著者
荒川 歩 中谷 嘉男 サトウ タツヤ
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.18-25, 2006-03-30

本研究では,世代の要因と同世代から顔文字付きのメールをどれくらい受信するかの要因の2種類が,顔文字の評価に与える影響について検討した.大学生38名(男性14名,女性24名,平均年齢20.3才)と40才代と50才代の34名(男性17名,女性17名)がメールメッセージの印象評定実験に参加した.また調査対象者には「同世代の親しい人」からどの程度顔文字付きのメールを受け取るかについて回答を求めた.その結果,同世代の親しい人が顔文字を使う頻度が,受信者の顔文字に対する印象に影響を与えることが認められた.しかし,顔文字付きのメールの受信頻度が高い限りは,顔文字の印象に世代による差は認められなかった.これらのことは,普段から顔文字を利用するスタイルが一般的なコミュニティに属しているのかそうでないのかが,顔文字の印象に対して重要な影響をもたらすことを示している.
著者
サトウ タツヤ
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.26-37, 2011-10

司法臨床は新しい概念であり有望ではあるが曖昧な概念であり本稿ではいくつかの視点から検討を行った。まず弁護士として家事事件を扱う立場、家庭裁判所の調査官の立場、加害者治療の立場、カナダにおける問題解決型裁判所の視察を行った立場からのそれぞれの司法臨床のあり方について検討を行った。次に司法臨床の根本にある問題解決を支えるために必要なシステム論、法と心理の協働のための理論であるモード論について紹介を行った。最後に、司法臨床と類似の考え方である犯罪心理学や治療法学と比較を行うことでその異同を明らかにしつつ、司法臨床の今後の可能性について論じた。
著者
矢口 幸康 サトウ タツヤ 高砂 美樹
出版者
日本基礎心理学会
雑誌
基礎心理学研究 (ISSN:02877651)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.162-166, 2015-03-30 (Released:2015-05-14)
参考文献数
5

We surveyed the number and the contents of papers published in the Japanese Journal of Psychonomic Society, as well as the society's annual meetings, from 1982 to 2012. Over the course of these 30 years, we found that papers on perception increased in the first decade, followed by an increase in cognitive research, which reflected the shift of the members. Although the time of year and format of the annual meetings were not fixed, a review of the roster showed that greater participation was seen when the meetings were held in fall or winter and/or if they were joint meetings with other societies. The results would contribute to a better management of the society.
著者
日高 友郎 水月 昭道 サトウ タツヤ
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1208, (Released:2014-03-28)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

本研究では市民と科学者の対話(科学コミュニケーション)の場であるサイエンスカフェでフィールドワークを行い,両者のコミュニケーションの実態を集団研究の文脈から検討した。目的は第1 にサイエンスカフェの記述的理解,第2 に集団の維持要因についての検討である。結果は以下の2 点にまとめられた。第1 に参加者の関心の多様性(KJ 法による),第2 に科学者―市民間の会話は,第三者であるサイエンスカフェ主催者(「ファシリテーター」)が介入することで維持されていたこと(ディスコース分析による)である。集団成員間に専門的知識や関心などの差がありながらも,ファシリテーターの介入によって,両者の「双方向コミュニケーション」が実現され,集団が維持される可能性がある。これはサイエンスカフェにとどまらず,専門家と一般人のコミュニケーションが生起する場の理解,またそのような場を構築していくにあたって示唆的な知見となるであろう。
著者
サトウ タツヤ 安田 裕子 木戸 彩恵 高田 沙織 ヴァルシナー ヤーン
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.255-275, 2006 (Released:2020-07-06)
被引用文献数
3

質的心理学や文化心理学の新しい出発にあたっては新しい方法論が必要である。こうした方法論は現象の性質に即していることが必要である。複線径路・等至性モデル(Trajectory Equifinality Model:TEM)は,人間の成長について,その時間的変化を文化との関係で展望する新しい試みを目指したものであり,ヴァルシナーの理論的アイディアのもと我々が共同で開発してきたものである。心理学を含む広い意味での人間科学は,その扱う対象が拡大し,また,定量的,介入的方法が難しい現象を対象とする研究も増えてきた。こうした研究には定性的データの収集や分析が重要となる。複線径路・等至性モデルはそのための一つの提案である。本論文はベルタランフィのシステム論,ベルグソンの持続時間などの哲学的背景の説明を行い,複線径路,等至点(及び両極化した等至点),分岐点,必須通過点,非可逆的時間など,この方法の根幹をなす概念について説明を行い,実際の研究を例示しながら新しい方法論の解説を行うものである。心理学的研究は個体内に心理学的概念(知能や性格など)が存在するものとして測定して研究をするべきではなく,TEM はそうした従来的な方法に対する代替法でもある。
著者
赤阪 麻由 サトウ タツヤ
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.55-74, 2015

