著者
松田 謙次郎
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.37-48, 2012-03-21

松田(2011) では総務省の「法令データ提供システム」のデータを使用して、法令に含まれるサ変動詞の活用に、五段活用と上一段活用それぞれへのゆれがあることを報告した。そこではゆれの存在は確認できたが、法令の制定年による分布では一貫した変化の傾向は見られず、共時的データの限界という問題が残った。本論文では、データとして「法情報総合サービス現行法規・履歴検索版」を採用し、2001 年から2011 年までの全法令の状況を追うことで、サ変動詞の一部がこの10 年間にも大きな変動を示していることを示した。さらにこの反映として、動詞によっては「変異形が使われている全法令」に占める「サ変形のみが使われる法令」の割合が減少しつつあることも確認した。この結果は、(1) サ変動詞の五段化・上一段化が法令においても進行中であり、(2) しかもそれがまったく意識されていない「下からの変化(Labov1966)」である、(3) 改廃や新法制定を含む法令データの変化動向を把握するには制定年による分布を検討するのでは不十分であり、各年の全法令における分布を蓄積して通時的見通しを得るのが望ましい方法であること、を示すものである。
著者
松田 謙一 濱本 洋子 綿貫 成明
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.95-105, 2017 (Released:2017-05-12)
参考文献数
31

本研究は,全国の急性期病院におけるせん妄患者への頓用向精神薬投与時の看護師の困難感を明らかにすることを目的に行った。看護師の薬剤の投与過程で必要とされる判断の困難感7項目を含む無記名自記式調査票を独自に作成した。調査票は,調査協力に同意の得られた全国の116病院3,848名の看護師に配布し,個別返送で回収した。その結果,1,958名分 (50.8%) が回収され,有効回答は1,748名(有効回答率45.4%)であった。せん妄患者への頓用向精神薬投与時の看護師の困難感は,具体的な判断が求められる薬物療法の必要性の判断,具体的な薬剤の選択,投与量・速度の判断で,「やや難しい」,「とても難しい」との回答の合計が68.4%から79.5%を占めていた。本研究の結果から,せん妄患者への頓用向精神薬の投与をより安全で効果的に行うためには,看護師をはじめとした医療職に対する向精神薬に関する教育や頓用向精神薬の指示形態の整備などを含め,せん妄に対する組織的取り組みを整備・普及させていくことが必要と考えられた。
著者
佐藤 文俊 森本 玲 岩倉 芳倫 小野 美澄 松田 謙 祢津 昌広 尾股 慧 工藤 正孝 伊藤 貞嘉
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.103, no.4, pp.886-894, 2014-04-10 (Released:2015-04-10)
参考文献数
12

原発性アルドステロン症は臓器障害の可能性の高さと頻度の多さからスクリーニングの重要性が提唱され,血漿アルドステロン濃度/血漿レニン活性比を用いて疑う.低カリウム血症を伴う(ARB・ACE阻害薬の内服患者では正常低値も),比較的若年者,血圧コントロール不良,グレードII(160/100 mmHg)以上の高血圧患者等は当然診断対象だが,特に手術で治癒が可能な腺腫病変は早期診断・治療が望まれる.薬物治療ではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を含んだ十分な降圧を行うことが肝要である.
著者
松田 謙次郎
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.15-22, 2010-03-21

橋下大阪府知事の就任以来2年間にわたる定例記者会見記録を用いて、そこで言及される人名、政党名、そして自称詞について分析を行った。人名については一時期頻繁に言及されるものと、長期にわたりほぼ安定して言及されるものがあり、それらが言及時期によりいくつかのパターンをなしていることがわかった。政党名では、就任当初は自民・公明・民主の3党でほとんど差がなかったものが、2009年8月の政権交代以降民主党の言及数が自民・公明を圧倒している。さらに政党名に「さん」付けをする割合を検討すると、やはり民主党に対する「さん」付けが大幅に増加していることがわかった。自称詞を分析すると、もともと高かった「僕」の割合が2年目にはさらに増えて、「私」がほとんど使われない状態になっていることが判明した。最後に今後有望そうなトピックを3点指摘した。
著者
松田 謙次郎
出版者
計量国語学会
雑誌
計量国語学 (ISSN:04534611)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.66-81, 2019

