著者
白波瀬 佐和子
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.9-21, 2012-07-14 (Released:2014-03-26)
参考文献数
27

本稿の目的は,世代と世帯に着目して実証データ分析から高齢層の経済格差のメカニズムを検討することにある.本稿で分析するデータは,厚生労働省が実施している『国民生活基礎調査』である.議論するトピックは大きく3つある.第1に年齢層内と年齢層間の経済格差,第2に暮らし向き意識,そして第3に高齢の一人暮らしの配偶関係に着目したライフコースの影響,についてである. 高齢層においては三世代世帯が減少し一人暮らし,夫婦のみ世帯が上昇した.さらに,社会保障制度も1980年代半ばから2000年代半ばを見る限り,特に高齢女性の一人暮らしの経済的な底上げを促したことが,高齢層内の経済格差の縮小へとつながった.一方,昨今の晩婚化,未婚化の中,若年で世帯を構えることが少数派となり,若年労働市場の冷え込みも相まって,経済的困難を抱える若年世帯が増えた.その結果,年齢層間の経済格差は,若年層の相対的な経済水準の低下と高齢層の経済水準の上昇から縮小された.しかしながら,ここでの経済格差の縮小を良しと評価できるほど,日本の格差問題は簡単ではない.世帯主の暮らし向き意識は,一貫して悪化する傾向を示し,離婚経験のある高齢一人暮らしや母子家庭に極めて高い貧困率が認められた.そこで最後に,これまでとは違った生き方(ライフコース)を呈した者に対して社会的承認が不十分であることを問題提起した.
著者
白石 智宙
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.237-254, 2020 (Released:2022-01-19)
参考文献数
33

本稿は,既存の地域内経済循環概念のなかに,自治体を起点とした再帰的かつ連続的な資金の動きを「財政循環」という概念によって位置づけた。それは,単なる経済効果の一環としての自治体収入増減効果とは異なり,政府間財政関係において自治体の収入や支出のあり方を規定する諸要素を考慮に入れた点に独自性がある。そして,岡山県西粟倉村の「百年の森林事業」をケースとして実証分析を行い,「財政循環」の実態とそれを規定する諸要素との関係を定量的に示すことができた。具体的には,単純な税収と財産収入の増加による収入増よりも,国庫支出金や地方交付税を通じた収入への影響を加味した収入増のほうがより実態を反映しており,地域産業政策を適切に評価できることを示した。
著者
白石 浩介
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.184-199, 2009 (Released:2022-07-15)
参考文献数
10

年金分析のためのマイクロシミュレーション・モデルの開発に関する研究である。公的年金制度を取り巻く状況は厳しく,改革案を数量面から検証していく計量モデルが求められている。ダイナミック・マイクロシミュレーション技法の年金分野への応用に関する基礎的研究を行い,わが国においてもマイクロシミュレーションを用いた年金分析が可能であることを示した。本研究では新タイプのモデルであるPENMODの開発を構想し,その作成に着手した。PENMODにおけるライフイベント分析においては,個票ごとに生死,婚姻,就業(年金の加入タイプ),賃金,引退,年金裁定に関するシミュレーションを行い,年金推計に必要となる加入記録と受給記録を作成する。これにより個人の就業履歴に応じたきめの細かい年金推計が実現し,基礎年金に対する国庫負担額の傾斜配分やスウェーデン方式として知られる所得比例年金など,これまで分析が困難とされてきた政策シナリオの検討が可能となる。
著者
白 凛
出版者
カルチュラル・スタディーズ学会
雑誌
年報カルチュラル・スタディーズ (ISSN:21879222)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.137, 2017 (Released:2019-10-09)
参考文献数
6

