- 著者
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五十嵐 大貴
佐藤 一浩
伊藤 圭介
山崎 真奈美
藤田 志保
- 出版者
- JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
- 雑誌
- 日本理学療法学術大会
- 巻号頁・発行日
- vol.2010, pp.EbPI2383-EbPI2383, 2011
【目的】脊髄性筋萎縮症(以下,SMA)1型(Werdnig-Hoffmann病)は,重症乳幼児型で生後6ヶ月までに発症し,全身の筋緊張低下・呼吸困難・哺乳困難などを伴い,2歳までに死亡する例が多い.ただし,適切な人工呼吸器管理を行なえば,成人までの生存も可能となっている.<BR> 今回,人工呼吸器管理にて在宅生活を行なっているSMA1型の1事例に対して訪問理学療法(以下,訪問PT)を行なった6年間の経過について考察を加え報告する.<BR>【方法】事例に関して,訪問PTが関わった6年間の経過を訪問看護・PTの記録及び整形外科診療録から後方視的に調査,その関わりの中で重要であった事項を抽出し,検討を行なった.<BR>〔事例紹介〕18歳女性.生後5ヶ月頃,呼吸困難となり入院,SMA1型と診断.気管切開により人工呼吸器装着.その後,長期間の入院を経て,12歳で自宅退院となる.その後すぐに訪問看護・PTが訪問を開始した.ADLは全介助.会話の理解は良好,表出は眉間でYes-No.1日をベッド上臥位で過ごすが,リクライニング式車椅子で外出も行う.運動は眉間をしかめるのみ.全身に関節可動域制限があり,脊柱右凸側弯(Cobb角80°).経管栄養(胃ろう).人工呼吸器管理,SpO<SUB>2</SUB>97~100%,HR100回前後/分.胸郭は扁平・狭小化(左>右).家族4人暮らしで主介護者は母親.<BR> 訪問PTは生命維持及び,より快適な在宅生活を継続する目的で,呼吸PT(胸郭可動性の維持,体位ドレナージなど),背面の皮膚・筋の伸張(萎縮予防),関節可動域訓練を基本に行なった.<BR>【説明と同意】今回の研究に際して,訪問看護ステーション管理責任者の同意を得た上で行った.また,対象者及びその保護者には書面にて目的や内容の説明を行い,同意書に署名していただいた.<BR>【結果】<BR>1)訪問PT開始:12歳時.PTに対する受け入れ困難から,理解を得るため目的指向型アプローチを行った.訪問学級も開始,担任との情報交換も行なった.<BR>2)車椅子作製:13歳時に側弯悪化(Cobb角102°)から,申請となる.新しい車椅子は自宅にて医師も交え仮合わせを行い完成した.<BR>3)仙骨部褥創:13歳4ヶ月~14歳7ヶ月で完治.患部の皮膚・皮下組織にずれや圧迫が生じないようにポジショニングの確認や訪問看護師との情報交換も行った.<BR>4)てんかん発作:13歳8ヶ月から発作が出現.発作後には背面筋群に短縮と痛みの訴えがあり,同箇所への伸張を強化した.<BR>5)左尿路結石:16歳時から発熱や左半身の浮腫が出現.発熱時には左腰背部の短縮と痛みの訴えがあり,マッサージなど愛護的に対応.浮腫に対するプログラムも追加した.<BR>6)入浴再評価:18歳時,訪問看護師から母親の介助負担の増大が指摘され,入浴方法を再評価.母親は入院時から長期間行っている入浴方法の変更に否定的であった.そのため母親の想いなどに沿う形で新しい入浴方法を提案した.<BR>7)側弯:13歳時に一時悪化したが徐々に改善し,18歳時にはCobb角66°となった.<BR>8)呼吸状態:感染による一時的な発熱や痰の貯留はあったが,受診を必要としたのは年に1~3回程度.肺炎などの呼吸障害による入院はなかった.<BR>【考察】港らによれば,SMA1型は人工呼吸器の使用を選択し,いかに安定した呼吸状態を維持できるかが生命予後を保つ上で重要であるとしている.本事例は母親や訪問看護師,PTが協力し,呼吸管理を行なったことで呼吸障害による入院は6年間なかった.退院時にはすでに全身の関節可動域制限や側弯などの変形・拘縮が定着,在宅でも仙骨部褥創や尿路結石が出現していた.これら長期臥床状態が引き起こす廃用症候群への対応が疾患の特性からも必要であった.母親による入浴介助やその方法を提案する場合は,安易に福祉用具を進めるのではなく,介助者側の想いや母子関係がもたらす精神的効果などのバックグラウンドも理解したうえで提案しなければならなかった.<BR>【理学療法学研究としての意義】SMA1型を含め小児分野の訪問リハビリの報告は少ない。また、前回の学術大会でも報告したが,本事例のように出生後もしくは早期に入院となっていたケースが訪問リハビリに対して退院後のケアを希望することが多く,最近の問題であるNICU長期入院児への対応も含め,地域での訪問看護・リハビリの受け入れが重要となる.