- 著者
-
小林 信一
- 出版者
- 研究・イノベーション学会
- 雑誌
- 研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
- 巻号頁・発行日
- vol.38, no.1, pp.100-107, 2023-05-08 (Released:2023-05-09)
- 参考文献数
- 11
本稿は,研究インテグリティ概念の成立について検討した上で,大学が社会に対して開かれることの意味を検討することを目的とする。研究インテグリティ概念は,日米ともに,曖昧な形で登場した。それまで,米中対立を背景とする地政学的環境の変化や技術流出問題と関連づけて議論されてきたことを,大学等の基礎研究分野に持ち込む中で概念化された。それは同時に,大学と社会の関係性の変化をもたらした。大学の研究活動のオープン化は,結果として,大学の研究活動は大学や学界に独占されるものではなく,社会全体が大学の研究能力を活用する時代の到来を意味する。それらはときに,特定のメディアや政治家が,伝統的な大学観や科学観を無視して,大学に対して研究の内容等に介入する形をとる。大学や学界は,こうした現実を十分に理解していない。一方で,大学の研究に介入しようとする人々は,大学の研究活動に過大な期待をしている。大学と社会のあいだには理解と誤解が交錯している。その上,研究インテグリティは,大学における経済安全保障問題の一部と捉えられることがあり,政治主導のさまざまな議論に波及している。研究インテグリティの問題は,究極的には,大学と社会の関係の変容の問題に帰結する。伝統的な大学論,学問論は,もはや現実を説明できない。我々は,新たな大学論,学問論,大学と社会の関係を追究していく責任がある。