本稿は50 年代の在日朝鮮人美術家の活動の背景に焦点をあて、彼らの美術作品やグルー プがいかなるものであったかを明らかにするものである。特に在日朝鮮人美術家が組織し た初めての本格的なグループである「在日朝鮮美術会」に着目した。冒頭では、これにつ いてこれまで直接的に論じたものがなく本稿で初めて扱うことになるため二つの留意点を 述べたうえで本稿の目的を述べた。第一章では調査状況について述べた。第一節では美術 作品の調査について美術館や博物館、個人蔵のものも含めこれらの管理状況に触れた。第 二節ではこれまでに発掘した一次史料、第三節では聞き取り調査について、それぞれ本稿 で扱う史料を中心に簡潔に述べた。中心となる第二章では1950 年代の彼らの活動について いくつかの事例を挙げて論じた。第一節では美術家たちが個別の経験を積んでいた1940 年 代終盤から1953 年までの活動を整理した。第二節では在日朝鮮美術会の結成を後押しした 金昌徳を中心とした美術家たちの活動について述べた。第三節では彼らの表現方法につい て白玲の制作を中心に論じ、続く第四節では彼らのテーマ制作について一次史料をもとに 分析した。50 年代の彼らの作品は、いかに描くべきか、何を描くべきかについての模索の 末に生まれたことを明らかにした。第三章では、彼らの作品の発表の場と反響について述 べた。第一節では「日本アンデパンダン展」、第二節では「日朝友好展」、第三節では「連立展」 を取り上げた。最終章では、本稿でとりあげた在日朝鮮人美術家が、植民地や戦争に人生 を翻弄されたという共通の境遇と、解放民族として堂々と生き表現したいという共通の希 求を持っており、朝鮮人美術家としていかに生き表現するかについての答えを共に模索す る美術家が必要であった点を明らかにし、ここに集団の必然性があると結論付けた。最後 に今後の課題を提示した。
著者
新庄 貞昭 高橋 誠史 木村 秀敬 白井 暁彦 宮田 一乗
出版者
芸術科学会
雑誌
芸術科学会論文誌 (ISSN:13472267)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.167-178, 2007 (Released:2008-05-27)
参考文献数
42

本解説では,グラフィックプロセッサ(GPU)を取り巻く環境やその利用法,開発環境の現状,およびGPUのコンピュータビジョンへの適用事例を紹介し,GPUコンピューティングの可能性を探る.GPUはプログラマブルシェーダの導入後,シェーダのバージョンアップにあわせてスペックの向上が行われてきた.またCPUと比較して制約は多いが,プログラミングを工夫することにより速度向上が可能である.GPUは幅広く利用されているが,特筆すべき適用事例としてコンピュータビジョン,物理シミュレーションがあり,汎用計算においては分散コンピューティングによるナノテクへの応用も報告されている.本解説では,GPUに加えて最近のCPUアーキテクチャの革新であるマルチコアプロセッサCPUについても触れるとともに,最新OSのひとつであるWindows Vistaでのグラフィックユーザインタフェースへの利用にも触れ,今後の応用の可能性を探る.
著者
白井 暁彦 長谷川 晶一 小池 康晴 佐藤 誠
出版者
芸術科学会
雑誌
芸術科学会論文誌 (ISSN:13472267)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.117-124, 2002 (Released:2008-07-30)
参考文献数
9
被引用文献数
3 4

我々は「タンジブル・プレイルーム」の実証コンテンツとしてインタラクティブ作品「ペンギンホッケー」を開発した.このシステムは,プロジェクタを用いた接触可能な映像空間,大空間が扱えるフォースフィードバックディスプレイを持った通常の何もない子供部屋である.子供たちはコンピュータによって生成されたオブジェクトだけでなく,友達や実空間の物体とともにインタラクションすることができる.ペンギンホッケーは,人工知能ペンギンと遊ぶ,シンプルな3次元ホッケーゲームである.プレイヤはコンピュータで生成されたオブジェクトと,友人といっしょにインタラクションを楽しめる.このコンテンツは小学校程度の低年齢層の子供に体験者層を設定している.このシステムは複合現実感のアプリケーションの1つとしてだけではなく,自然な生活空間への触知の実装でもある.
著者
白井 展也 樋口 智之 鈴木 平光
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.88-94, 2015-02-15 (Released:2015-03-31)
参考文献数
26