国立国語研究所が実施した岡崎敬語調査の反応文から,「足りない」~「足らない」(タリタラ)の変異を抽出し,実時間分析を試みた.東西分布を示すタリタラの接触地帯にある岡崎市では,タリ率は1次調査から2次調査にかけて低下し,2次調査から3次調査にかけて大きく上昇するV字型パターンを示す.同一話者の変化パターンを見ると,調査回次を重ねるにつれて異なる形式を選択しにくくなるが,変化は初回調査の年齢とは相関しない.つまり習得の臨界期を越えても異なる形式が採用されうることから,語彙の習得と考えられる.男女差,共通語における分布などから判断すると,1次調査から2次調査へのタリ率の下降はタラ地域である名古屋方言への志向,2次調査から3次調査に向けての上昇は岡崎方言への回帰として捉えられるべきであることを主張した.
著者
松田 謙次郎 Kenjiro MATSUDA
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.11, pp.63-81, 2016-07

大正~昭和戦前期のSP盤演説レコードを収めた岡田コレクションでは,「場合」の読みとして「ばやい」という発音が多数を占めている。これに対して辞書記述,コーパス,国会審議の会議録・映像音声などを調査すると,現代語における読みでは「ばあい」が圧倒的多数を占めており,「場合」の発音が岡田コレクションの時代から現代にかけて大きく変化したことが窺われる。「ばやい」は寛政期の複数方言を記した洒落本に登場する形式であり,明治中期に発表された『音韻調査報告書』は「ばやい」という発音が全国的に分布する方言形であったことを示す。本論文では岡田コレクションにおける「ばやい」という発音が,講演者達の母語方言形であり,その後標準語教育が浸透するなかで「ばやい」が方言形,さらに卑語的表現として認知され,最終的に「場合」の読みとして「ばあい」が一般化したことを主張する。A survey of the recordings in the Okada Collection, a collection of speeches from the Taisho era to the early Showa era (from the 1910s to 1940s), shows that the most popular pronunciation of the word baai (場合) was bayai, and not baai. This is in stark contrast to contemporary Japanese, where, if we follow the distribution of dictionary entries, statistics based on the corpora, and actual pronunciations employed in Diet meetings, the word is pronounced as baai by an overwhelming majority. This paper attempts to account for the difference through examining corpus data, historical documents, and dialectological survey results. The form bayai appears in Sharebon, a late Edo-period novelette, from multiple dialectal areas; further, the On-in Chosa Hokokusho, the first official nationwide dialectological survey by the government published in 1905, indicates that bayai was a rather common dialectal form used in a number of dialects across the country. This paper claims that speakers from the Okada Collection simply used their native dialectal forms. With the spread of Standard Japanese after World War II, bayai has come to be recognized as a dialectal form, and in fact, even as a vulgarism. Baai, in contrast, emerged as the standard form that is widely used in contemporary Japanese. Although further research is required to trace the word's exact development in the post-WWII era, this paper demonstrates the historical value of the Okada Collection for the study of the development of contemporary Japanese.
著者
松田 謙次郎
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

この研究プロジェクトは、過去の法令と言語をめぐるアプローチとは異なり、法令を言語データ(コーパス)と見なして言語変化・変異の観察を行い分析することで、法令の言語データとしての特質やその可能性を見極めようとしたものである。具体的な変異現象として先行研究の多いサ変動詞の五段化・上一段化現象を取り上げた。法令データを分析すると、その分布は先行研究の結果と似たものであり、法令データでも他種類と同様な変異が存在することが確認された。また同年に公布された法令間、また同一の法令の中でも同一動詞についてサ変~五段・上一段という活用のゆれが存在することが明らかとなった。次に改正履歴を追跡するために、改正履歴が追跡可能な法令データベースを用いて過去10年間におけるいくつかのサ変動詞の動向を調査した。その結果いくつかの動詞で変化が年とともに進行する様子を明らかにすることができた。これらの結果からは、この変化が法令作成に携わる関係者の意識下で進行する、「下からの変化」であることが分かる。また、内的要因を分析してみると、少なくとも五段化では、先行研究で主要な制約条件とされてきたものがそのまま当てはまることが判明した。
著者
中川 威 安元 佐織 樺山 舞 松田 謙一 権藤 恭之 神出 計 池邉 一典
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PR-013, 2021 (Released:2022-03-30)

疲労感は加齢の兆候として知られる。睡眠不足は疲労感を生じさせるが,過眠と疲労感の関連は明らかではない。そこで本研究では,地域在住高齢者を対象に日誌調査を行い,今夜の睡眠と翌日の疲労感の関連を検討した。ベースラインで,年齢,性別,居住形態,精神的健康,身体的健康を尋ねた。7日間にわたり,起床後に,就寝時刻,起床時刻,睡眠の質を,就寝前に,1日に経験した疲労感,ポジティブ感情,ネガティブ感情を尋ねた。分析対象者は1日以上回答した58名(年齢82-86歳;女性37.9 %)である。調査参加者は,朝に平均6.8回(SD=1.0),晩に平均6.9回(SD=0.7)回答した。睡眠時間は平均8.0時間(SD=1.0)で,2.0時間少ない日も2.4時間多い日もあった。マルチレベルモデルを推定した結果,個人間レベルでは,睡眠時間が多い人と少ない人では,疲労感に差は認められなかった。個人内レベルでは,睡眠時間の二乗項と疲労感の関連が統計的に有意であり,睡眠時間が少ない日と多い日では,平均的な日に比べ,疲労感が高い傾向が示された。高齢者では,睡眠不足に加えて過眠もまた疲労感を生じさせることが示唆された。
著者
松田 謙次郎
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.55-82, 2004-03-21

