- 著者
-
寺田 勝彦
藤田 修平
田端 洋貴
脇野 昌司
松本 美里
中前 あぐり
辻本 晴俊
菊池 啓
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.E3P3179, 2009 (Released:2009-04-25)
【目的】脊髄小脳変性症(SCD)では,立位保持および歩行障害が在宅生活での支障となる.現状においても,フレンケル体操,重り負荷法,弾力包帯装着などが行なわれている.今回,SCD患者への立位保持および歩行障害への介入法を,模索・検討したので報告する.【対象】本院の神経内科にてSCDと診断された10例(平均年齢63才,男性5例,女性5例,多系統萎縮症;5例,SCA6;2例,SCA2/SCA4/遺伝性SCD;それぞれ1例).【介入法】SCDでは,立位・歩行時に,開脚や身体の前後動揺が見られる.開脚位では骨盤が挙上位となり,歩行時の平衡機能の安定を図る下腿三頭筋の伸張反射の抑制や倒立振子モデルに必要な骨盤の上下運動が阻害される.また身体の前後動揺では,体性感覚の情報のずれによる運動感覚の錯覚を生じ,同時に遠心性コピーをも歪め,立位保持・歩行を困難にする.歩行の交互リズムの獲得には,Central Pattern Generator (CPG)を駆動する必要がある.CPGを形成する神経回路にはFlexion Reflex Afferents(FRA)からの情報を受容する介在ニューロン群の活動が必要となる.介在ニューロン群の活動には,FRAを伝導する皮膚,関節の圧・触覚受容器などの興奮性入力が必要である.そして重力下における姿勢調整にとって,頚筋を含めた固有背筋のコントロールは極めて重要である.以上の観点を考慮し,仰臥位,側臥位(ステップ肢位),長座位,四つ這い位,膝立ち位,バランスパッド上での開閉眼での閉脚立位・タンデム立位において,脳神経・末梢神経・頭頸部および四肢の皮神経,体幹の脊髄神経後枝の内外側皮枝からの伸張により,体幹動揺・骨盤挙上の改善と頚筋を含めた固有背筋のコントロールを行い,立位保持および歩行障害の改善に繋げた.実施回数は10回,一回の施行時間は40分であった.なお介入の実施を行なうにあたり,全患者の同意を得た.【Outcome Measures】 International Co-operative Ataxia Rating Scale (ICARS)の姿勢および歩行項目,10m自立歩行者数,最大歩行速度,ステップ数,歩行時のBalance Efficacy Scale(BES),Berg Balance Scale(BBS),静止立位時の重心動揺,閉眼閉脚立位(30秒)可能者数を介入前後で比較した.【結果】ICARSの姿勢および歩行項目,10m自立歩行者数,最大歩行速度,ステップ数,歩行時のBES,BBSで有意差を示した.しかし静止立位時の重心動揺,閉眼閉脚立位(30秒)可能者数では,有意差を示さなかった.【考察】今回の介入法において,筋に存在する筋紡錘,腱に存在するゴルジ腱器官,皮膚および関節に存在する機械受容器からの体性感覚入力の過多になっているSCDにおいて,緊張の亢進している脳神経・末梢神経・頭頸部および四肢の皮神経,体幹の脊髄神経後枝の内外側皮枝をコントロールすることで,各動作での姿勢共同運動や脊髄の運動制御の獲得が得られ,SCDの立位姿勢調節や歩行能力の向上に寄与したといえる.