緑茶抽出物と魚油の6ヶ月間の同時摂取が,高齢者の認知機能と血漿脂質に与える影響について実験した.緑茶抽出物と魚油の同時摂取は,摂取前に比べて,6か月後の知能評価スケールを有意に改善した.また,緑茶抽出物と魚油摂取群の6か月後の知能評価スケールの増加は,プラセボ群に比較して,有意に高かった.これらの事から,緑茶抽出物と魚油の同時摂取は,高齢者の認知機能を改善している可能性が示唆された.血漿中のDHAおよびEPAの割合は,両群とも摂取前に比べて6ヶ月目で高くなった.しかし,3ヶ月目において,緑茶抽出物および魚油摂取群のDHAおよびEPAの割合は,プラセボ群に比べて,有意に増加を示した.これらの変化は,途中,試験群による違いが見られるものの,最終的に食材に提供される魚介類の増加が影響したと考えられた.血漿中の中性脂肪含量は,緑茶抽出物および魚油摂取群において,摂取前に比べて,6ヶ月目に有意な低下が示され,高齢者においても,緑茶抽出物および魚油同時摂取は中性脂肪の低下に有効である可能性が示唆された.これらの事から,緑茶抽出物と魚油の同時摂取は認知機能の改善に有効である可能性が示唆され,また,高齢者においても中性脂肪の低下に有効であると考えられた.

1 0 0 0 OA 絵入童謡

著者
北原白秋 著
出版者
アルス
巻号頁・発行日
vol.第7集 (二重虹), 1926
著者
湯浅 嵩 新谷 幹夫 白石 路雄
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 40.11 映像表現&コンピュータグラフィックス (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
pp.237-240, 2016-03-02 (Released:2017-09-22)

散乱媒質にレーザ光線のようなビームを照射すると、光線の軸に沿って徐々に幅が広がった光芒(shaft of light)が観察できる。確率的手法を用いれば、多重散乱による光芒が表現できるが、処理時間が多大である。一方、1次散乱近似を用いた高速処理では、多重散乱による光芒の拡がりが表現できないため、不自然な結果をもたらす。本研究では、narrow beam理論を用いることにより光芒の多重散乱を効率的に表現する手法を提案する。
著者
白 玉冬
出版者
内陸アジア史学会
雑誌
内陸アジア史研究 (ISSN:09118993)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.85-107, 2011-03-31 (Released:2017-10-10)

The "Nine Tatars" and the "Thirty Tatars" are tribal names mentioned in ancient Turkic runic inscriptions. However, the relationship between the two is not clear. The "Thirty Tatars" are identified in Chinese historical documents as Shiwei (室韋). A comparative analysis of Chinese sources, ancient Turkic runic inscriptions, and document P.T.1283 found in Dunhuang allows us to conclude that the Jue (鞠) in the Chinese sources correspond to the Cik tribe in the Turkic runic inscriptions and that they resided in the upper reaches of the Kern River. In the mid-8th century, one of the Shiwei tribal groups migrated to the middle reaches of the Selenge River, while another, the Yuzhe (兪折), migrated to the area between lakes Khubsugul and Baikal. These tribal groups of the Shiwei can be identified as the Khe-rged tribes and the seven tribes of Ye-dre mentioned in document P.T.1283, and at the same time as the "Thirty Tatars". As for the name of the tribal group, the "Thirty Tatars", this was in use during the period from the Second Eastern Turkic Khaganate till the Uyghur Khaganate. Under the Tang Dynasty, the notion of the "Thirty Tatars" referred to the Shiwei, which comprised of 26 to 27 tribes. And the "Nine Tatars" referred to a part of the "Thirty Tatars".