- 著者
-
今井 真士
- 出版者
- 慶應義塾大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2008
(1)理論的枠組みに関して,主に中東地域の権威主義体制を論じた先行研究を題材に,「比較権威主義体制論」と呼びうる研究分野が比較政治学に形成されつつあることを明らかにした.とりわけ,(1)民主化に言及することなく権威主義体制それ自体の内部力学を分析対象と見なす,(2)権威主義体制下においても「制度」が重要である,という問題意識を共有しながらも,分類論,寿命論,分岐論という複数の研究戦略が乱立・共存していることを明らかにした.これに関連して,分岐論の根底にある考え方を体系的に表したものとして『ポリティクス・イン・タイム』の翻訳を手がけた.(2)具体的な議論に関して,権威主義体制の違いを説明するために2つの問いに注目した,(1)複数政党制を認める権威主義体制において,与党が野党と連立政権を形成して権力を維持しようとする場合がある一方,名目的な協定を締結するだけで権力を維持しようとする場合があるのはなぜか?(2)野党がイデオロギー横断的な連合(特にイスラーム主義者と左派の連合)を形成する場合がある一方,イデオロギー別に連合を結成する場合があるのはなぜか?という問いである,これを検討するために,与党による野党の「排除率」と,イデオロギーの異なる野党間の「議席占有率の差」に着目して,2つの仮説を提示した,与野党の関係について,排除率が低ければ,与党は取り込みの手段として連立政権を構築しうる一方,排除率が高ければ,与党は排除しなかった野党との間で形式的な対話を進めると想定した.野党間の関係について,イデオロギーの異なる野党間の議席占有率の差が大きければ,連合を構築するよりも個別に行動し,拮抗していれば,イデオロギー横断的な連合を構築すると想定した,この議論によって,権威主義体制における取り込みに関する仮説を精緻化するとともに,中東地域のイスラーム主義政党の行動の多様性を説明することが可能になると思われる.