著者
直井 一博 大谷 尚
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.247-258, 2003-12-20
被引用文献数
1

本稿は,英語学習のための合宿における英語使用経験を対象とするエスノグラフィのための理論的枠組みの考察である.最近の第二言語学習(SLA)研究によれば,第二言語使用の経験とは,主体が置かれた状況,すなわち,他者ならびに場面との対話の中で,文化的に適切な行為を選択する一連の出来事と見なすことが可能である.そしてその学習を捉えるためには,場における言語使用とそれを行う主体との複雑な関係性の理解を目指す,エスノグラフィの考え方が有用である.本稿に関係の深い理論的立場としては,「言語による社会化」という考え方,並びに,「実践のコミュニティ」の考え方が有益である.以上を背景にしたエスノグラフィにより,英語学習のための合宿を一事例とする,人々が共同で第二言語を用いて達成する場の理解を深めることが可能となり,さらに,学習共同体がCSCL等でネットワーク化されつつある現在の教育環境における第二言語学習の理解を深めることが可能になる.
著者
大谷 尚 OTANI Takashi
雑誌
学校教育におけるインターネット利用の問題と課題の解明を目的とする質的観察研究 - (平成11年度‐平成13年度科学研究費補助金研究成果報告書), p.26-43
巻号頁・発行日
2002-03

科学研究費補助金 研究種目:基礎研究(C)(2) 課題番号:11680217 研究代表者:大谷尚 研究期間:1999-2001年度原典:中部開発センター. v.132, 2000, p.78-96
著者
大谷 尚
出版者
日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.110-124, 2006

小論では、情報技術の教育利用に関して筆者が継続している質的研究を通した論考を示し、学習の場での観察的かつ理論的な研究の重要性を論じる。まず情報化に対応した教育政策の概観と、情報化社会に関する諸言説の検討を行う。その上で、技術の存在論的で現象学的な意味と意義について、ハイデッガーの『技術への問い』を通して検討する。これに基づき、情報技術の教育利用に関する著者自身の現象学的な質的研究について述べ、質的研究手法についても概観する。その後、総合的な学習の時間のインターネット利用での未習漢字の問題とその事例の検討を通して、近代文書化技術により形成されたカリキュラムや教授・学習文化の本質的特徴、また教師と学習者との不可視の権力構造に言及し、それらの脱構築の必要を論じる。最後に、情報技術の使用による人間発達への否定的影響と同時に、情報技術を通した人間の解放の事例と可能性についても触れ、教育学の課題を論じる。
著者
大谷 尚 Otani Takashi
出版者
名古屋大学大学院教育発達科学研究科
雑誌
名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要 (ISSN:13460307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.27-44, 2008-03 (Released:2008-04-10)

小論では,初学者が比較的容易に着手し得る質的データ分析のための手法SCAT(Steps for Coding and Theorization)を紹介する。この手法は,筆者自身の大学院ゼミでの指導を通して,その有効性を一定に検証しているとともに,質的研究手法に関するいくつかのワークショップで紹介し,その後,参加者によって実際に研究に使用されている。この手法では,観察記録や面接記録などの言語データをセグメント化し,そのそれぞれに,〈1〉データの中の着目すべき語句,〈2〉それを言いかえるためのデータ外の語句,〈3〉それを説明するための語句,〈4〉そこから浮き上がるテーマ・構成概念の順にコードを考案して付していく4ステップのコーディングと,そのテーマや構成概念を紡いでストーリー・ラインと理論を記述する手続きとからなる分析手法である。この手法は,一つだけのケースのデータやアンケートの自由記述欄などの比較的小さな質的データの分析にも有効である。小論ではその手続きを,具体的な分析例とともに示し,実施の際の注意点を述べている。この手法の意義は,分析手続きの明示化,分析の初段階への円滑な誘導,分析過程の省察可能性と反証可能性の増大,理論的コーディングと質的データ分析の統合である。 In this paper, the author introduces an easily accessible qualitative data analysis method, "SCAT" (Step Coding and Theorization). This method of qualitative analysis has been examined and proved effective through its practical usage in graduate seminars. The author has also intro-duced it in workshops in order that participants could utilize it in their own research. The analysis method consists of a four-step coding process in which the researcher edits segmented text, putting <1> focused words from within the text, <2> words outside of the text that are replaceable with the words from 1, <3> words which explain the words in 1 and 2, and <4> themes and constructs, including a process of writing a story-line and offering theories that weave together the themes and constructs. This method is applicable for analyses of small scale data as represented by one case or in the example of open-ended questionnaire responses. The detailed process of the method is shown in the examples of the analyses. The significance of the method is suggested in its explicit process of analysis, its smooth guidance towards the steps of analysis, the enhancement of the reflective quality of critique and falsifiability, and the integration of theoretical coding and qualitative data analysis.
著者
奥田 稔 深谷 卓 小林 恵子 伊藤 依子 調所 廣之 設楽 哲也 八尾 和雄 小川 浩司 橋口 一弘 佐伯 哲郎 山越 隆行 濱田 はつみ 川崎 和子 石井 豊太 鳥山 稔 増田 哲也 杉山 博 川端 五十鈴 川島 佳代子 八木 昌人 田部 浩生 岡村 浩一郎 木場 玲子 斉藤 晶 安藤 一郎 野村 恭也 吉見 健二郎 窪田 哲明 大谷 尚志 波多野 吟哉 竹山 勇 上杉 恵介 林崎 勝武 鈴木 淳一 澤木 誠司 石塚 洋一 古屋 信彦 安達 忠治 坂井 真 新川 敦 小林 良弘 佐藤 むつみ 山崎 充代 斎藤 洋三 舩坂 宗太郎 斉藤 啓光 石井 正則 浅井 和康 森山 寛 遠藤 朝彦 小林 毅 関 博之 林 成彦 石井 哲夫 窪田 市世 水谷 陽江 荒 牧元 大竹 守 北嶋 整 上田 範子 山口 宏也 牛嶋 達次郎 坊野 馨二 菊地 茂 佐橋 紀男 臼井 信郎 原 俊彰 宮川 晃一 田中 康夫 喜友名 朝盛 井上 庸夫 八木 聰明 大久保 公裕 服部 康夫 町野 満 大塚 博邦 稲葉 真 島田 早苗 添野 眞一 星 慎一 頼 徳成 大橋 和史 村山 貢司 飯塚 啓介 市川 朝也 冨田 寛 小山 明 山内 由紀 渡辺 健一 佐藤 かおる 山田 久美子 木田 亮紀 牧山 清 亀谷 隆一 藤田 洋祐 井上 鐵三 田村 悦代 野原 理 阿部 和也 水野 信一 岩崎 真一 小川 裕 加賀 達美
出版者
The Society of Practical Otolaryngology
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
巻号頁・発行日
vol.88, no.6, pp.797-816, 1995-06-01
被引用文献数
6 3