本研究では,病者の生を厚く記述するライフ・エスノグラフィの手法を用いて,慢性疾患病者とその関係者が集う場における場の意味を明らかにすることを目的とした。慢性疾患の具体例として炎症性腸疾患に注目し,当該疾患の病者でもある筆者が立ち上げた場を本研究のフィールドとする。研究1では,参加者にとっての場の意味として【同病者同士ならではの話ができる】【「患者/関係者」という枠組みを超えて自分としていられる】【主体的な活動のきっかけ】【自己充足的な場】があり,それらの意味をつなぐ独特の文化として【自由に気兼ねなく本音で話せる雰囲気】【それぞれが主役】【形にとらわれない】が共有されていると特徴づけられることが示された。研究2では,場と共にある「研究者」「実践者」「当事者」を中心とした多重なポジションをもつ筆者の実践の在り方を筆者の視点から記述した。これら2つの視点からの記述を通して,この場が筆者を含め,集う人にとって「そのままの自分」としていられる場であることが示唆された。本研究は,フィールドにおいて多重なポジションを持つ筆者が自らの実践を発信していくにあたって,単なる「自分語り」ではなく公共性を保ちつつ,さらに筆者自身の存在を捨象せずに記述する新たな方法論的枠組みを構築する試みである。
著者
春日 秀朗 宇都宮 博 サトウ タツヤ
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.121-132, 2014 (Released:2016-06-20)
参考文献数
36

本研究は,親から感じた期待が子どものどのような感情や行動を引き出し,それらが大学生の現在の自己抑制型行動特性と生活満足感にどのような影響を与えるのか検討することを目的とした。対象は大学生367名であった。質問紙調査により大学入学以前に親から感じた期待と期待に対して抱いた感情,行った行動を尋ね,自己抑制型行動特性及び生活満足感への影響を検討した。その結果,期待の認知形態により反応様式や生活満足感に差異が生じることが明らかになった。「人間性」・「進路」・「よい子期待」のいずれの期待も高く認知していた期待高群の大学生は,いずれの期待も感じなかった,もしくは人間性期待のみを感じていた大学生よりも負担感が高かったが,進路・よい子期待のみを感じていた大学生よりも期待に対して肯定的な反応をとっており,生活満足感も高かった。また自己抑制型行動特性から生活満足感への影響に関して,期待高群においては正の影響がみられた。これらのことから,期待が子どもに対しネガティブな影響を与えるのは,期待内容や程度とともに,子どもが期待をどのように認知しているのかが重要であることが明らかになった。期待高群において自己抑制型行動特性が生活満足感へ正の影響を与えていたことから,自らが望んで期待に応えた場合,自己抑制的な自身の性格を肯定的にとらえていることが示唆された。
著者
土元 哲平 サトウ タツヤ
出版者
日本キャリア教育学会
雑誌
キャリア教育研究 (ISSN:18813755)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.35-44, 2019-03-31 (Released:2019-04-16)
参考文献数
58

This thesis discusses the significance of an approach to transition research that focuses on the interaction between the individual and society, to inform a greater understanding of the individual’s development throughout the life. Previous conversion studies have used either a developmental or accidental approach to focus on inner psychological processes involved in life transitions, neglecting their social and cultural dimensions. Throughout these studies, the aspect of recent results of the narrative theory approach to qualitative research has been neglected. This study introduces an approach that focuses on the interaction between the individual and society. The approach suggests that when transitions are regarded as a story or sign, they can inform a deeper understanding of career complexity in the present age, and of how transitions spur or prevent individual development. This approach makes an important contribution to the development of transition research. Future research will investigate educational methods based upon this approach.
著者
渡邊 芳之 瀧本 孝雄 サトウ タツヤ 田中 信市
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
pp.28.1.11, (Released:2019-06-18)

日本パーソナリティ心理学会(旧・日本性格心理学会)初代理事長で本学会名誉会員でもある詫摩武俊先生のご逝去については,パーソナリティ研究第27巻1号の訃報でお知らせしたとおりです。訃報記事で予告しましたように,本号では詫摩先生にゆかりのある3人の本学会会員から寄稿を得て追悼特集とし,会員の皆さまとともに詫摩先生を偲びたいと考えます(渡邊芳之)。
著者
神崎 真実 サトウ タツヤ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.241-258, 2018-09-30 (Released:2018-11-02)
参考文献数
34
被引用文献数
4

本研究は,ボランティアと協働することで不登校者を受け入れてきた全日制高校Bで事例研究を行い,一次的援助サービスとしての学級復帰の支援体制について検討することを目的とした。B高校のオープンスペースで,ボランティアとしての参与観察を37回行い,生徒-教師-コーディネーター-ボランティア間の交流を記録し,各支援者の役割を分析した。結果,ボランティアは生徒の学習面,教師や親との関係,友人関係に関わり,中でも生徒同士の友人関係を支える役割を担っていた。コーディネーターは,ボランティアを支援者として位置づけ生徒の状況や支援目標を伝える役割と,支援者として位置づけず自分らしく関わってほしいことを伝える役割を担っていた。教員は,生徒の状況を見立て,授業参加とオープンスペースの滞在をめぐる調整を行っていた。こうした役割分担により,生徒はボランティアとともに様々な居方でオープンスペースに滞在し,多くは学級へ復帰した。結果をふまえ,各支援者の役割と一次的援助サービスとしての学級復帰について考察を行った。従来とは異なる学級復帰支援として,学内における生徒の多様な「居方」を保障する実践を示唆した。