究の少なさのために、まだ基本的な事実自体が十分に解明されていない状況にある。改めて降水の実態把握にこだわる意味は大きい。また,降水量予測もターゲットにするべきであろう。・新しい測器・データの利用と、特別観測、更た新しい研究ツールとしての数値モデルを有効に活用することを通じて、南アジアの降水メカニズムに関する知見を深めていくことを重視すべきである。2)現地調査・地上観測点は多いが,高層観測は全く行っていない。24時間観測をしているのはカトマンズ空港1地点のみであり,他は夜間の観測を行っていない。多くの観測点は日平均値,最大・最小のみの報告を行っている。・最新の自動気象観測装置が数点入っているが、試験導入という位置づけであり,機器の維持・整備の状況に差が大きい。カトマンズ市内の機器を調査した結果,カトマンズ空港以外のデータは研究に利用できない可能性が高い。・高層観測を今後の共同研究で実施する重要度は大きいが,技術的な困難も大きい。・DHMのShrestha長官と面談し、低緯度モンスーン地帯の急峻山脈南山麓という世界的に特殊な環境に起因する気象擾乱や災害について情報交換を行った。また、今後の国際共同研究に向けて具体的な観測項目、そのための事務的な準備などについても打ち合わせた。なお,これらの結果をふまえて実際の国際共同研究を行うため,平成17年度科学研究費基盤Aの申請を行った。
著者
上田 豊 中尾 正義 ADHIKARY S.P 大畑 哲夫 藤井 理行 飯田 肇 章 新平 山田 知充 BAJRACHARYA オー アール 姚 檀棟 蒲 建辰 知北 和久 POKHREL A.P. 樋口 敬二 上野 健一 青木 輝夫 窪田 順平 幸島 司郎 末田 達彦 瀬古 勝基 増澤 敏行 中尾 正義 ZHANG Xinping BAJRACHARYA オー.アール SHANKAR K. BAJRACHARYA オー 伏見 碩二 岩田 修二
出版者
名古屋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

1.自動観測装置の設置と維持予備調査の結果に基づき、平成6年度にヒマラヤ南面と北面に各々2カ所設置したが、各地域におけるプロセス研究が終了し、最終的には南面のクンブ地域と北面のタングラ地域で長期モニタリング態勢を維持している装置はおおむね良好に稼働し、近年の地球温暖化の影響が観測点の乏しいヒマラヤ高所にいかに現れるかの貴重なデータが得られている。2.氷河変動の実態観測1970年代に観測した氷河を測量し、ヒマラヤ南面では顕著な氷河縮小が観測された。その西部のヒドン・バレーのリカサンバ氷河では過去20年に約200mの氷河末端後退、東部のショロン地域のAX010氷河では、ここ17年で約20mの氷厚減少、またクンブ氷河下流部の氷厚減少も顕著であった。地球温暖化による氷河融解の促進は氷河湖の拡大を招き、その決壊による洪水災害の危険度を増やしている。3.氷河変動過程とその機構に関する観測氷河質量収支と熱収支・アルビードとの関係、氷河表面の厚い岩屑堆積物や池が氷河融解に与える効果などを、地上での雪氷・気象・水文観測、航空機によるリモート・センシング、衛星データ解析などから研究した。氷河表面の微生物がアルビードを低下させて氷河融解を促進する効果、従来確立されていなかった岩屑被覆下の氷河融解量の算定手法の開発、氷河湖・氷河池の氷河変動への影響など、ヒマラヤ雪氷圏特有の現象について、新たに貴重な知見が得られた。4.降水など水・物質循環試料の採取・分析・解析ヒマラヤ南北面で、水蒸気や化学物質の循環に関する試料を採取し、現在分析・解析中であるが、南からのモンスーンの影響の地域特性が水の安定同位体の分析結果から検出されている。5.衛星データ解析アルゴリズムの開発衛星データの地上検証観測に基づき、可視光とマイクロ波の組み合わせによる氷河融解に関わる微物理過程に関するアルゴリズムの開発、SPOT衛星データからのマッピングによる雪氷圏の縮小把握、LANDSAT衛星TM画像による氷河融解への堆積物効果の算定手法の確立などの成果を得た。6.最近の気候変化解析ヒマラヤ南面のヒドン・バレーとランタン地域で氷河積雪試料、ランタン周辺で年輪試料を採取し、過去数十年の地球温暖化に関わる気候変化を解析中である。7.最近数十年間の氷河変動解析最近の航空写真・地形図をもとに過去の資料と対比して氷河をマッピングし、広域的な氷河変動の分布を解析中である。8.地球温暖化の影響の広域解析北半球規模の気候変化にインド・モンスーンが重要な役割を果たしており、モンスーンの消長に関与するヒマラヤ雪氷圏の効果の基礎資料が得られた。