To evaluate the effectiveness, safety and utility of Emedastine difumarate (ED) in the treatment of Japanese cedar pollinosis, a multicentered, double-blind comparative study was performed in 290 patients in 1994.<br>Patients with Japanese cedar pollinosis were divided into two groups; the first group was treated with ED at a dose of 4mg/day starting two weeks before the season and continuing for the whole season. The second group was given an inactive placebo instead of ED during the pre-season and the early portion of the season and then replaced with ED during the later portion of the season.<br>As a result, the final improvement rate was significantly higher in the first group than that in the second group.<br>All subjective symptoms such as sneezing, nasal discharge, nasal obstruction and eye itching were suppressed due to ED treatment.<br>In conclusion, it was better to continuously administer ED to patients with pollinosis from the preseasonal period till the end of the season.<br>However, when the ED treatment was started in the midseason, the outcome was good, although less satisfactory than the outcome of continuous treatment given throughout the entire pollen season.
著者
永野 和男 大谷 尚 岡本 敏雄 吉崎 静夫 藤岡 完治 生田 孝至
出版者
鳴門教育大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

若い学問としての教育工学は,概念規定を性急に行うよりは教育分野におけるさまざまな問題解決を繰り返し,その中で徐々に,その対象や方法を明らかにしていくという方略で発展してきた。しかし,その後,コンピュ-タの普及によって,研究の対象や方法がさらに拡大し,これまでの枠組みだけでは通用しなくなってきている領域もある。そこで,この段階で,それぞれ第1線級で活躍している若手研究者が中心になって,これまでの研究をレビュ-し,研究方法論そのものについてその方向性を明確にしておくことは極めて重要な研究課題であった。研究の方法としては,分担者全員による合宿研究会を企画し,討論を中心として問題点を掘り下げていくという方法をとった。第1年次においては,2回の合宿研究会,教育工学会の自主シンポジウムなどを企画し,その内容についてまとめた記録を中間報告書「教育工学の研究方法を考える」として印刷し,検討資料として教育工学関係の研究者約200名に配布した。また、今年度は,それぞれの研究者集団を授業研究、システム開発、基礎研究の3つのグル-プにわけ、それぞれの研究方法を軸としながら、教育工学が求めている研究者像を明らかにし,その具体的な研究者養成カリキュラムを考えていくという方向で検議を進めていった。これらの討論記録は、中間報告書と最終報告書にまとめ教育工学の研究者約300名に配布した。報告書では、教育工学が単に1つの方法論をもった研究集団ではなく、別々の方法論と対象をもった研究者の集まりであることや、教育工学の研究開発と実践研究との問題、基礎研究と実用研究の問題など幅広い論議がなされているだけでなく、問題解決のための具体的な提案、研究者養成のための内容や方法などの提案もなされており、我が国の教育工学の学術的発展にとってきわめて意義深い成果が得られた。