The on-line full-text database of the Minutes of the Diet offers linguists a unique resource for corpora study of the modern Japanese language; with all the debates and information of the session searchable by keywords, and the name of the speaker, date, House, etc., all laid out in an easy-to-use interface. The database is accessible from ordinary internet browsers, and the search results are easily downloadable to the user's PC. This article explores this resource's possibilities for various linguistic research (lexicon, syntax, dialectology and discourse analysis), demonstrates actual searches and their results, and carefully examines the limitations that necessarily arise from several sources (e.g. editorial practices of the Diet Office transcribers).
著者
松田 謙次郎
出版者
明治書院
雑誌
日本語学 (ISSN:02880822)
巻号頁・発行日
vol.25, no.10, pp.25-35, 2006-09
著者
松田 謙次郎
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.31-56, 2006-03-21

VARBRULプログラムは欧米の変異理論研究では一般的なフリーウェアだが、日本においてはVARBRUL登場後30年たってなお、その紹介が十分に成されているとは言い難い状況にある。本稿ではVARBRULの基本から、実際の使用法、そして現バージョンのVARBRULが持つ諸問題点を指摘するものである。
著者
藤田 達男 阿比留 真吾 木下 正徳 松田 謙一郎 後藤 貴文
出版者
大分県農林水産研究指導センター
雑誌
大分県農林水産研究指導センター研究報告. Bulletin of Oita Prefectural Agriculture, Forestry and Fisheries Research Center (ISSN:21861021)
巻号頁・発行日
no.2, pp.4-10, 2012-03

黒毛和種雄牛12頭を用いて、哺育期に炭水化物を強化した代用乳および人工乳給与後、育成期を濃厚飼料給与区と乾草のみ給与区に分け、さらに肥育期には両区を畜舎内乾草給与区と放牧区の計4区に分けて約30ヵ月齢まで飼育した。7~23ヵ月齢の体重は、育成期に濃厚飼料を給与した区が有意に高く、育成期の濃厚飼料給与は発育に強く影響することが示唆された。枝肉格付け等級はA2:2頭、B2:4頭、B1:6頭であったが、育成期に濃厚飼料給与した区の方が枝肉重量、ロース芯面積、バラの厚さおよびBMSNoが高い傾向がみられ、育成期の濃厚飼料給与は発育と肉質の双方を高める効果が示唆された。部内職員を対象として食味試験した結果、予想以上に柔らかく、あっさりして美味しかったといった好意的な評価が多かった。経済性を試算した結果、育成期に濃厚飼料を多給し代謝的インプリンティングを誘導した後に放牧肥育を行う方法が最も収益性が高かった。
著者
和田 浩一 松田 謙次郎
出版者
フェリス女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究はコーパス言語学的なアプローチによって、近代オリンピック参加以前の日本におけるオリンピズムの受容に直結する雑誌記事の著者を推定した。主な成果として、1)ピエール・ド・クーベルタンの筆による著書6冊および雑誌記事49本分のコーパスを作成したこと、2)著者推定の分析に必要なデータ形式へのコーパスからの整形方法を確立したこと、3)文長とK特性値とから上記文献の著者がクーベルタンであったとの仮説を検証したこと、が挙げられる。
著者
松田 謙次郎
巻号頁・発行日
2013-06-13 (Released:2013-07-01)

神戸松蔭女子学院大学
著者
西垣内 泰介 郡司 隆男 松井 理直 松田 謙次郎
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、「焦点」とスコープに関わる言語現象を取り上げ,形式化の整った統語論・意味論・音韻論の方法で理論的に分析するとともに,音声実験や言語コーパス調査などによって理論的考察を実証することを目的とする。具体的には,主題文,(指定的)分裂文など,様々な構文にあらわれる,いわゆるWH(疑問)要素,量化表現,否定対極表現などスコープに関連する統語・意味的要素と,イントネーションなど「焦点」に関する多様な音韻的要因の間の相互関係を分析し,統語論・意味論と音韻論との密接な関係を明らかにする。また,理論的背景の下にデザインされた音声実験を用いて,その結果を文法的分析の中に組み込んでいく。関連する言語事象の方言などによる言語変異について考察する。