- 著者
-
斎藤 毅
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
- 巻号頁・発行日
- vol.61, no.1, pp.74-77, 1988-05-31 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 20
- 被引用文献数
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この小論は,わが国の地理教育の方法論的発達のうち,発生的認識論に基づく方法論について,特に人文主義的地理学の立場から展望し,その問題点を指摘しようとするものである。 地理教育論は必ずしも応用地理学の一分野ではなく,地理学を中心に,教育学,現象学的哲学,児童心理学,文化人類学,自然科学教育論などとの境界領域に,一つの認識の体系として形成されるべきものとするのが筆者の立論の立場である。 1970年代の初頭以来,文化地理学や人文主義的地理学の発展に伴って,こうした理念のもとに,わが国においても地理教育の方法論が発達してきた。 そこでは《世界像》の概念が導入されたが,これは世界観の視覚的表象であり,ピアジェの児童世界観の概念を地理学的視点から発展させたもので,誰しもが記憶の発達と共に,様々な場所的体験によって構築していくものと考えられている。《世界像》の概念が新らしい地理教育論で重視されるのは,これが人々の空間的行動の基礎となり,発達と共に次第に変容するものだからである。児童世界観に基づく世界像の構造と,それが科学的世界観に依拠する世界像,すなわち近代地理学の描き出すものに変容する過程については,なお仮説的部分が少くない。従って,その実証的研究が必要であるが,わが国においても,すでにハートの方法論を援用して,多方面にわたり研究が進められている。 この様な方法論を《発生的地理教育論》として概念づけると共に,今後,多くの実証的研究によって一層体系的に発展させることが期待されている。