- 著者
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Steiner Matthias
Houze Jr. Robert A.
- 出版者
- 社団法人日本気象学会
- 雑誌
- Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
- 巻号頁・発行日
- vol.76, no.1, pp.73-95, 1998-02-25
時間的に粗い観測に基づく降雨特性の評価には降雨の時空間的な変動によるあいまいさを伴う。この研究では, サンプリング頻度に依存した月平均レーダー反射強度のプロファイルと地上雨量分布の不確かさについて評価する。オーストラリア, ダーウィンにおいて1993年の終わりから1994年の春までのモンスーン期間に得られたレーダーデータと雨量計データを用いて, 観測頻度に対する月平均の三次元レーダーエコーと降水特性の感度を示す。観測データは, エコーの水平及び鉛直構造に基づいて, 「対流性」, 「層状性」と「アンビル」に分類される。解析結果は, 時間間隔の長い観測データを用いた降水特性の見積りの不確かさは降雨量に比例するという期待される傾向を明かにする。このことは, 回帰頻度の高い宇宙観測プラットフォームを用いた気候学的な研究に示唆を与える。500 km×500 kmの観測範囲をほぼ2回/日の頻度で回帰する熱帯降雨観測衛星(TRMM)搭載レーダーは, 熱帯のレーダー反射強度の鉛直プロファイルを評価する上で重大な問題に直面する。ダーウィンにおける半径150 kmのレーダー観測に基づく月平均反射強度の統計は, 雨と雪ともにサンプリング頻度に依存した, 約20%の不確かさを示す。また, TRMM衛星のレーダー信号は0℃層以下で強い減衰を受け, 降雨レーダーでは20 dBZ以下の反射強度は測定できないであろう。それゆえ, 衛星搭載レーダーでは降水の鉛直構造の観測において不明瞭な部分が残る。TRMM衛星データに基づく信頼できる反射強度の統計は, 地上高度5-7.5 kmの範囲に限定されると考えられるが, その高度範囲は, 液相と固相両方の降水過程が起きているので, 雲内の電荷発生には重要である。サンプリングの不確かさ, 信号の減衰及びレーダーの感度は降水タイプ毎に変化する。さらに, 対流性の雨の割合の評価は, Z-R関係の選択と同様にエコー分類におけるあいまいさにより困難になる。これらの結果は, TRMM衛星による降水特性の評価を改良するための地上設置の検証用レーダーによって得られる情報と, それから推定される潜熱の鉛直プロファイルに関する情報の重要性を意味する。